人材派遣業の許可要件と申請手続き|資産2,000万・責任者講習を整理

人材派遣業の許可要件と申請手続き|資産2,000万・責任者講習を整理
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

人材派遣業(労働者派遣事業)の許可要件と申請手続き|資産2,000万・責任者講習・実地調査を完全整理

人材派遣ビジネスで新規参入を考える創業者・法人経営者に向けて、労働者派遣事業の3大要件(財産的要件・事業所要件・派遣元責任者要件)、基準資産2,000万円の計算式、事務所20㎡要件と実地調査、申請フローから費用までを行政書士・社労士の視点で整理します。この記事を読めば、自社が要件を満たすか判定し、申請を進められます。

🏆 結論:派遣業許可は「2,000万円・20㎡・3年講習」の3本柱

労働者派遣事業は2015年改正で全事業許可制に一本化され、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。最大のハードルは基準資産2,000万円以上・現預金1,500万円以上の財産的要件、20㎡以上の事務所要件、派遣元責任者講習(3年有効)受講の3点です。許可取得には3〜6ヶ月、登録免許税9万円+手数料12万円=21万円の法定費用がかかります。新規許可の有効期間は3年で、その後は5年ごとの更新制です。

労働者派遣事業とは?2015年改正後の許可制一本化

労働者派遣事業とは、自己の雇用する労働者を他社(派遣先)の指揮命令下で働かせる事業です(労働者派遣法第2条第3号)。派遣元(派遣会社)が労働者と雇用契約を結び、派遣先に労働力を提供する三者関係が特徴です。無許可営業は労働者派遣法第59条に基づき1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります。

2015年改正の意義

2015年9月30日の労働者派遣法改正により、従来の「一般労働者派遣事業(許可制)」と「特定労働者派遣事業(届出制)」の区分が廃止され、すべての派遣事業が許可制に一本化されました。小規模な届出制の特定派遣事業者は経過措置期間を経て、現在は許可制への移行が完了しています。

制度の詳細は厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」のページに整理されています。

派遣事業と混同しやすい事業の区分

事業 雇用関係 必要な手続き
労働者派遣事業派遣元と雇用契約、派遣先の指揮命令許可(本記事)
有料職業紹介事業紹介先企業と直接雇用許可(別制度)
業務請負請負会社が自社の指揮命令で業務遂行原則不要
業務委託・準委任成果物または事務処理の委託原則不要

⚠️ 注意:偽装請負は違法

実質的に派遣事業でありながら、請負契約として装う「偽装請負」は労働者派遣法違反です。発注者側の指揮命令があれば派遣事業に該当し、無許可営業となります。請負と派遣の線引きは「指揮命令権がどちらにあるか」であり、契約形態だけでは判断されません。近年、IT業界のSES契約(システムエンジニアリングサービス)で偽装請負が問題化しており、労働局の重点監査対象となっています。

建設業での請負と派遣の区分は特に複雑で、建設業法上の請負契約と労働者派遣法の線引きで実務判断が分かれます。関連する建設業許可の体系は「建設業許可の要件と申請フロー」も参照ください。

許可の3大要件

労働者派遣事業の許可は、厚生労働大臣(実務上は所轄の都道府県労働局)の審査を経て付与されます。許可基準は労働者派遣法第7条に基づき、大きく3つの要件に整理されます。

要件1:財産的要件(最大のハードル)

派遣労働者の保護のため、派遣元の財産的基礎が確保されている必要があります。以下の3つの計算式をすべて満たす必要があります。

📐 財産的要件の3計算式

①基準資産額 ≧ 2,000万円 × 事業所数
②基準資産額 ≧ 負債総額 × 1/7
③自己名義の現金・預金 ≧ 1,500万円 × 事業所数
※基準資産額 = 資産総額 − 負債総額 − 繰延資産 − 営業権(のれん)

財産要件の具体計算例

会社の状態 資産 負債 現預金 判定
パターンA:資産過小1,800万円0円1,800万円×(①不足)
パターンB:現預金過少3,000万円500万円1,200万円×(③不足)
パターンC:負債過多2,500万円300万円1,600万円○(全て充足)
パターンD:資本金5,000万円系5,000万円1,000万円2,000万円○(余裕あり)

