【社労士が解説】36協定の建設業・自動車運転者への適用|2024年問題の業種別上限と届出

【社労士が解説】36協定の建設業・自動車運転者への適用|2024年問題の業種別上限と届出
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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2024年4月、建設業・自動車運転者・医師にも時間外労働の上限規制が本格適用されました。業種によって年720時間・年960時間と上限が異なり、さらに改善基準告示の拘束時間・休息期間のルールが別途適用されます。本記事では実務で使える形で整理します。

🏆 結論:業種ごとに異なる上限と届出様式を把握する

建設業は原則一般業種と同じ年720時間(災害復旧・復興は除外)、自動車運転者は年960時間(ただし単月100時間未満・複数月平均80時間・月45時間超年6回までは適用なし)、医師はA水準年960時間〜特例水準年1,860時間が適用されます。36協定届出は業種別に専用様式(様式第9号の3の4など)を使用し、改善基準告示との二重管理が必要です。

2024年問題とは|猶予期間終了の全体像

「2024年問題」とは、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が、2024年4月から建設業・自動車運転者・医師にも適用開始となったことを指します。これらの業種は、一般業種に適用された2019年4月(中小企業は2020年4月)から5年間の猶予期間を経て、ようやく本格規制の対象となりました。

猶予終了後の3業種の扱い

業種 年の上限 適用されない規定
建設業(通常工事)720時間なし(一般業種と同じ)
建設業(災害復旧・復興事業)720時間単月100時間未満、複数月平均80時間以内
自動車運転者960時間単月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間超年6回まで
医師(A水準)960時間面接指導・休息確保が条件
医師(特例水準B・C)1,860時間都道府県知事の指定が必要

⚠️ 重要な実務ポイント

自動車運転者の「年960時間」は、一般業種より240時間分緩い上限ですが、「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」「月45時間超年6回まで」の3つが適用されないため、極端に言えば毎月80時間の残業が合法になり得ます。ただし、後述の改善基準告示で拘束時間・休息期間の別規制がかかるため、実際には相当な管理負荷がかかります。

参考: 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師の働き方改革総合サイト」

建設業の36協定|通常工事と災害復旧の区別

建設業は、原則として一般業種と同じ上限規制が適用されます。つまり年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超年6回までの4上限がすべて適用されます。

災害復旧・復興事業の特例

地震・豪雨・土砂災害などの復旧・復興に該当する工事については、単月100時間未満および複数月平均80時間以内の2つの上限が適用されません。ただし、年720時間・月45時間超年6回までは適用されます。

届出様式の選択ルール

💡 実務のポイント

インフラ工事を中心とする建設業者は、災害復旧対応の可能性が常にあります。実務では最初から災害復旧・復興対応ありの様式第9号の3の2で届出するのが安全策です。通常工事用で届出した後に災害復旧が必要になった場合、協定の変更届出が必要になり、その間の労働時間管理が煩雑になります。

建設業36協定作成の注意点

現場ごとに事業場単位の届出が原則ですが、労働者の過半数代表の選出が困難な小規模現場では、本社で一括締結し、各現場を対象とすることが一般的です。この場合、協定書に「対象事業場」として全現場を明記します。

自動車運転者の36協定|年960時間と改善基準告示

トラック運転者・バス運転者・タクシー運転者・ハイヤー運転者が対象です。運行管理者・整備士・事務職など運転業務以外の従業員は一般業種の上限規制(年720時間)が適用されます。

時間外労働の上限

改善基準告示|拘束時間・休息期間の別規制

労働基準法の上限規制とは別に、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(通称「改善基準告示」)が2024年4月に改正施行されました。36協定の時間外労働時間管理とは別に、拘束時間・休息期間の管理が必要です。

参考: 厚生労働省「トラック運転者の改善基準告示」

トラック運転者の改善基準告示(2024年4月〜)

項目 改正前(〜2024年3月) 改正後(2024年4月〜)
年の拘束時間3,516時間3,300時間(労使協定で3,400時間まで)
1ヶ月の拘束時間原則293時間原則284時間(労使協定で310時間まで)
1日の拘束時間原則13時間・最大16時間原則13時間・最大15時間(延長回数週2回まで)
1日の休息期間継続8時間以上継続11時間を基本、下限9時間
連続運転時間4時間以内(30分以上の中断)4時間以内(概ね10分以上×合計30分以上)

