【社労士×税理士が解説】退職金制度の設計と税務|中退共・確定拠出年金の比較

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
退職金制度の導入を検討している中小企業経営者に向けて、中退共・企業型DC・iDeCo+・退職一時金の4制度の比較と税務上の取扱いを社労士×税理士が完全解説します。2026年1月施行の退職所得控除「10年ルール」、役員退職金の損金算入、制度併用のメリット、従業員年齢層別の最適選択まで網羅。この記事を読めば、自社に合った退職金制度を税務面・労務面の両方から設計できます。
🏆 結論:中退共は手軽・企業型DCは柔軟・併用が最強
中小企業の退職金制度は「中退共」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」「iDeCo+」「退職一時金制度」の4パターンがあります。中退共は事務負担が軽く国助成もあるため導入しやすく、企業型DCは役員加入可能・掛金上限55,000円と柔軟で節税効果も大きい制度です。最も有効なのは両制度の併用で、中退共で安定的な基本退職金を積立てつつ、企業型DCで役員・幹部の手厚い退職金を設計する形です。2026年1月から退職所得控除に「10年ルール」が導入されたため、iDeCoとの受取タイミングに注意が必要です。
退職金制度が必要な理由|任意制度だが無視できない
日本の中小企業において、退職金制度は法律上の義務ではなく任意制度です。しかし、以下の3つの観点から、制度導入の検討は不可欠となっています。
退職金制度の3つの意義
| 観点 |
内容 |
| 人材採用 | 若手採用の決め手、地方採用の差別化要因 |
| 定着率向上 | 勤続年数による支給増加で長期在籍を促進 |
| 税務最適化 | 掛金の損金算入、従業員の退職所得控除活用 |
中小企業の退職金支給水準
東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」の最新調査によれば、中小企業における大卒定年退職者の退職金平均は約1,100万円、高卒は約900万円の水準です。勤続35〜40年の長期勤続者向けに、月給の30〜40か月分に相当する退職金を支給するのが標準的な設計となっています。
💡 実務のポイント
実務では、中小企業経営者から「退職金を導入したいが資金繰りが不安」という相談を頻繁に受けます。弊所が担当する建設業40名の顧問先では、内部留保型の退職一時金ではなく、中退共への月3万円×40名(年144万円)の拠出に切り替えたことで、キャッシュフロー負担を平準化しました。全額損金算入できる外部積立方式が中小企業には適しています。
退職金制度の4類型|中退共・企業型DC・iDeCo+・退職一時金
中小企業が選択できる退職金制度は大きく4つに分類されます。それぞれの特徴を理解することが最適選択の第一歩です。
4制度の基本比較表
| 項目 |
中退共 |
企業型DC |
iDeCo+ |
退職一時金 |
| 運営 | 勤労者退職金共済機構 | 運営管理機関 | 国民年金基金連合会 | 会社内部 |
| 掛金負担 | 会社全額 | 会社全額(選択制可) | 会社+従業員 | 会社(引当金) |
| 掛金上限 | 月30,000円 | 月55,000円 | 月23,000円 | 規程任意 |
| 役員加入 | 不可 | 可能 | 可能 | 可能(規程に明記) |
| 運用 | 共済機構(予定利率1%) | 加入者自身 | 加入者自身 | 会社(社内運用) |
| 給付 | 一時金 | 一時金or年金 | 一時金or年金 | 一時金 |
| 損金算入 | 拠出時全額損金 | 拠出時全額損金 | 会社拠出分全額損金 | 支給時損金 |
| 国助成 | 月5,000円×12か月 | なし | なし | なし |
| 事務負担 | 低 | 中〜高 | 中 | 高 |
| 導入コスト | 無料 | 10〜30万円 | 数万円 | 規程作成費 |
中退共(中小企業退職金共済)の詳細
中退共は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する国の退職金制度で、中小企業にとって最も導入しやすい選択肢です。
加入要件
| 業種 |
資本金等 |
従業員数 |
| 一般業種 | 3億円以下 | または300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | または100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | または100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | または50人以下 |
掛金設定
