相続税の延納・物納|要件・手続き・メリット・デメリットを解説

相続税の延納・物納|要件・手続き・メリット・デメリットを解説
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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「相続税が高額で一括では払えない」という方に向けて、分割払い(延納)と財産で納付(物納)の制度を解説します。この記事を読めば、延納の要件・利子税の目安、物納できる財産の種類、銀行借入との比較まで判断できます。

🏆 結論:まず延納を検討し、それでも困難なら物納を検討する

相続税の納付方法には「一括納付→延納→物納」の優先順位があります。延納は相続税額が10万円を超え、一括納付が困難な場合に、担保を提供して最長20年の年賦払いが可能です。延納でも金銭での納付が困難な場合に限り、物納(不動産等の財産で納付)が認められます。延納には利子税がかかるため、銀行借入と比較して有利な方を選ぶことが重要です。

納付方法の全体像と判定フロー

相続税の納付には、優先順位があります。以下のフローで、どの納付方法を選択すべきかを判定します。

順位 納付方法 要件 利息負担
1金銭一括納付原則。申告期限(10ヶ月以内)に金銭で納付なし
2延納(年賦払い)一括納付が困難な場合。税額10万円超、担保提供が必要利子税(年0.1〜0.7%程度 ※特例割合)
3物納延納でも金銭納付が困難な場合。相続財産を現物で納付利子税(許可までの期間に応じて)
4特定物納延納許可後に履行困難となった場合。申告期限から10年以内当初の延納条件による利子税

💡 実務のポイント

「延納も物納も使いたくないが一括では払えない」という場合、銀行の相続税支払い支援ローンを利用する方法もあります。延納の利子税と銀行の金利を比較し、有利な方を選ぶのが賢明です。後述のシミュレーションで比較します。

延納の4つの要件

延納を申請するには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。

# 要件 詳細
1相続税額が10万円超相続税額が10万円以下の場合は延納できない
2金銭一括納付が困難自己資金や換金可能な財産を差し引いた後、なお困難な金額の範囲内であること
3担保の提供延納税額+利子税の額に相当する担保を提供(税額100万円以下かつ期間3年以下なら不要)
4期限内に申請書を提出申告期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに延納申請書+担保提供関係書類を提出

参考: 国税庁「No.4211 相続税の延納」

担保として提供できる財産

担保の種類 注意点
国債・地方債額面価格で評価
社債・有価証券税務署長が確実と認めるものに限る
土地抵当権等が設定されていないもの。相続人固有の財産や第三者の財産もOK
建物・立木・登記された船舶保険付きであること
工場財団等鉄道財団・鉱業財団等
税務署長が確実と認める保証人の保証保証人の資力が十分であること

延納期間と利子税率の早見表

延納できる期間と利子税の割合は、相続財産のうち不動産等が占める割合によって異なります。

不動産等の割合 区分 延納期間(最長) 利子税(年率) 特例割合(目安)
75%以上不動産等に係る税額20年3.6%0.4%
動産等に係る税額10年5.4%0.7%
立木割合20%以上の場合20年1.2%0.1%
50%以上75%未満不動産等に係る税額15年3.6%0.4%
動産等に係る税額10年5.4%0.7%
50%未満全額5年6.0%0.8%

※特例割合は延納特例基準割合0.9%(令和5年1月1日現在)で計算した目安値。毎年変動します。

延納 vs 銀行借入のコスト比較シミュレーション

延納の利子税と銀行の不動産担保ローン金利を比較し、どちらが有利かを判断する材料を示します。

📐 シミュレーション前提条件

  • 相続税額:3,000万円(不動産等の割合80%)
  • 延納期間:10年(不動産に係る税額2,400万円+動産に係る税額600万円)
  • 延納の特例割合:不動産0.4%、動産0.7%
  • 銀行借入:不動産担保ローン金利1.5%(変動金利)、10年返済
項目 延納 銀行借入
元金3,000万円3,000万円
利率不動産0.4%+動産0.7%1.5%(変動)
10年間の利息総額(概算)約74万円約232万円
担保必要(不動産等)必要(不動産)
繰上返済可能(手数料なし)可能(手数料あり)
金利変動リスクあり(毎年変動)あり(変動金利の場合)
利息の所得税上の取扱い経費にならない賃貸不動産の取得なら経費になる場合あり

