配偶者居住権の評価方法と相続税への影響|計算ステップと節税シミュレーション

配偶者居住権の評価方法と相続税への影響|計算ステップと節税シミュレーション
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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配偶者居住権の相続税評価がわからず困っている方に向けて、4つの権利への分解方法・計算式に必要な5つの数値の調べ方・配偶者の年齢別シミュレーション・二次相続での節税効果を完全ガイドします。この記事を読めば、配偶者居住権の評価額を自分で計算し、設定すべきかどうかを判断できます。

🏆 結論:配偶者居住権は「住まいの確保」と「二次相続の節税」を両立できる制度

配偶者居住権を設定すると、自宅不動産の評価額が「配偶者居住権(配偶者が取得)」と「所有権(子が取得)」に分かれます。配偶者は住まいを確保しつつ預貯金も相続でき、さらに配偶者居住権は配偶者の死亡で消滅するため二次相続の課税対象にならないという節税メリットがあります。評価には建物の時価・残存耐用年数・配偶者の平均余命・複利現価率(法定利率3%)の4要素が必要です。

配偶者居住権とは?制度の基本を理解する

配偶者居住権とは、亡くなった方の配偶者が、相続開始時に住んでいた自宅に終身または一定期間、無償で住み続けることができる権利です。令和2年(2020年)4月1日施行の民法改正で新設されました。

なぜこの制度ができたのか

従来の民法では、配偶者が住み慣れた自宅に住み続けるためには自宅の所有権を相続する必要がありました。しかし、自宅の評価額が高い場合、配偶者が自宅を相続すると預貯金の取得分が減り、その後の生活資金が不足するという問題がありました。

たとえば、遺産総額5,000万円(自宅3,000万円+預貯金2,000万円)で配偶者と子1人が相続する場合、法定相続分どおりに分けると各自2,500万円です。配偶者が自宅3,000万円を取得すると、500万円の超過となり、子に代償金を支払うか自宅を売却する必要が生じます。

配偶者居住権を使えば、自宅を「住む権利」と「所有権」に分離して相続できるため、配偶者は住まいと生活資金の両方を確保できるようになります。

配偶者居住権の要件

要件 内容
対象者被相続人の法律上の配偶者(内縁は不可)
居住実態相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと
取得方法①遺産分割協議、②遺贈(遺言に「遺贈する」と記載)、③家庭裁判所の審判
建物の共有被相続人と配偶者の共有は可。第三者との共有は不可
登記登記が必要(登録免許税:建物の固定資産税評価額×0.2%)

⚠️ 遺言書の文言に注意

遺言で配偶者居住権を設定する場合、「配偶者居住権を遺贈する」と記載する必要があります。「相続させる」と書くと法的に有効にならない可能性があるため要注意です。自筆証書遺言ではこの点を見落としがちなので、公正証書遺言を推奨します。

自宅を「4つの権利」に分けて評価する

配偶者居住権を設定すると、自宅不動産は以下の4つの権利に分かれて評価されます。これが配偶者居住権の評価を理解する最も重要なポイントです。

区分 権利の名称 取得者 評価方法
建物①配偶者居住権配偶者建物の時価 − 建物所有権の価額
建物②建物の所有権子など建物の時価 ×(残存耐用年数−存続年数)÷ 残存耐用年数 × 複利現価率
土地③敷地利用権配偶者土地の時価 − 土地所有権の価額
土地④土地の所有権子など土地の時価 × 複利現価率

配偶者が取得するのは①と③(住む権利+敷地の利用権)、子が取得するのは②と④(所有権)です。①+③の合計が配偶者居住権の評価額となり、配偶者の相続税の課税対象になります。

💡 実務のポイント

評価のコツは「先に所有権(②と④)を計算し、全体の時価から引き算する」ことです。所有権は将来の価値を複利現価率で現在価値に割り引いて計算するため、配偶者の存続年数(平均余命)が長いほど所有権の価額は小さくなり、結果として配偶者居住権の評価額は大きくなります。

