【税理士×公認会計士が解説】DES(デットエクイティスワップ)の税務処理をめぐる判例

【税理士×公認会計士が解説】DES(デットエクイティスワップ)の税務処理をめぐる判例
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

DES(デットエクイティスワップ)の税務処理をめぐる判例

「社長貸付金をDESで解消したいが、税務上の問題はないか?」「DESで債務消滅益が出るとどれだけ課税されるのか?」とお悩みの経営者に向けて、DESの税務処理を判例とともに完全ガイドします。この記事を読めば、DESのスキーム選択で失敗しない判断ができるようになります。

🏆 結論:DESの税務リスクは「債務消滅益」の発生と「債権の時価評価」にある

DES(デットエクイティスワップ)とは、債権者が保有する債権を債務者の株式に転換する手法です。税務上の最大のポイントは、非適格現物出資に該当するDESでは、債権の額面と時価の差額が「債務消滅益」として課税対象になることです。平成18年度税制改正により、税務上は「評価額説」が採用され、債権は時価で評価されます。判例(東京地裁平成21年判決)でも、DESによる債務消滅益は益金に算入すべきとされました。ただし、企業再生の場面では期限切れ欠損金の活用により課税を回避できる余地があります。

DES(デットエクイティスワップ)の基本的なしくみ

DES(Debt Equity Swap)とは、債権者が保有する貸付金などの債権を、債務者会社の株式に振り替える手法です。債務が資本に変わるため、債務者のバランスシートが改善され、債務超過の解消や財務体質の強化に活用されます。

DESのしくみを図解

ステップ 債権者 債務者
DES前貸付金1,000万円を保有借入金1,000万円を計上
DES実行貸付金1,000万円を現物出資 → 株式を取得借入金1,000万円が消滅 → 資本金が増加
DES後貸付金なし → 株式を保有借入金なし → 資本増強

DESと債務免除の違い

DESと単純な債務免除はどちらも債務者の負債を減少させますが、決定的な違いがあります。DESでは債権者が株式を取得するため、将来の配当や株式価値の上昇によるリターンの可能性が残ります。一方、債務免除では債権者は一方的に債権を放棄するだけです。

比較項目 DES 債務免除
債権者の対価株式を取得(リターンの可能性あり)なし(一方的な放棄)
債務者の課税債務消滅益(額面−時価)に課税債務免除益(全額)に課税
債権者の課税債権の帳簿価額と時価の差額が譲渡損債権放棄損(寄附金認定リスクあり)

債権放棄による寄附金認定のリスクについては「寄附金の認定をめぐる判例」で詳しく解説しています。

DESの税務処理:適格 vs 非適格で結論が変わる

DESの税務処理は、「適格現物出資」に該当するか「非適格現物出資」に該当するかによって全く異なります。

適格・非適格の判定と税務処理の比較

項目 適格現物出資 非適格現物出資
該当ケース100%グループ内のDES等金融機関等の第三者によるDES
債権の受入価額帳簿価額(簿価)時価
資本金等の増加額債権の帳簿価額=額面債権の時価
債務消滅益発生しない額面−時価の差額が発生
債権者の譲渡損益繰延べ帳簿価額−時価=譲渡損

⚠️ 注意

通常、100%グループ内のDESのみが適格現物出資に該当します。金融機関などの第三者がDESを行う場合は非適格現物出資となるため、債務者側で必ず債務消滅益の問題が生じます。中小企業で最も多い「社長個人の貸付金をDESで解消する」ケースも、社長個人と法人の間には100%グループ関係が成立しないため非適格となる可能性が高く、注意が必要です。

債務消滅益の計算方法とシミュレーション

非適格現物出資によるDESでは、債権の額面と時価の差額が債務消滅益として認識されます。

📐 シミュレーション前提条件

  • 債権の額面:1,000万円(親会社から子会社への貸付金)
  • 債権の時価(回収可能額):400万円
  • 非適格現物出資によるDES

債務者側の処理

項目 金額
消滅する債務(借入金)1,000万円
増加する資本金等の額(=債権の時価)400万円
債務消滅益(益金算入)600万円

債権者側の処理

項目 金額
現物出資した債権の帳簿価額1,000万円
取得した株式の取得価額(=債権の時価)400万円
譲渡損(損金算入の可否は個別判断)600万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

