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傷病手当金の支給要件と計算方法|最長1年6か月の給付と申請の実務
従業員の休職で傷病手当金の手続きが必要になった人事担当者・経営者に向けて、4つの支給要件・計算式・待期期間・通算1年6か月の給付期間を完全ガイド。この記事を読めば、申請書類の準備から退職後の継続給付まで自信を持って対応できます。


従業員の休職で傷病手当金の手続きが必要になった人事担当者・経営者に向けて、4つの支給要件・計算式・待期期間・通算1年6か月の給付期間を完全ガイド。この記事を読めば、申請書類の準備から退職後の継続給付まで自信を持って対応できます。
🏆 結論:傷病手当金は4要件を満たせば「標準報酬月額の平均×1/30×2/3」が通算1年6か月支給される
業務外の病気・ケガで連続3日の待期後、4日目以降の労務不能日について、給与との差額が支給されます。2022年1月の健康保険法改正で「支給開始日から起算して1年6か月」から「通算1年6か月」に変わり、復職と休職を繰り返しても実際に支給された日数で1年6か月分受給できるようになりました。申請は月単位で、医師の意見書と事業主の証明が必須です。
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガで会社を休み、給与を受けられない期間の生活を保障する所得補償給付です。健康保険法第99条に規定されており、協会けんぽ・健康保険組合・共済組合のいずれに加入していても同様の仕組みで支給されます。
参考:e-Gov法令検索「健康保険法」|全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
労災保険の休業補償給付が「業務上」の傷病を対象とするのに対し、傷病手当金は「業務外」の傷病を対象とします。両者は対になる制度で、従業員が長期休業する際には、まず傷病の原因が業務上か業務外かを切り分けることが最初のステップになります。
🔷 社労士の視点
実務では、うつ病・適応障害などメンタル疾患による休職で傷病手当金を申請するケースが圧倒的に多い傾向があります。弊所が支援した従業員30名の製造業A社では、2024年度に傷病手当金を申請した5名のうち4名がメンタル疾患、1名が整形外科的疾患でした。メンタル疾患の場合、復職と再休職を繰り返すケースが多く、2022年改正の「通算化」の恩恵を受けやすい類型です。
対象になるのは、健康保険の被保険者です。具体的には以下の方が該当します。
| 加入先 | 対象 | 支給の有無 |
|---|---|---|
| 協会けんぽ・健康保険組合 | 会社員(被保険者本人) | ○ 支給対象 |
| 協会けんぽ・健保組合 | 被扶養者(家族) | × 対象外 |
| 国民健康保険 | 自営業・フリーランスなど | × 対象外(任意給付扱いだが多くの自治体で実施せず) |
| 任意継続被保険者 | 退職後に健保を継続した人 | × 対象外(資格喪失後の継続給付を除く) |
| 共済組合 | 公務員・私学教職員 | ○ 支給対象(計算式は組合ごとに一部相違) |
傷病手当金は、以下の4要件をすべて満たした場合に支給されます。いずれか1つでも欠けると不支給になるため、人事担当者は申請サポート時にこの4要件を起点にチェックします。
業務上や通勤途上の傷病は労災保険の対象となり、傷病手当金は支給されません。判断の切り分けは、労働基準監督署への労災請求の結果に委ねられる場面もあります。
実務で迷いやすいのが、精神疾患の業務起因性の判定です。長時間労働やパワハラを原因とする精神疾患は、労災認定されると労災保険からの給付になります。労災申請と傷病手当金申請を同時並行で進め、労災不支給決定が出た時点で傷病手当金に切り替える運用が一般的です。
労務不能かどうかは、医師の意見をもとに保険者(協会けんぽなど)が判断します。「労務不能」とは、従業員が従来就いていた職務に就けない状態を指し、治療のため会社を休んでいる事実が必要です。
⚠️ 注意:自宅療養でも軽作業を指示すると不支給リスク
従業員が自宅療養中に、会社が「在宅でこの程度の事務作業だけお願い」と依頼してしまうと、その日は労務不能ではないと判定され、傷病手当金が不支給になるケースがあります。休職中は原則として一切の業務依頼をしないこと、復職判定は医師の診断書をもとに行うことを就業規則に明記しておくことが重要です。
傷病手当金は、連続して3日間休んだ後の4日目以降から支給されます。この最初の3日間を「待期期間」といいます。待期期間中は傷病手当金は支給されません。
待期期間のカウントには、以下のポイントがあります。
🧮 待期期間の具体例
【例1:月曜から4連休】月・火・水で待期完成、木曜から支給対象
【例2:間に出勤】月休・火休・水出勤・木休・金休 → 水で待期リセット、木金はまだ連続2日で待期未完成
【例3:土日挟む】金・土・日で待期完成(土日も数える)、月曜から支給対象
