【税理士×公認会計士が解説】医療法人の法人税務|出資持分あり・なしの違いと税務上の特殊性

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
医療法人の法人税務|出資持分あり・なしの違いと税務上の特殊性を完全ガイド
「医療法人の法人税は普通法人と同じ?」「持分ありとなしで税務はどう変わる?」とお悩みの医療経営者に向けて、医療法人6類型別の法人税の取扱い・特定医療法人や社会医療法人の軽減税率・持分なしへの移行時の課税関係までを完全ガイドします。この記事を読めば、自院の医療法人がどの類型に該当し、どのような税務対応が必要かを判断できます。
🏆 結論:医療法人の法人税は「類型」で大きく変わる
一般的な医療法人の法人税率は普通法人と同じ23.2%ですが、特定医療法人は19%、社会医療法人は医療保健業が非課税と大幅に異なります。さらに、持分あり・なしの違いは法人税だけでなく、相続税・贈与税・出資者の課税関係にも影響します。自院がどの類型に該当するかを正確に把握し、最適な税務戦略を立てることが医療経営の基盤です。
医療法人の法人税法上の位置づけ|普通法人との違い
医療法人は法人税法上「普通法人」に分類される
医療法人は法人税法上、株式会社などと同じ「普通法人」に分類されます。したがって、基本的な法人税率は普通法人と同じです。所得800万円以下の部分は15%(適用除外事業者を除く)、800万円超の部分は23.2%が課されます。
ただし、社会医療法人(医療法第42条の2第1項)は法人税法上「公益法人等」に該当し、収益事業のみが課税対象です。医療保健業は収益事業に該当しないため、社会医療法人が行う本来の医療業務には法人税がかかりません。
💡 実務のポイント
実務では、医療法人の申告で最もよくある誤りが「社会保険診療報酬の概算経費特例(措法67条)の適用判断ミス」です。この特例は社保診療報酬5,000万円以下の医療法人が対象ですが、MS法人(メディカルサービス法人)を通じた取引がある場合、実質的な診療報酬の判定が複雑になります。年間100件以上の医療法人申告を担当してきた経験上、この特例の適用可否は必ず確認すべきポイントです。
医療法人に「会社」の規定は適用されない
医療法人は法人税法上の「会社」には該当しません。このため、普通法人に適用されるいくつかの重要な規定が医療法人には適用されません。
具体的には、特定同族会社の特別税率(法人税法第67条)は医療法人に適用されません。株式会社であれば留保金課税が発生し得る場面でも、医療法人なら追加課税を受けません。また、法人税法第34条第1項第2号・第3号に定める事前確定届出給与の規定や業績連動給与の規定も、医療法人には直接適用されません。
ただし、同族会社等の行為計算の否認規定(法人税法第132条)については例外があります。3つ以上の病院・診療所を運営し、かつその半数以上が個人開設から法人化したものである場合には、同規定が適用される可能性があります。
⚠️ 注意
過去の裁判例(広島高裁昭和43年3月27日判決)では、非同族会社であっても経済的合理性を無視した不自然な行為計算による法人税の回避・軽減が行われた場合には、行為計算の否認が認められ得るとされています。「医療法人だから安心」と油断せず、MS法人との取引価格や理事長への報酬水準には十分な注意が必要です。
医療法人6類型の法人税完全比較表
医療法人は運営形態と公益性の度合いによって複数の類型に分かれ、法人税の取扱いが大きく異なります。以下の表で6類型を横断比較します。
| 類型 |
法人税率 |
法人税法上の分類 |
持分 |
同族規定適用 |
新規設立 |
| ①持分あり(経過措置型) | 15%/23.2% | 普通法人 | あり | 条件付き | 不可 |
| ②出資額限度法人 | 15%/23.2% | 普通法人 | あり(払戻限度あり) | 条件付き | 不可 |
| ③持分なし(基金拠出型) | 15%/23.2% | 普通法人 | なし | 条件付き | 可 |
| ④特定医療法人 | 15%/19% | 普通法人(軽減税率) | なし | なし | 可 |
| ⑤社会医療法人 | 医療保健業は非課税/収益事業19% | 公益法人等 | なし | なし | 可 |
| ⑥財団医療法人 | 15%/23.2% | 普通法人 | なし | なし | 可 |