📊 公認会計士の視点

会計上は「券面額説」も認められており、借入金1,000万円がそのまま資本金等に振り替わるだけで、債務消滅益は認識しません。しかし、税務上は平成18年度改正以降「評価額説」が採用されているため、額面1,000万円と時価400万円の差額600万円が債務消滅益として課税されます。この会計と税務のギャップが実務上の混乱の原因になっています。

DESをめぐる主要判例

東京地裁平成21年4月28日判決(DES債務消滅益事件)

この判決は、DESによる債務消滅益の益金算入の可否が正面から争われた重要な事例です。

項目 内容
事案概要関連会社から債権の現物出資を受け新株を発行(DES)。納税者は「資本等取引」として債務消滅益を益金に算入せず申告
争点DESによる債務消滅益は益金に算入すべきか(資本等取引か損益取引か)
裁判所の判断DESによる債務消滅益は益金に算入する必要がある(国側勝訴)
判断理由現物出資された債権と債務が混同により消滅し、その際に生じた差額は資本等取引に該当せず、益金に算入すべき

💡 実務のポイント

この判決の最大の教訓は、DESは「債権と引き換えに株式を発行する資本等取引だから課税されない」という納税者の主張が否定されたことです。税務上、DESによって消滅する債務の額面と債権の時価の差額は、あくまで損益取引として益金に算入されます。DESを検討する際は、債務消滅益への課税を前提としたキャッシュフロー計画が不可欠です。

行為計算否認の観点からのDESのリスクは「同族会社の行為計算否認をめぐる判例」もあわせてご確認ください。

AYUSAWA PARTNERS

DES・事業再生の税務相談は鮎澤パートナーズへ

初回相談無料。公認会計士・税理士がDESの税務シミュレーションと最適スキームを設計します。

鮎澤パートナーズに相談する

現物出資型DES vs 疑似DES(現金払込型)の比較

DESには法的形式の異なる2つの方法があり、税務上の取扱いが大きく異なります。

2つの方法の完全比較表

比較項目 現物出資型DES 疑似DES(現金払込型)
しくみ債権を直接現物出資して株式を取得①現金で増資 → ②増資で得た現金で債務を返済
債務消滅益非適格の場合、額面−時価の差額が発生原則として発生しない(現金による弁済)
法的リスク法的安全性が高い「見せ金」リスク・差押えリスクあり
税務リスク債務消滅益への課税リスク行為計算否認(132条)のリスク
適用場面企業再生・金融機関主導のDES社長貸付金の解消(中小企業で多い)

⚠️ 注意

疑似DES(現金払込型)は債務消滅益が発生しないメリットがありますが、租税回避目的以外の経済合理性が認められない場合は、行為計算否認規定(法132条)が適用されるリスクがあります。現物出資型DESに代えて疑似DESを選択する場合は、なぜ現金払込型を選んだかの合理的な説明が必要です。

社長貸付金のDES活用と3つの落とし穴

中小企業でDESが最も活用されるのが「社長貸付金(社長から法人への貸付金)の解消」です。社長が法人に対して多額の貸付金を持っている場合、社長の相続時に額面全額が相続財産に含まれるため、DESで株式に転換するニーズがあります。

落とし穴1:債務消滅益への課税

社長個人から法人へのDESは非適格現物出資に該当する可能性が高く、債権の額面と時価の差額が債務消滅益として法人に課税されます。法人が債務超過であれば債権の時価は額面より大幅に低くなるため、多額の債務消滅益が発生します。

落とし穴2:みなし贈与の問題

社長以外にも株主がいる場合、DESにより法人の純資産が増加することで、他の株主の保有株式の価値が上昇します。社長と他の株主が親族関係にある場合、この株式価値の増加分がみなし贈与として贈与税の課税対象になる可能性があります(相続税法9条)。