※概算値です。実際の利子税は毎年の延納特例基準割合により変動します。銀行金利は各行の条件により異なります。

💡 実務のポイント

現在の低金利環境では延納の特例割合が非常に低いため、延納の方が銀行借入より有利なケースが多くなっています。ただし、延納は税務署の審査があり許可が下りない場合もあること、銀行借入の利息は賃貸不動産の取得費用であれば経費にできることなどを総合的に判断する必要があります。

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延納許可限度額の計算方法

延納は「一括で払えない金額の範囲内」でのみ認められます。この「一括で払えない金額」を延納許可限度額といいます。

計算ステップ

Step 内容 計算要素
1納付すべき相続税額を確認申告書の各人の納付税額
2納税時に換金可能な金融資産を把握預貯金+上場有価証券+生命保険金等
3生活費・事業資金を控除3ヶ月分の生活費+事業に必要な運転資金
4「納税に充てられる金額」を算出Step 2 − Step 3
5延納許可限度額を算出Step 1 − Step 4 = 延納できる上限額

延納許可限度額がゼロまたはマイナスになる場合は、一括納付が可能とみなされ延納は認められません。

📢 令和7年度改正:延納許可限度額の計算方法が変更

令和7年4月1日以後に相続が開始する場合から、延納許可限度額および物納許可限度額の計算方法が改正されています。詳細は国税庁の「物納許可限度額等の計算方法が変わりました」をご確認ください。

延納の手続きの流れ

Step 手続き 期限・目安
1延納申請書+担保提供関係書類を作成申告期限の1ヶ月前までに準備開始が目安
2申告期限までに税務署に提出死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内
3税務署による審査申請期限から3ヶ月以内に許可・却下を通知(最大6ヶ月まで延長の場合あり)
4延納の許可許可後、毎年の分納期限に分納税額+利子税を納付
5延納期間中の分納年1回、分納税額+利子税を納付。繰上納付も可能

延納申請に必要な書類

延納申請書、金銭納付を困難とする理由書(資料の写し添付)、延納申請書別紙(担保目録および担保提供書)、不動産の登記事項証明書、担保が第三者の財産の場合は承諾書が必要です。各様式は国税庁のWebサイトからダウンロードできます。

相続税の申告手続き全体については「相続税の申告手続き|期限・必要書類・申告書の書き方を完全ガイド」をご覧ください。

物納の要件と物納できる財産の順位

物納とは、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、相続財産を現物で納付する制度です(相続税法第41条〜第45条)。

物納の3つの要件

# 要件 詳細
1延納でも金銭納付が困難延納を利用しても金銭で納付できない金額の範囲内であること
2物納財産の順位を遵守管理処分不適格財産でなく、物納劣後財産は後順位
3期限内に申請書を提出申告期限までに物納申請書+物納手続関係書類を提出

物納に充てられる財産の順位

順位 財産の種類 収納価額
第1順位不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等相続税評価額(課税価格計算の基礎となった価額)
第2順位不動産・上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの同上
第3順位非上場株式等同上
第4順位非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの同上
第5順位動産同上

参考: 国税庁「No.4214 相続税の物納」

⚠️ 物納不適格財産に注意

抵当権が設定されている不動産、権利について係争中の不動産、境界が明確でない土地、共有不動産(共有者全員が申請する場合を除く)、違法建築物がある土地などは物納不適格財産として認められません。物納を検討する場合は、事前に財産の状態を確認しておく必要があります。

物納のメリット・デメリット

項目 メリット デメリット
金銭の準備金銭を準備しなくてよい財産そのものを失う
収納価額相続税評価額で収納されるため、時価より高い評価の場合は有利時価より低い評価の場合は損をする可能性
手続きの手間不動産を自分で売却する手間が省ける物納手続関係書類の準備が煩雑(境界確認・測量等が必要な場合も)
審査期間審査に3〜9ヶ月かかる場合があり、その間利子税が発生
譲渡所得税物納は譲渡に該当しないため、原則として譲渡所得税がかからない超過物納(収納価額が税額を超えた場合)の差額は譲渡所得の対象

