【税理士×行政書士が解説】工事完成基準と工事進行基準の選択|10億円・1年超の強制適用ルールと中小建設業の実務

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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工事完成基準と工事進行基準の選択|10億円・1年超の強制適用ルールと中小建設業の実務
「工事の売上はいつ計上すればいいのか」「うちの規模でも進行基準が必要なのか」とお悩みの建設業経営者に向けて、工事完成基準と工事進行基準の違い、強制適用の判定基準、工事原価の配賦方法、消費税の課税時期まで中小建設業の実務目線で完全ガイドします。
🏆 結論:ほとんどの中小建設業は「工事完成基準」でOK
法人税上、工事進行基準が強制されるのは「工期1年以上・請負金額10億円以上」の長期大規模工事のみです。それ以外の工事は完成基準と進行基準を選択でき、事務処理の簡便さから多くの中小建設業は完成基準を採用しています。ただし、工事台帳の整備と未成工事支出金の適正な計上は、完成基準でも必須の実務です。
工事完成基準と工事進行基準の違い【基本を3分で理解】
工事完成基準とは、工事が完成して引渡しが完了した時点で売上(完成工事高)と原価(完成工事原価)を一括計上する方法です。工事進行基準とは、工事の進捗率に応じて、決算期ごとに売上と原価を段階的に計上する方法です。
| 比較項目 |
工事完成基準 |
工事進行基準 |
| 売上の計上時期 | 工事完成・引渡時に一括計上 | 決算期ごとに進捗率で按分計上 |
| 原価の計上時期 | 完成時に一括計上(期中は未成工事支出金) | 売上に対応する原価を期間按分 |
| 事務処理の手間 | 比較的簡便 | 見積原価の管理と進捗率計算が必要 |
| 決算書への影響 | 完成期に利益が集中 | 期間ごとに利益が平準化 |
| 中小建設業での採用 | 圧倒的に多い | 少数(強制適用の場合を除く) |
具体例で理解する2つの基準の違い
📐 シミュレーション前提条件
- 請負金額:1億円(税抜)
- 見積工事原価総額:7,000万円
- 工期:第1期着工→第2期完成(2期にまたがる工事)
- 実際発生原価:第1期 2,100万円、第2期 4,900万円
| 項目 |
完成基準 第1期 |
完成基準 第2期 |
進行基準 第1期 |
進行基準 第2期 |
| 完成工事高(売上) | 0円 | 1億円 | 3,000万円 | 7,000万円 |
| 完成工事原価 | 0円 | 7,000万円 | 2,100万円 | 4,900万円 |
| 工事利益 | 0円 | 3,000万円 | 900万円 | 2,100万円 |
※進行基準の第1期売上=1億円×(2,100万円÷7,000万円)=3,000万円。進捗率30%。
完成基準では第1期の利益がゼロ、第2期に3,000万円の利益が集中します。進行基準では第1期に900万円、第2期に2,100万円と利益が分散されます。利益総額は同じ3,000万円ですが、法人税の計算対象となるタイミングが異なるため、資金繰りや融資審査への影響が変わってきます。
長期大規模工事の判定基準【3条件チェック】
法人税法第64条および施行令第129条により、以下の3条件をすべて満たす工事は「長期大規模工事」に該当し、工事進行基準の適用が強制されます。
| 条件 |
具体的な基準 |
判定のポイント |
| ①工期 | 1年以上 | 着工日から引渡予定日まで1年以上 |
| ②請負金額 | 10億円以上 | 消費税抜きの請負金額で判定 |
| ③支払条件 | 請負金額の50%超を引渡日から1年以内に受領 | 割賦払いの長期契約は除外される場合がある |
💡 実務のポイント
中小建設業で請負金額10億円以上の工事を受注することはまれですが、JV(共同企業体)で大型工事に参加する場合は注意が必要です。JVの構成員としての持分金額ではなく、JV全体の請負金額で判定されるため、自社の持分が小さくても長期大規模工事に該当する可能性があります。
中小建設業の基準選択フローチャート
| チェック項目 |
Yes |
No |
| ①請負金額10億円以上 かつ 工期1年以上か? | → 進行基準が強制 | → 次へ |
| ②決算書で利益を平準化したいか? | → 進行基準を検討 | → 次へ |
| ③工事台帳・見積原価の管理体制があるか? | → 進行基準を選択可能 | → 完成基準が安全 |
建設業会計の勘定科目と勘定連絡図
建設業では一般企業と異なる固有の勘定科目を使用します。まず、主要な勘定科目の対応関係を把握しましょう。
| 一般企業の勘定科目 |
建設業の勘定科目 |
説明 |
| 売上高 | 完成工事高 | 完成・引渡した工事の請負金額 |
| 売上原価 | 完成工事原価 | 完成工事に対応する原価 |