落とし穴3:行為計算否認のリスク

特に疑似DES(現金払込型)で社長貸付金を解消する場合、現物出資型に比べて税務メリットが大きいことから、行為計算否認(法132条)の適用リスクがあります。DESを行う合理的な事業目的(財務体質の改善・銀行格付けの向上等)を明確に文書化しておく必要があります。

💡 実務のポイント

社長貸付金のDESを検討する際は、まず「DESによって発生する債務消滅益」と「繰越欠損金で相殺できる金額」を試算してください。繰越欠損金が十分にあれば債務消滅益は課税されません。繰越欠損金が不足する場合は、DESではなく少額ずつの返済や相続時精算課税の活用など、別の方法を検討した方がよいケースも多いです。

法人設立時から社長貸付金を発生させない設計が重要です。「会社設立の流れ完全ガイド」や「法人成りのタイミング」で初期段階の注意点を確認してください。

企業再生税制とDES:期限切れ欠損金の活用

企業再生の場面でDESが行われる場合、平成18年度税制改正により、債務消滅益を期限切れ欠損金(法人税法59条の適用対象)で相殺できるようになりました。

期限切れ欠損金を活用できる場面

手続の種類 期限切れ欠損金の活用
会社更生法に基づく更生手続可能
民事再生法に基づく再生手続可能
特別清算・破産手続可能
私的整理ガイドライン・事業再生ADR等の一定の私的整理可能
上記以外の任意のDES不可(通常の繰越欠損金のみ使用可能)

期限切れ欠損金とは、法人税法上の繰越期間(現行10年)を超えて控除できなくなった欠損金です。通常は使えませんが、企業再生税制の適用場面では青色欠損金に優先して債務消滅益から控除できます。DESで資本金が増加した場合の役員報酬への影響は「役員報酬の基礎知識」で確認できます。

債権の「時価」はどう算定するか

非適格現物出資によるDESでは、債権の時価評価が税額を左右する最重要ポイントです。国税庁は経済産業省からの書面照会に対し、以下の方法を了承しています。

国税庁が認める債権の時価評価方法

企業再生税制適用場面においては、債権の時価は「合理的に見積もられた回収可能額」に基づいて評価することが妥当とされています。具体的には、債務者の実態貸借対照表の債務超過額をベースに債権者調整が行われ、事業再生計画における損益見込等を考慮し、債務者及び債権者双方の合意のもとで算出された回収可能額を用います。

決算書の作成方法については「法人決算の流れ完全ガイド」で解説しています。減価償却資産の評価がDES時の時価算定に影響するケースは「減価償却の基礎知識」もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