📊 公認会計士の視点

物納で不動産を手放す場合、「相続税評価額で納付する」点がポイントです。路線価は公示価格の約80%で設定されるため、実際の売却価格の方が高い可能性があります。不動産を売却して現金で納付した方が手元に残る金額が多いケースもあるため、物納と売却の両方を比較検討することが重要です。

特定物納(延納から物納への変更)

延納の許可を受けた後に、収入の減少などで分納が困難になった場合には、申告期限から10年以内に限り、未到来の分納税額について延納から物納に変更することができます。これを特定物納といいます。

特定物納の注意点

特定物納の場合、財産の収納価額は「特定物納申請書を提出した時の価額」となります。相続開始時の評価額ではないため、申請時点で不動産価格が下落していると不利になる可能性があります。また、物納財産を納付するまでの期間は当初の延納条件による利子税を納付し続ける必要があります。

事業承継に関連する納税猶予については「事業承継税制の概要|非上場株式の納税猶予・免除の要件と手続き」をご覧ください。

延納・物納を選ぶ際の判断基準チェックリスト

チェック項目 一括納付 延納 物納
手元の現預金で全額払える
現金は足りないが、将来の収入で分割なら払える
延納しても将来の収入では払えない
不動産を手放したくない
不動産を売却する予定がある売却後に一括物納より売却の方が有利か比較

相続税の計算方法について詳しくは「相続税の計算方法|税率・基礎控除・計算手順をわかりやすく解説」をご覧ください。また、小規模宅地等の特例で評価額を減らすことが納税額の軽減に直結するため、「小規模宅地等の特例|適用要件・減額割合・申告方法を完全ガイド」もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

延納の利子税は経費にできますか?
相続税の延納に係る利子税は、個人の所得税の計算上、必要経費にはなりません。ただし、法人が納付する利子税であれば損金に算入できます。銀行借入の利息は、賃貸用不動産の取得のためのものであれば不動産所得の必要経費にできる場合があります。
延納の審査にはどれくらいかかりますか?
延納申請の審査期間は、原則として申請期限から3ヶ月以内に許可または却下の通知が届きます。ただし、担保の評価等に時間がかかる場合は最大6ヶ月まで延長されることがあります。審査期間中の利子税は課されません。
延納を途中でやめて一括納付することはできますか?
はい、延納の繰上納付は可能です。繰上納付をすると、繰上げた部分の利子税は減額されるため、資金に余裕ができた場合は早めに納付した方が有利です。繰上納付に手数料はかかりません。
物納した不動産に譲渡所得税はかかりますか?
物納は「譲渡」に該当しないため、原則として譲渡所得税はかかりません。ただし、収納価額が相続税額を超える場合(超過物納)の差額については譲渡所得の対象になります。物納と売却のどちらが有利かは個別の比較が必要です。
延納の担保として相続した自宅を使えますか?
はい、相続した自宅の土地・建物を延納の担保として提供することは可能です。ただし、抵当権が設定されるため、売却時には抵当権の抹消手続きが必要になります。また、相続人の固有の財産や第三者の財産も担保として提供できます。
物納の申請が却下された場合はどうなりますか?
物納申請が却下された場合、その税額について延納の申請をすることができます。却下の日までの期間について利子税が発生するため、当初から延納と物納のどちらが適しているかを慎重に判断することが重要です。贈与税の基本については「贈与税のしくみと基礎知識」をご覧ください。
延納と物納を同時に申請できますか?
はい、一部を延納、残りを物納というように併用することが可能です。例えば、相続税額3,000万円のうち2,000万円を延納、1,000万円を物納にするといった申請ができます。ただし、物納は「延納でも金銭納付が困難な金額」が上限です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 相続税の納付は「一括納付→延納→物納」の優先順位で検討する
  • 延納の要件は4つ(税額10万円超、一括困難、担保提供、期限内申請)。全て満たす必要あり
  • 延納の利子税は低金利環境では年0.1〜0.7%程度(特例割合)。銀行借入と比較して有利な場合が多い
  • 物納は延納でも困難な場合の最終手段。財産に順位があり、不適格財産は使えない
  • 物納の収納価額は相続税評価額。売却した方が有利な場合もあるため比較検討が必要
  • 延納から物納への変更(特定物納)は申告期限から10年以内に可能

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