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売上・仕入の計上基準と仕訳|発生主義・実現主義の使い分け
「売上はいつの時点で計上すればいいのか」「仕入の仕訳タイミングが曖昧」とお悩みの中小企業経営者・経理担当者に向けて、売上・仕入の計上基準を仕訳例付きで解説します。この記事を読めば、自社に最適な計上基準を選び、税務調査で指摘されない経理処理ができるようになります。


売上・仕入の計上基準と仕訳|発生主義・実現主義の使い分け
「売上はいつの時点で計上すればいいのか」「仕入の仕訳タイミングが曖昧」とお悩みの中小企業経営者・経理担当者に向けて、売上・仕入の計上基準を仕訳例付きで解説します。この記事を読めば、自社に最適な計上基準を選び、税務調査で指摘されない経理処理ができるようになります。
🏆 結論:売上は「実現主義」、費用は「発生主義」が大原則
企業会計原則では、売上(収益)は実現主義、費用(仕入を含む)は発生主義で計上するのが原則です。実現主義の中でも、どの時点を「実現」とするかは業種によって異なり、出荷基準・引渡基準・検収基準などから選択します。一度選んだ基準は「継続性の原則」により、正当な理由なく変更できません。
売上をいつ帳簿に記録するかを決めるルールが「計上基準」です。まず、会計における3つの認識基準の違いを整理しましょう。
| 認識基準 | 計上タイミング | 適用対象 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 発生主義 | 取引が発生した時点(注文を受けた時点など) | 費用(仕入・経費) | 企業会計原則 損益計算書原則 |
| 実現主義 | 商品の引渡し+対価の確定時点 | 収益(売上) | 企業会計原則 損益計算書原則 |
| 現金主義 | 現金の入出金があった時点 | 原則不可(個人の青色10万円控除のみ例外) | 所得税法第67条 |
ポイントは「売上は実現主義、費用は発生主義」というルールです。売上に発生主義を使うと、注文を受けただけで売上を計上することになり、キャンセルや納品遅延のリスクを反映できません。そのため、企業会計原則では「未実現収益は当期の損益計算に計上してはならない」と定めています。
発生主義と現金主義の基本的なしくみについては、「発生主義と現金主義の違い|経過勘定の処理と決算整理の基礎」で詳しく解説しています。
実現主義で売上を計上するには、以下の2つの要件を両方満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| ① 財貨の移転またはサービスの提供 | 商品を引き渡す、またはサービスの提供が完了する | 商品を出荷した、工事が完成した |
| ② 対価の成立 | 現金・売掛金・受取手形などの対価を受け取る権利が確定する | 請求書を発行した、検収が完了した |
実現主義の中でも、「どの時点を実現とみなすか」で4つの基準に分かれます。
| 計上基準 | 計上タイミング | メリット | デメリット | 向いている業種 |
|---|---|---|---|---|
| 出荷基準 | 倉庫から出荷した日 | 自社側で日付を管理しやすい | 返品リスクを反映しにくい | 小売・卸売・EC |
| 引渡基準(納品基準) | 相手に商品が届いた日 | 実態に近い計上ができる | 納品日の確認に手間がかかる | 製造業・卸売業 |
| 検収基準 | 相手が検収を完了した日 | 返品・不良品リスクが最も低い | 計上が遅くなる | IT・ソフトウェア・建設 |
| 入金基準(現金主義) | 代金の入金があった日 | 計上が確実 | 原則使用不可(例外のみ) | 割賦販売(特殊ケース) |
以下の取引を例に、各基準での仕訳タイミングの違いを見てみましょう。
📐 シミュレーション前提条件
| 計上基準 | 計上日 | 当期の売上 | 仕訳(計上時) |
|---|---|---|---|
| 出荷基準 | 3月25日 | 100万円 | 売掛金 1,100,000 / 売上 1,000,000 + 仮受消費税 100,000 |
| 引渡基準 | 3月28日 | 100万円 | 同上 |
| 検収基準 | 4月5日 | 0円 | 翌期に計上(当期は売上なし) |
| 入金基準 | 4月30日 | 0円 | 翌期に計上(当期は売上なし) |
※出荷基準と引渡基準では当期の売上が100万円となり、検収基準と入金基準では翌期の売上になります。決算期をまたぐ取引では、基準の選択が損益に直接影響します。
⚠️ 注意
一度選んだ計上基準は「継続性の原則」により、正当な理由なく変更できません。利益操作を目的として基準を変更すると、税務調査で否認されるリスクがあります。法人税法第22条の2第1項においても、益金の額は「引渡しの日の属する事業年度」に計上すると定められています。
業種によって「最適な計上基準」は異なります。以下の判定表で、自社に合った基準を確認してください。
| 業種 | 推奨基準 | 理由 | 税務調査で注意すべき点 |
|---|---|---|---|