計算に必要な5つの数値の調べ方

配偶者居住権の評価計算に必要な5つの数値と、それぞれの入手方法を整理します。

# 必要な数値 内容 調べ方
建物の時価固定資産税評価額固定資産税納税通知書の課税明細書の「価格」または「評価額」欄
残存耐用年数法定耐用年数×1.5 − 経過年数構造別の法定耐用年数から計算。木造=22年×1.5=33年。鉄骨=34年×1.5=51年。鉄筋コンクリート=47年×1.5=70年
存続年数配偶者居住権の設定期間終身の場合→厚生労働省の簡易生命表から配偶者の平均余命を使用。有期の場合→設定した年数
複利現価率法定利率(現行3%)で存続年数に対応する率国税庁の複利現価率表で存続年数に対応する率を参照
土地の時価相続税評価額(路線価方式 or 倍率方式)国税庁の路線価図 or 評価倍率表で計算

参考: 国税庁「No.4666 配偶者居住権等の評価」

💡 実務のポイント

経過年数の計算では、6ヶ月未満の端数は切り捨て、6ヶ月以上は1年に切り上げます。また、残存耐用年数がゼロ以下(すでに耐用年数を超えている建物)の場合は、建物所有権の価額がゼロになるため、建物の時価がそのまま配偶者居住権の評価額になります。築年数の古い木造住宅ではこのケースがよく起こります。

配偶者居住権の計算方法【具体例で解説】

📐 シミュレーション前提条件

  • 被相続人:夫(死亡)
  • 配偶者:妻(75歳)、終身の配偶者居住権を取得
  • 建物:木造2階建て、築10年、固定資産税評価額800万円
  • 土地:路線価方式で評価額3,000万円
  • 法定利率:3%

ステップ1:残存耐用年数の計算

木造の法定耐用年数22年 × 1.5 = 33年
残存耐用年数 = 33年 − 10年(経過年数) = 23年

ステップ2:存続年数の確認

75歳女性の平均余命 = 16年(簡易生命表より)

ステップ3:複利現価率の確認

法定利率3%、存続年数16年に対応する複利現価率 = 0.623

ステップ4:建物の所有権を計算

800万円 ×(23年 − 16年)÷ 23年 × 0.623
= 800万円 × 7/23 × 0.623
= 800万円 × 0.3043 × 0.623
約152万円

ステップ5:配偶者居住権(建物)を計算

800万円 − 152万円 = 約648万円

ステップ6:土地の所有権を計算

3,000万円 × 0.623 = 1,869万円

ステップ7:敷地利用権を計算

3,000万円 − 1,869万円 = 1,131万円

計算結果のまとめ

権利 取得者 評価額
配偶者居住権(建物)648万円
建物所有権152万円
敷地利用権1,131万円
土地所有権1,869万円
妻の取得分合計(①+③)1,779万円
子の取得分合計(②+④)2,021万円

自宅の評価額3,800万円のうち、配偶者居住権として1,779万円が妻に、所有権として2,021万円が子に分かれます。

土地の相続税評価の基本については、「土地の相続税評価|路線価方式・倍率方式の計算方法」をご覧ください。

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配偶者の年齢別シミュレーション

配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢(=平均余命=存続年数)によって大きく変わります。同じ自宅でも、配偶者が若いほど居住権の評価額は高く、高齢ほど低くなります。

📐 シミュレーション前提条件

  • 建物:木造、築15年、固定資産税評価額600万円(残存耐用年数18年)
  • 土地:路線価評価額4,000万円
  • 存続期間:終身
配偶者の年齢 平均余命
(女性)
複利
現価率
配偶者居住権
(建物+敷地利用権)
所有権
(建物+土地)
65歳25年0.4782,688万円1,912万円
75歳16年0.6231,955万円2,645万円
85歳8年0.7891,177万円3,423万円

※概算値です。残存耐用年数が存続年数を下回る場合(85歳:存続8年<残存18年なので問題なし)は建物所有権の計算が変わります。

65歳の場合、自宅4,600万円のうち配偶者居住権が2,688万円(約58%)を占めます。85歳では1,177万円(約26%)にとどまります。配偶者が若いほど居住権の評価額が大きくなり、配偶者の相続分に占める自宅の割合が実質的に低くなるため、預貯金をより多く相続できます。

