【税理士×公認会計士が解説】相続税と所得税の関係|取得費加算の特例と準確定申告

【税理士×公認会計士が解説】相続税と所得税の関係|取得費加算の特例と準確定申告
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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相続税と所得税の関係|取得費加算の特例と準確定申告

「相続した不動産を売ったら所得税もかかるの?」「亡くなった親の確定申告はどうすればいい?」とお悩みの相続人・不動産オーナーに向けて、相続税と所得税が交差する5つの場面を体系的に解説します。この記事を読めば、二重課税を防ぐ特例の活用法と申告スケジュールが把握できます。

🏆 結論:相続税と所得税は「別の税金」だが接点が5つある

相続税は「財産を受け取ったこと」に、所得税は「所得を得たこと」にかかる別の税金です。しかし、①準確定申告(被相続人の最後の確定申告)、②相続財産を売却したときの譲渡所得税、③取得費加算の特例(相続税の一部を所得税の経費にできる制度)、④生命保険金の課税関係、⑤事業承継税制との関係の5つの場面で両者は交差します。特に重要なのが「取得費加算の特例」で、相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、所得税を大幅に軽減できます。

相続税と所得税の基本的な違い

まず前提として、相続税と所得税は課税の根拠が異なる「別の税金」です。両者を混同しないことが、正しい申告の第一歩です。

比較項目 相続税 所得税
課税対象相続・遺贈で取得した財産1年間に得た所得(収入−経費)
課税のタイミング被相続人の死亡時(1回きり)毎年(暦年ベース)
申告期限相続開始を知った日から10ヶ月以内翌年3月15日(準確定申告は4ヶ月以内)
税率10%〜55%(累進)5%〜45%(累進)※譲渡所得は分離課税
基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人数48万円(基礎控除)

この「別の税金」であるがゆえに、相続で取得した不動産を売却すると、相続税と所得税(譲渡所得税)の両方が課税される場面が生じます。この二重課税を調整するための制度が「取得費加算の特例」です。

相続後の税金タイムライン【全体像】

相続が発生すると、複数の税金の申告期限が立て続けにやってきます。全体のスケジュールを把握しておくことが、期限切れを防ぐ最大のポイントです。

時期 手続き 対象税目 ポイント
死亡日相続開始ここが全ての起算日
4ヶ月以内準確定申告所得税被相続人の最後の確定申告
10ヶ月以内相続税申告・納付相続税遺産分割協議を完了させておく
3年10ヶ月以内取得費加算の特例の期限所得税この期間内に売却すれば特例適用可能
売却した翌年3/15譲渡所得の確定申告所得税取得費加算の特例は確定申告で適用

⚠️ 注意

準確定申告の期限(4ヶ月)は相続税申告(10ヶ月)より短く、最初に来る期限です。不動産賃貸や事業をしていた被相続人の場合、遺族は葬儀後すぐに準確定申告の準備に取りかかる必要があります。

相続税の計算方法の基本は「相続税の計算方法」で詳しく解説しています。

相続税と所得税が交差する5つの場面

相続税と所得税は別の税金ですが、以下の5つの場面で接点を持ちます。それぞれの場面で「何に」「いくら」課税されるかを整理しましょう。

No. 場面 相続税の扱い 所得税の扱い
準確定申告納付済み所得税は債務控除の対象被相続人の死亡年の所得を申告
相続財産の売却取得時の時価で課税済み売却益に譲渡所得税が課税
取得費加算の特例相続税の一部を取得費に加算
生命保険金契約形態により相続税 or 課税なし契約形態により所得税 or 課税なし
事業承継税制納税猶予・免除非上場株式売却時にみなし配当・譲渡所得

以下、特に重要な①〜③を詳しく解説します。

準確定申告とは?基本的なしくみ

準確定申告の定義と期限

準確定申告とは、年の途中で亡くなった人の所得税について、相続人が代わりに確定申告を行う手続きです。対象期間は「その年の1月1日から死亡日まで」で、申告期限は「相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内」です。

たとえば6月10日に亡くなった場合、1月1日〜6月10日の所得について、10月10日までに準確定申告書を提出します。

参考: 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」

準確定申告が必要な人・不要な人

被相続人の状況 準確定申告 備考
事業所得・不動産所得がある必要消費税の申告要否も確認
給与収入2,000万円超必要
死亡年に不動産等を売却必要譲渡所得が発生
給与1ヶ所のみで年末調整済み不要ただし還付がある場合は任意で申告可
年金400万円以下+他の所得20万円以下不要医療費控除で還付を受けたい場合は申告可
多額の医療費を支払っていた任意(お得)還付金は相続財産になる

💡 実務のポイント

1月1日〜3月15日の間に亡くなった場合、前年分の確定申告がまだ済んでいなければ、前年分と当年分の2年分の準確定申告が必要です。どちらも4ヶ月以内が期限なので、かなりタイトなスケジュールになります。早めに税理士へ相談することをおすすめします。