DES(デットエクイティスワップ)とは何ですか?簡単に教えてください。
DESとは、債権者が保有する貸付金などの債権を、債務者会社の株式に振り替える手法です。債務(Debt)が資本(Equity)に交換(Swap)されるため、この名前がついています。債務者にとっては借入金が減少し資本金が増加するため、財務体質が改善されます。企業再生や社長貸付金の解消などに活用されます。
DESで必ず債務消滅益が発生しますか?
適格現物出資に該当するDES(通常は100%グループ内のDES)では、債権は帳簿価額で引き継がれるため債務消滅益は発生しません。非適格現物出資の場合は、債権の額面と時価の差額が債務消滅益として課税されます。また、疑似DES(現金払込型)は現金による弁済のため、原則として債務消滅益は発生しませんが、行為計算否認のリスクがあります。
会計上と税務上で処理が異なると聞きましたが?
はい。会計上は「券面額説」が認められており、借入金の額面がそのまま資本金等に振り替わるだけで債務消滅益は認識しません。しかし、税務上は平成18年度改正以降「評価額説」が採用されているため、債権の時価で資本金等の増加額を計算し、額面との差額が債務消滅益として課税されます。申告調整が必要な重要なポイントです。
社長貸付金をDESで解消するとどんな税務リスクがありますか?
主に3つのリスクがあります。①法人側での債務消滅益への課税(繰越欠損金が不足する場合)、②社長以外に株主がいる場合のみなし贈与(株式価値の増加分に贈与税)、③疑似DESを選択した場合の行為計算否認リスクです。DES前に必ず税理士に相談し、税額シミュレーションを行ってください。
疑似DES(現金払込型)の方が税務上有利ですか?
債務消滅益が発生しないという点では有利ですが、法的リスク(見せ金リスク・差押えリスク)と税務リスク(行為計算否認リスク)があります。現物出資型DESに代えて疑似DESを選択する経済合理性が説明できない場合は、132条の適用を受ける可能性があるため、必ずしも有利とは限りません。
企業再生でDESを行う場合、期限切れ欠損金は使えますか?
はい。会社更生法・民事再生法による手続や、私的整理ガイドライン・事業再生ADR等の一定の私的整理の場面では、DESに伴う債務消滅益について期限切れ欠損金を青色欠損金に優先して損金算入できます。ただし、これらの手続によらない任意のDESでは期限切れ欠損金は使えず、通常の繰越欠損金のみが使用可能です。
DESによる債務消滅益は「資本等取引」として非課税にならないのですか?
判例(東京地裁平成21年4月28日判決)で明確に否定されました。DESは株式発行という資本等取引を含みますが、債権と債務の混同消滅により生じた差額(債務消滅益)は資本等取引ではなく損益取引に該当すると判断されています。したがって、債務消滅益は益金に算入する必要があります。
DESを行うと資本金が増えますが、デメリットはありますか?
はい。資本金の増加により、法人住民税の均等割が増加する可能性があります(資本金等の額が1,000万円超になると均等割が上がる)。また、資本金1億円超になると中小企業の各種優遇措置(軽減税率・交際費の定額控除等)が使えなくなります。さらに外形標準課税の対象になることもあります。DES後の資本金の額を慎重に設計する必要があります。
債権の時価はどのように算定すればよいですか?
国税庁の文書回答事例では、企業再生税制適用場面において「合理的に見積もられた回収可能額に基づく評価」が認められています。具体的には、実態貸借対照表の債務超過額をベースに、事業再生計画の損益見込等を考慮して回収可能額を算定します。中小企業の任意のDESでは、不動産鑑定や事業価値評価に基づいて債権の回収可能額を合理的に算定することが求められます。
DESとDDS(デットデットスワップ)の違いは何ですか?
DESは債務(Debt)を資本(Equity)に変えるのに対し、DDS(Debt Debt Swap)は通常の借入金を資本性借入金(劣後ローン)に条件変更する手法です。DDSでは債務が残るため資本金は増加しませんが、金融検査上は資本とみなされるため実質的な自己資本の増強効果があります。DDSの方がDESより税務上のリスクが小さい傾向にあります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • DESとは債権を株式に転換する手法。債務者のバランスシート改善に有効だが、税務上の論点が多い
  • 非適格現物出資のDESでは、債権の額面と時価の差額が「債務消滅益」として課税される(評価額説を採用)
  • 適格現物出資(100%グループ内)なら債務消滅益は発生しない。金融機関等の第三者DESは非適格
  • 疑似DES(現金払込型)は債務消滅益が発生しないが、見せ金リスク・行為計算否認リスクがある
  • 社長貸付金のDESは、債務消滅益・みなし贈与・行為計算否認の3つの落とし穴に注意
  • 企業再生税制の適用場面では期限切れ欠損金で債務消滅益を相殺できるが、任意のDESでは使えない
  • 会計上(券面額説)と税務上(評価額説)の処理が異なるため、申告調整が必須

AYUSAWA PARTNERS

DES・企業再生の税務戦略は鮎澤パートナーズへ

初回相談無料。公認会計士・税理士がDESのスキーム設計から税務シミュレーションまでワンストップで対応します。

鮎澤パートナーズに相談する