【税理士×行政書士が解説】電子取引データの保存義務|完全義務化への対応と猶予措置

【税理士×行政書士が解説】電子取引データの保存義務|完全義務化への対応と猶予措置
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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電子取引データの保存義務|完全義務化への対応と猶予措置

「メールで受け取った請求書は印刷して保存するだけではダメなの?」「うちのような小さな会社でもシステム導入が必要?」とお困りの経営者・経理担当者に向けて、電子取引データの保存義務の基本から、低コストで対応できる方法、猶予措置の活用まで完全ガイドします。

🏆 結論:電子で受け取った書類は電子のまま保存が義務

2024年1月から、メールやクラウドサービスで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、印刷して紙で保存することが認められなくなり、電子データのまま保存することが完全義務化されました。ただし、「相当の理由」がある場合は猶予措置の適用を受けられ、検索要件を満たさなくても、データの保存+プリントアウトの提示で対応可能です。中小企業はシステム導入なしでも、ファイル名のルール統一+事務処理規程の整備で対応できます。

電子帳簿保存法とは?3つの区分の基本

電子帳簿保存法の全体像

電子帳簿保存法(電帳法)とは、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。1998年に施行され、複数回の改正を経て、2024年1月から「電子取引データ保存」が完全義務化されました。

電子帳簿保存法は3つの区分に分かれており、それぞれ対応の義務/任意が異なります。

区分 概要 対象書類の例 義務/任意
①電子帳簿等保存PCで作成した帳簿・書類を電子データのまま保存仕訳帳、総勘定元帳、B/S、P/L、自社作成の請求書控え任意
②スキャナ保存紙で受け取った書類をスキャンして電子保存紙の領収書、紙の請求書、紙の契約書任意
③電子取引データ保存電子的に授受した取引データを電子のまま保存メール添付の請求書、クラウドの領収書、EDIデータ義務

⚠️ 最も重要なポイント

2024年1月から完全義務化されたのは③電子取引データ保存のみです。①電子帳簿等保存と②スキャナ保存は引き続き任意です。つまり、紙で受け取った請求書は従来どおり紙のまま保存すれば問題ありませんが、メールやクラウドで受け取った請求書は電子データのまま保存しなければなりません。

電子取引データ保存の対象|「この取引は対象?」判定表

電子取引に該当する取引の具体例

「電子取引」とは、取引情報(注文書・契約書・請求書・領収書・見積書など)を電磁的方法により授受する取引を指します。以下の判定表で自社の取引を確認してください。

取引の形態 具体例 電子取引? 電子保存義務
メール添付取引先からPDF請求書をメールで受領必須
クラウドサービス請求書発行サービスからダウンロード必須
ECサイトAmazon等の領収書をダウンロード必須
EDI取引電子データ交換による受発注必須
Web受注ホームページの注文フォーム必須
ペーパーレスFAX複合機でPDF受信(紙出力なし)必須
紙のFAX複合機で紙に印刷して受信×紙保存でOK
紙の郵送郵便で届いた請求書×紙保存でOK

💡 実務のポイント

実務で見落としがちなのが、Amazonや楽天などのECサイトでの購入、クレジットカードのWeb利用明細、インターネットバンキングの取引履歴です。これらも電子取引に該当するため、電子データとして保存する必要があります。従来「印刷して経費精算」だけで済ませていた場合は、データ保存のフローを追加してください。

法人決算の全体的な手順については「法人決算の流れと手順」で詳しく解説しています。

電子取引データの保存要件|「真実性」と「可視性」

要件1:真実性の確保(改ざん防止)

電子取引データが改ざんされていないことを証明するため、以下の4つの方法のうちいずれか1つを満たす必要があります。

方法 内容 コスト おすすめ度
①タイムスタンプ付与受領後速やかにタイムスタンプを付与月額数千円〜★★☆
②訂正削除履歴システム訂正・削除の履歴が残るシステムで保存月額数千円〜数万円★★★
③事務処理規程の整備正当な理由のない訂正削除を防止する規程を策定無料(自社で作成)★★★
④送信側のタイムスタンプ送信者がタイムスタンプ付きで送信相手先依存★☆☆

📝 行政書士の視点

中小企業で最もコストをかけずに対応できるのは③事務処理規程の整備です。国税庁の特設サイトにサンプルが公開されているので、それをベースに自社の実態に合わせてカスタマイズするだけで対応できます。システム導入は不要です。

要件2:可視性の確保(検索・閲覧)

