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圧縮記帳とは?法人税法上の6パターンと仕訳・申告手順
「補助金をもらったのに法人税がかかるの?」と驚く経営者に向けて、補助金・保険金・交換差益の課税を繰り延べる圧縮記帳の全パターンと仕訳方法を解説します。この記事を読めば、自社が圧縮記帳を使うべきかの判断から別表13の作成まで対応できるようになります。


「補助金をもらったのに法人税がかかるの?」と驚く経営者に向けて、補助金・保険金・交換差益の課税を繰り延べる圧縮記帳の全パターンと仕訳方法を解説します。この記事を読めば、自社が圧縮記帳を使うべきかの判断から別表13の作成まで対応できるようになります。
🏆 結論:圧縮記帳は「課税の繰り延べ」──税金が消えるわけではないが、資金繰りの強い味方
圧縮記帳とは、補助金や保険金で固定資産を取得した際に、その収益と同額の圧縮損を計上して課税所得を相殺し、取得年度の法人税負担を軽くする制度です。税金が免除されるわけではなく、翌期以降の減価償却費が小さくなることで課税が先送りされるだけですが、補助金の効果を薄めずに設備投資できるメリットは大きいです。法人税法で6パターン、租税特別措置法でさらに複数パターンが規定されています。
圧縮記帳とは、補助金や保険金などを受け取って固定資産を取得した際に、固定資産の帳簿価額を減額(圧縮)することで、補助金等の収益と圧縮損を相殺し、取得年度の課税所得を減らす制度です。法人税法第42条〜第50条および租税特別措置法で規定されています。
たとえば、1,000万円の機械を購入するために500万円の国庫補助金を受けたとします。この500万円は法人税上の益金となるため、そのまま処理すると取得年度に大きな課税所得が発生します。しかし機械の減価償却費は耐用年数にわたって少しずつしか損金にならないため、収益と費用のタイミングがズレてしまいます。
圧縮記帳を使えば、補助金500万円と同額の圧縮損500万円を計上して相殺できるため、取得年度の課税所得への影響をゼロにできます。
⚠️ 注意
圧縮記帳は「課税の繰り延べ」であり、「免税」ではありません。圧縮した分だけ固定資産の帳簿価額が下がるため、翌期以降の減価償却費が小さくなり、その分だけ毎年の課税所得が増えます。最終的に支払う税金の総額は、圧縮記帳をしてもしなくても同じです。ただし、取得年度の資金繰りが楽になる効果は確実にあります。
圧縮記帳が必要になる典型的な場面は次の3つです。
場面1: 国や自治体の補助金を受けて設備投資した場合(事業再構築補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金など)。補助金は益金になるため、圧縮記帳しないと補助金に対して法人税がかかります。
場面2: 火災や災害で資産を失い、保険金で代替資産を取得した場合。受け取った保険金が失った資産の帳簿価額を上回る「保険差益」が発生するため、圧縮記帳で課税を繰り延べます。
場面3: 土地や建物を等価交換した場合。交換によって生じる譲渡益に対する課税を繰り延べるために圧縮記帳を使います。
減価償却のしくみ全般については「減価償却とは?基礎知識と計算方法・仕訳まで完全解説」で詳しく解説しています。
法人税法では6つのパターンで圧縮記帳が認められています。これに租税特別措置法の2つを加えた主要8パターンを一覧表にまとめます。
| パターン | 根拠条文 | 圧縮限度額の概要 | 別表13 |
|---|---|---|---|
| 法人税法(6パターン) | |||
| ①国庫補助金等 | 法42条 | 固定資産の取得に充てた補助金の額 | 13(1) |
| ②工事負担金 | 法45条 | 取得価額 − 受領金額 | 13(1) |
| ③非出資組合の賦課金 | 法46条 | 工事負担金に準じる | 13(1) |
| ④保険差益 | 法47条 | 保険差益金 × 代替資産充当割合 | 13(2) |
| ⑤交換 | 法50条 | 取得資産の時価 −(譲渡資産の簿価 + 譲渡経費) | 13(4) |
| ⑥収用等(代替資産取得) | 法64条 | 譲渡益 × 代替資産充当割合 | 13(3) |
