【社労士が解説】服務規律・副業規定の整備|就業規則に盛り込むべき条項

【社労士が解説】服務規律・副業規定の整備|就業規則に盛り込むべき条項
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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服務規律は「遵守事項」ではなく「会社を守る盾」。副業規定は2018年のモデル就業規則改定以降、禁止ではなく許可制が実務の主流です。本記事では、就業規則に盛り込むべき具体条項と、実務で押さえるべきポイントを社労士が解説します。

🏆 結論:服務規律は具体的に、副業規定は許可制で整備する

服務規律は「会社の秩序維持のためのルール」として相対的必要記載事項に該当し、具体性を欠くと懲戒処分の根拠として機能しません。副業規定は2018年の厚生労働省モデル就業規則改定で「原則禁止」から「原則容認」に方針転換されましたが、無制限に認めると労働時間通算・情報漏洩・競業・健康管理のリスクがあるため、事前届出制または事前許可制での運用が実務の定石です。

服務規律とは|就業規則における位置づけ

服務規律とは、労働者が職場において遵守すべきルールを定めた条項の総称です。労働基準法第89条の「相対的必要記載事項」に該当し、実際に会社がルールを定める場合には就業規則への明記が義務付けられています。

服務規律の法的性格

服務規律は、単なる「お願い」ではなく、労働契約の内容を構成します。労働者に周知された就業規則上の服務規律は、労働契約の内容となり、違反時には懲戒処分の根拠となります(最高裁「国鉄札幌運転区事件」昭和54年10月30日)。

服務規律がない場合のリスク

💡 実務のポイント

「うちは家族的な会社だから就業規則は簡素でいい」という考えで服務規律を抽象的にしているケースが多く見られます。実際にトラブルが起きた時、抽象的な規定では懲戒処分の根拠にならず、結果として問題社員を放置せざるを得ない状況に陥ります。服務規律は具体的であるほど、会社を守る機能が強くなります。

服務規律に盛り込むべき8つの領域

服務規律は、次の8領域を網羅的にカバーすることが実務のベストプラクティスです。

領域1:一般的な遵守事項

領域2:機密保持・秘密情報管理

領域3:ハラスメント防止

2022年4月から中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務化されており、就業規則への明記は法的義務です。

領域4:SNS・ネット利用

領域5:金銭・物品管理

領域6:競業避止・利益相反

領域7:届出義務

領域8:会社施設・設備利用

服務規律の書き方|具体性と抽象性のバランス

抽象的な規定の問題点

「業務に専念すること」「会社の秩序を守ること」といった抽象的な規定だけでは、具体的事案での懲戒処分の根拠として機能しません。

NG例(抽象的) OK例(具体的)
業務に専念すること勤務時間中に私的なSNS閲覧、私用電話、私的な買物をしないこと
会社の秩序を守ること正当な理由なく3日以上連続して無断欠勤しないこと
機密を守ること顧客情報を含むデータを、会社が指定する方法以外で社外に持ち出さないこと
マナーを守ること同僚に対して暴言・侮辱・身体的接触等のハラスメント行為をしないこと

💡 条文の書き方のコツ

「〜をしないこと」「〜の場合は〜すること」という否定形と条件形の組み合わせで書くのがコツです。行為の具体性を担保しつつ、柔軟性も残せます。あまりに細部まで限定すると、想定外の行為が懲戒対象外になってしまうため、「〜その他会社の秩序を乱す行為」という包括条項を最後に置くのが実務の定石です。

副業規定の整備|禁止から容認への転換

副業・兼業については、2018年1月に厚生労働省のモデル就業規則が改定され、「原則禁止」から「原則容認」へと大きな転換がありました。現在の企業対応は、完全禁止・容認の二択ではなく、届出制・許可制の中間形態が主流です。

参考: 厚生労働省「副業・兼業」

副業規定の4つの類型

類型 内容 特徴
完全禁止あらゆる副業を禁止判例傾向として合理性なしと判断されるリスク
事前許可制申請→審査→許可最も管理しやすい主流派
事前届出制申請→届出受理で可比較的自由度が高い
完全自由副業自由・届出不要労働時間通算管理が困難

判例における副業規制の限界

原則として副業は労働者のプライベートな時間の使い方であり、企業が一方的に禁止することは困難です。判例では、副業禁止が有効と認められるのは次のような合理的理由がある場合に限定されています。

