【社労士×行政書士が解説】退職勧奨の進め方と法的リスク|違法にならないための実務ポイント

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
問題社員への退職勧奨を検討している経営者・人事担当者に向けて、適法な退職勧奨の進め方と違法となる退職強要の境界線を完全解説します。下関商業高校事件などの判例基準、面談の手順、合意書の作成ポイント、退職加算金の相場、労務書類のペーパーレス化まで網羅。この記事を読めば、後日訴訟に発展するリスクを最小化しつつ、合意退職で円満解決できます。
🏆 結論:退職勧奨は「回数・時間・言動」の3基準を守れば適法
退職勧奨自体は違法ではなく、会社が労働者に退職を提案する合理的な手段です。ただし、退職を拒否した後も執拗に勧奨を続ける、長時間の面談を強要する、侮辱的発言や虚偽情報で圧迫するなどの行為は「退職強要」として民法709条の不法行為となります。適法な退職勧奨の目安は、面談1回30分以内・合計3回程度まで・本人が明確に拒否したら中断、です。合意に至ったら必ず書面で合意書を取得し、退職加算金(月給1〜3か月分が相場)を提示します。
退職勧奨とは|解雇との根本的違い
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を提案し、合意に基づく退職(合意退職)に導こうとする行為です。「クビ」と誤解されがちですが、法的性質は解雇とまったく異なります。
退職勧奨と解雇の5つの違い
| 項目 |
退職勧奨 |
解雇 |
| 法的性質 | 合意退職(労働者の同意が必要) | 一方的契約終了(会社単独の意思表示) |
| 労働者の拒否権 | あり(拒否すれば雇用継続) | なし(意思と無関係に契約終了) |
| 法的要件 | 原則なし(強要にならないこと) | 労契法16条の合理性・相当性 |
| 後日訴訟リスク | 合意書があれば極めて低い | 高い(不当解雇訴訟の対象) |
| 金銭負担 | 退職加算金(任意) | 解雇予告手当+訴訟時バックペイ |
💡 実務のポイント
実務では、問題社員対応の9割は退職勧奨で処理します。弊所が担当する中小企業の顧問先でも、能力不足や勤務態度不良の従業員については、まず退職勧奨と退職加算金の提示で合意退職に導くのが基本方針です。解雇は訴訟リスクが極めて高く、勝訴しても時間とコストがかかるため、金銭的解決で早期決着する方が合理的なケースが大半です。
退職勧奨が違法となる境界線|判例から学ぶ基準
退職勧奨自体は適法ですが、やり方によっては「退職強要」として民法第709条の不法行為となり、慰謝料の支払いを命じられます。境界線を理解することが実務では最も重要です。
下関商業高校事件(最判昭和55年7月10日)の判断基準
退職勧奨の適法性判断で最も頻繁に引用される最高裁判例が、下関商業高校事件です。この判例は、違法な退職強要を認定する際の基準を示しました。
| 違法性の判断要素 |
下関商業高校事件の事実 |
| 勧奨の回数 | 約3か月間に十数回の呼び出し |
| 勧奨の時間 | 1回20分〜120分に及ぶ長時間 |
| 拒否後の継続 | 明確な拒否後も執拗に継続 |
| 圧迫的な言動 | 「退職するまで勧奨を続ける」との発言 |
| 立会人の拒否 | 組合代表者の立会いを認めず |
| 心理的圧迫 | 職務命令による呼び出しで自由を奪う |
違法と判断された近年の判例
| 判例 |
違法とされた事由 |
| エールフランス事件(東京高判平8.3.27) | 約4か月間に30数回、1回4時間超の勧奨で精神的圧迫 |
| 日本IBM事件(東京地判平23.12.28) | 上司複数名の面談で強い口調での退職要求を繰り返し |
| 日本航空事件(大阪高判平28.11.10) | 閑散部署への配転と組み合わせて退職を迫った |
| 甲府地判令和2.2.25 | 「君は発達障害だ」と虚偽の病名を告げて退職を迫った |
⚠️ 違法な退職強要は不法行為として慰謝料請求される
違法な退職強要と判断されると、民法709条の不法行為が成立し、慰謝料として50万円〜300万円程度の賠償責任を負います。さらに、強要により退職した場合、その退職自体が意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)として取り消され、雇用関係継続となるリスクもあります。この場合、解雇と同様にバックペイも生じます。民法709条の原文はe-Gov法令検索「民法」で確認できます。