休職中に給与が支払われている期間は、原則として傷病手当金は支給されません。ただし、支払われた給与が傷病手当金の日額を下回る場合は、差額が支給されます。
年次有給休暇を消化している期間は、給与が支払われているため傷病手当金は支給されません。多くの企業で実務的には、有給休暇を使い切った後に傷病手当金に切り替える運用が取られています。
傷病手当金の1日あたりの支給額は、以下の計算式で求めます。
📐 傷病手当金の計算式
1日あたりの支給額 = 支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
実際の計算は、以下の3ステップで行います。
| ステップ | 内容 | 例(標準報酬月額30万円の場合) |
|---|---|---|
| ①12か月平均 | 支給開始日以前12か月の標準報酬月額を平均 | 300,000円 |
| ②30で割る | 30日で除して日額換算 | 300,000 ÷ 30 = 10,000円 |
| ③2/3をかける | 給付率2/3(67%)を乗じる | 10,000 × 2/3 ≒ 6,667円/日 |
📐 計算の前提条件
自社の従業員の月給水準でどの程度の支給額になるか、代表的な水準で試算した結果が下表です。
| 標準報酬月額 | 日額(円) | 30日分(円) | 1年6か月分の上限(円) |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 4,444 | 133,320 | 約240万円 |
| 25万円 | 5,556 | 166,680 | 約300万円 |
| 30万円 | 6,667 | 200,010 | 約360万円 |
| 40万円 | 8,889 | 266,670 | 約480万円 |
| 50万円 | 11,111 | 333,330 | 約600万円 |
※概算値です。個別の状況(退職・給与調整等)により異なります。正確な金額は協会けんぽまたは加入している健保組合にご確認ください。
支給開始日以前の健康保険加入期間が12か月に満たない場合は、以下の2つの金額のうち低い方で計算します。
転職後すぐに休職するケースや、入社直後に傷病を発症したケースでは、この「AかB、低い方」ルールが適用されます。高額な給与で中途入社したばかりの従業員は、この特例により想定より支給額が少なくなる可能性があるため注意が必要です。
傷病手当金の支給期間は、2022年(令和4年)1月1日の健康保険法改正で大きく変わりました。人事担当者が最も押さえておくべき改正ポイントです。
| 時期 | 支給期間のルール | 復職期間の扱い |
|---|---|---|
| 2021年12月31日以前 | 支給開始日から起算して1年6か月 | 復職期間も1年6か月に含まれる(残期間が減る) |
| 2022年1月1日以降 | 支給開始日から通算して1年6か月 | 復職期間は除外(実支給日数のみ通算) |
🧮 通算化シミュレーション(うつ病で休復職を繰り返すケース)
改正前:2021年4月休職開始→2021年10月復職(6か月支給済)→2022年4月再休職→2022年10月で支給終了(初回休職開始から1年6か月経過のため、実支給は12か月分のみ)
改正後:2022年4月休職開始→2022年10月復職(6か月支給済)→2023年4月再休職→さらに12か月支給可能(通算で1年6か月に達するまで)
「同一の傷病」に該当するかは、医学的な判断で決まります。完全に治癒してから別の疾病を発症した場合は新たな支給期間が始まりますが、同一疾病の再発や関連疾病と判定されれば通算されます。
実務では、復職後6か月以上が経過し、主治医が「社会的治癒」と診断した後に再発症した場合は、新規の傷病扱いとして支給期間がリセットされる運用が多く見られます。ただし最終判断は保険者にあるため、微妙なケースでは事前に協会けんぽなどに確認することをおすすめします。
傷病手当金の申請は、従業員本人・医師・事業主(会社)の3者が書類を記入し、保険者に提出する流れです。人事担当者が実務で支援するのは主にステップ3と4です。
従業員が傷病で休業を始めたら、できるだけ早く医師の診察を受け、休業を要する旨の診断書を取得してもらいます。この段階で傷病手当金申請の可能性を本人に伝え、制度概要を案内しておくとスムーズです。
協会けんぽの「健康保険傷病手当金支給申請書」は、同協会のウェブサイトからダウンロードできます。健康保険組合に加入している場合は、各組合指定の様式を使用します。
申請書は4面構成で、それぞれ記入者が異なります。
| 面 | 記入者 | 主な記入内容 |
|---|---|---|
| 1面 | 被保険者(本人) | 氏名・住所・振込先口座・申請期間 |
| 2面 | 被保険者(本人) | 傷病名・発病日・労務不能の期間・給与支給有無 |
| 3面 | 事業主(会社) | 出勤状況・給与支給状況・事業主の証明 |
| 4面 | 療養担当者(医師) | 傷病名・初診日・労務不能と認めた期間 |
💡 実務のポイント
