【税理士×会計士が解説】居住用賃貸建物の仕入税額控除制限|令和2年改正の内容と実務対応

【税理士×会計士が解説】居住用賃貸建物の仕入税額控除制限|令和2年改正の内容と実務対応
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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居住用賃貸建物の仕入税額控除制限|令和2年改正の内容と実務対応

賃貸マンションや居住用不動産の取得を検討している法人経営者に向けて、居住用賃貸建物の仕入税額控除制限の仕組み・該当判定・転用調整の計算方法・法人税上の取扱いを完全ガイドします。この記事を読めば、自社の建物が制限対象か判定でき、適切な実務対応がとれます。

🏆 結論:税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物は仕入税額控除が原則不可。ただし3年以内の転用・譲渡で部分的に取り戻せる

令和2年10月1日以降に取得した居住用賃貸建物(高額特定資産に該当するもの)は、消費税の仕入税額控除が認められません(消費税法第30条第10項)。これは自動販売機スキームや金地金スキームなどの還付スキームを封じるための改正です。ただし、取得から3年以内に課税賃貸用(事業用)に転用した場合や譲渡した場合は、その期間の課税売上実績に応じて控除額の一部を取り戻すことができます(消費税法第35条の2)。

居住用賃貸建物の仕入税額控除制限とは?改正の背景

令和2年度の税制改正により、居住用賃貸建物に係る消費税の仕入税額控除が制限されました。この改正は令和2年(2020年)10月1日以後に取得する居住用賃貸建物から適用されています。

改正の背景|消費税の還付スキーム封じ

この改正以前は、居住用賃貸マンションを取得した際の消費税について、さまざまな「還付スキーム」が横行していました。住宅の貸付けは非課税売上であるため、本来であれば居住用賃貸建物の取得に係る消費税は仕入税額控除の対象外(非課税売上対応分)です。しかし、課税売上割合を意図的に操作することで、本来受けられない還付を受けるスキームが考案されました。

時期 出来事 概要
〜平成22年自動販売機スキームの横行建物取得年に自販機の課税売上のみにし、課税売上割合95%以上で全額還付
平成22年課税売上割合の著しい変動による調整制度の強化第3年度の課税期間で課税売上割合が著しく変動した場合に調整を義務化
平成28年高額特定資産を取得した場合の納税義務免除の特例高額資産取得後3年間は免税事業者や簡易課税に変更できないルールを追加
〜令和2年金地金スキームの登場金地金の売買で課税売上割合を操作。従来の対策では防げなかった
令和2年10月居住用賃貸建物の仕入税額控除制限(消費税法30条10項の新設)居住用賃貸建物の消費税は、取得時に一律で仕入税額控除を禁止

還付スキームの詳しい歴史と教訓については「自動販売機スキーム・金地金スキームとは?」で解説しています。

💡 実務のポイント

この改正は、不動産賃貸業を営む法人だけでなく、社宅として賃貸マンションを購入する法人にも影響します。顧問先で「福利厚生のためにマンションを買いたい」という相談があった際、消費税の還付を前提にした資金計画を立てていたケースがありました。改正後は居住用として使う以上、消費税の還付は受けられないことを事前に説明し、資金計画を修正する必要があります。

居住用賃貸建物の定義と該当判定

居住用賃貸建物とは、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」であって、高額特定資産(税抜1,000万円以上)または調整対象自己建設高額資産に該当するものをいいます(消費税法第30条第10項)。

居住用賃貸建物の該当判定の2要件

以下の2要件を両方満たす場合に、仕入税額控除が制限されます。

# 要件 具体的な基準
1住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であること居住用に使われる可能性がある建物全般(事業用が「明らか」でなければ該当)
2高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当すること取得価額が税抜1,000万円以上(自己建設の場合は累計額1,000万円以上)

建物タイプ別の該当判定表

建物のタイプ 居住用賃貸建物に該当? 理由
賃貸マンション(税抜1,000万円以上)該当する住宅の貸付け用。控除制限あり
社宅用マンション(税抜1,000万円以上)該当する人の居住の用に供する建物
オフィスビル(事業用のみ)該当しない住宅の貸付けの用に供しないことが明らか
ホテル・旅館該当しない旅館業法に規定する施設で住宅の貸付けに該当しない
店舗兼住宅(合理的に区分可能)居住用部分のみ該当事業用部分は控除可能。面積按分等で合理的に区分
棚卸資産としての販売用建物(宅建業者)該当しない所有中に住宅の貸付けの用に供しないことが明らか
居住用アパート(税抜1,000万円未満)該当しない高額特定資産に該当しない

参考: 国税庁 消費税法基本通達 第7節 居住用賃貸建物(11-7-1〜11-7-5)

⚠️ 注意

判定時期は「課税仕入れを行った日」(取得日)です。取得日時点で住宅の貸付けの用に供しないことが明らかでなければ、たとえ将来的に事業用にする予定であっても居住用賃貸建物に該当します。ただし、課税期間の末日までに住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされたときは、該当しないものとして取り扱うことができます(消基通11-7-2)。

