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従業員の非違行為に懲戒処分を下すには、就業規則の根拠と適正な手続きが不可欠です。手順を誤ると処分自体が無効となり、逆に会社側が訴えられるリスクすらあります。7種類の処分の選び方から減給制限の実務まで、社労士が解説します。


従業員の非違行為に懲戒処分を下すには、就業規則の根拠と適正な手続きが不可欠です。手順を誤ると処分自体が無効となり、逆に会社側が訴えられるリスクすらあります。7種類の処分の選び方から減給制限の実務まで、社労士が解説します。
🏆 結論:懲戒処分は「就業規則の根拠+客観的合理性+社会通念上相当」が必須
懲戒処分が有効となるためには、就業規則に懲戒事由・種類が明記されていること、非違行為の事実認定が客観的資料で裏付けられていること、処分が行為に対して相当であることの3要件が必要です(労働契約法第15条)。減給処分には労働基準法第91条により「1回の額は平均賃金1日分の半額以内・総額は賃金総額の10分の1以内」の上限があり、違反すれば処分自体が無効となります。
懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁として行われる不利益処分です。軽いものから順に次の7種類があります。
| 種類 | 内容 | 経済的不利益 |
|---|---|---|
| 戒告(かいこく) | 口頭での注意・将来を戒める | なし(ただし賞与査定に影響) |
| 譴責(けんせき) | 始末書の提出を伴う戒告 | なし(ただし賞与査定に影響) |
| 減給 | 賃金の一部を減額 | 労基法第91条の上限あり |
| 出勤停止 | 一定期間の就労禁止・無給 | 停止期間中の賃金全額 |
| 降格 | 役職・職位の引下げ | 役職手当・基本給の減少 |
| 諭旨解雇 | 退職勧奨に応じた形での退職 | 退職金は原則支給 |
| 懲戒解雇 | 制裁としての解雇 | 退職金の不支給・減額 |
💡 実務のポイント
就業規則の懲戒規程を見ると、多くの会社では「戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇」の全7種類を設けています。すべて設けておかないと、軽い事案に対して重い処分しか選択肢がなくなり、処分の相当性で無効となるリスクが生じます。
戒告は口頭または書面で将来を戒めるだけの処分、譴責は始末書の提出を伴う処分です。経済的不利益がないため、懲戒処分のなかで最も軽いとされますが、賞与査定・昇進判断での不利益評価につながるため、実質的な影響はゼロではありません。
始末書の提出を労働者が拒否した場合、強制的に提出させることはできません。裁判例(東京地裁平成11年2月15日など)では、始末書の提出は労働者の内心の自由に関わるため、不提出を理由にさらに重い処分を科すことは違法とされる傾向があります。
減給は、労働者の賃金から一定額を差し引く懲戒処分です。労働者保護の観点から、労働基準法第91条により次の2つの上限が定められています。
| 制限 | 内容 |
|---|---|
| 1回あたり | 平均賃金の1日分の半額以内 |
| 1賃金支払期の総額 | 一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内 |
月給30万円・平均賃金1日あたり10,000円の労働者の場合、減給処分の上限は次のとおりです。
仮に複数の問題行為で6回の減給処分が必要な場合、1回あたり5,000円×6回=30,000円まで減給可能です。それを超える減給は、翌月以降に分割して実施する必要があります。
⚠️ 実務でよくある誤解
「減給は月給の10%まで」という認識は一部正しく、一部誤りです。正確には「1回の減給は平均賃金1日分の半額以内」という別の上限も同時に守る必要があります。月給30万円で「5万円の減給」は月給10%以下ですが、1回の減給上限(5,000円)を超えるため違法です。
出勤停止は、一定期間の就労を禁じる処分で、その期間中の賃金は支給されません。労働基準法第91条の減給制限は適用されないため、実質的には減給よりも大きな経済的影響を労働者に与えます。
期間に法律上の上限はありませんが、一般的な就業規則では7日〜30日程度に設定されます。あまりに長期になると「減給処分以上の賃金剥奪」として懲戒権濫用と判断されるリスクがあります。
| 区分 | 出勤停止 | 自宅謹慎 |
|---|---|---|
| 性質 | 懲戒処分 | 業務命令(調査中の一時措置) |
| 賃金 | 無給 | 原則有給(労基法第26条により60%以上) |
| 事由 | 非違行為への制裁 | 調査期間中の出勤停止 |
⚠️ 注意
不正調査中に労働者を「自宅待機」させるケースで、無給にしてしまうトラブルが多発しています。調査中の自宅謹慎は懲戒処分ではないため、労働基準法第26条により平均賃金の60%以上の休業手当支給義務があります。懲戒処分としての出勤停止を下すには、事実認定が完了してから行う必要があります。
降格には「懲戒処分としての降格」と「人事上の措置としての降格」の2類型があります。両者の違いは次のとおりです。
