【社労士×税理士が解説】あっせん(個別労働紛争解決制度)の活用方法と手続きの流れ

【社労士×税理士が解説】あっせん(個別労働紛争解決制度)の活用方法と手続きの流れ
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
🔷 社労士監修 📋 税理士監修

元従業員から「労働局からあっせん開始通知が届いた」と連絡が来た、解雇や未払い残業代の紛争を大事にせず解決したい。そんな経営者に向けて、あっせん制度の手続き6ステップ・参加判断基準・労働審判との違いを完全ガイド。この記事を読めば、自社であっせんに応じるべきか弁護士に依頼すべきかを判断できます。

🏆 結論:あっせんは「参加任意・無料・期日1回・期間1〜2ヶ月」の話し合い制度

あっせんは労働局に設置された紛争調整委員会による話し合い制度で、当事者の参加は任意費用無料原則1回の期日で終了申請から終了まで1〜2ヶ月が目安です。個別労働関係紛争解決促進法第12条に基づく手続きで、合意すれば民事上の和解と同等の効力を持ちます。企業側は不参加も選択できますが、不参加→労働審判→訴訟へと進む可能性もあるため、「早期・低コスト解決のチャンス」として参加を検討するのが実務的です。

あっせん制度とは|個別労働紛争解決制度の3本柱

あっせんとは、都道府県労働局に設置された紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士、大学教授、社会保険労務士など)が、紛争当事者の間に入って話し合いを促進し、紛争解決を図る制度です。個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(以下、個別労働紛争解決促進法)第12条以下に規定されています。

厚生労働省が提供する個別労働紛争解決制度は、以下の3つの手続きで構成されます。

個別労働紛争解決制度の3つの手続き

手続き 内容 拘束力
総合労働相談 労働局・労基署等379か所の相談コーナーで、専門相談員が情報提供 なし
助言・指導 労働局長が紛争当事者に解決の方向を示し、自主的な解決を促進 なし(自主解決促進)
あっせん 紛争調整委員会のあっせん委員が話し合いを促進。あっせん案の提示あり 合意すれば民事上の和解と同等

💡 実務のポイント

厚生労働省の令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況によれば、総合労働相談件数は14年連続で100万件を超えて高止まりしています。実務では、労働局からの「あっせん開始通知」が届いて初めて自社の紛争を認識するケースも多く、通知到着から1〜2週間で回答期限が切られるため、初動対応のスピードが重要です。

あっせんの対象となる労働紛争

あっせんの対象は、個別労働関係紛争解決促進法第1条の「民事上の個別労働関係紛争」です。具体的には次のようなトラブルが対象となります。

  • 解雇・雇止め:不当解雇、契約更新拒絶
  • 退職勧奨:自主退職の強要
  • 労働条件の引き下げ:賃下げ、配置転換、降格
  • いじめ・嫌がらせ:パワハラ、セクハラ(一部)
  • 未払い賃金・残業代:時間外労働の割増賃金
  • 採用内定取消:内定後の一方的な取消

⚠️ 対象外となる紛争

労働基準法など法令違反が明白なもの(残業代未払いの是正指導、最低賃金法違反など)は労働基準監督署の管轄になります。また、労働組合と使用者との集団的労使紛争(団体交渉拒否など)は労働委員会のあっせんが管轄です。令和4年4月以降、パワーハラスメント防止措置に関する紛争は労働施策総合推進法に基づく紛争解決援助制度の管轄となっています。

あっせんの手続き|6ステップの流れ

労働者からあっせん申請された場合、企業側は以下のステップに沿って進行します。スケジュール感を把握しておくことで、適切な対応が取れます。

ステップ1:あっせん申請(労働者側の手続き)

労働者が都道府県労働局雇用環境・均等部(室)または総合労働相談コーナーに、あっせん申請書を提出します。申請書には、紛争の経緯、相手方(会社)、求めるあっせんの内容を記載します。ここで会社側は関与しません。

ステップ2:あっせん開始通知の受領(企業側への送付)

労働局があっせん開始を決定すると、会社宛てに「あっせん開始通知書」が郵送されます。通知書には、以下が記載されています。

  • あっせん申請者(労働者)の氏名
  • 紛争の概要と労働者の主張
  • あっせん参加の意思確認期限(通常は通知到達から1〜2週間以内)
  • あっせん期日の候補

この時点で、企業は参加・不参加の判断を求められます。

ステップ3:参加意思の回答

企業側は、通知書に同封された「参加(不参加)意思表示書」で回答します。参加する場合は、あっせん期日に出席する担当者を指定し、必要に応じて代理人(社労士、弁護士)の選任も可能です。代理人の選任には、あっせん委員会から事前の許可が必要で、代理人許可申請書を提出します。

💡 実務のポイント

あっせんは任意の手続きなので、企業側は不参加も選べます。ただし、不参加の場合、労働者が労働審判や訴訟に進むケースが多く、結果的に企業の負担が増える傾向があります。実務では、あっせん段階で話し合いに応じ、小規模な解決金で和解する方が、長期化のコストを回避できるケースが多いです。

ステップ4:主張書面の提出

あっせん期日の1〜2週間前までに、企業側の主張を文書にまとめた「主張書面」を労働局に提出します。主張書面には次のような内容を記載します。

  • 労働者の主張に対する反論(事実経緯・就業規則の適用状況など)
  • 和解の意向(和解金額の提示、復職の可否など)
  • 提出証拠(雇用契約書、就業規則、タイムカード、メール履歴など)