二次相続を見据えた節税効果

配偶者居住権の最大のメリットは、二次相続(配偶者が亡くなったとき)での節税効果です。

なぜ節税になるのか

配偶者居住権は、配偶者の死亡により自動的に消滅します。消滅した配偶者居住権は、二次相続の課税対象になりません。つまり、一次相続で配偶者が取得した1,779万円の配偶者居住権は、配偶者の死亡時に課税されることなく消えてしまうのです。

配偶者居住権あり/なしの相続税比較

📐 シミュレーション前提条件

  • 遺産総額:8,000万円(自宅3,800万円+預貯金4,200万円)
  • 相続人:妻(75歳)と子1人
  • 配偶者居住権の評価額:1,779万円(建物648万+敷地利用権1,131万)
  • 配偶者税額軽減を適用
  • 妻は一次相続後も財産を消費しない前提
項目 居住権なし
(自宅を妻が相続)
居住権あり
一次相続:妻の取得分自宅3,800万+預貯金200万
=4,000万円
居住権1,779万+預貯金2,221万
=4,000万円
一次相続税(合計)約235万円約235万円
二次相続時の妻の遺産自宅3,800万+預貯金200万
=4,000万円
預貯金2,221万円
(居住権は消滅、課税対象外)
二次相続税約160万円0円(基礎控除3,600万以下)
一次+二次の合計相続税約395万円約235万円

※概算値です。小規模宅地等の特例の適用は省略。実際の金額は個別の状況により異なります。

配偶者居住権を活用することで、一次+二次の合計で約160万円の節税になっています。これは、一次相続で配偶者居住権として取得した1,779万円分が二次相続で課税されなくなるためです。

相続税の計算方法の全体像については、「相続税の計算方法|基礎控除・税率・申告の流れ」で詳しく解説しています。

配偶者居住権の消滅時の課税関係

配偶者居住権がどのように消滅するかによって、課税の取扱いが異なります。

消滅の原因 課税の取扱い 実務上の注意点
配偶者の死亡課税なし。配偶者居住権は消滅し、建物所有者の所有権が完全な所有権に戻る二次相続で節税効果が発生するメインケース
合意による解除(無償)建物所有者に対して贈与税が課税される可能性あり配偶者が存命中に無償で放棄すると、所有者が経済的利益を受けたとみなされる
合意による解除(有償)配偶者に対して譲渡所得税が課税される。対価が時価より著しく低い場合は贈与税も問題に売却と同様の取扱い。譲渡所得の取得費は取得時の評価額
存続期間の満了(有期の場合)課税なし設定時に有期とした場合に限る
建物の滅失課税なし。配偶者居住権は消滅火災等で建物が滅失した場合

⚠️ 合意解除は慎重に

配偶者が施設に入所するなどの理由で配偶者居住権を合意解除するケースがあります。無償で放棄すると、建物所有者(多くは子)に贈与税が課税される可能性があります。このような場合は事前に税理士に相談し、適切な対価の設定や課税関係の整理を行ってください。

配偶者居住権を設定すべきケースと不要なケース

判断基準 設定すべきケース 不要なケース
遺産に占める自宅の割合自宅の評価額が遺産の50%以上を占め、配偶者が住まいと生活資金の両方を確保したい預貯金が十分あり、自宅を相続しても生活資金に困らない
相続人間の関係前妻の子がいるなど、配偶者の居住を確保する必要がある配偶者と子の関係が良好で、自宅を配偶者が相続しても揉めない
二次相続の対策配偶者の固有資産が多く、二次相続の税負担を減らしたい配偶者の固有資産が少なく、二次相続税がかからない見込み
自宅の売却予定配偶者が終身住み続ける意思がある近い将来に自宅を売却する予定がある(居住権があると売却が困難)

小規模宅地等の特例の詳しい要件については、「小規模宅地等の特例の要件と計算方法」をご覧ください。

小規模宅地等の特例との関係

配偶者居住権が設定された場合、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)は敷地利用権(配偶者が取得する部分)に対して適用できます。配偶者が取得する敷地利用権部分について、330㎡まで80%の減額が適用されるため、配偶者の相続税はさらに軽減されます。

一方、子が取得する土地所有権部分についても、子が同居親族の要件を満たしていれば別途特例の適用が可能です。ただし、配偶者と子で適用面積の調整が必要な場合があるため、実務では税理士と一緒にシミュレーションすることをおすすめします。