📊 税理士の視点:資本金と資産要件は別物

「資本金2,000万円で会社を設立すれば派遣業許可が取れる」と誤解されがちですが、資本金=基準資産額ではありません。設立時に資本金2,000万円を払い込んでも、登記費用・事務所開設費・給与・消費税納付等で現預金が減り、基準資産額が不足するケースが頻発します。会社設立後すぐに派遣業許可を取りたい場合、余裕を持って資本金2,500万〜3,000万円でスタートすることを推奨します。

要件2:事業所要件(20㎡以上)

派遣事業を行う事業所には、以下の要件があります。

  • 事業で使用し得る面積が20㎡以上
  • 使用目的が事務所であること(賃貸借契約書の使用目的との一致)
  • 事業所の独立性(別法人と同居していないこと)
  • 個人秘密を保持できる構造(鍵付きキャビネット等)
  • 風俗営業が密集する等、事業の運営に好ましくない場所でないこと

事業所実地調査でチェックされる項目

申請後、労働局による事業所の実地調査が必ず行われます。事前準備のチェックリストは以下のとおりです。

チェック項目 内容
派遣元責任者の席責任者が常駐する席が確保されているか
職務代行者の席代行者の席が確保されているか
鍵付きキャビネット個人情報を保管する施錠可能な収納
研修・面談スペース派遣労働者との面談・教育訓練が行える空間
社名表示ビル入口・玄関・ドアに社名プレート
面積の確保実測で20㎡以上(含む廊下・共用スペース除く)
独立性壁で他社スペースと区切られ、独立した入口

⚠️ 注意:バーチャルオフィス・レンタルオフィスは原則不可

バーチャルオフィス、住所貸しサービス、一部のレンタルオフィスでは事業所要件を満たせません。独立した区画がない、他社と同室といった状況では実地調査で不許可となります。自社専用の個室(扉付き)があるシェアオフィスやサービスオフィスでも、労働局が個別判定するため物件契約前の労働局への事前確認が必須です。

要件3:派遣元責任者の選任

労働者派遣法第36条により、事業所ごと、または派遣労働者100人につき1名の派遣元責任者の選任が義務付けられています。

派遣元責任者の資格要件

  • 成年被後見人・被保佐人・破産者(復権未了)ではない
  • 禁錮以上の刑または労働関係法令違反で罰金刑を受けて5年経過
  • 暴力団員・反社会的勢力でない
  • 住所・労働条件等の要件を満たす
  • 「派遣元責任者講習」を3年以内に受講していること

派遣元責任者講習

派遣元責任者講習は厚生労働省認定の講習実施機関が全国で開催しています。

項目 内容
受講時間1日(6時間)
受講費用1万円前後
開催頻度東京で月2〜3回、地方は2〜3ヶ月に1回
有効期限3年(期限前に再受講必須)
欠格事由受講証明書3年以上古い場合は効力なし

🔷 社労士の視点

派遣元責任者は派遣労働者100人につき1名の追加選任が必要です。事業拡大時には、追加の派遣元責任者候補の講習受講スケジュールを早めに計画しないと、100人を超えた瞬間に違反状態となります。また、労働・社会保険の適正加入は許可の前提条件で、派遣スタッフを社保未加入のまま放置している場合は許可取得不可です。

キャリア形成支援制度の要件

2015年改正で新設された派遣業特有の要件が「キャリア形成支援制度」です。派遣労働者のキャリアアップを派遣元が支援する体制が許可要件となっています。

必要な措置

  1. 段階的・体系的な教育訓練の実施(業種・職種別に計画)
  2. 相談窓口の設置(キャリアコンサルティングを実施)
  3. 教育訓練計画の作成(年間の訓練内容・時間を明記)
  4. 教育訓練への参加機会の付与(業務時間内実施が原則)
  5. 無料での訓練受講機会の提供