| 区分 | 懲戒処分としての降格 | 人事上の措置としての降格 |
|---|---|---|
| 根拠 | 就業規則の懲戒規程 | 使用者の人事権 |
| 理由 | 非違行為 | 能力・成績不足・組織再編 |
| 審査 | 懲戒権濫用(労契法第15条) | 人事権濫用 |
諭旨解雇は、会社が労働者に対して退職を勧告し、労働者がこれに応じる形で退職する処分です。形式上は合意退職ですが、実質的には懲戒処分の一つです。
懲戒解雇との大きな違いは、退職金の支給です。諭旨解雇では退職金は原則支給されますが、懲戒解雇では就業規則の規定により全部または一部不支給にできます。労働者側にとっては「懲戒解雇を回避するための救済措置」という性格もあります。
懲戒解雇は、最も重い懲戒処分で、即時解雇される点が特徴です。経済的影響に加えて、労働者の再就職にも重大な不利益を及ぼします。
懲戒解雇であっても、労働基準法第20条により30日前の予告または30日分の予告手当の支払いが必要です。ただし、労働者の責に帰すべき事由がある場合、労働基準監督署長の除外認定を受ければ予告・予告手当なしで即時解雇が可能です。
懲戒解雇時の退職金の全部または一部不支給には、次の要件が必要です。
裁判例では、退職金には「賃金の後払い」の性格があるため、全額不支給が認められるのは長年の功労を抹消するほど極めて重大な非違行為(横領・重大な刑事事件・秘密漏洩など)に限定される傾向があります。
労働契約法第15条は、懲戒処分が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、懲戒権の濫用として無効となることを定めています。
同一の非違行為に対して複数の懲戒処分を重ねることは、二重処罰として懲戒権濫用となります。例えば、1つの遅刻事案に対して「減給+出勤停止」の同時処分は違法です。ただし、「減給」と「降格」が独立した別基準で判断される場合など、例外的に併科が認められることもあります。
非違行為の重大性に対して処分が重すぎると、相当性を欠くとして無効になります。判例の傾向として、以下のケースは無効となりやすい典型例です。
懲戒処分を適法かつ有効に実施するための実務手順を、ステップごとに解説します。
非違行為の発覚後、まず客観的事実を調査します。関係者からのヒアリング・メール・監視カメラ・勤怠記録などの証拠を収集し、事実関係を時系列で整理します。
懲戒処分前に、対象労働者に弁明の機会を与えます。弁明書の提出・面談での聞き取りのいずれか、または両方を行います。弁明機会を与えずに処分を下すと、手続的相当性を欠くとして懲戒権濫用となるリスクがあります。
就業規則の懲戒規程に、対象行為が懲戒事由として規定されているか確認します。規定がない場合、懲戒処分は下せません(フジ興産事件)。
行為の性質・重大性・過去の同種事案との比較・本人の反省の度合いなどを総合考慮して、処分の種類を決定します。「減給1ヶ月5%」「出勤停止7日」など、具体的内容を明確化します。
就業規則で懲戒委員会の設置が定められている場合、委員会による審議を経て処分を決定します。就業規則に規定がなくても、重大な処分(懲戒解雇・諭旨解雇など)では懲戒委員会を経ることが実務上の安全策です。
処分決定後、対象労働者に書面で通知します。通知書には以下を記載します。
処分を実行し、記録を保存します。後日の紛争に備えて、調査記録・弁明書・通知書・関係者の供述書などを保存します。保存期間は時効期間(賃金請求権は3年)を踏まえ、最低5年間を推奨します。
懲戒処分の実施後は、記録と再発防止の観点も重要です。
懲戒処分は人事記録に残し、将来の昇進・配置判断の参考とします。ただし、処分自体が終了している以上、過去の処分を理由に新たな不利益処分を下すことは二重処罰となり違法です。
類似事案の発生を防ぐため、処分の概要(個人を特定せずに)を全社に周知することも検討します。ただし、個人のプライバシー保護との兼ね合いで、社内報での公表には慎重な判断が必要です。
処分対象となった非違行為が組織全体の問題(ハラスメント・コンプライアンス違反)である場合、全社研修を実施して認識共有を図ります。
📋 この記事のポイント
懲戒処分は、就業規則の根拠・非違行為の客観的事実・処分の相当性・適正な手続きの4要件を満たさないと無効となります。特に手続的な不備(弁明機会の欠如・記録不足)は、どれだけ非違行為が重大でも処分を無効化する決定的要因になります。
減給処分の労基法第91条違反、出勤停止期間の過長、段階を踏まない重処分、同一事案への二重処罰、私生活上の軽微な非行への処分などは、実務で頻発する違法パターンです。処分の適否判断に迷った場合は、必ず専門家に相談し、将来の訴訟リスクを事前に見積もることが重要です。
懲戒処分の前提となる就業規則の整備・改定については「就業規則の作成義務と記載事項」で詳しく解説しています。懲戒規程の整備は、適法な懲戒処分を下すための必須の土台です。
懲戒処分の判断・手続き・就業規則の整備でお悩みの場合は、社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士がワンストップで対応する鮎澤パートナーズまでご相談ください。訴訟リスクを最小化する処分設計と、将来トラブルに備えた就業規則整備を包括的にサポートします。