適法な退職勧奨の3つの基準
判例の積み重ねから、退職勧奨が適法とされるための目安が実務で定着しています。
3つの実務基準
| 基準 |
推奨範囲 |
上限の目安 |
| 面談の回数 | 2〜3回 | 5回程度まで |
| 1回あたりの時間 | 20〜30分 | 60分まで |
| 総期間 | 2〜4週間 | 2か月程度まで |
明確に避けるべき言動
以下の言動は、単発であっても違法と判断されるリスクが高い典型例です。
⚠️ 退職強要と判定される典型言動
「クビにするぞ」「辞めなければ解雇する」などの脅迫的言動/「能力がない」「会社に迷惑」などの侮辱的言動/複数人で囲んで圧迫する威嚇的な面談/深夜・休日・始業前の時間外面談/虚偽の病名や評価情報を使った圧迫/「退職するまで帰さない」など拘束的な面談/録音を禁止するなど証拠を消そうとする行為。これらは明らかな違法行為として、慰謝料の対象となります。
退職勧奨の実施手順7ステップ
適法かつ効果的な退職勧奨を実施するためのステップを整理します。
ステップ別の実施内容
| ステップ |
内容 |
所要期間 |
| 1. 事前準備 | 勧奨理由の整理、退職条件の設計、記録体制の準備 | 1〜2週間 |
| 2. 1回目の面談 | 勧奨理由の説明と退職条件の提示、検討時間の提供 | 30分以内 |
| 3. 検討期間の設定 | 本人に1〜2週間の検討時間を与える | 1〜2週間 |
| 4. 2回目の面談 | 本人の意向確認、条件の微調整・追加提案 | 30分以内 |
| 5. 合意または中断 | 本人が明確に拒否した場合は中断 | — |
| 6. 合意書の締結 | 退職条件・清算・守秘義務を明記した合意書 | 合意日当日 |
| 7. 退職手続き | 退職金清算、社保・雇保手続き、離職票発行 | 退職日〜10日 |
面談の場所・時間・人数の設定
| 項目 |
推奨 |
避けるべき |
| 場所 | 会社内の会議室(プライバシー確保) | 社外飲食店、自宅訪問、密閉空間 |
| 時間帯 | 就業時間内(午前・午後の比較的静かな時間) | 始業前、終業後、休日、深夜 |
| 会社側の人数 | 1〜2名(直属上司+人事担当) | 3名以上で囲む形 |
| 記録 | 面談メモ、録音は本人同意のうえ実施 | 一方的な録音、記録の隠蔽 |
💡 録音は同意を取るのが安全
現場でよく見かけるのが、退職勧奨を一方的に録音したことで後日「ハラスメント対応の証拠として使う」と反発されるケースです。弊所が担当する顧問先には、面談冒頭で「お互いの認識齟齬を防ぐため録音させていただきます」と同意を取ることを推奨しています。本人からも録音の申し出があれば快く応じる姿勢が、適法性の証明にもつながります。
退職加算金の相場と設計方法
退職勧奨の成否を大きく左右するのが、退職加算金の設計です。相場を理解した上で、本人が受け入れやすい条件を提示します。
退職加算金の相場
| 会社規模・事情 |
加算金の相場 |
備考 |
| 中小企業の問題社員対応 | 月給1〜3か月分 | 能力不足・勤務態度不良の標準ライン |
| 中小企業の経営悪化 | 月給3〜6か月分 | 希望退職募集時 |
| 大企業の希望退職 | 月給6〜24か月分 | 年齢・勤続年数で加算 |
| 管理職の退職 | 月給3〜12か月分 | 職位・役職手当を考慮 |
| 訴訟回避目的の解決金 | 月給6〜12か月分 | 訴訟リスク分の前倒し |
加算金設計時の考慮要素
🧮 加算金設計の計算例
月給40万円・勤続5年・年齢35歳・問題社員ケース:基本加算金 月給2か月分(80万円)+勤続年数加算5万円×5年=105万円。別途、有給休暇買取(20日×2万円=40万円)、社会保険料会社負担分相当の補填(任意)を加える実務もあります。合計145万円前後が実務の着地点。
退職加算金の税務上の取扱い
退職加算金は退職所得として課税され、通常の給与より税制優遇があります。勤続年数に応じた退職所得控除額が大きく、所得税・住民税の合算で相当の節税効果があります。
| 勤続年数 |
退職所得控除額 |
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