バス運転者・タクシー運転者の改善基準告示

バス運転者は年の拘束時間3,300時間(4週平均で65時間以内)、タクシー運転者(日勤)は1ヶ月の拘束時間288時間以内など、業種ごとに細かく定められています。特にタクシーは隔日勤務(2日分を1日で勤務する勤務形態)という独特の制度があり、拘束時間の計算が複雑です。

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医師の36協定|A水準・B水準・C水準

医師の働き方改革は、患者の安全確保と医療機関の機能維持の両立という難しい課題を抱えるため、他業種と大きく異なる三段階の水準制度が設けられています。

3つの水準の違い

水準 対象医師 年の上限
A水準すべての勤務医(原則)960時間
B水準地域医療確保のため必要な医療機関の医師1,860時間
連携B水準地域医療確保のため派遣される医師1,860時間
C-1水準研修医・専攻医1,860時間
C-2水準高度技能取得研修の医師1,860時間

特例水準適用の条件

B・連携B・C水準を適用するには、医療機関が都道府県知事の指定を受ける必要があります。指定を受けるには、医療機関勤務環境評価センターによる評価を経て、医師の労働時間短縮計画(時短計画)の策定と実行が条件となります。

健康確保措置の二重義務

医師の場合、時間外・休日労働が月100時間以上となる前に面接指導を実施する義務があります(医療法第108条第1項)。これは36協定の単月100時間未満という規制の例外適用と引き換えに設けられた安全弁です。

届出様式の業種別早見表

36協定の届出様式は、一般業種用と特例業種用で分かれています。提出時に間違えると受理されないため、事前確認が必須です。

業種・条件 使用様式
一般業種(特別条項なし)様式第9号
一般業種(特別条項あり)様式第9号の2
建設業(災害復旧・復興対応あり・特別条項なし)様式第9号の3
建設業(災害復旧・復興対応あり・特別条項あり)様式第9号の3の2
自動車運転者(特別条項なし)様式第9号の3の3
自動車運転者(特別条項あり)様式第9号の3の4
医師(特例水準適用)様式第9号の4
新技術・新商品等の研究開発業務様式第9号の5

🧮 電子申請の活用

厚生労働省「労働条件ポータルサイト」では、36協定届作成支援ツールが提供されており、業種と特別条項の有無を選択するだけで適切な様式が自動選択されます。e-Govからの電子申請で24時間いつでも提出可能です。

労災保険料率|建設業と運送業は高水準

建設業と運送業は、業務災害のリスクが高いため、労災保険料率が一般業種より格段に高く設定されています。36協定の届出管理とセットで、労災保険料の適正申告も実務の重要ポイントです。

主な業種の労災保険料率(2025年度)

業種 労災保険料率 特徴
鉄道・軌道建設業1000分の9最高水準
建築事業1000分の9.5労務費率で計算
道路新設事業1000分の11労務費率で計算
貨物取扱事業(港湾貨物以外)1000分の8.5運送業の標準
一般の卸売業・小売業1000分の3比較対照
金融業・保険業・不動産業1000分の2.5最低水準

雇用保険料率は業種別に3区分(一般事業・農林水産清酒製造業・建設業)で設定されており、建設業が最高です。

違反時の罰則と2024年以降の指導動向

36協定の上限規制違反は、労働基準法第119条第1号により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象です。これは業種を問いません。

2024年問題に関する労基署の指導重点

2024年4月以降、建設業・運送業を中心とした重点監督が実施されており、以下が指導の主な焦点となっています。

⚠️ 過労死労災の高水準

脳・心臓疾患による労災請求・認定件数は、運送業が全産業の中で突出しており、全産業の約3分の1を占めます(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」令和4年度)。長時間労働は労災リスクと直結し、労基署の指導強化の主要な根拠になっています。