※税率は2026年4月時点。15%は年800万円以下の部分に適用される中小法人の軽減税率(適用除外事業者を除く)。
持分なし医療法人の「資本金ゼロ」が法人税に与える影響
持分なし医療法人(基金拠出型)では、基金は法人税法上の「資本金の額又は出資の金額」に該当しません。大阪国税局の文書回答(平成21年4月24日)でも、基金は債務と同様の性質を有するものとして、出資金の額には該当しないと整理されています。
この結果、持分なし医療法人は「資本金ゼロ」として取り扱われ、以下のような税務上のメリット・デメリットが生じます。
| 項目 |
資本金ゼロの影響 |
メリット/デメリット |
| 法人住民税均等割 | 最低区分(7万円/年〜)が適用 | メリット |
| 寄附金の損金算入限度額 | 所得基準のみで計算(資本金基準がゼロ) | デメリット |
| 交際費の損金算入限度額 | 年800万円まで全額損金算入可 | メリット |
| 少額減価償却資産の特例 | 従業員1,000人以下なら適用可 | メリット |
| 消費税の基準期間判定 | 資本金1,000万円未満の判定で有利 | メリット |
「あなたの医療法人はどの類型?」判定フロー
医療法人の類型は設立時期と定款の内容で決まります。以下の判定表で自院の類型を確認してください。
| 判定条件 |
Yes |
No |
| Step1: 平成19年4月1日以降に設立したか? | → Step3へ | → Step2へ |
| Step2: 定款に出資持分の定めがあるか? | → ①持分あり(経過措置型)※払戻限度があれば②出資額限度法人 | → Step3へ |
| Step3: 都道府県知事から社会医療法人の認定を受けているか? | → ⑤社会医療法人 | → Step4へ |
| Step4: 国税庁長官から特定医療法人の承認を受けているか? | → ④特定医療法人 | → Step5へ |
| Step5: 社団法人か財団法人か? | 社団 → ③持分なし(基金拠出型) | 財団 → ⑥財団医療法人 |
💡 実務のポイント
現場で意外に多いのが「自分の医療法人がどの類型かわかっていない」という院長先生です。特に、平成19年以前に設立された医療法人で、その後定款変更を行ったケースでは、持分あり→なしへの移行が途中で止まっていることもあります。まずは定款の原本を確認し、出資持分に関する条項があるかどうかを確かめてください。
出資持分あり医療法人の法人税の特殊性
持分払戻し時の法人側の課税関係
社員が退社や死亡で医療法人から持分の払戻しを受ける場合、法人側には特有の課税関係が生じます。払い戻した金額のうち、利益積立金額に対応する部分は「みなし配当」(法人税法第24条)として取り扱われ、源泉徴収が必要です。
払戻しの相手が個人であれば、みなし配当部分に20.42%の源泉徴収義務が法人側に生じます。払戻しの相手が法人であれば、受取配当等の益金不算入の適用可否を検討する必要があります。
法人税法上の資本金等の額と利益積立金額
持分あり医療法人では、設立時の出資金が「資本金等の額」を構成します。その後の利益の蓄積は「利益積立金額」です。この区分は、持分払戻し時のみなし配当の計算や、合併・分割時の課税関係に直接影響します。
また、持分あり医療法人の出資持分は相続税の課税対象です。医療法人の純資産が膨らむほど、出資持分の評価額も上昇し、相続発生時に多額の相続税が発生するリスクがあります。これが「持分なしへの移行」が推進されている最大の理由です。
出資持分なし医療法人への移行と課税関係
持分放棄時に法人側に受贈益課税はない
持分あり→持分なしへの移行は、出資者全員が持分を放棄し、定款を変更することで行われます。この場合、法人側の課税関係について、国税庁の文書回答(平成17年5月照会回答)では次のように整理されています。
移行は定款変更により行うものであり、解散・設立の手続がとられるものではないため、清算所得課税は生じません。また、出資者の持分放棄により資本金の全部が減少し、同額の資本剰余金(資本積立金額)が増加するという資本等取引として処理されるため、法人側に受贈益課税は生じないとされています。
出資者側の課税関係
出資者が個人の場合、持分の放棄は「何も対価を受け取らずに財産権を手放す」行為です。個人出資者の側では、持分の帳簿価額に相当する損失が生じますが、この損失は譲渡所得の計算上の「なかったもの」として取り扱われます。