| 租税特別措置法(主要2パターン) | |||
| ⑦収用等(5000万円特別控除) | 措法65条の2 | 譲渡益のうち5,000万円まで | 13(5) |
| ⑧特定資産の買換え | 措法65条の7 | 圧縮基礎取得価額 × 差益割合 × 80% | 13(7) |
💡 実務のポイント
中小企業で利用頻度が高いのは①国庫補助金等と④保険差益の2パターンです。近年は事業再構築補助金やものづくり補助金の申請が増えており、補助金で設備を取得した場合の圧縮記帳の相談が非常に多くなっています。なお、租税特別措置法の圧縮記帳(⑦⑧)を適用した場合は、同じく租特法の特別償却や税額控除と併用できない点に注意してください。法人税法の圧縮記帳(①〜⑥)であれば、少額減価償却資産の特例との併用が可能です。
圧縮記帳の経理方法は、大きく分けて「直接減額方式」と「積立金方式」の2つがあります。どちらを選んでも税務上の効果は同じですが、会計上の影響が異なります。
| 比較項目 | 直接減額方式 | 積立金方式 |
|---|---|---|
| 処理の概要 | 固定資産の帳簿価額を直接減額し、圧縮損を損金経理 | 帳簿価額はそのまま。圧縮積立金を純資産に計上 |
| 固定資産の帳簿価額 | 取得原価から圧縮額を控除した金額 | 取得原価のまま(正確な取得原価が維持される) |
| 減価償却費 | 圧縮後の金額で計算(小さくなる) | 取得原価で計算(正常な金額)※税務上は別表で調整 |
| 仕訳の簡便さ | シンプル(圧縮損の計上のみ) | やや複雑(積立金の計上+毎期の取崩し) |
| 会計上の正確さ | 取得原価主義に反する(原価が歪む) | 取得原価主義に適合(推奨される方法) |
| 向いている企業 | 中小企業(処理の簡便さ重視) | 中堅〜大企業(会計の正確さ重視・監査法人対応) |
📊 公認会計士の視点
会計基準の観点では「取得原価主義」を維持する積立金方式が望ましいとされています。直接減額方式では固定資産の取得原価が圧縮されてしまうため、減価償却費の自己金融効果が小さくなり、設備更新のための内部資金蓄積が減少します。ただし、中小企業の会計実務では処理の簡便さから直接減額方式が広く使われており、税務上の問題はありません。どちらの方式を採用するかは、自社の会計方針と管理体制に応じて判断してください。
📐 シミュレーション前提条件
補助金500万円が益金に計上され、減価償却費200万円(1,000万円÷5年)が損金になります。
取得年度の課税所得への影響:+500万円(補助金)− 200万円(減価償却費)= +300万円 → 法人税等90万円
補助金500万円の益金と、圧縮損500万円の損金が相殺されます。固定資産の帳簿価額は500万円(1,000万円−500万円)に減額され、減価償却費は100万円(500万円÷5年)になります。
取得年度の課税所得への影響:+500万円(補助金)− 500万円(圧縮損)− 100万円(減価償却費)= −100万円 → 法人税等0円
補助金500万円は益金のまま、税務上は圧縮積立金認定損500万円を計上(別表四で減算)。固定資産の帳簿価額は1,000万円のまま、減価償却費は会計上200万円ですが、税務上は100万円分を償却超過額として加算調整します。
取得年度の課税所得への影響:+500万円(補助金)− 500万円(圧縮積立金認定損)− 200万円(減価償却費)+ 100万円(償却超過額加算)= −100万円 → 法人税等0円
| 項目 | A: 圧縮なし | B: 直接減額 | C: 積立金 |
|---|---|---|---|
| 取得年度の税負担 | 90万円 | 0円 | 0円 |
| 2〜5年目の年間減価償却費 | 200万円 | 100万円 | 200万円(税務上は100万円) |
| 5年間の法人税等合計 | −210万円 | −210万円 | −210万円 |
| 固定資産台帳の取得価額 | 1,000万円 | 500万円 | 1,000万円 |
※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。