準確定申告の注意点3つ

注意点1:医療費控除は「死亡日まで」に被相続人が支払った分のみ。死亡後に相続人が支払った医療費は、準確定申告の医療費控除には含められません(ただし、相続税の債務控除として差し引ける場合があります)。

注意点2:還付金は相続財産になる。準確定申告で所得税が還付された場合、その還付金は相続財産に算入され、相続税の課税対象になります。

注意点3:納付した所得税は債務控除の対象。逆に、準確定申告で所得税を追加納付した場合は、相続税の計算で債務控除として差し引くことができます。

取得費加算の特例|相続税の一部を所得税の経費にできる制度

取得費加算の特例とは

取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)は、相続で取得した土地・建物・株式などを売却したときに、支払った相続税の一部を譲渡所得の「取得費」に加算できる制度です。取得費が増えれば譲渡所得が減り、所得税(譲渡所得税)の負担が軽くなります。

適用要件3つ

取得費加算の特例を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

要件 内容 注意点
相続・遺贈で財産を取得した個人法人は対象外。相続人以外の受遺者も可
その人が相続税を納付している配偶者の税額軽減等で相続税ゼロなら適用不可
相続開始から3年10ヶ月以内に売却「相続税の申告期限の翌日から3年」と同義

参考: 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

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取得費加算額の計算方法【4ステップ】

計算式

取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求めます。

取得費に加算する相続税額 =

その人の相続税額 × 売却した財産の相続税評価額 ÷ その人が取得した全相続財産の課税価格

具体例で計算してみる

📐 シミュレーション前提条件

  • 長男が相続した財産の課税価格:1億5,000万円(うち土地A:7,500万円)
  • 長男の相続税額:2,000万円
  • 土地Aを1億円で売却。被相続人の取得費3,000万円、譲渡費用350万円

ステップ1:取得費加算額を計算

2,000万円 × 7,500万円 ÷ 1億5,000万円 = 1,000万円

ステップ2:通常の譲渡所得を計算(特例なし)

1億円 −(3,000万円 + 350万円)= 6,650万円

ステップ3:取得費加算後の譲渡所得を計算

1億円 −(3,000万円 + 1,000万円 + 350万円)= 5,650万円

ステップ4:税額の差を確認

長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると、特例なしの場合は約1,351万円、特例ありの場合は約1,148万円。差額の約203万円が節税額になります。

📊 公認会計士の視点

取得費加算額には「売却益が上限」というルールがあります。つまり、取得費加算額が譲渡益を超えても、超過分は切り捨てられます(マイナスにはならない)。また、複数の財産を相続した場合は、財産ごとに計算する必要があります。不動産を複数持っている場合は、どの不動産から売却するかによって節税効果が変わるため、事前にシミュレーションすべきです。

取得費加算の特例と他の特例の併用ルール【判定表】

取得費加算の特例は他の譲渡所得の特例と併用できる場合と、できない場合があります。

特例 取得費加算との併用 備考
居住用財産の3,000万円特別控除○ 可能取得費加算→3,000万円控除の順で適用
居住用財産の買換え特例○ 可能
空き家特例(被相続人居住用3,000万円控除)× 不可有利判定が必要(通常は空き家特例が有利)
概算取得費(5%ルール)○ 可能取得費が不明な場合に売却額の5%を取得費とし、さらに加算可
小規模宅地等の特例○ 可能ただし加算額は特例適用後の評価額で計算(加算額が小さくなる)

💡 実務のポイント

空き家特例(被相続人居住用財産の3,000万円控除)は取得費加算と併用できません。どちらを使うかは個別にシミュレーションする必要がありますが、一般的に相続税額が少ない場合は空き家特例の方が有利です。相続税額が大きい場合は取得費加算の方が有利になるケースもあるため、両方を計算して比較してください。

小規模宅地等の特例との関係は「小規模宅地等の特例の概要」もご参照ください。

事業承継税制と所得税の関係

U列吸収論点として、事業承継税制(法人版)と所得税の接点も押さえておきましょう。

法人版事業承継税制(租税特別措置法第70条の7の5等)は、非上場株式を相続・贈与で取得した後継者の相続税・贈与税の納税を猶予する制度です。しかし、この制度を活用した後に株式を売却した場合、所得税の問題が生じます。

非上場株式を発行会社に売却(自社株買い)した場合

非上場株式を発行会社に譲渡した場合、売却金額のうち資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として所得税(総合課税)の対象になります。みなし配当は最高税率55.945%(所得税45%+住民税10%+復興特別所得税)が適用され得るため、高額になりがちです。

ただし、相続で取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合は、一定の届出をすることで「みなし配当」を全額「譲渡所得」として扱う特例があります(措法9条の7)。この場合、税率は20.315%の分離課税となり、かつ取得費加算の特例も適用可能です。

事業承継税制の全体像は「事業承継税制とは?」で詳しく解説しています。

遺産分割の方法で所得税が変わる3つのケース

ケース①:換価分割(売却して代金を分ける)

相続した不動産を売却して売却代金を相続人間で分ける「換価分割」では、全相続人に譲渡所得が発生します。各自が自分の持分に応じた譲渡所得の確定申告が必要です。取得費加算の特例は、相続税を納付した相続人のみが適用できます。