申請時には、キャリア形成支援制度の運用計画書を提出します。実務上、行政からの指摘を受けやすいポイントで、業種ごとに具体的な訓練内容を記載しないと差し戻される傾向にあります。

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許可の対象とならない業務

労働者派遣法第4条第1項により、以下の業務では派遣事業自体が禁止されています。

禁止業務 理由
港湾運送業務港湾労働法により別途規制あり
建設業務建設労働者の雇用改善法で規制
警備業務警備業法により雇用関係が限定
医療関係業務(一部を除く)医師・看護師等は紹介予定派遣・産休代替等に限定
弁護士・司法書士等の士業業務各士業法で独占業務として規制

これらの業務で人材を提供する場合、派遣ではなく業務請負、有料職業紹介、士業事務所としての対応が必要となります。有料職業紹介事業の詳細は「有料職業紹介事業の許可要件と申請」、介護関連の派遣・紹介は「介護事業の指定申請と要件」で別途解説しています。

許可申請の流れ【8ステップ】

許可申請から取得までの期間は3〜6ヶ月です。財産要件の確保・事業所準備・派遣元責任者の講習受講を並行進行します。

ステップ別タイムライン

時期 実施事項
−6ヶ月事業計画策定、派遣元責任者の確保、事業所物件選定
−5ヶ月派遣元責任者講習の受講、労働局への事前相談
−4ヶ月定款変更(事業目的に「労働者派遣事業」を記載)、資産要件の充足確認
−3ヶ月事業所の鍵付きキャビネット・研修スペース等の整備、キャリア形成支援制度の設計
−2ヶ月申請書類の作成、収入印紙・登録免許税の準備
申請日都道府県労働局へ申請書類提出
申請+1〜2ヶ月労働局による実地調査(事業所訪問)
申請+2〜3ヶ月厚生労働大臣の許可、許可証交付、営業開始

申請書類一覧

  • 労働者派遣事業許可申請書
  • 労働者派遣事業計画書
  • 定款・法人登記事項証明書
  • 直近事業年度の貸借対照表・損益計算書(現預金・基準資産額の証明)
  • 派遣元責任者の履歴書・住民票・受講証明書(3年以内)
  • 事業所の賃貸借契約書の写し・平面図・見取図
  • 就業規則(派遣労働者用)
  • 労働契約書の雛形
  • 個人情報適正管理規程
  • キャリア形成支援制度の運用計画書・教育訓練計画
  • 役員の履歴書・住民票・誓約書
  • 自己チェックシート

取得にかかる費用の総額

📐 費用シミュレーション前提条件

  • 事業所1箇所の新規許可を想定
  • 財産要件は既に満たしている前提(基準資産2,000万円は別途必要)
  • 2026年4月時点の水準
費目 自分で申請 行政書士依頼
登録免許税9万円9万円
収入印紙(手数料)12万円12万円
派遣元責任者講習約1万円約1万円
事務所整備費(備品等)10〜30万円10〜30万円
登記事項証明書等の書類取得5,000〜1万円5,000〜1万円
行政書士報酬20〜40万円
合計(法定費用+整備費)約32〜53万円約52〜93万円

これに加えて、基準資産2,000万円以上・現預金1,500万円以上の自己資金が必要です(これは費用ではなく事業用資産として保有)。

許可取得後の更新と義務

新規許可の有効期間は3年で、その後は5年ごとの更新制です(労働者派遣法第10条)。更新時には改めて財産要件の充足確認、派遣元責任者の再講習受講証明、事業所の実地調査を経る必要があります。

継続的な義務

  • 毎事業年度終了後の事業報告書(6月末まで)
  • 関係派遣先への定期報告
  • 派遣元責任者の3年ごとの再講習受講
  • 派遣労働者との雇用契約・契約書類の整備
  • 派遣先への労働者派遣個別契約書の締結
  • 派遣労働者の社会保険加入義務の履行
  • キャリア形成支援の実施記録
  • マージン率等の情報開示(労働者派遣法第23条第5項)

