【会計士×税理士が解説】売掛金・買掛金の管理と仕訳|貸倒引当金・貸倒損失の処理

【会計士×税理士が解説】売掛金・買掛金の管理と仕訳|貸倒引当金・貸倒損失の処理
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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売掛金・買掛金の管理と仕訳|貸倒引当金・貸倒損失の処理

「売掛金が回収できなくなったらどう処理するのか」「貸倒引当金はいくら計上すべきか」とお悩みの中小企業経営者・経理担当者に向けて、売掛金・買掛金の基本仕訳から貸倒引当金・貸倒損失の計算方法まで解説します。この記事を読めば、回収リスクに備えた経理処理と資金繰りの安定化ができるようになります。

🏆 結論:売掛金管理のポイントは「エイジング管理」と「貸倒引当金」の2本柱

売掛金は「入金されるまでが管理」です。滞留日数別に4段階で管理する「エイジング管理」を導入すれば、回収遅延の早期発見が可能になります。万一の貸倒れに備えるには、決算時に貸倒引当金を計上しておくことが重要です。中小法人は法定繰入率による一括評価が認められており、業種別の繰入率で計算します。

売掛金とは?買掛金との違い

売掛金・買掛金の定義と関係

売掛金とは、商品を販売またはサービスを提供した後、まだ受け取っていない代金のことです。貸借対照表では「流動資産」に分類されます。一方、買掛金は商品を仕入れた後にまだ支払っていない代金で、「流動負債」に分類されます。

項目 売掛金 買掛金
意味代金を受け取る権利(債権)代金を支払う義務(債務)
B/S上の分類流動資産流動負債
発生タイミング商品の引渡し・サービス提供時商品の受取・検収完了時
消滅タイミング入金時支払時
リスク回収不能(貸倒れ)支払遅延による信用低下

間違えやすい勘定科目との違い

勘定科目 内容 売掛金との違い
未収入金本業以外の取引で発生した未回収金固定資産の売却代金など営業外の取引
前受金商品引渡し前に受け取った手付金売掛金は引渡し後の債権、前受金は引渡し前の負債
未払金本業以外の未払い買掛金は仕入に関する未払い、未払金はそれ以外

売上・仕入の計上基準と仕訳については、「売上・仕入の計上基準と仕訳|発生主義・実現主義の使い分け」で詳しく解説しています。

売掛金の仕訳パターン

基本的な仕訳5パターン

場面 借方 貸方
掛売上(税込110万円)売掛金 1,100,000売上 1,000,000 / 仮受消費税 100,000
売掛金の入金(全額回収)普通預金 1,100,000売掛金 1,100,000
振込手数料差引での入金普通預金 1,099,560 / 支払手数料 440売掛金 1,100,000
売上値引き(5万円)売上 50,000売掛金 55,000 / 仮受消費税 △5,000
売掛金と買掛金の相殺買掛金 550,000売掛金 550,000

💡 実務のポイント

振込手数料を得意先が負担する場合(いわゆる「先方負担」)、入金額が請求額より少なくなります。差額を「支払手数料」で計上するのが一般的です。毎月大量の取引がある場合は、月次で差額を集計して一括処理する方法も実務では使われています。

買掛金の仕訳パターン

基本的な仕訳4パターン

場面 借方 貸方
掛仕入(税込55万円)仕入 500,000 / 仮払消費税 50,000買掛金 550,000
買掛金の支払い買掛金 550,000普通預金 550,000
仕入返品(3万円分)買掛金 33,000仕入 30,000 / 仮払消費税 3,000
仕入値引き(2万円分)買掛金 22,000仕入 20,000 / 仮払消費税 2,000

回収サイト別の資金繰りシミュレーション

回収サイトの長さが資金繰りに与える影響

「売上は上がっているのにお金が足りない」という相談をよく受けますが、その原因の多くは売掛金の回収サイト(入金までの期間)と買掛金の支払サイトのズレにあります。

📐 シミュレーション前提条件

  • 年商3,000万円(月商250万円)
  • 買掛金の支払サイト:30日(翌月末払い)
  • 売掛金の回収サイトを3パターンで比較
回収サイト 月末の売掛金残高 必要運転資金 資金繰りリスク
30日(翌月末回収)250万円0円★☆☆(バランス良好)
60日(翌々月末回収)500万円250万円★★☆(要注意)
90日(3ヶ月後回収)750万円500万円★★★(資金繰り圧迫)

※概算値です。実際の運転資金は仕入率・在庫回転率・固定費によって異なります。

回収サイトが30日延びるごとに、約250万円の運転資金が追加で必要になります。資金繰りが厳しい場合は、回収サイトの短縮交渉やファクタリングの活用を検討すべきです。

売掛金のエイジング管理|滞留日数別の対応アクション

エイジング管理とは

エイジング管理とは、売掛金を滞留日数ごとに分類して管理する手法です。「いつまでに回収すべき売掛金がいくらあるか」を一目で把握できるため、回収遅延の早期発見に効果的です。