退職加算金を退職金規程に位置付けて支給することで、退職所得として本人の税負担を軽減できます。顧問税理士と連携して設計することが望ましいです。
退職合意書に必ず盛り込む10項目
退職勧奨が合意に至った場合、必ず書面で合意書を締結します。これが後日の訴訟防止の最強の証拠となります。
合意書の必須10項目
| 項目 |
記載内容 |
| 1. 合意退職の確認 | 労使合意による退職であること |
| 2. 退職日 | 具体的な退職年月日 |
| 3. 退職理由 | 「会社都合退職」か「自己都合退職」の明示 |
| 4. 退職金と加算金 | 金額、支払い時期、振込先 |
| 5. 有給休暇の処理 | 買取の有無と金額 |
| 6. 最終給与の支払い | 未払賃金・残業代を含む清算 |
| 7. 秘密保持義務 | 退職後の秘密情報取り扱い |
| 8. 競業避止義務 | 必要な場合、期間・範囲・代償措置 |
| 9. 清算条項 | 合意書記載以外に債権債務なしの確認 |
| 10. 誹謗中傷禁止 | SNS等での相互誹謗中傷の禁止 |
📢 清算条項の重要性
清算条項(「本合意書に定める以外、労使間に一切の債権債務がないことを相互に確認する」)は合意書の最重要条項です。この条項があることで、退職後に「未払残業代を請求する」「慰謝料を払え」といった追加請求を原則として封じることができます。ただし、清算条項があっても、合意時に会社が存在を隠していた債務は対象外となるため、未払残業代は事前に正確に精算しておく必要があります。
退職勧奨を拒否された場合の対応
退職勧奨で必ず想定しなければならないのが、本人が明確に拒否した場合の対応です。ここで判断を誤ると違法な退職強要に発展します。
拒否時の対応5原則
| 原則 |
具体的対応 |
| 1. 勧奨の中断 | 明確な拒否を受けたら勧奨を一旦中断する |
| 2. 条件再設計 | 新たな退職条件(加算金増額等)を検討 |
| 3. 時期を改める | 1〜2か月空けてから条件変更で再打診 |
| 4. 他の選択肢の検討 | 配置転換、職務変更、指導教育の強化 |
| 5. 解雇の検討 | 本当に解雇事由があるか客観的に再検証 |
拒否後に絶対にしてはいけないこと
⚠️ 報復的扱いは違法の典型パターン
退職勧奨を拒否されたことへの報復として、閑散部署への配置転換、重要業務から外す、賞与査定を下げる、孤立させるなどの不利益取扱いをすることは、違法性を強める行為です。これらの行為自体がパワハラとして別途の損害賠償対象となる可能性も高いです。拒否された場合は、むしろ通常通りの処遇を維持し、時期を改めて条件を見直すことが実務の王道です。
問題社員類型別の退職勧奨戦略
退職勧奨は相手の特性に応じた戦略を立てることで成功率が高まります。
| 問題類型 |
推奨戦略 |
加算金水準 |
| 能力不足型 | 教育機会の限界を示した上で、次のキャリアへの橋渡し提案 | 月給1〜2か月 |
| 勤務態度不良型 | 過去の指導履歴を示し、改善見込みなしと伝達 | 月給1〜3か月 |
| メンタル不調型 | 主治医意見書を踏まえ、療養優先の提案 | 月給2〜4か月 |
| 人間関係悪化型 | 双方のストレス軽減を軸に、円満退職を強調 | 月給2〜3か月 |
| 過去のハラスメント加害者 | 客観的調査結果の提示、再発防止の観点 | 月給1〜3か月 |
| 経営悪化対応 | 事業計画の共有、全社協力依頼の文脈で実施 | 月給3〜6か月 |
💡 実務のポイント
実務では、問題類型に応じた初回提示を工夫することで、成約率が大きく変わります。弊所が担当する30社超の顧問先のうち、事前に類型分析を行って退職勧奨を実施したケースでは、合意退職に至る確率が7割以上です。一方、類型を無視して画一的な条件で勧奨すると合意率が3割を切り、労使紛争に発展するリスクも高まります。
助成金と退職勧奨の関係
退職勧奨の実施は、各種助成金の受給要件に影響することがあります。申請中の助成金がある場合は、特に慎重な判断が必要です。
助成金受給に影響する離職区分
| 離職区分 |
助成金への影響 |
| 事業主都合による離職 | 多くの助成金で6か月前後の不支給期間 |
| 退職勧奨(特定受給資格者) | 事業主都合相当として不支給対象 |