📝 行政書士の視点:更新時の資産要件不足に要注意

初回許可取得時は資産要件を満たしていても、毎年の決算で赤字が続くと5年後の更新時に基準資産額を下回るケースがあります。更新不許可となれば事業継続ができなくなるため、決算対策・増資・貸付金の資本組入等を税理士と連携して計画的に進めることが重要です。

よくある質問

資本金1,000万円で設立した会社でも派遣業許可は取れますか?
決算時点で基準資産額2,000万円以上・現預金1,500万円以上を満たしていれば取得可能です。資本金の金額ではなく、直近決算書の純資産(資本金+利益剰余金等)で判定されます。資本金1,000万円でも、利益を積み重ねて純資産が2,000万円超になっていれば要件を満たします。
バーチャルオフィスで派遣業許可は取れますか?
ほぼ不可能です。派遣業許可は20㎡以上の独立した事業所を要件とするため、バーチャルオフィス(住所貸しのみ)では事業所要件を満たしません。個室型のシェアオフィス・レンタルオフィスでも労働局の個別判定で不許可となるケースが多いため、物件契約前に労働局へ相談すべきです。
経営者本人が派遣元責任者を兼任できますか?
可能です。ただし派遣元責任者講習を受講し、有効な受講証明書(3年以内)を持つ必要があります。経営者が受講しておくと、採用した責任者が退職した場合にも即座に対応できるため、リスクヘッジとして役立ちます。
派遣業と有料職業紹介事業、どちらも始めるには別々の許可が必要ですか?
はい、それぞれ別の許可が必要です。労働者派遣事業許可(本記事)と有料職業紹介事業許可は根拠法令(派遣法と職業安定法)が異なり、許可基準・事務所要件・資産要件等も別々に判定されます。ただし同一事業所で両方を運営することは可能で、相互に補完関係にあります。
建設業での派遣はできないと聞きましたが、例外はありますか?
原則として建設業務への派遣は全面禁止ですが、事務系の業務(経理・人事・総務等)で建設会社に派遣することは可能です。また、建設労働者の雇用改善法に基づく「建設業務労働者就業機会確保事業」の認可を受ければ、建設業務への労働者提供は可能です(通常の派遣とは別制度)。
派遣元責任者が退職した場合、すぐに営業停止になりますか?
派遣元責任者は事業所ごとに1名以上必要で、欠けると許可要件違反となります。ただし、即座に営業停止ではなく、労働局への変更届と新たな責任者の選任・講習受講で対応可能です。退職前に後任を決め、講習受講を済ませておくことが実務上の必須対応です。
派遣元責任者講習はオンラインで受けられますか?
2020年以降、一部の講習機関でオンライン受講が可能です。ただし、講習実施機関によって対応状況が異なるため、厚生労働省認定の講習機関一覧から受講可能な形式を確認してください。オンラインでも対面と同じ効力があります。

まとめ:派遣業許可は「3要件+5法定費用」で動き出す

📋 この記事のポイント

  • 2015年改正で派遣事業は許可制に一本化、厚生労働大臣の許可が必須
  • 財産的要件:基準資産2,000万円以上・現預金1,500万円以上・負債1/7以上
  • 事業所要件:20㎡以上・独立性・鍵付きキャビネット・社名表示
  • 派遣元責任者:事業所ごと1名以上、3年有効の講習受講が必須
  • キャリア形成支援制度:業種別の教育訓練計画の作成が必要
  • 新規許可3年→更新5年ごと、毎年の事業報告書提出義務あり
  • 法定費用は登録免許税9万円+手数料12万円+講習1万円+整備費等で約30〜50万円
  • 港湾・建設・警備・医療・士業業務への派遣は禁止

✅ 次のアクション

  • 直近決算書で基準資産額・現預金・負債比率を確認する
  • 事業所候補物件の20㎡要件・独立性を確認する
  • 派遣元責任者講習の受講スケジュールを確保する
  • キャリア形成支援制度の教育訓練計画を作成する
  • 定款の事業目的に「労働者派遣事業」の記載があるか確認する
  • 専門家(行政書士・社労士・税理士)に初期相談する

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