事業主証明の3面で最も手間がかかるのは出勤簿・賃金台帳の確認です。申請期間が複数月にわたる場合、各月の出勤日数・有給使用日・給与支給額を正確に書き出す必要があります。給与計算ソフトの締め日と傷病手当金の申請単位が一致しないケースでは、日割り計算が発生するため、月ごとに申請を分ける方が実務負担は軽くなります。
事業主証明欄を記入したら、本人に返却し、協会けんぽ(または健康保険組合)に提出してもらいます。郵送が一般的ですが、一部の健保組合では電子申請も可能です。
申請書受付から支給決定まで、協会けんぽの場合は通常2週間〜1か月程度かかります。初回申請や記入不備があると2か月以上かかる場合もあります。
従業員が休職中に退職しても、一定要件を満たせば傷病手当金を継続して受給できます。これを「資格喪失後の継続給付」といいます。
⚠️ 退職日に出勤すると継続給付の権利を失う
退職日(資格喪失日の前日)に出勤して労務に就くと、「資格喪失時に労務不能ではなかった」と判定され、継続給付の権利を失います。退職にあたって挨拶のために出社する場合でも、出勤簿に出勤と記録すると継続給付が受けられなくなります。退職日は出勤せず、有給消化または欠勤とする運用が安全です。
資格喪失後の継続給付は、在職中の傷病手当金と異なり、一度でも労務可能な状態になると以後は打ち切られます。同一疾病が再発しても再支給されない点が重要な違いです。2022年改正の通算化は、この点は変更されていません。
休職中に何らかの金銭給付を受けている場合、傷病手当金は減額または不支給となることがあります。
給与が支払われている期間は、原則不支給ですが、支払われた給与が傷病手当金より少ない場合は差額が支給されます。見舞金などの名目で継続的に支給される金銭は、給与とみなされる場合があります。
| 同時給付 | 調整のしかた |
|---|---|
| 出産手当金 | 出産手当金が優先。差額があれば傷病手当金を支給 |
| 障害厚生年金(同一傷病) | 障害年金の360分の1が日額を上回る場合、傷病手当金は不支給 |
| 障害手当金(同一傷病) | 障害手当金相当額に達するまで傷病手当金は不支給 |
| 老齢年金(退職後) | 老齢年金の360分の1が日額を上回る場合、傷病手当金は不支給 |
| 労災の休業補償給付 | 業務上傷病分は労災優先、業務外傷病分のみ傷病手当金支給可 |
傷病手当金は非課税所得であり、所得税・住民税はかかりません(所得税法第9条第1項第8号ロ)。年末調整や確定申告で所得に含める必要はありません。
💡 税理士の視点:社会保険料は免除されない
傷病手当金は非課税ですが、休職期間中も在職中である限り健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料は発生します(産休・育休のような免除制度はありません)。従業員負担分は会社が立替払いし、復職後に精算するか、本人から個別に振込んでもらう運用が一般的です。弊所が担当した従業員50名の商社B社では、休職中の社会保険料は本人口座から毎月振込む運用にしていて、未回収リスクを避けていました。
📊 公認会計士の視点:法人側の会計処理
傷病手当金は健康保険から従業員本人に直接支給されるため、会社の会計には原則として登場しません。ただし、会社が本人の代わりに受領して本人に支払う「受任者払い」の運用をしている場合は、預り金勘定で処理します。実務上は受任者払いのメリットが少ないため、本人口座への直接振込を選ぶケースが主流です。
ここまでの内容を踏まえ、人事担当者が傷病手当金申請を支援する際に押さえるべき実務ポイントを5つにまとめます。
AYUSAWA PARTNERS
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鮎澤パートナーズに相談する連続3日の待期期間の途中で出勤日を挟んでしまい、リセットされたことに気づかず申請したケース。不支給決定後に再提出が必要になり、支給開始が1か月遅れることもあります。
有給休暇を使い切る前に申請してしまい、給与支給日は不支給と判定されたケース。有給を先に全部消化してから傷病手当金に切り替える運用を徹底します。
退職の挨拶のために退職日に出社したことで、継続給付の要件を満たさなくなった事例。実際の相談でも年に数件発生しており、退職日は自宅待機とすることを本人に明確に伝える必要があります。
傷病手当金の請求権は、労務不能であった日ごとにその翌日から起算して2年で時効消滅します(健康保険法第193条)。長期休職でまとめて申請しようとすると、古い日の分が時効で受け取れなくなります。最低でも半年ごとに申請するルールを設けることを推奨します。
📋 この記事のポイント
傷病手当金は従業員の生活を支える重要な制度ですが、要件判定・計算・給与調整・退職後の処理など実務論点が多く、誤った対応は従業員との信頼関係を損ないます。特に通算化後の支給期間管理は、在職中と退職後で扱いが異なり、間違えやすいポイントです。申請書類の不備で支給が遅れると、休職中の従業員の生活に直接影響します。
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