| 合意退職(自己都合扱い) | 原則として影響なし |
| 合意退職(会社都合扱い) | 助成金の種類により不支給リスクあり |
キャリアアップ助成金・人材確保等支援助成金・両立支援等助成金などでは、申請前6か月間の事業主都合離職が一定割合を超えると不支給となる規定があります。退職勧奨を行う前に、顧問社労士と助成金への影響を確認することが不可欠です。離職区分の基本ルールは厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」で解説されています。
AYUSAWA PARTNERS
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退職勧奨記録の電子化(ペーパーレス化)
退職勧奨では、面談記録・通知書・合意書など大量の書類が発生します。2022年以降、人事労務書類のペーパーレス化が急速に進み、電子化による効率化・証拠力強化が実現できるようになりました。
電子化できる退職勧奨関連書類
| 書類 |
電子化方法 |
保存期間 |
| 面談記録 | 会議録システム、録音データ | 5年以上推奨 |
| 退職勧奨通知書 | PDF+電子署名 | 5年 |
| 合意書 | クラウドサイン等の電子契約 | 退職後10年 |
| 給与明細・源泉徴収票 | 給与システムからPDF交付 | 7年 |
| 秘密保持誓約書 | 電子署名システム | 退職後10年 |
主な電子契約サービス比較
| サービス |
特徴 |
月額目安 |
| クラウドサイン | 国内シェア1位、弁護士ドットコム運営 | 月1万円〜+送信料 |
| GMOサイン | 電子印鑑も併用可、コスト低 | 月9千円〜+送信料 |
| DocuSign | 国際標準、多言語対応 | 月3千円〜 |
| freeeサイン | freee会計連携、給与・経理との一体化 | 月4千円〜 |
ペーパーレス化の3つのメリット
🧮 ペーパーレス化の具体効果
①証拠力の強化:電子契約は改竄防止機能と日時証明が自動付与され、紙契約より証拠力が強い、②オフサイト対応:リモート勤務者・地方社員への迅速な書類対応が可能、③保管コスト削減:年間数万円の紙保管コスト・スキャン作業がゼロに。弊所が担当するIT企業40名の顧問先では、退職関連書類を全面電子化した結果、退職手続きの社内工数が60%削減されました。
退職勧奨でよくある失敗パターン
| 失敗パターン |
予防策 |
| 1. 「クビ」「解雇」と言ってしまう | 「退職を提案します」「ご検討ください」に統一 |
| 2. 検討時間を与えない | 1〜2週間の検討期間を明示 |
| 3. 加算金の根拠がない | 業界相場・社内前例の整理と明示 |
| 4. 合意書を作成しない | 口頭合意でも必ず書面化 |
| 5. 清算条項の欠落 | 合意書に清算条項を必ず盛り込む |
| 6. 未払残業代を放置 | 事前に勤怠データを精査・清算 |
| 7. 助成金への影響を無視 | 事前に社労士と相談、離職区分を慎重に判断 |
| 8. 拒否後に報復的処遇 | 通常処遇を維持し、時期を改めて再打診 |
まとめ:退職勧奨は「準備」と「誠実さ」で成否が決まる
📋 この記事のポイント
- 退職勧奨自体は適法。ただし「回数・時間・言動」次第で違法な退職強要となる
- 適法基準は面談1回30分以内・合計3回程度・本人拒否で中断、が実務目安
- 違法と判定されると民法709条の不法行為で慰謝料50万〜300万円
- 退職加算金の相場は中小企業の問題社員で月給1〜3か月分
- 合意書には清算条項を必ず盛り込み、後日の追加請求を封じる
- 拒否された場合は中断し、時期と条件を改めて再打診するのが王道
- 助成金申請中の場合は離職区分が受給に影響するため事前確認が必須
- 面談記録・合意書の電子化で証拠力強化と業務効率化を同時実現できる
✅ 次のアクション
- 退職勧奨の実施前に、問題社員の類型を整理し戦略を設計する
- 退職加算金の社内相場と設計方針を整理し、都度判断できる体制を作る
- 合意書の雛形を整備し、清算条項・秘密保持・競業避止を含める
- 電子契約サービスを導入し、退職関連書類の電子化を進める
- 助成金申請中の場合、退職勧奨前に顧問社労士と離職区分の影響を確認する
よくある質問
退職勧奨を1度でも行うと違法になりますか?