仕入税額控除の制限の具体的な内容

居住用賃貸建物に該当する場合、その建物に係る課税仕入れ等の税額は、課税売上割合にかかわらず仕入税額控除の対象になりません。取得時の課税売上割合が100%であっても、95%ルールが適用される場合であっても、居住用賃貸建物の消費税は一律で控除が禁止されます。

制限の範囲

項目 控除制限の対象?
居住用賃貸建物の本体取得費(税抜1,000万円以上)対象(控除不可)
附属設備の取得費(建物と一体で取得)対象(控除不可)
居住用賃貸建物の資本的支出(高額特定資産に該当する場合)対象(控除不可)
居住用賃貸建物の修繕費(資本的支出に該当しない通常の維持管理費)対象外(通常どおり控除可能)
資本的支出が税抜1,000万円未満の場合対象外(高額特定資産に該当しないため)

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転用調整の仕組み|課税賃貸用に転用した場合の控除回復

居住用賃貸建物の仕入税額控除が制限された場合でも、その建物を取得後3年以内に課税賃貸用(事業用)に転用した場合や譲渡した場合は、控除額の一部を取り戻すことができます(消費税法第35条の2)。

転用調整が適用される2つのケース

ケース 条件 加算される課税期間
課税賃貸用への転用調整期間内に課税賃貸用に供し、第3年度の課税期間末日に保有している第3年度の課税期間
譲渡調整期間内に他の者に譲渡した譲渡した日の属する課税期間

転用調整の計算シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 3月決算法人。X1年3月期(X0年4月〜X1年3月)に居住用賃貸建物を1億2,100万円(税込)で取得
  • 消費税額:1,100万円(内国消費税858万円+地方消費税242万円)
  • 取得時に仕入税額控除を全額制限
  • 調整期間:X1年3月期〜X3年3月期(第3年度の課税期間)
パターン 調整期間中の賃貸状況 課税賃貸割合 控除回復額
A:全期間居住用のまま全フロア住居用賃貸0%0円
B:2年目から1階を店舗に転用課税賃貸収入÷全賃貸収入=30%30%330万円
C:2年目に建物全体を事業用に転用課税賃貸収入÷全賃貸収入=70%70%770万円

※控除回復額=制限された仕入税額(1,100万円)×課税賃貸割合。概算値です。

🧮 課税賃貸割合の計算式

課税賃貸割合 = 調整期間中の課税賃貸用に供した部分の賃貸収入の合計額 ÷ 調整期間中の賃貸収入の合計額(課税+非課税)

課税売上割合が著しく変動した場合の調整(調整対象固定資産)

居住用賃貸建物の仕入税額控除制限とは別に、調整対象固定資産(税抜100万円以上の固定資産)を取得した場合には、従来からある「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」制度も関係します(消費税法第33条)。

2つの調整制度の比較

項目 居住用賃貸建物の転用調整(30条10項・35条の2) 課税売上割合の変動調整(33条)
対象資産居住用賃貸建物(高額特定資産)調整対象固定資産(税抜100万円以上)
取得時の処理仕入税額控除を全額禁止通常どおり仕入税額控除を適用
調整時期第3年度の課税期間(転用時または譲渡時)第3年度の課税期間
調整の方向加算のみ(制限された控除の回復)加算または減算(変動に応じて双方向)
適用時期令和2年10月1日以後の取得分従来からの制度

💡 実務のポイント

居住用賃貸建物の仕入税額控除制限を受けた場合の転用調整は「加算のみ」です。取得時に控除がゼロなので、転用によって控除額が増える方向にしか動きません。一方、通常の調整対象固定資産の変動調整は、取得時に控除した額を基準に増減するため、「返す」方向にも動く可能性があります。この違いを混同しないよう注意してください。

控除対象外消費税の法人税上の取扱い

居住用賃貸建物について仕入税額控除が認められなかった消費税額は、法人税上は「控除対象外消費税額等」として取り扱います。損金算入の方法は、取得した課税期間の課税売上割合によって異なります。

控除対象外消費税の損金算入方法の判定表

課税売上割合 損金算入方法 具体的な処理
80%以上全額損金算入取得事業年度の租税公課として一括損金計上(損金経理が条件)
80%未満繰延消費税額等として分割損金算入取得事業年度に1/2を損金算入し、残額を翌事業年度以降5年間で均等償却(合計約6年間)

参考: 国税庁「居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について」

📊 公認会計士の視点

控除対象外消費税額等の損金算入は「損金経理」が条件です。つまり、会計上も費用として計上していなければ法人税上も損金にできません。また、第3年度の課税期間で転用調整が行われた場合、控除対象の消費税額が増加するため、仮受消費税と仮払消費税の差額と実際の納付税額に差額が生じます。この差額は転用調整が行われた事業年度の益金に算入されます。