5年間の税負担合計はどのパターンも同じです。違いは「いつ税金を払うか」だけです。圧縮記帳を使えば取得年度に90万円の資金流出を防げるため、その分を設備投資の自己資金に充てることができます。
前述のシミュレーション(補助金500万円、機械1,000万円)を直接減額方式で仕訳する例です。
(借方)現金預金 5,000,000円 /(貸方)国庫補助金受贈益 5,000,000円
(借方)機械装置 10,000,000円 /(貸方)現金預金 10,000,000円
(借方)固定資産圧縮損 5,000,000円 /(貸方)機械装置 5,000,000円
(借方)減価償却費 1,000,000円 /(貸方)機械装置減価償却累計額 1,000,000円
※圧縮後の帳簿価額500万円 ÷ 5年 = 100万円
💡 実務のポイント
直接減額方式では、圧縮損を「固定資産圧縮損」という勘定科目で特別損失に計上します。補助金の受贈益は特別利益に計上されるため、損益計算書上は特別利益と特別損失が相殺される形になります。経常利益への影響はありません。
保険差益の圧縮記帳(法人税法第47条)は、災害等で固定資産が滅失し、受け取った保険金で代替資産を取得した場合に適用できます。
📐 ケーススタディの前提条件
圧縮限度額の計算:
保険差益金 =(保険金2,000万円 − 滅失経費200万円)− 被害部分の帳簿価額800万円 = 1,000万円
代替資産充当割合 = 保険金2,000万円のうち代替資産に充当した金額(1,800万円※)÷(保険金2,000万円 − 滅失経費200万円)= 1,800万円 ÷ 1,800万円 = 1
※保険金2,000万円 − 滅失経費200万円 = 1,800万円を全額代替資産に充当
圧縮限度額 = 保険差益金1,000万円 × 代替資産充当割合1 = 1,000万円
この1,000万円を圧縮損として計上し、代替建物の帳簿価額を2,500万円−1,000万円=1,500万円に圧縮します。
💡 実務のポイント
保険差益の圧縮記帳で注意すべきは「代替資産の取得期限」です。滅失した日から3年以内に保険金を受領し、受領日から2年以内に代替資産を取得する必要があります(法人税法施行令第85条)。保険金の受領が遅れた場合や、代替資産の選定に時間がかかった場合はこの期限を意識してください。期限を過ぎると圧縮記帳を適用できなくなります。
固定資産の交換は法人税法第50条で規定されており、以下の要件をすべて満たす場合に圧縮記帳が認められます。
要件1: 交換する双方の資産が固定資産であること(棚卸資産は不可)。要件2: 交換する資産が同じ種類であること(土地と土地、建物と建物など)。要件3: 交換する双方の資産がそれぞれ1年以上所有されていること。要件4: 取得した資産を、譲渡した資産と同じ用途に使うこと。要件5: 交換差金(時価の差額)が、いずれか高い方の時価の20%以内であること。
⚠️ 注意
「同じ用途に使うこと」の要件は厳格に判断されます。たとえば自社で使っていた駐車場(土地)を交換で取得し、マンション用地として転用する場合は、用途が変わるため圧縮記帳の要件を満たしません。また、交換差金が20%を超えると、圧縮記帳そのものが適用できなくなるため、不動産の交換を検討する際は事前に税理士に相談してください。
参考: 国税庁「No.5600 土地や建物を交換したときの圧縮記帳」
租税特別措置法第65条の7に規定される「特定資産の買換えの圧縮記帳」は、一定の要件を満たす資産を売却し、代わりの資産を取得した場合に適用できる制度です。
実務で最も多い買換え類型は「既成市街地等の内から外への買換え」です。都市部にある事業用資産を売却し、地方に代替資産を取得する場合などが典型です。
圧縮限度額 = 圧縮基礎取得価額 × 差益割合 × 80%(類型により70%の場合あり)
圧縮基礎取得価額は「買換資産の取得価額」と「譲渡資産の譲渡対価」のうちいずれか少ない金額です。差益割合は(譲渡対価 − 譲渡資産の簿価 − 譲渡経費)÷ 譲渡対価で計算します。
💡 実務のポイント
買換えの圧縮記帳は要件が非常に細かく、買換え類型ごとに「譲渡資産の所在地」「取得資産の所在地」「資産の種類」「取得・供用の期限」が定められています。要件を1つでも欠くと適用できないため、売却を検討する段階で税理士に確認することを強くおすすめします。特に「取得期限」を過ぎてしまうケースは実務上よく見かけるミスです。