保存した電子取引データを必要なときに検索・閲覧できるようにするための要件です。具体的には、以下の3つの検索条件で検索できる必要があります。

(1)取引年月日、(2)取引金額、(3)取引先名。

ただし、売上高5,000万円以下の事業者は検索機能の確保が不要です。税務調査時にプリントアウトした書面を日付・取引先ごとに整理して提示できれば問題ありません。

システム不要!中小企業の低コスト対応方法

ファイル名ルールの統一だけで対応する方法

高額なシステムを導入しなくても、ファイル名のルールを統一するだけで保存要件を満たせます。以下のルールを社内で徹底してください。

【ファイル名のルール】

日付_取引先名_書類名_金額.pdf

例:20260401_株式会社ABC_請求書_550000.pdf

例:20260315_Amazon_領収書_3300.pdf

フォルダ構成の例

電子取引データ/
 ├ 2026年度/
 │ ├ 04月/
 │ │ ├ 請求書/
 │ │ ├ 領収書/
 │ │ └ 契約書/
 │ ├ 05月/
 │ └ ...

💡 実務のポイント

この方法に加えて事務処理規程を整備すれば、真実性と可視性の両方の要件を満たせます。Excelで索引簿(日付・金額・取引先の一覧表)を作成しておけば、検索要件もクリアできます。売上高5,000万円以下の事業者であれば索引簿も不要で、フォルダ整理とファイル名の統一だけで十分です。

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猶予措置の活用|「相当の理由」がある場合の対応

猶予措置の適用条件

2024年1月以降、保存要件に従った対応ができない「相当の理由」がある場合は猶予措置が適用されます。この猶予措置には期限の定めがなく、以下の2つの条件を両方満たせば適用されます。

(1)保存要件に従って電子取引データを保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること(事前申請は不要)。(2)税務調査時に、電子取引データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示・提出の求めに応じられるようにしておくこと。

猶予措置が適用されると、検索要件やタイムスタンプなどの保存要件を満たさなくても、単にデータを保存しているだけで認められます。

📢 猶予措置の注意点

猶予措置はあくまでも「やむを得ない場合の特例」です。今後、税務署が個別に容認しないケースが増える可能性もあります。また、猶予措置はプリントアウトが前提となるため、ペーパーレス化によるコスト削減・業務効率化のメリットを享受できません。できるだけ早く本来の要件に対応することが望ましいです。

業種別の電子取引データと対応チェックリスト

業種によって異なる電子取引の種類

電子取引データの保存義務は全事業者に共通ですが、業種によって発生する電子取引の種類が異なります。自社に該当するものを確認してください。

業種 よくある電子取引の例 見落としやすいポイント
小売業ECサイトの売上データ、クレカWeb明細、仕入先からのメール請求書POSレジのクラウドデータも対象になりうる
建設業電子契約の工事請負契約、PDFの見積書・注文書下請業者とのFAX(ペーパーレスの場合)
IT業クラウドサービスの利用明細、SaaSの請求書、電子契約海外SaaSの英語請求書も対象
飲食業食材発注サイトの発注データ、デリバリーアプリの売上明細UberEats等のプラットフォーム手数料明細
製造業EDIによる受発注データ、仕入先からのメール納品書EDIデータのフォーマット(CSVなど)も保存対象

自社対応チェックリスト

No. チェック項目 対応状況
1自社で発生する電子取引の種類を洗い出したか
2ファイル名のルール(日付_取引先_書類名_金額)を社内に周知したか
3保存先フォルダの構成を決めたか(年度/月別/書類種別)
4真実性の確保方法を選択したか(事務処理規程 or タイムスタンプ or システム)
5検索要件への対応方法を決めたか(索引簿 or システム or 売上5,000万以下で免除)
6ECサイト・クレジットカード・インターネットバンキングのデータ保存を忘れていないか
7バックアップ体制を整備したか(クラウドストレージ等)
87年間(欠損金がある場合は10年間)の保存期間を確保しているか

違反した場合の罰則とリスク

電子帳簿保存法に違反した場合のペナルティ

電子取引データの保存義務に違反した場合、以下のリスクがあります。

リスク 内容
青色申告の承認取消帳簿書類の保存義務違反として、青色申告の承認が取り消される可能性。繰越欠損金の控除など税制優遇が受けられなくなる
経費の否認保存義務を満たしていないデータに基づく経費は、損金算入が認められない可能性
重加算税の加重電子取引データの隠蔽・仮装が発覚した場合、通常の重加算税に10%加重される
推計課税帳簿書類が不備の場合、税務署が推計により税額を決定する可能性