| 小売・EC | 出荷基準 | 出荷日を自社で管理でき、大量取引の処理効率が高い | 期末日前後の出荷データと売上計上のタイミングが一致しているか |
| 製造業・卸売業 | 引渡基準 | 納品書で引渡日が明確になる | 運送中の在庫(積送品)が適切に処理されているか |
| 建設業 | 検収基準(工事完成基準) | 工事完成まで返品リスクが高く、検収で確定する | 工事進行基準との使い分け(一定の要件を満たす場合) |
| IT・ソフトウェア | 検収基準 | 納品後のバグ修正・仕様変更リスクを反映できる | 検収書の日付と売上計上日が一致しているか |
| 不動産業 | 引渡基準(登記・引鍵日) | 所有権移転が明確に判定できる | 契約日ではなく引渡日で計上しているか |
💡 実務のポイント
税務調査で最も指摘されやすいのは「期末の売上の計上漏れ」です。3月31日に出荷したのに4月に売上を計上しているケースは、出荷基準を採用している限り否認されます。決算月の出荷リストと売上計上リストを照合する作業は、決算時の必須チェックです。
仕入は「費用」に分類されるため、発生主義で計上するのが原則です。具体的には「商品を受け取った(または検品が完了した)時点」で仕入を計上します。
| 計上タイミング | 計上日 | 仕訳 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 発注時 | 仕入先に注文した日 | 原則として計上しない(未着品は別勘定) | — |
| 入荷時(受取時) | 商品が自社に届いた日 | 仕入 500,000 / 買掛金 500,000 | 小売業・卸売業(数量検品のみで済む商品) |
| 検品完了時 | 品質・数量の検品が完了した日 | 仕入 500,000 / 買掛金 500,000 | 製造業(原材料の品質検査が必要な場合) |
仕入の基本的な仕訳は以下のとおりです。
| 場面 | 借方 | 貸方 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 掛仕入(税込110万円) | 仕入 1,000,000 / 仮払消費税 100,000 | 買掛金 1,100,000 | 税抜経理方式の場合 |
| 現金仕入(税込55,000円) | 仕入 50,000 / 仮払消費税 5,000 | 現金 55,000 | — |
| 仕入値引き(5万円) | 買掛金 55,000 | 仕入 50,000 / 仮払消費税 5,000 | 仕入を減額する |
| 仕入返品(3万円分) | 買掛金 33,000 | 仕入 30,000 / 仮払消費税 3,000 | 返品した分の仕入を取り消す |
| 買掛金の支払い | 買掛金 1,100,000 | 普通預金 1,100,000 | 支払時は仕入勘定を使わない |
📊 公認会計士の視点
仕入の計上基準は売上ほど厳密に議論されませんが、期末に注意が必要です。「3月31日に注文したが、届いたのは4月3日」という場合、入荷基準なら当期の仕入に含めません。しかし実務では、仕入先の請求書の日付で機械的に計上してしまうケースが多く、棚卸との不一致が税務調査で指摘されることがあります。
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鮎澤パートナーズに相談する売上は実現主義、費用は発生主義で計上すると、計上時期にズレが生じます。たとえば、1月に仕入れた商品が6月に売れた場合、発生主義では仕入を1月に計上しますが、売上は6月まで計上されません。
これでは1月の損益計算書が「費用だけが膨らんだ赤字」に、6月が「売上だけの黒字」になり、経営実態を正しく反映できません。そこで「費用収益対応の原則」が登場します。
費用収益対応の原則は、売上に直接対応する費用(売上原価)を、売上が計上された期間に対応させるルールです。具体的には、期末に売れ残った商品を「棚卸資産」として貸借対照表に計上し、翌期以降に売上が実現した時点で売上原価に振り替えます。
| 項目 | 対応なし(間違い) | 対応あり(正しい) |
|---|---|---|
| 1月の費用 | 仕入 60万円 | 仕入 60万円 → 期末棚卸で資産に振替 |
| 6月の売上 | 売上 100万円(費用0円) | 売上 100万円 / 売上原価 60万円 |
| 6月の利益 | 100万円(過大計上) | 40万円(正しい) |
簿記や帳簿の基本については、「簿記の基礎知識|複式簿記と単式簿記の違い・仕訳の書き方完全ガイド」で解説しています。
2021年4月以降、上場企業等では「収益認識に関する会計基準」(新収益認識基準)が強制適用されています。この基準は、従来の実現主義に代わり、「履行義務の充足」に基づいて収益を認識するしくみです。
| 会社の区分 | 適用基準 | 備考 |
|---|---|---|
| 上場企業 | 収益認識基準(強制適用) | 2021年4月以降開始事業年度から |
| 会計監査人設置会社 | 収益認識基準(強制適用) | 大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上) |