圧縮記帳は任意の制度です。「とりあえず使った方がいい」とは限りません。以下のチェックリストで自社の状況を確認してください。
| 状況 | 圧縮記帳する | しない方がよい | 理由 |
|---|---|---|---|
| 補助金を受けて設備投資し、当期は黒字 | ○ | 課税所得の圧縮→資金繰り改善 | |
| 当期が赤字で繰越欠損金がある | ○ | 赤字なので補助金に課税されない。圧縮すると翌期以降の減価償却費が減り損 | |
| 償却資産税への影響を気にしている | ○ | ただし、圧縮記帳しても償却資産税は圧縮前の取得価額で課税される点に注意 | |
| 翌期以降の利益が安定して見込める | ○ | 翌期以降に減価償却費が小さくなっても利益で吸収可能 | |
| 資産管理の手間を極力減らしたい | ○ | 圧縮記帳は資産の二重管理(法人税用と償却資産税用)が必要 | |
| 銀行融資の審査を控えている | △ | △ | 直接減額方式だと固定資産の帳簿価額が下がり、総資産が小さく見える |
会社設立時の届出や決算については「会社設立の流れと手順を完全解説」をご覧ください。
圧縮記帳を適用するには、確定申告書に「圧縮額等の明細書」(別表13)を添付する必要があります。別表13を添付しないと圧縮記帳は認められません。
別表13は圧縮記帳の類型ごとに様式が異なり、13(1)〜13(9)の計9種類があります。前述の完全比較表で、各パターンに対応する別表番号を確認してください。
圧縮記帳は「補助金を受けた事業年度と固定資産を取得した事業年度が同じ」であることが原則です。しかし実務では、補助金の交付決定と実際の受領、固定資産の取得がそれぞれ別の事業年度にまたがることがあります。
この場合、以下の3つのパターンで処理方法が変わります。
パターン1: 補助金の受領と資産取得が同一年度 → 通常の圧縮記帳を適用。
パターン2: 資産を先に取得し、翌期に補助金を受領 → 固定資産の取得事業年度の確定申告書に「返還不要が確定していない国庫補助金等」として圧縮特別勘定を設定し、翌期に圧縮記帳を確定。圧縮限度額の修正計算が必要になります。
パターン3: 補助金を先に受領し、翌期に資産を取得 → 受領年度で「圧縮特別勘定繰入額」を計上して益金を相殺し、翌期に資産取得後に圧縮記帳を確定。
⚠️ 注意
期ずれが発生する場合の処理は非常に複雑です。特に「圧縮特別勘定」を設定するケースでは、翌期に資産を取得しなかった場合の戻入れ処理も必要になります。補助金と資産取得のタイミングが決算期をまたぐ可能性がある場合は、早めに税理士に相談してください。
法人決算の申告書作成の全体像は「法人決算の流れと手順を完全解説」で解説しています。
法人税では圧縮後の帳簿価額で減価償却しますが、地方税の償却資産税(固定資産税)は圧縮前の本来の取得価額で課税されます。したがって、圧縮記帳した資産については、法人税用と償却資産税用の2つの取得価額で管理する必要があります。
租税特別措置法に基づく圧縮記帳(特定資産の買換えなど)を適用した資産には、同じく租税特別措置法に基づく特別償却や税額控除は適用できません。一方、法人税法に基づく圧縮記帳(国庫補助金等)であれば、少額減価償却資産の特例(租税特別措置法)との併用が可能です。
特別償却と税額控除の詳細は「特別償却と税額控除の違いと有利選択」をご覧ください。
圧縮記帳した固定資産を将来売却する場合、帳簿価額が本来より低いため、売却益が大きくなります。つまり、圧縮記帳で繰り延べた課税が売却時に一気に実現する形になります。事業用の不動産を圧縮記帳している場合は、売却時の税負担も含めて長期的なシミュレーションをしておくことが重要です。
法人の節税対策の全体像は「法人税の節税対策を完全解説」でまとめています。
📋 この記事のポイント
圧縮記帳は補助金の効果を最大限に活かすための重要な制度です。ただし、適用を誤ると翌期以降の税負担が不利になるケースもあります。補助金を活用した設備投資を検討する際は、取得前の段階で圧縮記帳の適用可否を税理士に確認することをおすすめします。