ケース②:代償分割(1人が取得し、代償金を支払う)

1人が不動産を相続して他の相続人に代償金を支払う場合、代償金を受け取った側に所得税はかかりません(代償金は相続税の課税対象)。不動産を取得した側が後に売却すれば、その人に譲渡所得税が課税されます。

ケース③:配偶者が取得した場合

配偶者の税額軽減(法定相続分または1億6,000万円まで非課税)を使って相続税ゼロで取得した配偶者は、取得費加算の特例を使えません。取得費加算の特例を活用したい場合は、あえて配偶者以外の相続人(子など)に売却予定の不動産を相続させる方法も検討に値します。

💡 実務のポイント

不動産の売却を予定している場合は、遺産分割協議の段階で「誰が取得して売却するか」を相続税と所得税の両方の観点から検討することが重要です。配偶者の税額軽減で相続税をゼロにしても、その後の売却で取得費加算が使えなければ、家族全体として損になるケースがあります。遺産分割前にシミュレーションすることをおすすめします。

相続税の節税対策の全体像は「相続税の節税対策20選」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

取得費加算の特例は不動産以外にも使えますか?
はい。不動産に限らず、株式、ゴルフ会員権、貴金属など、譲渡所得の対象となる財産であれば適用できます。ただし、事業所得や雑所得に該当する譲渡(たとえば棚卸資産の売却)は対象外です。相続した上場株式を証券会社で売却した場合も適用可能ですが、確定申告で「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」の添付が必要です。
配偶者の税額軽減で相続税がゼロの場合、取得費加算の特例は使えますか?
使えません。取得費加算の特例は「相続税を納付した人」だけが対象です。配偶者の税額軽減や障害者控除などで相続税がゼロになった場合は適用できません。売却予定の財産がある場合は、遺産分割の段階で配偶者以外に取得させることも検討してください。
準確定申告と相続税申告の提出先は同じですか?
どちらも被相続人の死亡時の住所地を所管する税務署に提出しますが、両者は別の申告書です。準確定申告は所得税の確定申告書(付表付き)、相続税申告は相続税の申告書です。相続人が被相続人と異なる住所地の場合でも、提出先は被相続人の住所地の税務署になります。
相続した不動産の取得費がわからない場合はどうなりますか?
被相続人が不動産を購入した時の売買契約書や領収書が見つからない場合は、売却価額の5%を取得費とする「概算取得費」を使うことができます。概算取得費と取得費加算の特例は併用可能です。ただし、概算取得費を使うと取得費が大幅に低くなるため、譲渡益が大きくなります。不動産鑑定や市街地価格指数を使って実際の取得費を推定する方法もあるため、税理士に相談することをおすすめします。
相続時精算課税制度で取得した財産も取得費加算の特例の対象ですか?
はい。相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産は、贈与者の死亡時に相続税の課税価格に含められるため、取得費加算の特例の対象になります。ただし、この場合の「取得の時期」は贈与時ではなく相続開始時として扱われます。贈与税の基本は「贈与税のしくみと基礎知識」をご覧ください。
準確定申告を忘れた場合のペナルティは?
期限(4ヶ月以内)を過ぎると、無申告加算税(原則15%、50万円超の部分は20%)と延滞税(年約2.4%〜8.7%)が課されます。相続税の申告期限(10ヶ月)より先に来る期限なので、忘れがちです。特に不動産賃貸収入がある被相続人の場合は、死亡後すぐに税理士に相談してください。
取得費加算の特例と空き家特例はどちらが有利ですか?
一般的に、相続税額が少ない場合は空き家特例(3,000万円控除)の方が有利です。相続税額が大きい場合は取得費加算の方が有利になるケースもあります。両者は併用できないため、必ず両方を計算して比較してください。なお、空き家特例は「被相続人が一人暮らしだった居住用家屋とその敷地」に限定される厳しい要件があるため、そもそも適用できないケースも多いです。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 相続税は「財産を受け取った」ことに、所得税は「所得を得た」ことに課税される別の税金
  • 準確定申告(4ヶ月以内)→ 相続税申告(10ヶ月以内)→ 取得費加算の期限(3年10ヶ月以内)のスケジュールを把握する
  • 取得費加算の特例で、相続税の一部を売却時の取得費に加算し、所得税を軽減できる
  • 取得費加算の特例は相続税を「納付した人」のみ対象。配偶者の税額軽減でゼロの場合は適用不可
  • 空き家特例との併用は不可。どちらが有利かは個別にシミュレーションが必要
  • 売却予定がある財産は、遺産分割の段階で「誰が取得するか」を相続税+所得税の両面で検討する
  • 非上場株式の自社株買いでは「みなし配当」と「譲渡所得」の選択で税負担が大きく変わる

相続税と所得税の関係は複雑ですが、取得費加算の特例を正しく活用すれば、二重課税の負担を大幅に軽減できます。特に不動産や株式の売却を予定している場合は、遺産分割の前に税理士へシミュレーションを依頼してください。

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