インボイス制度との交差点|取得相手による取扱いの違い

令和5年10月1日のインボイス制度開始以降は、建物の取得相手がインボイス発行事業者かどうかによっても、控除対象外消費税の取扱いが変わります。

取得相手 消費税の取扱い 控除対象外消費税
インボイス発行事業者からの取得消費税額あり→控除制限全額が控除対象外消費税額等に該当
免税事業者等からの取得(宅建業者以外)消費税相当額は建物の取引対価に含まれるそもそも消費税が認識されないため、控除対象外消費税は発生しない
免税事業者等からの取得(宅建業者が棚卸資産として取得)帳簿のみ保存で仕入税額控除可→控除制限の適用あり全額が控除対象外消費税額等に該当

インボイス制度の概要については「インボイス制度の概要と実務対応」をご参照ください。

実務で注意すべき5つのポイント

ポイント1:経過措置の確認

令和2年3月31日までに締結した契約に基づく取得は、令和2年10月1日以後の取得であっても経過措置により制限の対象外です。契約日と取得日の両方を確認してください。

ポイント2:用途変更時の判定タイミング

居住用賃貸建物に該当するかどうかは取得日時点で判定します。ただし、課税期間末日までに用途が事業用に確定すれば該当しないものとして扱えます。建物の用途が未確定のまま期末を迎えないよう、取得時に賃貸借契約の内容を明確にしておきましょう。

ポイント3:混合用途建物の合理的区分

1階が店舗、2階以上が居住用のような建物は、使用面積割合や建設原価の割合など合理的な基準で区分すれば、事業用部分の消費税は控除可能です。区分の根拠となる資料(設計図面、面積計算書など)を保管しておくことが重要です。

ポイント4:消費税の申告書への記載方法

居住用賃貸建物の取得に係る支払対価の額は、付表2-3の「課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)」の⑨欄に含めずに記載します。この金額を誤って⑨欄に含めると仕入税額控除が過大になり、修正申告が必要になります。

ポイント5:高額特定資産取得後の納税義務免除の特例

居住用賃貸建物(高額特定資産)を取得した課税期間の翌課税期間から、その取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間は、免税事業者になることも簡易課税制度を適用することもできません。不動産投資を行う法人は、この制限期間を考慮して事業計画を立ててください。

消費税の課税方式の基本については「消費税の仕組みと基礎知識」で、簡易課税制度については「簡易課税制度の仕組みと選択基準」で解説しています。

よくある質問(FAQ)

居住用賃貸建物の仕入税額控除制限は、いつ取得した建物から適用されますか?
令和2年(2020年)10月1日以後に取得した居住用賃貸建物から適用されます。ただし、令和2年3月31日までに締結した契約に基づく取得は、経過措置により制限の対象外です。適用の判定では「取得日」だけでなく「契約日」も確認してください。
税抜1,000万円未満の居住用アパートでも仕入税額控除は制限されますか?
制限されません。控除制限の対象は「高額特定資産に該当するもの」、つまり税抜1,000万円以上の建物に限られます。税抜1,000万円未満の居住用アパートは、通常の仕入税額控除のルール(課税売上割合に応じた控除)が適用されます。
居住用賃貸建物を3年以内に事業用に転用したら、消費税は取り戻せますか?
取り戻せる可能性があります。取得日から第3年度の課税期間の末日までの調整期間内に課税賃貸用(事業用)に転用した場合、その期間の課税賃貸割合に応じて仕入税額控除の一部が回復します。回復額は「制限された仕入税額×課税賃貸割合」で計算され、第3年度の課税期間の仕入控除税額に加算されます。
店舗兼住宅の場合、消費税はどうなりますか?
居住用部分と事業用部分を合理的に区分(面積按分等)していれば、事業用部分の消費税は仕入税額控除の対象になります。居住用部分の消費税のみが控除制限を受けます。区分の根拠資料(設計図面等)は保管しておいてください。
社宅として購入したマンションも控除制限の対象ですか?
はい、対象です。社宅は「人の居住の用に供する建物」であるため、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物には該当しません。税抜1,000万円以上であれば仕入税額控除が制限されます。
控除できない消費税は法人税ではどう扱われますか?
法人税法上は「控除対象外消費税額等」として、損金経理を条件に損金算入できます。取得した事業年度の課税売上割合が80%以上であれば一括損金算入、80%未満であれば繰延消費税額等として約6年間で分割損金算入します。
宅建業者が販売用として居住用建物を取得した場合も控除制限を受けますか?
棚卸資産として取得し、所有中に住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな場合は、居住用賃貸建物に該当しません。つまり、販売目的で保有する宅建業者は控除制限の対象外です。ただし、販売までの間に居住用として貸し付ける場合は対象になる可能性があります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上)の消費税は仕入税額控除が原則不可(令和2年10月1日以後の取得分)
  • 「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」(オフィス、ホテル、棚卸資産等)は制限対象外
  • 取得後3年以内に課税賃貸用に転用または譲渡した場合は、課税賃貸割合に応じて控除額の一部を回復可能
  • 控除対象外消費税は法人税上、課税売上割合80%以上なら一括損金、80%未満なら約6年で分割損金算入
  • 店舗兼住宅は合理的に区分すれば事業用部分は控除可能
  • 高額特定資産取得後3年間は免税事業者・簡易課税への変更が制限される

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