中退共の掛金は月額5,000円から30,000円まで16種類から選択可能です(月5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円、22,000円、24,000円、26,000円、28,000円、30,000円)。短時間労働者は2,000円、3,000円、4,000円の3種類からも選択可能です。
国の助成制度
| 助成の種類 |
内容 |
期間 |
| 新規加入助成 | 掛金月額の1/2(上限5,000円) | 加入4か月目から12か月間 |
| 月額変更助成 | 増額分の1/3 | 増額月から12か月間 |
中退共のメリット・デメリット
| メリット |
デメリット |
| 事務負担が軽い(銀行口座引落のみ) | 役員・事業主は加入不可 |
| 国の助成あり | 掛金が全額会社負担 |
| 退職金は機構から直接本人へ支払 | 加入11か月までの退職は掛金納付分以下 |
| 倒産・廃業でも受給権保全 | 予定利率1%と運用益が限定的 |
| 全額損金算入(中小企業向け特例) | 掛金減額に原則同意手続きが必要 |
中退共の詳細情報は独立行政法人 勤労者退職金共済機構「中退共」公式サイトで確認できます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の詳細
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員が運用する年金制度です。役員も加入可能で、掛金上限も高いため、柔軟な退職金設計が可能です。
企業型DCの掛金上限
| 併用制度 |
月額上限 |
| 単独で企業型DCのみ | 55,000円 |
| 他の企業年金(DB等)併用 | 27,500円 |
| マッチング拠出併用 | 会社55,000円+本人会社拠出額以下 |
企業型DCの運用選択
企業型DCでは、従業員自身が運用商品を選択します。一般的な運用商品は以下のとおりです。
| 運用商品タイプ |
想定利回り |
リスク |
| 定期預金・保険 | 0.1〜0.5% | 低(元本確保型) |
| 国内債券ファンド | 1〜2% | 低〜中 |
| バランス型ファンド | 3〜5% | 中 |
| 国内外株式ファンド | 5〜8% | 高 |
企業型DCのメリット・デメリット
| メリット |
デメリット |
| 役員・事業主も加入可能 | 運用リスクは従業員負担 |
| 掛金上限が月55,000円と高額 | 導入コスト(初期10〜30万円・月額維持費) |
| 掛金は社会保険料の対象外で節税効果大 | 投資教育の実施が継続的に必要 |
| iDeCoや他企業のDCへ資産移換可 | 60歳まで原則引き出せない |
| 選択制DCでは個人の所得税も節税 | 短期退職者は運用損失リスクあり |
企業型DCの詳細は厚生労働省「確定拠出年金制度」で解説されています。
💡 選択制DCの税務メリット
選択制DCは従業員が給与の一部を「DC掛金か給与か」を選択できる仕組みです。DC掛金を選択すると、その分は社会保険料と所得税・住民税の対象外となるため、年収500万円の従業員が月2万円を選択すれば年間約6万円以上の節税・社保軽減効果があります。現場の経験上、この仕組みを理解している経営者は多くありませんが、導入メリットは極めて大きい制度です。
iDeCo+(イデコプラス)の詳細
iDeCo+は、従業員が加入するiDeCoに会社が上乗せ拠出する制度で、中小企業向けの簡易な退職金制度として注目されています。
iDeCo+の概要
| 項目 |
内容 |
| 対象企業 | 従業員300人以下の企業 |
| 掛金上限 | 月23,000円(本人+会社合計) |
| 会社拠出割合 | 本人拠出額以下(1,000円単位) |
| 導入要件 | 労使合意、iDeCo加入者が対象 |
| 損金算入 | 会社拠出分は全額損金 |
| 事務負担 | 会社はiDeCo+専用口座からの納付のみ |
iDeCo+は企業型DCよりも導入ハードルが低く、会社の運用責任もないため、10〜30名規模の企業に適しています。
退職一時金制度(社内規程型)の詳細
退職一時金制度は、就業規則・退職金規程に基づき、会社が退職時に一時金を支払う制度です。
退職金規程の設計パターン
| 設計方式 |
計算例 |
特徴 |
| 基本給連動方式 | 退職時基本給×勤続年数×支給係数 | 昇給があると退職金も増加 |
| 定額制 | 勤続年数に応じた定額テーブル | 計算が明確・賃上げの影響受けず |
| ポイント制 | 職位・役割・勤続でポイント加算 | 貢献度に応じた設計が可能 |
| キャッシュバランス | 拠出額+再評価率で算定 | 運用リスク分担・設計柔軟 |
退職金支給係数の設計例(基本給連動方式)
| 勤続年数 |
自己都合退職 |