滞留日数 ステータス 対応アクション 経理処理
0〜30日正常通常管理(入金予定日の確認)通常の売掛金管理
31〜60日要確認得意先に支払い状況を確認通常の売掛金管理
61〜90日要注意督促状の送付・電話での催促貸倒引当金の個別評価を検討
91日超危険内容証明郵便・法的手段の検討貸倒損失の計上を検討

📊 公認会計士の視点

エイジング管理は大企業だけのものと思われがちですが、取引先が10社を超えたら導入すべきです。会計ソフトの「売掛金残高一覧」に補助科目(得意先名)を設定するだけで、事実上のエイジング管理ができます。freeeやマネーフォワードでは取引先ごとの未回収一覧をワンクリックで出力できます。

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貸倒引当金の計上方法と仕訳

貸倒引当金とは

貸倒引当金とは、将来の貸倒れ(売掛金などが回収できなくなること)に備えて、あらかじめ費用として計上しておく勘定科目です。決算時に売掛金・受取手形・貸付金などの金銭債権に対して設定します。

一括評価と個別評価の違い

項目 一括評価 個別評価
対象全ての金銭債権(個別評価対象を除く)回収リスクの高い特定の債権
計算方法債権残高 × 繰入率債権額 × 回収不能見込割合
使える法人資本金1億円以下の中小法人等全ての法人
用途通常の貸倒リスクに備える倒産・長期滞留など具体的リスクに備える

一括評価の法定繰入率(業種別)

資本金1億円以下の中小法人は、実績繰入率と法定繰入率のうち高い方を選択できます。法定繰入率は業種別に定められています。

業種 法定繰入率
卸売業・小売業(飲食店業・料理店業含む)10/1000
製造業(電気業・ガス業・熱供給業等含む)8/1000
金融・保険業3/1000
割賦販売小売業等13/1000
その他(サービス業・建設業・不動産業等)6/1000

参考: 国税庁「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」

貸倒引当金の仕訳(差額補充法)

実務で最も使われるのは差額補充法です。前期の貸倒引当金残高と当期の計算額の差額だけを繰り入れ(または戻し入れ)ます。

場面 借方 貸方
繰入れ(引当金を増やす)貸倒引当金繰入 ○○貸倒引当金 ○○
戻入れ(引当金を減らす)貸倒引当金 ○○貸倒引当金戻入 ○○

🧮 シミュレーション

期末の売掛金残高が2,000万円、前期末の貸倒引当金残高が15万円、業種がサービス業(繰入率6/1000)の場合:当期の繰入限度額 = 2,000万円 × 6/1000 = 12万円。前期残高15万円 > 当期限度額12万円なので、差額3万円を「戻入れ」します。仕訳は「貸倒引当金 30,000 / 貸倒引当金戻入 30,000」です。

貸倒損失の要件と仕訳

貸倒損失の3つの要件(法人税基本通達9-6)

売掛金が回収できなくなった場合に「貸倒損失」として費用計上できますが、法人税法上は厳格な要件が定められています。「回収できそうにないから損失にしよう」という自己判断だけでは認められません。

区分 要件 具体例 計上する金額
法律上の貸倒れ(9-6-1)法的手続きにより債権が消滅会社更生法の認可決定、破産手続きによる切捨て、特別清算の認可切り捨てられた金額
事実上の貸倒れ(9-6-2)債務者の資力喪失により全額回収不能が明白債務者が行方不明で資産もない、債務超過が長期継続債権の全額
形式上の貸倒れ(9-6-3)取引停止後1年以上経過+弁済なし継続的に取引していた得意先との取引を停止してから1年以上弁済がない備忘価額(1円)を残して全額

参考: 国税庁「貸倒損失として処理できる場合」

貸倒損失の仕訳パターン

場面 借方 貸方
引当金なし(全額を損失計上)貸倒損失 1,100,000売掛金 1,100,000
引当金あり(引当金で全額カバー)貸倒引当金 1,100,000売掛金 1,100,000
引当金あり(一部不足)貸倒引当金 500,000 / 貸倒損失 600,000売掛金 1,100,000
形式上の貸倒れ(備忘価額1円残す)貸倒損失 1,099,999売掛金 1,099,999

⚠️ 注意

「事実上の貸倒れ」で全額回収不能とするには、担保がないことが前提です。担保物がある場合は、担保処分後の残額のみが貸倒損失の対象になります。また、保証人がいる場合も同様に、保証人からの回収を試みた後でなければ貸倒損失として認められません。税務調査で否認されやすいポイントです。

売掛金と買掛金の相殺処理

相殺処理の条件と仕訳

同じ取引先に対して売掛金と買掛金の両方がある場合、双方の合意のもとで相殺処理が可能です。ただし、以下の条件を満たす必要があります。

第一に、同一の取引先であること。第二に、双方の債権・債務が弁済期を迎えていること。第三に、相殺禁止の特約がないこと。相殺を行う場合は、相殺通知書を取り交わすか、双方の請求書に相殺の旨を記載しておくことが実務上の慣行です。