税務調査の対策については「会社設立の流れ」で法人設立後に整備すべき書類についても解説しています。

インボイス制度との関係

電子インボイスの保存

2023年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)において、電子データで受領した適格請求書(電子インボイス)は、電子帳簿保存法に従って電子データのまま保存する必要があります。つまり、電子インボイスを印刷して紙で保存するだけでは不十分です。

仕入税額控除の要件として適格請求書の保存が求められるため、電子インボイスの保存が不十分だと消費税の仕入税額控除が認められないリスクがあります。

法人成りに伴うインボイス対応については「法人成りのタイミング判断」も参考にしてください。

会計ソフト別の対応状況

主要3ソフトの電子帳簿保存法対応機能

機能 freee 弥生 マネーフォワード
電子取引データの保存
タイムスタンプ機能
訂正削除履歴
検索機能(日付・金額・取引先)
JIIMA認証

減価償却を含む固定資産管理については「減価償却の基本と実務」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

メールで受け取った請求書を印刷して保存するだけではダメですか?
2024年1月以降は、原則として電子データのまま保存する必要があり、印刷して紙で保存するだけでは不十分です。ただし、猶予措置の要件を満たす場合は、プリントアウトした書面の提示と電子データのダウンロード対応ができれば認められます。
小さな個人事業主でもこの義務は適用されますか?
はい、所得税法または法人税法上の帳簿書類の保存義務がある全ての事業者が対象です。規模に関わらず、電子取引(メールで請求書を受領するなど)があれば保存義務があります。ただし、売上高5,000万円以下の事業者は検索機能の確保が免除されるため、対応の負担は軽減されます。
紙で受け取った請求書もスキャンして電子保存する必要がありますか?
いいえ、紙で受け取った書類のスキャナ保存は任意です。義務化されたのは「電子取引データ保存」のみで、紙で受け取った請求書はこれまでどおり紙のまま保存すれば問題ありません。スキャナ保存は希望する事業者が任意で導入するものです。
電子取引データの保存期間は何年ですか?
法人税法上は7年間の保存が必要です。ただし、欠損金が生じた事業年度については10年間の保存が求められます。保存期間の起算点は、確定申告書の提出期限の翌日からです。
事務処理規程のテンプレートはどこで入手できますか?
国税庁の電子帳簿保存法特設サイトにサンプルが公開されています。法人用と個人事業主用の両方が用意されているため、ダウンロードして自社の実態に合わせて修正するだけで対応できます。
Amazonで購入した際の領収書はどう保存すればよいですか?
AmazonのWebサイトから領収書をPDFでダウンロードし、ファイル名を統一ルール(日付_Amazon_領収書_金額.pdf)で保存します。ダウンロードを忘れると後から取得できなくなる場合があるため、購入の都度ダウンロードする運用ルールを徹底してください。
クレジットカードのWeb明細も保存対象ですか?
クレジットカードのWeb利用明細を経理処理のエビデンスとして使っている場合は、電子取引データに該当するため保存が必要です。毎月の明細をPDFでダウンロードし、保存してください。なお、カード会社によっては一定期間を過ぎるとダウンロードできなくなるため、毎月の定型業務に組み込むことが重要です。
電子帳簿保存法に対応しないと税務調査で不利になりますか?
はい、保存義務を満たしていない場合、税務調査で不利になる可能性があります。具体的には、電子取引データが適切に保存されていなければ、その取引に関する経費が否認されたり、青色申告の承認が取り消されたりするリスクがあります。また、データの改ざんが疑われた場合は重加算税が10%加重されます。
優良な電子帳簿の届出をするメリットはありますか?
「優良な電子帳簿」の要件を満たして事前に届出書を提出しておくと、過少申告加算税が5%軽減される特典があります。訂正・削除の履歴が残るシステムを導入し、帳簿間の相互関連性が確保されていることなどが要件です。ただし、この特典は電子帳簿等保存(任意)に関するもので、電子取引データ保存の義務とは別の話です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 2024年1月から「電子取引データ保存」が完全義務化。電子で受領した書類は電子のまま保存が必須
  • 義務化されたのは電子取引データ保存のみ。電子帳簿等保存とスキャナ保存は引き続き任意
  • 保存要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つ。事務処理規程の整備なら無料で対応可能
  • 売上高5,000万円以下の事業者は検索機能の確保が不要で、対応負担が軽い
  • 「相当の理由」がある場合は猶予措置が適用され、データ保存+プリントアウト提示で対応可能
  • 業種によって発生する電子取引の種類が異なるため、自社の取引を洗い出すことが第一歩
  • 違反した場合は青色申告の取消、経費の否認、重加算税の加重などのリスクがある

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