| 仕掛品 | 未成工事支出金 | 未完成工事に投入した原価の累計 |
| 前受金 | 未成工事受入金 | 未完成工事の出来高請求分の入金 |
| 売上総利益 | 完成工事総利益 | 完成工事高−完成工事原価 |
📊 公認会計士の視点
建設業の決算書は、勘定科目が一般企業と異なるため、金融機関の融資担当者でも読み方を理解していないケースがあります。融資申請時には、完成工事高の推移、完成工事総利益率、未成工事支出金の残高推移を補足説明するとスムーズです。未成工事支出金が急増している場合は「大型工事の進行中」であることを説明できるよう、工事台帳を整備しておきましょう。
工事原価の4分類と配賦計算の具体例
建設業の工事原価は、材料費・労務費・外注費・経費の4つに分類されます。各原価を工事ごとに正確に集計することが、完成基準・進行基準いずれを採用する場合でも基本となります。
| 原価区分 |
内容 |
計上のポイント |
| 材料費 | 鉄骨・コンクリート・木材・塗料等 | 発注伝票と納品書で工事別に集計 |
| 労務費 | 自社職人の賃金・法定福利費 | 出面表(日報)に基づき工事別に配賦 |
| 外注費 | 下請・一人親方への支払い | 請求書と請負契約書で工事別に集計 |
| 経費 | 重機リース・仮設費・現場事務所・保険料等 | 直接経費は工事別、間接経費は配賦基準で按分 |
間接経費の配賦方法
複数の工事で共通して発生する間接経費(現場監督の人件費、重機の減価償却費など)は、合理的な配賦基準で各工事に按分する必要があります。
| 配賦基準 |
適用する経費の例 |
計算方法 |
| 直接工事費比率 | 現場管理費全般 | 各工事の直接工事費÷全工事の直接工事費合計 |
| 労務費比率 | 監督員の人件費 | 各工事の労務費÷全工事の労務費合計 |
| 工事日数比率 | 重機リース費 | 各工事の使用日数÷全工事の合計使用日数 |
外注費と給与の区分(一人親方への支払い)については「建設業の外注費が「給与」と認定されたら?」で詳しく解説しています。
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未成工事支出金と未成工事受入金の仕訳【4つのタイミング】
工事完成基準を採用している場合の、工事着手から完成・引渡しまでの一連の仕訳を確認します。
①工事着手時(材料の仕入れ)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 未成工事支出金 | 500万円 | 買掛金 | 500万円 |
②出来高請求の入金時
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 普通預金 | 300万円 | 未成工事受入金 | 300万円 |
③工事完成・引渡時(売上計上)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 完成工事未収入金 | 700万円 | 完成工事高 | 1,000万円 |
| 未成工事受入金 | 300万円 | | |
④原価の振替
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 完成工事原価 | 700万円 | 未成工事支出金 | 700万円 |
⚠️ 注意
出来高請求で入金があっても、工事完成基準では売上計上できません。入金額は「未成工事受入金(前受金)」として負債に計上します。出来高請求を売上に計上してしまうと、税務調査で「期ずれ」として指摘される原因になります。出来高請求と部分完成(実際の引渡し)は異なる概念です。
部分完成基準の活用法
部分完成基準とは、工事の一部が完成し、その部分について実際に引渡しが行われた場合に、引渡し部分に対応する収益を計上する方法です。法人税上は工事完成基準の一形態として位置づけられています。
部分完成基準が適用される具体例
たとえば、建売住宅10戸の造成・建築工事で、5戸が完成して引渡しが済んだ場合、その5戸分の売上と原価を当期に計上できます。ただし、あくまで「実際の引渡し」が要件であり、出来高請求による入金は部分完成には該当しません。
確定申告の基本的な流れについては「フリーランス・個人事業主の確定申告ガイド」もご参照ください。
消費税の課税時期の選択【完成時一括 or 進行に合わせて】
消費税の課税売上の認識時期は、法人税の売上計上時期と必ずしも一致しません。原則と特例の2つの方法があります。
| 方法 |
課税売上の認識時期 |
適用場面 |
| 原則 | 工事完成・引渡時に一括認識 | 完成基準を採用する大多数の中小建設業 |
| 特例(消税法17条) | 法人税の進行基準に合わせて段階的認識 | 進行基準を適用する工事 |
💡 実務のポイント