業種別の対応策と効率化

建設業の実務対応

運送業の実務対応

医療機関の実務対応

よくある質問

建設業の事務職も年960時間の上限が適用されますか
適用されません。年960時間の特例は自動車運転者のみで、建設業は一般業種と同じ年720時間です。また、運送会社の運行管理者・整備士・事務職なども一般業種扱いとなるため、運転者との二重管理が必要です。
トラック運転者が荷待ち中の時間は拘束時間に含まれますか
含まれます。改善基準告示上の拘束時間には、運転時間だけでなく荷待ち時間・休憩時間・荷積み荷下ろし時間など、始業から終業までのすべての時間が含まれます。実務では荷主による荷待ちが長時間化し拘束時間超過の原因となるケースが多いため、荷主との運行条件交渉も重要な対策です。
1人親方の建設業者も36協定の届出が必要ですか
1人親方(労働者を雇用していない事業主)は労働基準法の適用対象外のため、36協定は不要です。ただし、1人でも労働者を雇用した時点で労基法の適用事業となり、法定時間外労働をさせる場合は36協定の届出義務が発生します。
タクシー会社の隔日勤務でも年960時間の上限は適用されますか
適用されます。隔日勤務は改善基準告示で独自の拘束時間基準(2暦日で21時間以内など)がありますが、労働基準法上の時間外労働上限規制は同様に年960時間です。隔日勤務では1回の勤務で長時間になるため、複数月平均80時間の規制が適用されない点が実務上重要です。
36協定未届出で2024年以降に残業をさせた場合、いきなり罰金ですか
通常は労基署の臨検監督で是正勧告が出され、指定期日までに届出すれば罰金にはなりません。ただし、過労死などの労災事故が発生していたり、労働者からの申告を受けた重点監督だったりすると、送検リスクが高まります。「知らなかった」では済まない時代です。
建設業の36協定は現場ごとに必要ですか、それとも本社一括でよいですか
原則として事業場ごと(現場ごと)の届出が必要ですが、本社一括届出制度を利用すれば本社でまとめて届出できます。本社一括届出の条件は、全事業場で同一内容の協定であることです。建設業では現場ごとに労働者代表を選出することが実務上困難なため、本社一括方式を採用する会社が多数派です。一般業種の36協定の基本ルールは「36協定の届出と特別条項」を参照してください。
運送業の運行管理者は管理監督者として扱い、36協定の対象外にできますか
運行管理者の肩書きだけで管理監督者扱いするのは違法です。管理監督者の判定は、経営方針の決定関与・出退勤の自由・賃金の優遇という3要件の実態判断です。運行管理者は運送法上の職責で、労基法上の管理監督者とは別概念です。労基署の指導でもこの点は厳しく指摘されます。

📋 この記事のポイント

  • 2024年4月から建設業・自動車運転者・医師に時間外労働上限規制が本格適用
  • 建設業は原則年720時間(災害復旧・復興は単月100時間・複数月平均80時間が除外)
  • 自動車運転者は年960時間(単月100時間・複数月平均80時間・月45時間超年6回までは適用なし)
  • 医師はA水準年960時間、特例水準(B・C)年1,860時間の三段階
  • 届出様式は業種別に8種類あり、選択を間違えると受理されない
  • 自動車運転者は改善基準告示の拘束時間・休息期間の別規制あり
  • 建設業・運送業は労災保険料率も高水準で、労務管理の重要性が高い

まとめ

2024年問題で新たに上限規制の対象となった建設業・自動車運転者・医師は、業種ごとに異なる上限時間と届出様式、改善基準告示の別規制を正確に把握する必要があります。特に自動車運転者は時間外労働の上限規制と改善基準告示の二重管理が必要で、実務負荷は他業種より格段に高くなります。

2024年4月以降、労基署の監督指導は建設業・運送業を重点化しており、過労死労災の多発業種として罰則適用のハードルが下がっています。36協定の適切な締結と届出は、もはや「任意の努力」ではなく「事業継続の前提条件」です。

建設業・運送業・医療機関の労務管理でお悩みの場合は、社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士がワンストップで対応する鮎澤パートナーズまでご相談ください。36協定の作成・届出から改善基準告示対応、労災保険料の適正申告まで、業種特有の課題に包括的に対応します。

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