出資者が法人の場合は取扱いが異なります。持分に時価相当額が認識できる場合には、その放棄が経済的利益の供与に該当し、合理的な理由がない限り、時価相当額が寄附金(法人税法第37条)として取り扱われます。
AYUSAWA PARTNERS
医療法人の税務は鮎澤パートナーズへ
初回相談無料。公認会計士・税理士がワンストップで医療法人の設立・税務・移行を支援します。
鮎澤パートナーズに相談する
移行時の相続税・贈与税の課税リスクと認定制度
持分なしへの移行時には、相続税法第66条第4項の「贈与税の課税」リスクがあります。出資者が持分を放棄して医療法人に経済的利益が移転した場合、医療法人を個人とみなして贈与税が課税される可能性があるのです。
このリスクを軽減するため、厚生労働大臣の「認定医療法人」制度が設けられています。認定を受けた医療法人は、移行期間中の相続・贈与について納税猶予の適用を受けることができます。認定の申請受付期限は令和8年12月31日です。
📢 認定医療法人制度の期限に注意
認定医療法人制度の申請受付期限は令和8年(2026年)12月31日です。持分あり医療法人で移行を検討している場合は、早急に移行計画を作成し申請する必要があります。認定を受ければ、移行期間中の相続・贈与について納税猶予の適用を受けることができます。
持分あり→なし移行の課税シミュレーション
📐 シミュレーション前提条件
- 持分あり医療法人(院長1名が100%出資)
- 設立時の出資金:100万円
- 現在の純資産:5億円(利益積立金4億9,900万円)
- 持分なし医療法人(基金拠出型)へ移行
| 課税の場面 |
認定なしの場合 |
認定ありの場合 |
| 法人側:受贈益課税 | なし(資本等取引) | なし(同左) |
| 法人側:贈与税(相法66④) | 課税リスクあり(最大約2.75億円※) | 要件充足で非課税 |
| 出資者側:所得税 | 譲渡損失は認識不可 | 同左 |
| 移行中に相続が発生した場合 | 持分に対する相続税が発生(評価額約5億円×最大55%) | 納税猶予の適用可 |
※贈与税の概算値。実際の課税額は運営体制・親族関係者の状況等により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。
📊 公認会計士の視点
持分あり医療法人の純資産が5億円を超えるケースは珍しくありません。開業から20〜30年経過した医療法人では、内部留保が大きく膨らんでいることが多いです。このような医療法人が認定制度を利用せずに持分なしへ移行すると、相続税法第66条第4項の贈与税が課される可能性があります。移行を検討する場合は、必ず認定制度の利用を前提に計画を立てるべきです。
特定医療法人の法人税率と承認要件
特定医療法人の軽減税率
特定医療法人とは、租税特別措置法第67条の2に基づき、国税庁長官の承認を受けた医療法人です。税制上の制度であり、医療法上の法人類型ではありません。
承認を受けた場合、法人税率は全所得に対して19%となります(通常の23.2%から軽減)。さらに、年800万円以下の部分は15%、所得が年10億円以下の事業年度では17%の軽減税率が適用されます。
特定医療法人の主な承認要件
| 要件 |
具体的内容 |
| 法人形態 | 財団法人または持分なし社団法人であること |
| 自費診療の基準 | 自費患者に対する請求金額が社保診療報酬と同一基準であること |
| 収支基準 | 医療業務の収入金額が費用の1.5倍以内であること |
| 給与上限 | 役職員1人あたり年間給与総額が3,600万円以内 |
| 施設基準 | 病院の場合:40人以上の入院施設(一部診療科は30人以上) |
| 同族支配の禁止 | 親族等の理事が1/3以下であること |
| 残余財産の帰属 | 解散時の残余財産が国・地方公共団体等に帰属すること |
💡 実務のポイント
特定医療法人の給与上限3,600万円は、院長先生にとって大きな制約です。一般的な医療法人では理事長報酬が4,000万〜6,000万円というケースも珍しくないため、特定医療法人の承認を受けると報酬を引き下げる必要が出てきます。法人税の軽減効果と報酬引下げの影響を比較計算してから判断すべきです。