会社都合・定年 |
| 3年 | 0.5 | 1.0 |
| 5年 | 1.5 | 3.0 |
| 10年 | 5.0 | 7.0 |
| 20年 | 15.0 | 18.0 |
| 30年 | 27.0 | 32.0 |
| 定年(35〜40年) | — | 35.0〜40.0 |
退職一時金制度のデメリット
⚠️ 内部積立ゆえのリスク
退職一時金制度の最大の弱点は、資金準備が会社任せで、退職時にキャッシュフローが悪化していると支給が滞るリスクがあることです。また、税務上の退職給付引当金は法人税法上の一般的な損金算入が認められず、支給時のみ損金となります。中退共や企業型DCのように拠出時点で損金算入できる外部積立方式の方が、税務的にも資金繰り的にも有利です。
退職金の税務|退職所得控除と損金算入
退職金制度を検討する上で、税務面の理解が不可欠です。会社側の損金算入と、個人側の退職所得控除を整理します。
退職所得控除額の計算
退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように算定されます(所得税法第30条)。
| 勤続年数 |
控除額 |
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
課税退職所得の計算
課税退職所得=(退職金−退職所得控除額)÷2
この「÷2」が退職所得の大きな優遇措置で、通常の給与所得よりも実効税率が大幅に低くなります。ただし、勤続5年以下の役員等は「÷2」が適用されず、勤続5年以下の一般従業員も控除後300万円超部分は「÷2」なしとなります(2022年税制改正)。
退職金の損金算入ルール
| 制度 |
損金算入のタイミング |
| 中退共 | 掛金支払時に全額損金 |
| 企業型DC | 掛金拠出時に全額損金 |
| iDeCo+ | 会社拠出分は拠出時全額損金 |
| 退職一時金 | 退職金支給時に損金 |
| 退職給付引当金 | 会計上の引当は法人税法上損金算入不可 |
2026年1月施行|退職所得控除の「10年ルール」改正
退職金制度の設計・受取計画を立てる上で、2026年1月1日施行の税制改正は極めて重要です。
改正内容
| 項目 |
2025年まで(旧5年ルール) |
2026年以降(新10年ルール) |
| 調整期間 | 前年以前4年以内(5年) | 前年以前9年以内(10年) |
| 対象 | iDeCo・企業型DC一時金と退職金の重複受取 | 同左 |
| 控除適用 | 5年以上空ければ両方満額控除 | 10年以上空ける必要 |
具体的なインパクト
📢 DC・退職金の受取順序を見直すべき時期
従来の「60歳でiDeCo一時金、65歳で退職金」という受取パターンは、2026年以降は控除が調整されるため不利になります。新ルール下では「60歳でiDeCo一時金、70歳で退職金」と10年以上空けるか、「退職金を先に受取、iDeCoを後回し」のいずれかの戦略が必要です。iDeCoと退職金を両方持つ従業員には、受取タイミングの相談を積極的にすべき時期です。退職金の課税ルールは国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき」で詳細を確認できます。
企業側の対応策
| 対応 |
内容 |
| 受給方法の柔軟化 | 一時金・年金の選択肢を増やす規程改訂 |
| 従業員への情報提供 | iDeCo加入者への個別相談機会の提供 |
| 退職時期の調整可能性 | 定年後再雇用で受取時期を分散 |
| 退職金規程の見直し | 年金受取選択肢の追加 |
役員退職金の税務|損金算入の上限
役員退職金は、過大部分が損金不算入となるため、金額設定に注意が必要です。
役員退職金の適正額の計算
実務で広く用いられる計算式は「功績倍率法」です。
🧮 功績倍率法の計算式
役員退職金 = 最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率
例:最終月額報酬100万円×在任25年×功績倍率3.0=7,500万円
一般的な功績倍率:代表取締役3.0、専務・常務2.5、取締役2.0、監査役1.5。
役員退職金の適正額シミュレーション
| 役職 |
月額報酬 |
在任年数 |
功績倍率 |
適正退職金 |
| 代表取締役 | 100万円 | 25年 | 3.0 | 7,500万円 |
| 専務 | 80万円 | 15年 | 2.5 | 3,000万円 |
| 取締役 | 60万円 | 10年 | 2.0 | 1,200万円 |
| 監査役 | 40万円 | 5年 | 1.5 | 300万円 |
役員退職金の損金算入の条件
| 条件 |
内容 |
| 株主総会決議 | 金額の具体的決議または役員報酬規程の明示 |
| 適正金額 | 功績倍率法または同業類似法人基準 |
