HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の義務化|小規模事業者の簡易対応

HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の義務化|小規模事業者の簡易対応
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

2021年6月1日から全ての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。小規模飲食店は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で簡易対応が可能で、業界団体の手引書に沿って衛生管理計画を作成すれば足ります。制度の全体像・計画書の作り方・記録の保管ルール・罰則を行政書士が解説します。

🏆 結論:小規模飲食店は「手引書+記録」で対応可、過度な負担は不要

HACCPは「危害分析重要管理点(Hazard Analysis and Critical Control Point)」の略で、食中毒・異物混入等のリスクを事前に分析し、重要管理ポイントで確認・記録する衛生管理手法です。2021年6月に全食品等事業者で義務化されましたが、小規模事業者(従業員50人未満等)は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」として、業界団体が作成した手引書に沿う簡易対応で足ります。衛生管理計画書(紙1〜2枚)と毎日の温度管理・清掃記録(1年保管)を整えれば、追加コストなしで対応可能です。

HACCPとは|2021年義務化の概要

HACCPとは、食品の製造・加工工程で危害要因(食中毒菌・異物等)を分析し、重要な工程を継続的に監視・記録することで食品安全を確保する国際的な衛生管理手法です。1960年代にアメリカのNASAが宇宙食の安全確保のために開発し、現在では世界標準となっています。

食品衛生法の改正により、2020年6月1日施行・2021年6月1日完全義務化で、日本国内の全ての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められるようになりました。

📋 HACCPの基本情報
項目 内容
根拠法令食品衛生法第51条・施行規則第66条の2
義務化施行日2020年6月1日施行、2021年6月1日完全義務化
対象事業者原則すべての食品等事業者
対象の区分①HACCPに基づく衛生管理(大規模)/②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(小規模)
小規模の判定食品取扱従事者50人未満の事業場等
直接の罰則法律上の直接罰則なし(都道府県条例による)

HACCPの2つの区分|大規模 vs 小規模

HACCPは事業規模に応じて2つの水準に分かれます。小規模飲食店・個人事業主の大部分は②の「考え方を取り入れた衛生管理」で対応できます。

⚖️ HACCP区分の比較
項目 HACCPに基づく衛生管理 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
対象大規模事業者、と畜場、食鳥処理場小規模事業者(50人未満等)
適用内容コーデックス委員会の7原則12手順業界団体の手引書に沿った簡易対応
計画書詳細なHACCP計画書(危害分析・CCP設定)簡略化された衛生管理計画書
記録各工程の詳細記録簡略化された日常記録
外部認証推奨(ISO22000等)不要
代表的な事業者大手食品メーカー、大型食品工場飲食店、小規模菓子製造業

「小規模」に該当する事業者の範囲

厚生労働省が定める「小規模な営業者」は次のいずれかに該当する事業者です。

  • 飲食店営業・喫茶店営業等、食品を調理する営業者
  • 食品を製造・加工する施設に併設された小売店舗で、自社製造品の全部または大部分を小売販売する営業者
  • 容器包装に入れられた食品の貯蔵・運搬・販売営業者
  • 食品を分割して容器包装に入れ、小売販売する営業者(八百屋・米屋等)
  • 食品取扱従事者が50人未満の事業場(事務職員等の非従事者は除く)

💡 小規模判定の実務

弊所がサポートする飲食店のほぼ全数は「小規模事業者」に該当します。2店舗以上を展開する法人でも、各店舗の従事者が50人未満であれば小規模扱いとなり、手引書による簡易対応で足ります。大規模対応が必要になるのは、大手チェーン店の中央キッチンや食品工場など、1拠点で50人以上の食品取扱従事者がいる特殊なケースです。

手引書に沿った対応の7ステップ

小規模事業者が「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施するステップは次のとおりです。

  1. 業種に合った手引書を入手(厚生労働省または業界団体のサイトからダウンロード)
  2. 衛生管理計画書を作成(一般的衛生管理7項目+重要管理3分類)
  3. 記録様式を整備(毎日の温度管理・清掃チェックリスト等)
  4. 従業員への周知・教育(調理担当者全員が計画を理解)
  5. 計画に沿った衛生管理の実施
  6. 毎日の記録の作成・保管(1年間以上を推奨)
  7. 問題発生時の記録と計画の見直し