社会医療法人の法人税非課税と収益事業
医療保健業は法人税非課税
社会医療法人は法人税法上「公益法人等」に分類されるため、収益事業のみが法人税の課税対象です。医療保健業は法人税法上の34種類の収益事業に含まれないため、社会医療法人が行う本来の医療業務には法人税がかかりません。
これは非常に大きな優遇です。仮に医療保健業の所得が年間1億円ある場合、一般の医療法人なら約2,320万円の法人税が課されますが、社会医療法人なら非課税です。
社会医療法人の認定要件
社会医療法人の認定は都道府県知事が行います。特定医療法人よりもさらに厳格な公益性要件が求められます。主な認定要件は、救急医療等確保事業(救急医療・へき地医療・災害医療等)の実施、同族性の排除(理事の親族等が1/3以下)、残余財産の国等への帰属などです。
社会医療法人の大きな特徴は、医療法人では通常禁止されている「収益事業」を行えることです。不動産賃貸業などの附帯業務を行い、その収益を医療経営に充てることが認められています。ただし、この収益事業部分には法人税が課されます(軽減税率19%)。
医療法人特有の法人税申告の注意点
社会保険診療報酬の概算経費特例
社保診療報酬5,000万円以下の医療法人は、措置法第67条の概算経費特例を適用できます。この特例は実際の経費ではなく、収入金額に一定の割合を乗じた金額を経費として認めるものです。
| 社保診療報酬 |
概算経費率 |
| 2,500万円以下 | 72% |
| 2,500万円超〜3,000万円以下 | 70% |
| 3,000万円超〜4,000万円以下 | 62% |
| 4,000万円超〜5,000万円以下 | 57% |
⚠️ 注意:概算経費の両建て処理
概算経費特例を適用する場合、社保診療報酬とそれに対応する経費を「両建て」で別管理する必要があります。自費診療分の経費と混同すると、税務調査で概算経費の適用が否認されるリスクがあります。実務では、勘定科目の補助科目で保険診療と自費診療を区分する方法が一般的です。
MS法人(メディカルサービス法人)との取引
MS法人は、医療法人の院長やその親族が経営する株式会社等で、医療法人の不動産管理・医療事務・医薬品仕入等を受託するケースが典型的です。
MS法人との取引は法人税法上の問題を生じやすい領域です。主な論点は以下のとおりです。
第一に、取引価格の適正性です。MS法人への管理料が市場価格と比較して著しく高い場合、法人税法第37条の寄附金として否認される可能性があります。第二に、行為計算の否認です。前述のとおり、一定の要件を満たす医療法人には法人税法第132条が適用され得ます。第三に、消費税の課税関係です。MS法人からのサービス提供は課税仕入となりますが、医療法人の社保診療は非課税売上のため、仕入税額控除が制限されます。
役員給与の取扱い
医療法人の理事長・理事への給与は、法人税法第34条の役員給与の損金算入規定に基づき処理します。ただし、医療法人は「会社」でないため、事前確定届出給与の届出義務は事前確定届出給与を損金算入するために必要ですが、特定同族会社の留保金課税は適用されません。
定期同額給与が基本ですが、決算賞与的な支給を考える場合は事前確定届出給与の届出が必要です。届出期限は株主総会等の決議の日から1か月以内(または事業年度開始の日から4か月以内のいずれか早い日)です。
なお、「役員報酬の基礎知識と最適化シミュレーション」の記事で、役員報酬の決定方法と税務上の注意点を詳しく解説しています。
個人クリニックvs医療法人の法人税メリット・デメリット
所得水準別の税負担シミュレーション
📐 シミュレーション前提条件
- 単独経営・配偶者なし(医療法人化後は理事長報酬として支給)
- 社保診療報酬のみ(自費なし)
- 青色申告特別控除65万円適用(個人)
- 医療法人の場合の理事長報酬は所得の60%と仮定
| 課税所得 |
個人の税負担概算 |
法人化後の税負担概算 |
節税効果 |
| 1,500万円 | 約440万円 | 約410万円 | 約30万円 |
| 2,500万円 | 約880万円 | 約720万円 | 約160万円 |
| 4,000万円 | 約1,600万円 | 約1,150万円 | 約450万円 |
| 6,000万円 | 約2,680万円 | 約1,850万円 | 約830万円 |