| 役員退任の実態 | 実質的に経営から退いていること |
| 支払時期 | 退任年度内が原則 |
法人税カテゴリの記事で損金算入の詳細を解説していますが、本記事では制度設計の観点から適正金額の目安をお伝えしています。顧問先で決算前に決定する役員退職金は、事前に顧問税理士と相談し、税務署による否認リスクを最小化することが必須です。
制度併用の戦略|中退共+企業型DCの最強組合せ
中小企業の退職金制度で最も効果的なのは、中退共と企業型DCの併用です。
併用のメリット
| 観点 |
中退共のみ |
企業型DCのみ |
併用 |
| 役員退職金 | 不可 | 可能 | DCでカバー |
| 全従業員の基本退職金 | 可能 | 可能(選択制) | 中退共で確実に確保 |
| 掛金上限 | 月30,000円 | 月55,000円 | 合計85,000円まで |
| 運用柔軟性 | 固定 | 自由 | 両方を選択可能 |
| 事務負担 | 低 | 中〜高 | 中 |
| 従業員の節税 | なし | 大(選択制) | 大 |
💡 併用設計の実例
現場でよく見かける併用パターンは、一般従業員に中退共(月1〜2万円)で基本退職金を確保し、管理職・役員層には企業型DC(月3〜5万円)で上乗せする設計です。弊所が担当したIT企業30名の顧問先では、この併用で総退職金水準を業界平均より40%高く設定しつつ、法人側の税負担も年200万円軽減できました。
従業員規模・業種別の最適選択ガイド
| 規模・特性 |
推奨制度 |
理由 |
| 1〜10名の零細企業 | 中退共orDC単独 | 事務負担を最小化 |
| 10〜30名で拡大期 | iDeCo++選択制DC | コスト抑えつつ自由度確保 |
| 30〜100名の中規模 | 中退共+企業型DC併用 | 一般と管理層で使い分け |
| 100名超の中堅 | DB+企業型DC | 手厚い保障と投資の分離 |
| 高離職率業種 | 中退共中心 | 短期離職でも受給権確保 |
| 高年収専門職が多い | 企業型DC中心 | 掛金上限の活用 |
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退職金制度導入の手順
| ステップ |
内容 |
所要期間 |
| 1. 基本方針の決定 | 想定退職金水準、対象従業員範囲 | 1〜2週間 |
| 2. 制度選択 | 4類型から最適な組合せを選定 | 2〜4週間 |
| 3. 財務シミュレーション | 10年・20年先の総コスト試算 | 2週間 |
| 4. 就業規則改訂 | 退職金規程の作成・届出 | 1〜2か月 |
| 5. 加入手続き | 中退共申込、DC導入契約 | 1〜2か月 |
| 6. 従業員説明 | 全体説明会、個別質問対応 | 2〜4週間 |
| 7. 運用開始 | 掛金拠出、継続モニタリング | 継続 |
退職金制度のよくある失敗
| 失敗 |
対策 |
| 1. 導入後に資金繰り悪化 | 外部積立を徹底、一時金制度は避ける |
| 2. 役員退職金の過大支給 | 功績倍率法で適正額の事前確認 |
| 3. 退職金規程が未整備 | 就業規則と連動した規程の作成 |
| 4. 短期退職者の掛捨て | 規程で最低勤続年数を明記 |
| 5. 従業員への説明不足 | 導入時・加入後の定期説明会 |
| 6. 10年ルール対応の遅れ | iDeCo加入者への早期情報提供 |
| 7. 賃金改定による支給増加 | ポイント制や定額制への移行 |
まとめ:退職金制度は税務+労務の両面から設計する
📋 この記事のポイント
- 中小企業の退職金制度は中退共・企業型DC・iDeCo+・退職一時金の4類型
- 中退共は事務負担が軽く国助成あり、企業型DCは役員加入可能で掛金上限55,000円
- 退職所得控除は勤続20年以下40万円×年数、20年超800万円+70万円×(年数−20)
- 2026年1月から退職所得控除に「10年ルール」導入でiDeCoとの受取順序に注意
- 中退共と企業型DCの併用で掛金上限合計85,000円・全従業員+役員カバー可能
- 役員退職金は功績倍率法(代表3.0、専務2.5、取締役2.0)で適正額を設定
- 外部積立型(中退共・DC)は拠出時全額損金、一時金制度は支給時損金
✅ 次のアクション
- 自社の想定退職金水準と対象従業員を整理し、4類型の最適組合せを検討する
- 中退共の新規加入助成(月5,000円×12か月)を活用し、初期費用を抑える
- 企業型DC導入時は、役員層の加入要否と選択制DCの導入を検討する
- iDeCo加入者への個別相談機会を提供し、2026年10年ルールの影響を共有する
- 退職金規程を整備し、自己都合・会社都合・定年の支給係数を明確化する
よくある質問
中退共と企業型DCはどちらを先に導入すべきですか?