| 中小企業(監査不要) | 従来の実現主義でも可 | 法人税法の基準に従えば問題なし |
| 個人事業主 | 従来の実現主義でも可 | 所得税法の取扱いに従う |
💡 実務のポイント
中小企業の大半は収益認識基準の適用義務がありません。ただし、法人税法は2018年度改正で「引渡しの日」を原則とする規定(法人税法第22条の2)を新設しました。中小企業でも「出荷基準」を採用する場合は、出荷から引渡しまでの期間が「通常の期間」内であることが条件です。
| 指摘パターン | 具体例 | 防止策 |
|---|---|---|
| 期末の売上計上漏れ | 3月に出荷したのに4月に売上計上 | 出荷リストと売上リストの照合を決算時に実施 |
| 計上基準の不統一 | 取引先によって出荷基準と検収基準を使い分けている | 全取引に統一基準を適用し、社内規程に明記 |
| 前受金の売上振替漏れ | 前受金を受け取ったが、役務提供後も売上に振り替えていない | 前受金台帳を作成し、月次で振替チェック |
| 売上の期ずらし | 利益調整のために意図的に翌期に計上 | 重加算税(35%)の対象になる可能性あり |
| 仕入の計上時期のズレ | 4月入荷の商品を3月の仕入に計上 | 仕入計上基準と棚卸のカットオフテストを実施 |
決算月に以下のチェックを実施することで、税務調査での指摘リスクを大幅に減らせます。
| No. | チェック項目 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 1 | 決算月の出荷リスト(または検収リスト)と売上計上リストが一致しているか | 出荷伝票の日付と仕訳の日付を照合 |
| 2 | 翌月初の入金のうち、当期に計上すべき売上がないか | 4月の入金リストから3月出荷分を抽出 |
| 3 | 前受金のうち、当期中に役務提供が完了したものはないか | 前受金残高の明細を確認 |
| 4 | 仕入の計上タイミングと棚卸のカットオフが整合しているか | 期末在庫に含めた商品の仕入伝票日付を確認 |
| 5 | 売上計上基準は期中を通じて一貫しているか | 社内規程・経理マニュアルを確認 |
商品の販売ではなくサービスを提供するビジネスでは、「役務提供の完了時点」で売上を計上します。ただし、サービスの内容によって「完了」の判断が異なります。
| ビジネスモデル | 計上基準 | 計上タイミング | 仕訳例 |
|---|---|---|---|
| コンサルティング(単発) | 役務完了基準 | レポート納品時 | 売掛金 / 売上 |
| 月額SaaS | 期間按分 | 毎月の利用期間に応じて | 前受金 / 売上(月次振替) |
| 年間保守契約 | 期間按分 | 12ヶ月に均等配分 | 前受金 / 売上(毎月1/12ずつ) |
| 建設工事(長期) | 進行基準(一定要件の場合) | 進捗度に応じて | 売掛金 / 売上(進捗割合分) |
年間契約で代金を一括で受け取った場合、全額を受け取った月の売上にしてはいけません。前受金として処理し、サービスの提供に応じて毎月売上に振り替えます。現場では「入金=売上」と考えてしまい、1年分の売上を一括計上してしまうケースがありますが、これは税務調査で否認される典型的なパターンです。
個人事業主でも売上は実現主義が原則です。ただし、青色申告の10万円控除を選択した場合のみ、現金主義による記帳が認められています(所得税法第67条)。
| 申告区分 | 売上の計上基準 | 青色申告特別控除 |
|---|---|---|
| 青色申告(65万円控除) | 実現主義(発生ベース) | 65万円 |
| 青色申告(10万円控除・現金主義) | 現金主義 | 10万円 |
| 白色申告 | 実現主義(発生ベース) | なし |
65万円控除を受けるには、複式簿記で記帳し、発生ベースで売上・仕入を管理する必要があります。年末に「12月に納品したけど入金は1月」という取引があれば、12月の売上として計上しなければなりません。
実現主義で売上を計上すると、入金までのタイムラグ分が「売掛金」として貸借対照表に残ります。この売掛金の残高が正確でなければ、売上の計上も正確ではないということです。
実務では、以下の3つを月次で実施することで、売掛金の精度を保ちます。
第一に、得意先ごとの売掛金残高を毎月確認し、前月からの増減が合理的かチェックすること。第二に、入金があった場合は即座に売掛金と消し込みを行うこと。第三に、3ヶ月以上未回収の売掛金がある場合は、回収可能性を検討して貸倒引当金の計上を検討することです。
売掛金・買掛金の管理方法と貸倒引当金の処理については、「売掛金・買掛金の管理と仕訳|貸倒引当金・貸倒損失の処理」で詳しく解説しています。
📋 この記事のポイント
売上・仕入の計上基準は「いつ仕訳するか」というタイミングの問題ですが、決算書の利益や税額に直接影響するため、経理の中でも最も重要なルールのひとつです。自社の基準を社内規程に明記し、期末のチェックリストで計上漏れを防ぐ体制を整えましょう。
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