注意すべきは「消費税のみ進行基準で処理し、売上は完成基準」という組み合わせは認められないことです。消費税の特例を適用する場合は、法人税上の売上も進行基準で計上している必要があります。また、仕入側(材料費・外注費等の仮払消費税)は、原則として支払時点で課税仕入れを認識します。
基準選択が決算書と融資に与える影響
融資審査での見え方の違い
| 評価項目 |
完成基準 |
進行基準 |
| 売上の安定性 | 大型工事の有無で年度間の変動が大きい | 利益が平準化され安定的に見える |
| 未成工事支出金の残高 | 期末に大型の仕掛工事があると膨らむ | 進捗に応じて売上化されるため減少 |
| 経審(経営事項審査) | 完成時期により評点が変動 | 年度ごとの実力が反映されやすい |
不動産所得と建設業の関連については「不動産賃貸所得の計算と確定申告ガイド」で解説しています。
工事台帳の整備と税務調査対策
工事完成基準を採用している場合でも、工事台帳の整備は必須です。税務調査では、未成工事支出金の期末残高が適正かどうかが重点的に確認されます。
工事台帳に記録すべき項目
| 記録項目 |
記録内容 |
| 工事名・工事番号 | 元請との契約書に基づく工事名称と社内管理番号 |
| 発注者・元請名 | 発注者名と連絡先 |
| 請負金額 | 当初契約金額と追加変更金額 |
| 工期 | 着工日・完成予定日・実際の完成日・引渡日 |
| 原価明細 | 材料費・労務費・外注費・経費の月別発生額と累計額 |
| 入金状況 | 出来高請求額・入金日・残高 |
税務調査では「期末時点で完成しているのに、翌期に売上を遅らせていないか」が最もチェックされます。工事の完成日と引渡日の証跡(引渡確認書・検査済証など)を工事台帳に添付しておくことが重要です。
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よくある質問(FAQ)
工事進行基準が強制適用される条件は何ですか?
法人税法上の「長期大規模工事」に該当する場合に強制されます。具体的には、工期1年以上、請負金額10億円以上、かつ請負金額の50%超を引渡日から1年以内に受領する契約の3条件をすべて満たす工事です(法人税法64条1項、施行令129条)。
中小建設業でも工事進行基準は必要ですか?
長期大規模工事に該当しなければ、完成基準と進行基準を選択できます。多くの中小建設業では完成基準を採用しています。ただし、JVで大型工事に参加する場合はJV全体の請負金額で判定されるため、自社単独では小規模でも強制適用になる可能性があります。
工事進行基準の進捗率はどう計算しますか?
一般的には「原価比例法」を使います。進捗率=決算日までの実際発生原価累計÷見積工事原価総額です。見積原価の精度が進捗率の信頼性を左右するため、工事台帳で原価を正確に管理することが前提となります。
出来高請求の入金は売上に計上できますか?
工事完成基準では計上できません。出来高請求による入金は「未成工事受入金(前受金)」として処理します。出来高請求はあくまで資金の前渡しであり、工事の完成・引渡しとは異なります。売上に計上すると「期ずれ」として税務調査で指摘されます。
赤字工事の場合、進行基準のほうが有利ですか?
赤字が見込まれる工事では、進行基準を採用すると赤字を早期に計上でき、他の黒字工事の利益と相殺して法人税の負担を軽減できます。完成基準では完成時まで赤字が表面化しないため、対策が遅れるリスクがあります。
一度完成基準を選択した工事を途中から進行基準に変更できますか?
できません。着工事業年度に完成基準を適用した工事は、翌事業年度以降に進行基準に移行することはできないと規定されています(法人税法64条2項、施行令129条5項)。基準の選択は着工時に慎重に行ってください。
未成工事支出金が過大になると問題がありますか?
税務調査で「完成しているのに未成工事支出金に残していないか(期ずれ)」を重点的に確認されます。また、金融機関は未成工事支出金の急増を資金繰り悪化のサインと見る場合があるため、工事の進捗状況を説明できる書類の整備が重要です。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 工事完成基準は完成・引渡時に一括計上、工事進行基準は進捗率に応じて期間按分で計上
- 長期大規模工事(工期1年以上+請負金額10億円以上+支払条件)は進行基準が強制適用
- ほとんどの中小建設業は完成基準で問題ないが、工事台帳の整備は必須
- 建設業特有の勘定科目(完成工事高・完成工事原価・未成工事支出金・未成工事受入金)を正しく使用する
- 出来高請求の入金は前受金(未成工事受入金)であり売上ではない
- 消費税は原則として完成・引渡時に認識するが、進行基準に合わせた特例も選択可能
- 税務調査では「期ずれ」(完成しているのに翌期に売上を持ち越していないか)が重点チェック項目
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