国税庁の税務調査実績データ総まとめ|法人税・所得税・相続税の追徴税額と調査件数の最新動向

国税庁の税務調査実績データ総まとめ|法人税・所得税・相続税の追徴税額と調査件数の最新動向
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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令和5事務年度の税務調査実績データを税目別に整理。追徴税額の全体像、AI活用の実態、事業者が取るべき対策まで、統計の「読み方」を税理士が解説します。

🏆 結論:追徴税額は全税目で高止まり、AI選定で「調査すれば非違が出る」精度が上昇

令和5事務年度の実地調査件数は法人税で約5万9千件、所得税で約6万件、相続税で約8,556件。追徴税額は法人税3,284億円・所得税1,398億円(過去最高)・相続税735億円といずれも高水準です。件数自体はコロナ前より少ないものの、AIによる調査対象選定で「非違割合」が上昇しており、一度調査対象となれば高い確率で追徴を受ける構造に変化しています。

令和5事務年度 税務調査実績の全体像

税務調査の実績データは、国税庁が毎年11〜12月に公表しています。直近の確定データは令和5事務年度(令和5年7月〜令和6年6月)です。まず全税目の主要指標を一覧で確認します。
税目 実地調査件数 申告漏れ所得(課税価格) 追徴税額合計 1件当たり追徴
法人税・消費税等約5万9千件9,741億円3,284億円約549万円
所得税約60万5千件
(実地+簡易な接触)
9,964億円1,398億円(過去最高)実地調査は高額
相続税8,556件2,745億円735億円約859万円
贈与税2,847件-108億円-

出典: 国税庁「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」。数値は四捨五入前の計数により算出されています。

💡 実務のポイント

「事務年度」は国税庁独自の区切りで、7月〜翌年6月です。よって令和5事務年度の数値は「令和5年7月〜令和6年6月の実績」を意味します。決算月や課税期間(暦年)とは一致しないため、ニュース記事の数値を自社実績と比較する際は注意が必要です。

法人税の調査実績【令和5事務年度】

実地調査件数は5.4%減、追徴税額は直近10年で2番目の高水準

令和5事務年度の法人税・法人消費税等の実地調査件数は約5万9千件で、前年度比5.4%減となりました。ただし、申告漏れ所得金額は9,741億円(前年7,801億円から25%増)と大幅に増加し、1件当たりの追徴税額は549万7千円(前年524万1千円から約25万円増)に上昇しています。 件数が減ったにもかかわらず追徴税額が増えたのは、調査対象の選定精度が上がったことの裏付けです。国税庁はAIを活用して申告漏れの可能性が高い法人を効率的に抽出しており、「調査しても非違が出ない空振り」を減らす方向に動いています。

消費税還付申告法人・海外取引法人・無申告法人への重点調査

令和5事務年度で特に強化されたのが、以下3つの重点領域です。
重点領域 追徴税額 特徴
消費税還付申告法人390億円
(内不正計算81億円)
輸出免税の悪用・架空仕入れの典型スキームを重点調査
海外取引法人等-輸入仕入れ水増し+キックバック等の巧妙な不正把握
無申告法人219億円
(内悪質101億円)
申告義務を認識しつつ売上を隠蔽する悪質事案が半数
実務では、消費税還付は売上と仕入れの規模感から計算結果を予測できるため、通常の課税事業者が突然還付申告に転じると調査確率が明らかに高まります。輸出売上比率の急増や大型設備投資が理由であれば事前に資料を整備しておくことが有効です。

所得税の調査実績【令和5事務年度】

追徴税額1,398億円は過去最高、AI活用で選定精度が上昇

令和5事務年度の所得税調査は、実地調査と「簡易な接触」(文書・電話・来署依頼)を合わせて約60万5千件実施され、申告漏れ等の非違が確認されたのは31万1千件。申告漏れ所得金額は9,964億円、追徴税額は1,398億円で過去最高を更新しました。 国税庁は公表資料において、AIを活用した申告漏れ可能性の高い納税者の選定と、簡易な接触による効率的な是正を明確に打ち出しています。

1件当たりの追徴税額が高い5分野

所得税調査で1件当たりの追徴税額が大きい重点分野は以下のとおりです。

💡 重点調査分野(1件当たり追徴税額)