京都地裁平成24年7月13日判決(マンナ運輸事件)は、トラック運転手が会社に無断で他社でアルバイトをしたことを理由とする懲戒解雇を、合理的理由なく無効としました。本業への支障が具体的に立証されない副業禁止は、裁判で覆されるリスクがあります。

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副業規定に盛り込むべき6つの条項

許可制・届出制のいずれを採用するにしても、副業規定に次の6つを盛り込むことが推奨されます。

条項1:基本方針

会社として副業を認める姿勢を明確にします。モデル就業規則の記載例は次のとおりです。

労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

条項2:届出・許可の手続き

副業開始前に、副業内容を記載した届出書または申請書の提出義務を定めます。届出事項は以下のとおりです。

条項3:禁止・制限される副業の基準

次の条件に該当する副業は禁止または制限できる旨を明記します。

条項4:労働時間通算

雇用契約による副業の場合、労働基準法第38条により本業と副業の労働時間が通算されます。通算した時間が法定労働時間(週40時間)を超えると、後から契約した事業主が割増賃金を支払う義務を負います。

これを管理するため、労働者に対して副業先の労働時間の報告義務を課す条項が必要です。

条項5:健康管理

副業による長時間労働は、労災リスクと安全配慮義務違反リスクを高めます。以下を明記します。

条項6:違反時の対応

届出義務違反や禁止事項違反があった場合の取扱いを明記します。「懲戒処分の対象となる」と記載することで、就業規則第○条(懲戒)との連携が取れます。

労働時間通算の実務|2026年改正の動向

労働時間通算は、副業規定の最も複雑な論点です。本業と副業が雇用契約の場合、労基法第38条により労働時間が通算されます。

参考: e-Gov法令検索「労働基準法」第38条

通算の基本ルール

時間 扱い
先に契約した事業主の所定労働時間所定内労働時間
後から契約した事業主の所定労働時間通算して法定労働時間を超えた分は時間外労働
先の事業主の所定外労働時間外労働として先の事業主が割増賃金支払
後の事業主の所定外労働時間外労働として後の事業主が割増賃金支払

管理モデルの活用

厚生労働省は「管理モデル」という簡便な方法を提示しています。あらかじめ両事業主が通算の上限を合意し、その範囲内であれば日々の通算計算を省略できるものです。事業主間の労働時間情報共有の負担を大幅に軽減できます。

2026年以降の改正動向

副業解禁の促進のため、割増賃金計算における労働時間通算の緩和が検討されています。労働者の健康確保の観点からの通算は維持しつつ、割増賃金の支払義務に関する通算の簡素化が実施される見込みです。最新の法改正動向を踏まえた就業規則改定が必要です。

📢 業務委託型副業の扱い

業務委託による副業(請負・委任)は、雇用契約ではないため労働時間の通算対象外です。ただし、安全配慮義務の観点から長時間労働を放置することはリスクとなるため、実務では業務委託型でも届出を求めることが一般的です。

競業避止・秘密保持の実務

在職中の競業避止義務

在職中は、使用者に対する誠実義務(労働契約法第3条第4項)の一環として、競業避止義務が当然に課されます。就業規則に明記がなくても、競業行為は懲戒処分の対象となり得ます。

退職後の競業避止義務

退職後については、憲法第22条(職業選択の自由)との関係で、就業規則や誓約書に明記していないと原則効力がありません。さらに、効力が認められる場合でも、次の条件が必要です。

秘密保持義務

秘密保持義務は、在職中・退職後を通じて明記すべき重要事項です。不正競争防止法第2条第6項に定める営業秘密との関係も整理し、具体的な秘密の範囲(顧客情報・技術情報・取引先情報・人事情報など)を明示します。

服務規律違反・副業規定違反への対応

違反時の段階的対応

服務規律違反は、重大性に応じて段階的な対応が推奨されます。

  1. 口頭注意(文書での記録化)
  2. 書面注意(改善指導書の交付)
  3. 戒告処分
  4. 譴責処分
  5. 減給・出勤停止
  6. 降格・諭旨解雇
  7. 懲戒解雇