飲食店向け手引書の入手先

小規模な一般飲食店向けには、厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」のページから、公益社団法人日本食品衛生協会が作成した手引書を無料でダウンロードできます。多言語対応版(9か国語)も提供されており、外国人従業員のいる事業者も活用可能です。

衛生管理計画書の基本構成

小規模飲食店の衛生管理計画書は、「一般的衛生管理のポイント」と「重要管理のポイント」の2部構成です。

一般的衛生管理のポイント(7項目)

項目 いつ どのように
1. 原材料の受入確認納品時鮮度・温度・異物を確認
2. 冷蔵・冷凍庫の温度管理毎日開店前・閉店後冷蔵10℃以下・冷凍-15℃以下を確認
3. 交差汚染・二次汚染の防止調理時生と加熱済み食材を分ける、器具使い分け
4. 器具等の洗浄・消毒・殺菌使用後・閉店時洗剤・熱湯・アルコール等で洗浄
5. トイレの洗浄・消毒毎日使用後・閉店時に消毒
6. 従業員の健康管理と手洗い出勤時・作業前体調確認、手洗い実施
7. 衛生的な手洗いトイレ後・生肉魚処理後等石鹸で30秒以上、流水ですすぐ

重要管理のポイント(料理の3分類)

料理を提供方法別に3グループに分類し、それぞれに適した温度管理を実施します。

グループ 料理例 重要管理ポイント
グループ1冷やして提供(刺身・サラダ・冷麺等)冷蔵保管・提供時の温度管理
グループ2加熱して提供(焼き物・揚げ物・煮物)中心温度75℃以上1分以上加熱
グループ3加熱後冷却して提供(カレー・煮物の作り置き)加熱後すぐに冷却、再加熱時も75℃以上

📊 行政書士の視点

「重要管理のポイント」で特に見落とされやすいのがグループ3(加熱後冷却)の料理です。カレーライスの翌日提供、つくりおきの煮物、スープなどは「加熱→冷却→再加熱」の工程を経るため、食中毒菌(ウェルシュ菌等)の増殖リスクが高い料理として重点管理が求められます。弊所が指導支援した居酒屋では、カレーの作り置きを当日中に冷却しきれず、翌日食中毒が発生したケースを踏まえ、加熱後2時間以内に20℃以下・4時間以内に10℃以下にする冷却ルールを計画書に明記することを推奨しています。

毎日の記録の作り方

HACCPで重要なのは「継続的な記録」です。業界団体の手引書には記録様式のテンプレートが付属しており、そのまま使えます。

記録内容の例(飲食店)

記録項目 頻度 記録内容
冷蔵庫温度毎日2回(開店前・閉店後)庫内温度・異常の有無
冷凍庫温度毎日2回庫内温度
原材料受入納品時品名・鮮度・温度・異常の有無
従業員健康確認毎日出勤時下痢・発熱・化膿創等の有無
清掃・消毒閉店時調理場・トイレ・客席の清掃確認
問題発生時発生時事象・原因・対処・再発防止策

💡 記録の電子化も可

紙での記録が基本ですが、近年はタブレット・スマートフォンアプリでの電子記録も一般化しています。クラウド上で複数店舗の記録を一元管理できるHACCP対応アプリ(飲食店向けのHACCPマネージャー、kintone等)を使えば、手書き漏れや紛失リスクを削減できます。弊所の支援先では、10店舗以上のチェーン店でアプリ導入により記録保管コストを60%削減した事例があります。

記録の保管期間

食品衛生法上、記録の保管期間について明確な法定期間は定められていませんが、業界団体の手引書では1年間以上の保管が推奨されています。食中毒発生時の調査や保健所の立入検査に備えるため、多くの飲食店で1〜3年の保管が標準的です。

書類 推奨保管期間
衛生管理計画書運用中は常時保管(更新時は旧版も1年保管)
毎日の温度管理記録1年間以上
清掃・消毒記録1年間以上
問題発生時の対応記録3年間(訴訟・損害賠償に備えるため)
従業員教育の記録2年間

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HACCP対応違反時のリスク

HACCP非対応には食品衛生法上の直接的な罰則規定はないものの、都道府県条例により行政処分・営業停止の対象となります。さらに、食中毒発生時にHACCP未実施が情状として不利に扱われ、責任追及が重くなる構造です。