事務負担と初期コストを重視するなら中退共を先に導入するのが一般的です。中退共は国の助成があり、導入費用もかからないため、最初の退職金制度として適しています。その後、会社の成長に応じて役員加入可能な企業型DCを追加する順序が多くの中小企業で実行されています。一方、役員層の退職金確保が最優先なら企業型DCを先に導入すべきです。
企業型DCの導入コストはどのくらいですか?
初期費用10〜30万円(運営管理機関の導入支援料)、月額維持費は1名あたり数百円〜1,500円程度です。20名規模の企業で年間10〜30万円の維持コストがかかります。ただし、掛金の社会保険料軽減効果がコストを上回るケースが多く、選択制DCで従業員1名あたり月3〜5万円の拠出なら、会社の社保負担が年間5〜10万円軽減されます。
退職金規程を改訂する場合、既存従業員の不利益変更に注意が必要ですか?
はい、退職金規程の改訂は重要な労働条件の変更にあたるため、労働契約法第10条の「合理性」が求められます。特に不利益変更(支給水準の引下げ、計算方法の変更で減額)は、代償措置や経過措置なしには無効となるリスクが高いです。実務では、新入社員から新規程を適用し、既存社員には旧規程との選択権を与える「二段階方式」が採られることが多いです。
中退共の掛金を減額することは可能ですか?
可能ですが、減額には原則として従業員本人の同意が必要です。同意が得られない場合は、厚生労働大臣の認定を受ければ減額可能とされていますが、認定要件は厳しく「現在の掛金を負担し続けることが著しく困難」であることの立証が必要です。実務では、減額前に増額分助成を活用した増額履歴がある場合、減額が難しくなります。
役員が退任後に社員として再入社した場合、退職金はどう扱いますか?
役員退職金の損金算入には「実質的に経営から退いた」ことが必要です。形式的な退任だけで社員として同様の業務を続ける場合、税務署から否認されるリスクが高く、全額が損金不算入となる可能性があります。安全な設計は、役員退任後は非常勤役員または別法人での勤務とし、完全に経営から退くパターンです。事前に顧問税理士と相談することが必須です。
退職金支給後に従業員が競業他社に転職した場合、返還請求できますか?
退職金規程に「競業避止違反時の返還条項」を明記していれば、一定の範囲で返還請求可能です。ただし、競業避止義務が有効と認められるには、期間(6か月〜2年程度)、地域・業種の限定、代償措置などの要件が必要です。裁判例では、代償措置のない競業避止義務は無効と判断される傾向があり、無制限な返還請求は認められにくい傾向があります。
企業型DCの投資教育は義務ですか?
はい、確定拠出年金法第22条により、事業主は加入者等に対する投資教育(継続投資教育を含む)の実施が努力義務とされています。最低限、制度導入時と定期的な情報提供(年1回以上推奨)が必要です。運営管理機関が研修資料や動画を提供するサービスを活用すれば、会社側の負担を抑えられます。投資教育の不実施はコンプライアンス上のリスクとなるため、体制整備が必須です。
退職金を分割して支給した場合、退職所得控除はどう計算しますか?
退職金を複数年に分けて支給した場合でも、退職所得控除は「最初の支給年」のみ適用されます。2年目以降は通常の給与所得として課税されるため、分割支給は本人にとって不利になる可能性が高いです。退職金は原則として退職年内に全額支給することが税務上有利です。例外は退職年金(企業年金・DC年金)として受給する場合で、この場合は雑所得となり公的年金等控除が適用されます。
退職金制度の設計は、税務・労務・人事戦略が交錯する領域です。就業規則・退職金規程の整備は「就業規則の作成・変更完全ガイド」、社会保険の全体像は「社会保険の全体像|加入義務と手続き完全ガイド」、助成金活用は「キャリアアップ助成金の要件と申請方法」をご参照ください。退職時の手続き全体は「退職時の社会保険・雇用保険の手続き一覧」、解雇の種類と要件は「解雇の種類と要件|普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の違い」で解説しています。