具体的な懲戒処分の種類と要件については「懲戒処分の種類と手続き」で詳しく解説しています。

よくある違反事例

よくある質問

副業を完全禁止にすることは違法ですか
違法ではありませんが、懲戒処分の有効性には高いハードルがあります。原則として副業は労働者の勤務時間外の活動であり、プライベートに属するものです。本業への支障・機密漏洩・競業・名誉毀損のいずれも具体的に立証できない場合、禁止規定に基づく懲戒処分は無効とされるリスクがあります(マンナ運輸事件)。実務では許可制または届出制が推奨されます。
服務規律に「会社の許可なく副業しないこと」と書いた上で、許可制運用することはできますか
可能です。「許可を要する」と規定し、許可の審査基準(本業への支障・機密漏洩・競業・名誉毀損の有無)を具体的に示しておけば、合理的な規制として機能します。ただし、申請に対して合理的理由なく一律不許可とする運用は、規制の実効性を失う可能性があります。
業務委託(個人事業主として請負)の副業も届出の対象にできますか
できます。業務委託は労働時間通算の対象外ですが、会社の秩序維持・情報管理の観点から届出を求めることは合理的です。ただし、業務委託は労働法の規制が及ばないため、完全禁止にすることは憲法上の職業選択の自由との関係で問題があります。届出制で管理するのが妥当です。
SNSで「業務中です」と実名投稿していた社員に対して、どの程度の処分が可能ですか
状況により異なります。単純に「業務中です」とだけ投稿したケースは譴責〜戒告程度、業務内容や顧客を特定した投稿は減給〜出勤停止、機密情報を含む投稿や会社批判が含まれる場合は諭旨解雇〜懲戒解雇もあり得ます。就業規則のSNS利用規定と情報管理規定、機密保持条項が整備されていることが前提条件です。
退職後の競業避止義務はどの程度まで有効ですか
期間・地域・業務内容が合理的に限定され、代償措置がある場合に有効です。判例傾向として、期間は1〜2年、地域は退職直前の担当地域内、業務内容は直接競合する業務のみ、といった限定が必要です。代償措置(退職金の上乗せ・顧問料の支払等)がないと、原則として無効となります。
パワハラ防止措置の義務化に対応した服務規律の記載例を教えてください
パワーハラスメントの定義(優越的関係・業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動・労働環境を害する)を明記し、具体的類型(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)を列挙します。さらに、相談窓口の設置、プライバシーへの配慮、相談者への不利益取扱の禁止を条項化します。
服務規律の記載内容を会社のウェブサイトで公開する必要はありますか
公開義務はありません。就業規則は労働者への周知が義務(労基法第106条)ですが、一般公開は求められません。ただし、2023年度以降の厚生労働省の方針として、副業・兼業を認める企業が自社ウェブサイトで副業規定を公表することが推奨されており、人材採用ブランディングの観点で公表するケースが増えています。

📋 この記事のポイント

  • 服務規律は労基法第89条の相対的必要記載事項として具体的に整備
  • 服務規律は「業務専念・機密保持・ハラスメント防止・SNS・金銭管理・競業・届出・施設利用」の8領域
  • 具体的な記述で書かないと懲戒処分の根拠として機能しない
  • 副業規定は2018年のモデル就業規則改定で「原則容認」へ転換
  • 副業は完全禁止ではなく、許可制または届出制が実務の主流
  • 禁止・制限できるのは労務提供の支障・機密漏洩・名誉毀損・競業の4要件
  • 労働時間通算は2026年以降に緩和見込みだが、健康確保のための通算は維持

まとめ

服務規律と副業規定は、就業規則の中でも特に実務トラブルに直結する重要条項です。抽象的な記載では会社を守る機能を果たさず、逆に過度に厳しい規定は裁判で無効とされるリスクがあります。

副業規定は、2018年の厚生労働省モデル就業規則改定以降、「禁止から容認へ」という大きな流れの中にあります。2026年以降は労働時間通算のさらなる緩和も見込まれ、定期的な規定見直しが必要です。「昔の就業規則のまま放置」は、現在の労働法環境ではリスクの温床です。

服務規律・副業規定の背景となる就業規則全体の整備については「就業規則の作成義務と記載事項」で解説しています。また、服務規律違反への具体的な対応については「懲戒処分の種類と手続き」を参照してください。

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