消費税の処理については、相殺した金額に含まれる消費税はそれぞれの元取引に紐づくため、相殺仕訳自体には消費税の処理は不要です。元の売上・仕入の仕訳ですでに消費税が計上されているためです。

売掛金の消滅時効と対策

時効は原則5年

民法改正(2020年4月施行)により、売掛金の消滅時効は「権利を行使することができることを知った時から5年」に統一されました。時効期間が経過し、債務者が時効を援用(主張)すると、法的に債権が消滅します。

時効を中断(更新)するには、債務者に支払い義務を認めさせる書面(債務承認書)を取り交わす、一部でも入金を受ける、内容証明郵便で催告する、訴訟を提起するなどの方法があります。長期未回収の売掛金がある場合は、時効の管理も重要です。

個人事業主の貸倒引当金

青色申告者のみ一括評価が可能

個人事業主で貸倒引当金を計上できるのは、青色申告者に限られます。白色申告者は個別評価のみ認められています。

申告区分 一括評価 個別評価 繰入率
青色申告年末の売掛金等 × 55/1000
白色申告×

個人事業主の青色申告では、業種に関係なく一律55/1000(5.5%)の繰入率が適用されます。法人の法定繰入率(6〜13/1000)と比べて高い率が認められているのは、個人事業主の方が貸倒リスクが高いとみなされているためです。

簿記の基礎知識については、「簿記の基礎知識|複式簿記と単式簿記の違い・仕訳の書き方完全ガイド」で解説しています。

よくある質問(FAQ)

売掛金の回収が遅れている場合、いつ貸倒引当金を計上すべきですか?
一括評価の貸倒引当金は、回収遅延の有無に関係なく、全ての金銭債権に対して決算時に計上します。特定の得意先の回収リスクが高い場合は、個別評価で追加の引当金を計上します。「遅れてから考える」のではなく、決算のたびに全体と個別の両方を見直すのが正しい運用です。
貸倒損失を計上するのに税務署への届出は必要ですか?
届出は不要ですが、貸倒れの事実を証明する資料(破産決定通知書、督促状の控え、債務承認書のコピーなど)を保管しておく必要があります。税務調査の際にこれらの資料がないと、貸倒損失が否認されるリスクがあります。
売掛金と買掛金の相殺処理で消費税はどうなりますか?
相殺仕訳自体には消費税の処理は不要です。売上時と仕入時にそれぞれ消費税を計上済みのため、相殺は金銭債権と金銭債務の消し込みに過ぎません。ただし、インボイス制度のもとでは、元の取引に適格請求書が発行されているかどうかが仕入税額控除の可否に影響します。
取引先が倒産した場合、すぐに貸倒損失を計上できますか?
法律上の貸倒れ(破産手続きによる切捨てなど)であれば、切り捨てが確定した時点で計上できます。ただし、倒産したからといって直ちに全額を損失計上できるわけではありません。配当(弁済)が見込まれる場合は、配当額を除いた部分のみが損失対象です。
回収サイトが長い得意先への対策はありますか?
回収サイトの短縮交渉が基本ですが、交渉が難しい場合はファクタリング(売掛債権の売却)の活用も選択肢です。ファクタリングは売掛金を即座に現金化できますが、手数料(2〜10%程度)がかかるため、資金繰り改善効果とコストのバランスを見て判断します。
貸倒引当金は必ず計上しなければいけませんか?
会計上は計上すべきですが、税法上は任意です。ただし、計上しないと万一の貸倒発生時に一度に全額が費用となり、損益が大きくブレます。中小企業でも、少なくとも一括評価の引当金は毎期計上しておくことをおすすめします。
売掛金の消滅時効は中断できますか?
はい。債務者に一部でも入金してもらう、債務承認書に署名してもらう、内容証明郵便で催告する、訴訟を提起するなどの方法で時効を中断(更新)できます。ただし、内容証明による催告は6ヶ月以内に訴訟などの法的手続きをしなければ時効中断の効力が失われます。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 売掛金は「代金を受け取る権利」(資産)、買掛金は「代金を支払う義務」(負債)
  • 回収サイトが30日延びるごとに月商分の運転資金が追加で必要になる
  • エイジング管理(滞留日数別管理)で、0〜30日/31〜60日/61〜90日/91日超の4段階で対応アクションを決めておく
  • 中小法人は法定繰入率による一括評価で貸倒引当金を計上できる(業種別6〜13/1000)
  • 貸倒損失の計上には、法律上・事実上・形式上の3つの要件のいずれかを満たす必要がある
  • 売掛金の消滅時効は民法改正により5年に統一。時効管理も売掛金管理の重要な要素

売掛金と買掛金の管理は、資金繰りの安定と決算書の正確性に直結する経理業務の要です。エイジング管理で回収遅延を早期に発見し、貸倒引当金で万一に備える体制を整えましょう。

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