申告時の必要書類と手続き

配偶者居住権を相続税申告に反映するためには、以下の書類が必要です。

# 書類名 備考
1配偶者居住権等の評価明細書国税庁の様式。評価額の算出根拠として提出必須
2相続税がかかる財産の明細書(第11表)配偶者居住権・建物所有権・敷地利用権・土地所有権を個別に記載
3遺産分割協議書 or 遺言書の写し配偶者居住権の設定が記載されていること
4配偶者居住権の登記事項証明書登記済みであることの証明
5建物の固定資産税課税明細書建物の時価(固定資産税評価額)の確認用

よくある質問(FAQ)

配偶者居住権は配偶者の死亡以外で消滅させることはできますか?
できます。配偶者と建物所有者の合意により解除できます。ただし、無償で放棄した場合は建物所有者に贈与税が課税される可能性があります。配偶者が施設入所などで自宅を出る場合は、事前に税理士に相談して課税関係を整理してください。
残存耐用年数がゼロ以下(すでに耐用年数を超えた建物)の場合、どう計算しますか?
残存耐用年数がゼロ以下の場合、建物所有権の価額はゼロ円になります。そのため、建物の固定資産税評価額がそのまま配偶者居住権の評価額になります。築年数が長い木造住宅(築33年超)ではこのケースが発生します。
配偶者居住権がある自宅を子が売却することはできますか?
法的には売却可能ですが、配偶者居住権は登記されているため、買主は配偶者が住み続けることを受け入れなければなりません。実際には配偶者居住権付きの不動産は買い手がつきにくく、市場価値が大幅に下がります。自宅の売却を予定している場合は、配偶者居住権の設定は慎重に検討してください。
配偶者居住権に小規模宅地等の特例は使えますか?
使えます。配偶者が取得する敷地利用権部分に対して、特定居住用宅地等の特例(330㎡まで80%減額)を適用できます。配偶者居住権の評価減と小規模宅地等の特例の二重適用が可能なため、大きな節税効果があります。
存続期間を「終身」ではなく「10年」などの有期にした方が税金は安くなりますか?
有期にすると存続年数が短くなるため、配偶者居住権の評価額は小さくなります。一次相続では配偶者の取得額が減るため配偶者税額軽減の効果が変わりますが、二次相続で消滅する金額も小さくなるため、二次相続の節税効果は終身より小さくなります。トータルの節税効果は個別にシミュレーションが必要です。
二次相続で、建物所有者(子)が先に亡くなった場合はどうなりますか?
建物所有者の相続人(孫など)が配偶者居住権付きの建物所有権と土地所有権を相続します。この場合の建物・土地の評価額は、相続税法23条の2の規定に準じて、その時点の配偶者の残存する存続年数で再計算します。配偶者居住権は引き続き有効で、配偶者は住み続けることができます。
法定利率3%は今後変わる可能性がありますか?
はい。民法の法定利率は3年ごとに見直される変動制です(2020年4月の改正民法施行時に5%→3%に変更)。次回の見直しは2026年4月ですが、変動幅が1%未満であれば変更されない仕組みのため、当面3%が維持される見込みです。法定利率が変わると複利現価率も変わり、配偶者居住権の評価額に影響します。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 配偶者居住権を設定すると、自宅は「配偶者居住権+敷地利用権」(配偶者)と「建物所有権+土地所有権」(子)の4つの権利に分かれる
  • 計算には5つの数値(建物時価・残存耐用年数・存続年数・複利現価率・土地時価)が必要
  • 配偶者が若いほど居住権の評価額は大きく、高齢ほど小さくなる
  • 配偶者居住権は配偶者の死亡で消滅し、二次相続の課税対象にならないため節税効果がある
  • 合意による無償放棄は贈与税の課税リスクがあるため慎重に
  • 小規模宅地等の特例と併用可能で、敷地利用権に80%減額を適用できる
  • 自宅の売却予定がある場合は設定すると不利になる可能性がある

配偶者居住権は、住まいの確保と相続税の節税を両立できる有力な制度です。ただし、設定すべきかどうかは遺産の内容・家族関係・二次相続の見通しによって異なります。評価額の計算も含めて、相続税に詳しい税理士に事前のシミュレーションを依頼されることをおすすめします。

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