  • 富裕層:調査全体の約2.6倍
  • 海外投資等を行っている個人:調査全体の約2.4倍
  • インターネット取引を行う個人(シェアリングエコノミー・暗号資産等)
  • 無申告者(悪質事案を優先)
  • 消費税の還付申告者
弊所の実務経験では、年間海外送金・海外送受金が1,000万円を超える個人暗号資産取引所から年間1億円以上の取引履歴がある個人プラットフォーマー(Airbnb、メルカリ等)からの支払調書が積み上がる副業者は、過去3年以内に高確率で接触を受けています。国税庁は国外送金等調書(100万円超の送受金を銀行が提出)と各種支払調書を機械的に突合しており、申告漏れの検出は以前より格段に早くなっています。

相続税の調査実績【令和5事務年度】

実地調査件数は4.4%増、非違割合84.2%

相続税の実地調査件数は8,556件(前年度比4.4%増)、うち申告漏れ等の非違が確認されたのは7,200件(非違割合84.2%)。申告漏れ課税価格は2,745億円、加算税を含む追徴税額は735億円で直近10年間で2番目に多い水準です。 非違割合84.2%という数字は、実地調査の対象になった時点で8割以上の確率で申告漏れを指摘されることを意味します。これは法人税の非違割合(約75%)より高く、相続税調査は「空振り」がほぼない精度で対象選定されていることを示しています。

簡易な接触の件数が急増

近年顕著なのが、実地調査の前段階である「簡易な接触」の急増です。令和5事務年度は18,781件(前年比25.2%増)、うち非違確認件数は5,079件(同37.8%増)で、平成28年の集計開始以降で最高値を更新しました。

📢 簡易な接触の意味

簡易な接触は「税務署から相続税の申告漏れの可能性があるという文書または電話連絡」のことです。実地調査と異なり税務署員が自宅に来ませんが、任意調査の一形態であり、放置すると実地調査へ切り替わります。連絡を受けたら、申告書の控えと財産資料を整理し、早期に税理士へ相談することが重要です。

無申告事案の追徴税額は平成21年以降で最高

令和5事務年度の相続税無申告事案(相続税の申告書自体を提出していない事案)への実地調査は690件で、追徴税額は123億円(前年度比11.4%増)となり、公表を開始した平成21年以降で最高額を記録しました。1件当たりの追徴税額は約1,787万円です。 実務では、被相続人が不動産を複数所有している場合や、金融資産の残高証明書の積み上げで基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えることが明らかな場合、税務署は相続開始から1〜3年以内に必ず資料照会を行います。申告義務の有無が微妙な場合でも、計算結果がわずかに基礎控除を下回ると判断できる資料を手元に保管しておくことが、後日の照会に備える最低限の防御策です。

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追徴税額の平均額と傾向分析

1件当たりの追徴税額は全税目で高止まり

過去の実績と比較した1件当たり追徴税額の推移を確認します。
税目 令和3年度 令和4年度 令和5年度 傾向
法人税(1件当たり)約370万円524万円549万円2年連続で過去最高圏
相続税(1件当たり)約886万円約820万円約859万円横ばいだが高水準
所得税(実地調査)-過去最高1,398億円(総額最高)総額で最高更新

重加算税賦課割合が下がらない理由

国税庁の令和5事務年度法人税等調査事績によれば、調査対象法人のうち重加算税を賦課された法人の割合は概ね20〜22%で横ばいです。重加算税は国税通則法第68条に基づき、事実の隠蔽・仮装があった場合に本税の35%(無申告なら40%)が上乗せされる重いペナルティです。 実務の感覚では、売上除外・架空経費・二重帳簿等の典型事案だけでなく、「契約書の日付改ざん」「過年度分の請求書の書き換え」など、書類の事後改ざんが重加算税認定の引き金になるケースが多くあります。税務調査の席で「昔の書類だから覚えていない」と答えて済まそうとする対応は、改ざんの疑いをかけられる原因になりかねないため避けるべきです。

AI・デジタル化による税務調査の変化

国税庁のAI活用は本格運用フェーズへ

国税庁は令和元年度からAIを調査対象選定に試行導入し、令和4〜5事務年度から本格運用に移行しました。AIが参照する主な情報源は以下のとおりです。
  1. 申告書データ:過去5〜7年分の申告書・決算書を時系列で分析
  2. 法定調書:支払調書、源泉徴収票、国外送金等調書
  3. 資料せん(お尋ね文書):取引先から収集した取引情報
  4. 第三者情報:銀行の口座情報、証券会社の取引履歴
  5. CRS情報:共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報(約100か国と交換)
  6. プラットフォーマー情報:暗号資産交換業者・EC事業者からの取引履歴提供