※概算値です。個人の所得控除額、法人の経費構造、社会保険料の負担等により実際の金額は大きく異なります。正確なシミュレーションは税理士にご相談ください。
課税所得が概ね2,500万円を超えるあたりから医療法人化のメリットが顕著になります。ただし、法人化には設立費用(30〜100万円)、毎年の法人維持コスト(税理士顧問料の増加、社会保険料の法人負担等)、持分なし法人の場合の「財産が手元に戻らない」制約などのデメリットも考慮する必要があります。
なお、法人化の全体的な検討については「法人成りのタイミング完全ガイド」、法人設立の具体的な手続きについては「会社設立の流れ完全ガイド」をご参照ください。
医療法人の事業税の特殊性|社保診療報酬の非課税
医療法人の事業税には、法人税にはない重要な特殊性があります。社会保険診療報酬に係る所得には、法人事業税が課されません(地方税法第72条の23)。
これは保険診療が中心の医療法人にとって非常に大きなメリットです。例えば、保険診療収入が年間3億円、自費診療収入が5,000万円の医療法人であれば、事業税の課税対象は自費診療に係る所得部分のみです。
ただし、自費診療の割合が増えている美容皮膚科や歯科(インプラント・矯正等)では、この非課税メリットが薄れます。自費診療の割合が高い医療法人では、事業税の負担も踏まえた経営判断が必要です。
医療法人のM&A・合併・分割の法人税
医療法人のM&Aは、営利法人のM&Aとは異なる特殊な課税関係があります。医療法人は株式を発行しないため、株式譲渡によるM&Aは不可能です。典型的な手法は以下の3つです。
第一に、出資持分の譲渡(持分あり医療法人のみ)です。出資者が第三者に持分を譲渡することで経営権を移転します。譲渡所得として課税されます。第二に、理事の交代(持分なし医療法人)です。社員の入退社と理事の交代により実質的な経営権を移転します。持分がないため譲渡所得は発生しませんが、退職金の支給に伴う法人の損金処理が論点となります。第三に、合併です。医療法人同士の合併は医療法上認められていますが、適格合併の要件を満たすかどうかで法人税の取扱いが大きく変わります。
医療法人のM&Aの基本的な考え方については「M&Aの税務基礎」で解説しています。
医療法人の法人税申告チェックリスト
医療法人の法人税申告では、普通法人とは異なるチェックポイントがあります。以下のリストを決算・申告時に活用してください。
| チェック項目 |
確認内容 |
該当する類型 |
| 概算経費特例の適用可否 | 社保診療報酬5,000万円以下か確認 | 全類型 |
| 保険/自費の区分経理 | 勘定科目の補助で区分されているか | 全類型 |
| MS法人との取引価格 | 市場価格と比較して適正か | 全類型 |
| 理事長報酬の定期同額性 | 期中変更がないか確認 | 全類型 |
| 給与上限3,600万円の充足 | 全役職員の年間給与を確認 | 特定医療法人 |
| 収益事業の範囲確認 | 附帯業務・収益業務の区分が正確か | 社会医療法人 |
| 事業税の非課税計算 | 社保診療分が除外されているか | 全類型 |
| 消費税の課税売上割合 | 自費診療比率に応じた仕入税額控除 | 全類型 |
よくある質問(FAQ)
医療法人の法人税率は普通法人と同じですか?
一般的な医療法人(持分あり・持分なし)の法人税率は普通法人と同じで、所得800万円以下は15%、800万円超は23.2%です。ただし、特定医療法人は19%に軽減され、社会医療法人は医療保健業が非課税となります。自院の類型によって大きく異なるため、正確な分類が重要です。
持分あり医療法人と持分なし医療法人で法人税の計算は変わりますか?
法人税率自体は同じです。ただし、持分なし医療法人は資本金がゼロとして扱われるため、寄附金の損金算入限度額(所得基準のみで計算)、法人住民税均等割(最低区分が適用)、交際費の損金算入限度額(年800万円まで全額可)などに違いが生じます。
持分あり医療法人から持分なしへの移行で法人税はかかりますか?
法人側に法人税(受贈益課税)はかかりません。移行は定款変更による資本等取引として整理され、資本金が減少して同額の資本積立金額が増加する処理となります。ただし、相続税法第66条第4項の贈与税リスクがあるため、認定医療法人制度の利用を強くお勧めします。
社会医療法人の法人税非課税とはどういう意味ですか?