1度行っただけでは違法にはなりません。退職勧奨自体は会社の経営判断として認められた行為で、相手方の自由な意思決定を尊重する限り適法です。違法性を帯びるのは、拒否された後も執拗に勧奨を続けたり、圧迫的・侮辱的な言動を伴う場合です。初回の丁寧な提案と検討時間の付与が最も重要です。
退職勧奨を面談ではなく書面で行うことは可能ですか?
可能です。書面での退職勧奨は、かえって本人に検討時間を与え、感情的な反応を避けられるメリットがあります。書面で経緯・提案内容・退職条件・検討期限を明示し、面談はその後の質疑応答という形にするのも実務的な選択肢です。ただし、書面だけで済ませると冷淡な印象を与えるため、書面配布+個別面談の組み合わせが理想的です。
退職加算金はいくらから検討すればよいですか?
最低ラインは月給1か月分からが実務相場です。これ未満だと提案自体が軽く見られ、受諾率が下がります。対象者の問題類型・勤続年数・年齢・業界相場を踏まえ、中小企業の問題社員なら月給2か月分程度を初回提示し、本人の反応次第で3か月分まで増額する余地を残すのが実務的です。解雇リスクを金銭化した上限として、訴訟予想額(バックペイ等)から逆算する方法もあります。
退職勧奨を拒否した従業員を解雇しても良いですか?
退職勧奨を拒否したこと自体は解雇理由となりません。解雇には労契法16条の合理性と相当性が別途必要です。実務では、退職勧奨拒否後に解雇に踏み切ると、「退職勧奨を拒否したことへの報復」として不当解雇と判断されやすくなります。拒否された場合は、通常処遇を維持した上で1〜2か月空け、改めて条件変更で再打診するか、本格的な解雇事由を慎重に整理することが望ましいです。
合意書に署名後、本人が「錯誤だった」と撤回請求してきた場合は?
合意書への署名は有効な意思表示と推定されますが、錯誤・詐欺・強迫があれば取り消し可能です(民法95条、96条)。実務で問題となるのは「合意に動機の錯誤があった」という主張で、退職後の就職困難を軽視していた等が典型例です。撤回を防ぐため、①検討時間を十分与える、②第三者立会いを許容する、③合意書内に「十分な検討の結果、任意に合意したことを確認する」旨の条項を入れる、ことが実務対策です。
録音・録画はどのように扱うべきですか?
会社側の録音は、本人同意のもとで行うのが理想です。「認識齟齬を防ぐため」と理由を明示して同意を取れば、後日の証拠として活用できます。本人が録音する権利を主張する場合も快く応じるべきです。双方が録音・録画することで、むしろ違法性が低減される方向に働きます。秘密録音は倫理的に望ましくないだけでなく、裁判でも証拠採用に制限がかかるリスクがあります。
退職勧奨の相談から実施完了までどれくらい期間がかかりますか?
典型的なケースで3〜6週間です。内訳は、事前準備(1〜2週間)、1回目面談+検討期間(2〜3週間)、2回目面談・合意書締結(1週間)となります。経営悪化対応や労組との協議が必要なケースはさらに長期化し、2〜3か月かかることもあります。拙速な実施は違法性を疑われるリスクが高いため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
退職勧奨記録は何年保存すべきですか?
退職後少なくとも5年、できれば10年の保存を推奨します。退職勧奨後に本人が「強要されて退職した」と訴えるケースは、退職後数年経ってから発生することもあります。民法724条の消滅時効(不法行為は3年または20年)を踏まえても、10年保存が安全です。電子保存であれば保管コストもかからないため、長期保存を前提とした仕組みを作ることが実務的です。
退職勧奨は労務リスク管理の中で特に繊細な対応が求められる領域です。事前準備と書類整備の両方がトラブル回避の鍵となります。就業規則の整備については「就業規則の作成・変更完全ガイド」、社会保険の全体像は「社会保険の全体像|加入義務と手続き完全ガイド」、助成金活用は「キャリアアップ助成金の要件と申請方法」をご参照ください。退職時の社会保険・雇用保険手続きは「退職時の社会保険・雇用保険の手続き一覧」、解雇の種類と要件は「解雇の種類と要件|普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の違い」で詳説しています。