KSKシステム2.0と調査対象選定の高度化

国税庁の基幹システムKSK(国税総合管理システム)は令和7年に次期システムへ移行予定で、従来以上に大規模な突合処理が可能になります。既に現時点でも、業種別の財務指標(売上高経常利益率・役員報酬水準等)との乖離を自動検知して「異常値フラグ」を立てる仕組みが稼働しています。

🧮 実務上の対策シミュレーション

仮に年商3億円・営業利益率8%(業界平均12%)のIT企業があった場合、AIは「業界平均との乖離4ポイント」「社長の役員報酬が営業利益の25%」といった複数の異常値を検知します。これらが3〜5項目重なると、調査対象候補リストに入る確率が高まります。対策は業界指標との乖離理由を決算書の注記や法人事業概況書に明記することです。「クラウドサービス立ち上げ期の先行投資」等の定性情報が調査回避に有効な場面が実際にあります。

e-Taxと税務調査の関係

e-Tax利用率は令和5年度で法人99.1%・所得税82.6%に達しています。電子申告だからといって調査対象になりやすい/にくいという統計上の差は公表されていませんが、電子申告で提出した申告書はAIによる解析対象として即時にデータ化されるため、紙提出より早期にチェックが走るのは事実です。 ただし、これは「不利」ではなく中立的な事実です。むしろ電子申告は、計算チェック機能によるケアレスミスの事前排除過年度データとの自動比較による記載漏れ検出という面で申告の精度を上げる効果があります。紙申告を維持するメリットは実務上ほぼありません。

業種別・規模別の調査確率

法人の規模別調査実施率

法人全体の調査実施率(実地調査件数÷申告法人数)は年間2〜3%です。ただし、規模別では大きく異なります。
法人規模(資本金) 推定調査実施率 所管部署
1億円超(調査課所管)10〜30%国税局調査部
1,000万円〜1億円3〜5%税務署法人課税部門
1,000万円以下1〜2%税務署法人課税部門

※概算値です。業種・過去の非違歴・赤字法人か否か等で変動します。正確な確率は国税庁は公表していません。

大企業(資本金1億円超)が所属する「調査課所管法人」は概ね3〜7年に1度の頻度で実地調査が実施される運用とされます。中小企業でも、設立5年目以降で売上が1億円を超えた会社は、最初の税務調査が入るタイミングとして要注意です。

業種別の非違割合

業種別に見ると、飲食業(特にバー・クラブ)、建設業(一人親方を除く)、風俗業、廃棄物処理業、美容業などが非違割合の高い業種として毎年上位に並びます。詳細ランキングは税務調査が入りやすい業種ランキング|不正発見割合トップはバー・クラブの59%で別途整理しています。

調査件数減少と追徴税額増加のギャップが示すもの

コロナ禍を境にした運用変化

事務年度 法人税実地調査件数 追徴税額 備考
平成30年度約9万9千件1,943億円コロナ前の平常時
令和2年度約2万5千件過去最少コロナで調査大幅縮小
令和3年度約4万1千件-前年比63.2%増も低水準
令和4年度約6万2千件3,225億円(当時最高)AI活用で追徴倍増
令和5年度約5万9千件3,284億円件数減も追徴は微増
件数はコロナ前の平成30年度の約60%で頭打ちですが、追徴税額はコロナ前の約1.7倍に到達しています。調査対象が厳選され、1件あたりの追徴規模が大きくなる構造が定着しつつあります。

事業者が取るべき3つの対策

こうしたデータを踏まえ、実務で事業者が取るべき基本対策を3点整理します。

💡 データを踏まえた3つの基本対策

  1. 業界平均との乖離理由を文書化する:申告書別表や法人事業概況書の余白、決算書の注記等に、業界指標から外れる項目の経営上の理由を明記しておく。AIフラグ対策の第一歩。
  2. 書面添付制度を活用する:税理士法第33条の2に基づく書面添付があると、意見聴取が実地調査の前に行われ、調査省略率が高まる。詳細は書面添付制度の活用と税務調査の省略効果を参照。
  3. 証憑書類を7年保存する:電子帳簿保存法の令和6年義務化以降、電子取引は電子保存が原則。紙を保管し続ける運用では対応不可。保存方法の変更が未実施なら早急に整備が必要。