社会医療法人は法人税法上「公益法人等」に分類され、収益事業のみが課税対象です。医療保健業は法人税法の収益事業に該当しないため、社会医療法人が行う医療業務には法人税がかかりません。ただし、不動産賃貸業などの収益事業を行った場合は、その部分に19%の軽減税率で法人税が課されます。
MS法人との取引で税務調査のリスクが高い取引は何ですか?
最もリスクが高いのは「管理料」の水準です。MS法人への不動産管理料や事務管理料が業界相場と比較して著しく高い場合、寄附金として否認される可能性があります。また、医療機器のリース契約をMS法人経由にする場合も、直接リース会社と契約した場合との価格差が調査されます。適正な取引価格の根拠資料(見積書の比較等)を事前に準備しておくことが重要です。
特定医療法人の承認が取り消されるとどうなりますか?
特定医療法人の承認は、要件を満たさなくなった時点まで遡って取り消されます。取消しの対象となった事業年度以後について、軽減税率(19%)の適用が認められず、通常の23.2%で再計算した法人税との差額を追加納付する必要があります。承認要件は常時充足が求められるため、特に給与上限(3,600万円)と収支基準には継続的な注意が必要です。
医療法人化のメリットが出る所得水準の目安はいくらですか?
一般的には課税所得2,500万円前後が法人化の検討ラインです。所得税の最高税率45%(住民税含め55%超)に対し、法人税の実効税率は約30%前後のため、この差が大きくなるほど法人化の税負担軽減効果が大きくなります。ただし、法人設立コスト、社会保険料の法人負担増、法人住民税均等割の最低額(年7万円〜)、顧問料の増加等も考慮した総合判断が必要です。
医療法人が行う消費税の仕入税額控除で注意すべき点は何ですか?
社会保険診療は消費税が非課税売上です。そのため、課税売上割合が95%未満になる医療法人では、仕入税額控除が制限されます。特に自費診療の割合が低い(=非課税売上が多い)医療法人では、医療機器購入などの大きな課税仕入があっても、仕入税額控除がほとんどできないケースがあります。個別対応方式と一括比例配分方式のいずれが有利かを毎年検討すべきです。
医療法人の出資持分は相続税でどのように評価されますか?
持分あり医療法人の出資持分は、相続税の財産評価基本通達に基づき評価されます。原則として、類似業種比準方式または純資産価額方式(またはその併用方式)により評価します。特に純資産が大きく膨らんだ医療法人では、出資持分の評価額が数億円に達し、相続発生時に多額の相続税が課されるリスクがあります。この問題が持分なしへの移行が推進されている最大の理由です。
認定医療法人制度はいつまでに申請すればいいですか?
認定医療法人制度の申請受付期限は令和8年(2026年)12月31日です。持分あり医療法人で持分なしへの移行を検討している場合は、移行計画の作成と申請を早急に進める必要があります。認定を受ければ、移行期間中に相続が発生しても納税猶予の適用を受けることができ、移行完了時には猶予税額が免除されます。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 医療法人は原則「普通法人」と同じ法人税率だが、特定医療法人(19%)・社会医療法人(非課税)は大幅に異なる
- 持分あり・なしの違いは法人税率には影響しないが、資本金ゼロの取扱い・相続税・移行時の課税関係に大きく影響する
- 持分あり→なしへの移行は認定医療法人制度を利用すれば贈与税・相続税のリスクを軽減できる(申請期限:令和8年12月31日)
- 医療法人特有の論点として、概算経費特例・MS法人取引・事業税の非課税・消費税の仕入税額控除制限がある
- 法人化のメリットが出る所得水準の目安は課税所得2,500万円前後だが、法人維持コストを含めた総合判断が必要
- 同族会社の行為計算否認規定は、3つ以上の医療機関を運営する医療法人に適用される可能性がある
医療法人の法人税務は、法人の類型によって取扱いが大きく異なります。特に持分あり医療法人は、認定医療法人制度の期限を控え、早急な対応が必要です。自院の法人税務について不安がある場合は、医療法人に詳しい税理士への相談をお勧めします。
決算・申告の基本的な流れについては「法人決算の流れ完全ガイド」もあわせてご確認ください。
AYUSAWA PARTNERS
医療法人の税務相談は鮎澤パートナーズへ
初回相談無料。公認会計士・税理士が医療法人の設立・法人税申告・持分移行までワンストップで支援します。
鮎澤パートナーズに相談する