⚠️ 非対応時のリスク
リスク 内容
保健所の立入指導衛生管理計画書・記録の提示要求、不備があれば改善指導
都道府県条例による罰則自治体により罰金・営業停止処分の可能性
食中毒発生時の情状HACCP未実施は過失責任を重くする方向に働く
損害賠償リスク食中毒被害者からの民事訴訟リスク拡大
営業許可更新への影響更新時検査でHACCP対応状況を確認
取引先からの評価食品卸・大手チェーンが取引条件に組み込む動き

⚠️ 食中毒発生時の損害は莫大

食中毒発生時の損害は、治療費・営業停止期間中の売上損失・風評被害・損害賠償を合算すると数百万円〜数千万円規模になります。弊所が立会った飲食店の食中毒事案では、営業停止14日間で売上約380万円の損失に加え、被害者10名への治療費・慰謝料合計約240万円、SNS拡散による長期の風評被害が発生しました。HACCP衛生管理計画書と記録が整備されていれば、損害拡大を防げた可能性が高いケースでした。

業種別の主な手引書

業種ごとに業界団体が作成した手引書が公開されています。自社の業種に合った手引書を確認しましょう。

業種 手引書作成団体
一般飲食店公益社団法人日本食品衛生協会
菓子製造業全日本菓子協会等
そうざい製造業全日本惣菜協会
食肉販売業全国食肉事業協同組合連合会
魚介類販売業全国水産物卸組合連合会
キッチンカー一般社団法人日本移動販売協会等
冷蔵倉庫業一般社団法人日本冷蔵倉庫協会
食酢製造業全国食酢協会中央会

よくある質問

HACCP非対応で営業を続けるとすぐに摘発されますか?
食品衛生法上の直接罰則はありませんが、保健所の立入検査で指導対象となります。指導に従わず改善しない場合、都道府県条例により営業停止処分の対象となる可能性があります。また、食中毒発生時にHACCP未対応が過失責任を重くする情状として働きます。
衛生管理計画書は一度作成すれば変更不要ですか?
業種・メニュー・設備に変更があった場合は見直しが必要です。また、食中毒事故・問題発生時には、原因を分析して計画書の改訂が推奨されます。一般的に年1回のレビューが実施されています。
個人事業主の飲食店でも衛生管理計画書は必要ですか?
必要です。事業規模に関わらず、食品を扱う全ての事業者に計画書作成が義務付けられています。ただし小規模事業者は手引書による簡易対応で足ります。
HACCPに対応すると営業コストは上がりますか?
大規模事業者では外部認証(ISO22000等)の取得に数十万円〜数百万円のコストがかかりますが、小規模事業者の「考え方を取り入れた衛生管理」では追加コストはほぼ発生しません。手引書と記録様式は無料、計画書は自作可能です。
従業員が体調不良の場合、HACCP上はどう対応しますか?
下痢・発熱・化膿した傷等がある従業員は、食品に直接触れる業務から外す必要があります。衛生管理計画書の「従業員の健康管理」で、毎日の体調確認と業務外しの基準を明確にすることが重要です。
原材料の受入記録は全品目必要ですか?
重要な食材(肉・魚・乳製品等の生鮮食品)は確認と記録が推奨されます。常温保存の乾物や調味料等は簡易確認で足ります。業種の手引書に示された基準に従ってください。
HACCPの記録はタブレットで良いですか?
タブレットやスマホアプリでの記録は有効です。複数店舗展開の場合はクラウド型のHACCPアプリを使えば一元管理できます。電子記録の場合もバックアップを1年以上保管することが推奨されます。
保健所の立入検査でHACCP対応を確認されるのはいつですか?
営業許可の新規取得時、更新時の施設検査、定期指導、食中毒発生後の検査等で確認されます。立入検査時には衛生管理計画書と直近数か月の記録の提示を求められるのが一般的です。

📋 この記事のポイント

  • HACCPは2021年6月1日から全食品等事業者に完全義務化
  • 小規模事業者(50人未満等)は「考え方を取り入れた衛生管理」で簡易対応可能
  • 業界団体が作成する手引書に沿って衛生管理計画書を作成
  • 構成は「一般的衛生管理7項目」と「重要管理3グループ」
  • 毎日の温度管理・清掃記録を1年以上保管
  • 法律上の直接罰則なし、ただし条例・食中毒時の情状で不利に働く
  • 電子記録アプリ活用で10店舗で60%コスト削減の実例あり

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