税務調査の準備と対策の全体像

税務調査への対策は、大きく以下のフェーズに分かれます。各フェーズの詳細は個別記事で解説していますので、該当する段階の記事を参照してください。
  1. 平時の備え税務調査の流れと対応方法でピラー記事として全体像を整理
  2. 事前通知を受けた直後:日程調整・資料準備・税理士への連絡
  3. 調査中:質問検査権の範囲・反面調査への対応・推計課税への反証。推計課税と実額反証も参照
  4. 調査後修正申告・更正処分・更正の請求の違いと手続き方法加算税の種類と計算方法を参照
  5. 処分に不服がある場合不服申立て制度の全体像で手続きを確認

よくある質問(FAQ)

税務調査は何年ごとに来るのが普通ですか?
中小企業の法人税調査は平均して5〜7年に1度程度です。ただし、売上急増・赤字から黒字転換・過去に非違歴があるなどの場合は、3年程度のサイクルで入ることもあります。大企業(資本金1億円超)は3〜7年に1度の頻度で計画的に実施されます。
税務調査の件数が減っているなら安心してよいでしょうか?
いいえ。件数は減少していますが、追徴税額は増加しています。これはAI選定で「非違が出る可能性の高い法人だけが調査対象になる」構造を意味します。むしろ「調査されたら高確率で追徴」と考えるべきです。
1件当たり549万円という追徴税額は、中小企業でも該当しますか?
この数字は全法人の平均値で、大企業の大型追徴事案も含みます。中小企業(資本金1,000万円以下)の平均は概ね100〜300万円です。ただし、重加算税が賦課されると一気に1,000万円規模に跳ね上がるため、対策は規模に関わらず必要です。
相続税の非違割合84.2%は異常に高くないですか?
相続税調査は「申告漏れが疑われる事案を国税庁が選別してから実施する」ため、もともと非違の出る確率が高い構造です。法人税調査の非違割合75%も同様の理由で高く出ます。非違割合は「税務調査の厳しさ」ではなく「選定精度」を示す指標と理解するのが正しいです。
「簡易な接触」と「実地調査」はどう違いますか?
簡易な接触は文書・電話・来署依頼による確認で、税務署員が事業所に来ません。実地調査は国税通則法第74条の2に基づく質問検査権の行使で、事業所で帳簿・書類を確認する正式な調査です。簡易な接触を放置すると実地調査に切り替わるため、早期対応が重要です。
AIで調査対象に選ばれやすい業種はありますか?
明示的な公表はありませんが、非違割合の高い業種(バー・クラブ・建設一人親方・廃棄物処理・美容業など)は優先的に選定される傾向があります。詳細は税務調査が入りやすい業種ランキングで解説しています。
過去の追徴税額データは何年分まで遡れますか?
国税庁ホームページでは法人税等・所得税・相続税それぞれ過去10〜15年分が公表されています。統計データとして分析する場合、最低でも直近5年分のトレンド確認が推奨されます。報道発表資料は毎年11〜12月に更新されます。
個人の暗号資産・FX取引は必ず税務署に把握されていますか?
国内の暗号資産交換業者は金融庁登録制で、税務当局からの情報提供要請に応じる義務があります。FXも同様です。海外取引所を利用していても、CRS情報(約100か国と自動交換)で把握される可能性があります。「バレない」という想定で申告を省略するのは、2025年以降のデータ環境ではほぼ不可能です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 令和5事務年度の追徴税額は法人税3,284億円・所得税1,398億円(過去最高)・相続税735億円と高水準
  • 実地調査件数は減少傾向、ただし1件当たり追徴税額は上昇(AI選定で非違確度が上昇)
  • 相続税調査の非違割合は84.2%、調査対象となれば8割超の確率で指摘される
  • 重点調査分野は消費税還付法人・海外取引法人・無申告法人・富裕層・暗号資産取引個人
  • KSKシステム・AI・CRS情報の連携で、申告漏れの検出は加速度的に高精度化
  • 対策は①業界指標との乖離理由の文書化 ②書面添付制度の活用 ③証憑の電子保存整備
税務調査は「件数が減っているから安心」ではなく、「一度対象となれば高確率で追徴」という新局面に入っています。データを正しく読み、平時から備えることが、調査を乗り切る最大の武器です。

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