ステップ5:あっせん期日(原則1回)

あっせん期日当日は、労働局の会議室で実施されます。原則、紛争当事者双方が別室で待機し、あっせん委員が双方の部屋を行き来して意見を聞く方式(シャトル方式)で行われます。当事者が直接対面することはありません。

期日では、あっせん委員が双方の主張を整理し、和解の余地を探ります。合意点が見えた場合は、あっせん委員から「あっせん案」が提示されます。企業側は、その場で受諾・拒否・持ち帰り検討のいずれかを選べます。

ステップ6:終了(合意成立または打ち切り)

あっせんの終了パターンは3つです。

  • 合意成立:双方が合意し、和解合意書に署名。民事上の和解と同等の効力を持つ
  • 打ち切り:双方の隔たりが大きく、合意の見込みがないとあっせん委員が判断
  • 不参加:当事者の一方(または双方)が期日に出席しない場合

打ち切り・不参加の場合、労働者は労働審判や民事訴訟に移行することが一般的です。

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あっせんと労働審判の違い|5つの比較ポイント

あっせんと混同されやすい制度に「労働審判」があります。両者の違いを理解することで、紛争解決のルート選択が明確になります。

あっせんvs労働審判の比較表

比較項目 あっせん 労働審判
実施機関 労働局(紛争調整委員会) 地方裁判所
参加義務 任意(不参加可) 強制(不出頭は不利)
費用 無料 申立手数料(請求額により変動)
期日回数 原則1回 原則3回以内
解決までの期間 1〜2ヶ月 約3〜4ヶ月(40日以内開始)
決定の効力 合意のみ成立(強制なし) 審判が出れば強制執行可
次のステップ 不成立→労働審判・訴訟 異議申立→通常訴訟

どちらに対応することが多いか

実務では、労働者が弁護士に相談せずに申し立てる初期段階の紛争はあっせんが多く、弁護士がついてから本格的に争う段階では労働審判が選ばれる傾向があります。つまり、あっせんは「紛争の入り口」、労働審判は「本格的な戦い」と位置付けるとイメージしやすいでしょう。

企業があっせんに参加すべきケース・不参加でよいケース

あっせんは任意参加ですが、参加の判断は紛争の性質・企業の立場により異なります。以下の判断基準を参考に検討してください。

参加を推奨するケース

  1. 早期解決を望む:労働審判・訴訟に発展すると弁護士費用だけで数十万円以上かかるため、あっせんで小規模な解決金で済ませたい
  2. 企業側にも一定の非がある:就業規則の不備、ハラスメント対応の遅れなど、訴訟で負けるリスクが高い案件
  3. 争点の整理をしたい:労働者の具体的な主張や証拠を把握する機会として活用
  4. 他の従業員への影響を抑えたい:訴訟になると社内に噂が広まり、他の従業員のモチベーション低下や連鎖的な紛争リスクが高まる

不参加も選択肢となるケース

  1. 労働者の主張が明らかに法的根拠を欠く:解雇無効を主張するが解雇事由が就業規則に明確に該当するなど、勝訴可能性が極めて高い案件
  2. 和解の条件が企業側にとって全く飲めない:請求金額が過大で、交渉の余地がないと明らかな場合
  3. 社内機密・営業秘密の開示リスクがある:あっせんで議論することで、企業の機密情報が広まるリスクが高い場合

📢 不参加の場合の注意点

あっせんに不参加の場合、労働者が労働審判や訴訟に進むことが多く、結果的に弁護士費用・時間・精神的コストが大きく増加します。また、労働審判では裁判官から「なぜあっせんに応じなかったか」を問われ、印象面で不利になるケースもあります。不参加を決める前に、社労士や弁護士に相談することをお勧めします。

あっせんの解決金相場と実務の考え方

あっせんで合意成立する場合、多くは解決金を支払う形での和解となります。金額の相場は紛争の種類によって異なります。

紛争類型別の解決金相場

紛争類型 解決金相場 補足
不当解雇 月給1〜3ヶ月分 勤続年数・解雇事由の正当性により変動
退職勧奨 月給1〜2ヶ月分 強要の程度による
パワハラ 10〜50万円 被害の程度・証拠の有無による
未払い残業代 請求額の50〜80% タイムカード等の証拠により変動
雇止め 月給1〜2ヶ月分 更新回数・更新の合理的期待度による

※ 弊所で対応した事例と各種統計データに基づく概算値です。個別事案により変動します。

解決金の税務・会計処理

📊 税務上の取扱い

あっせんで支払う解決金は、法人税法上、性質により扱いが異なります。未払い賃金・残業代は「給与」として損金算入可能(源泉徴収義務あり)、和解金・慰謝料相当は「支払損害賠償金」として損金算入可能で源泉徴収不要です。支払い時には、会計処理のため、和解合意書に内訳を明記することが重要です。税務上の扱いは、国税庁タックスアンサー「損害賠償金の取扱い」も参考になります。

あっせん対応で企業が押さえるべき5つのポイント

ポイント1:就業規則の事前整備

あっせんで最も重要な証拠は「就業規則」です。解雇事由、懲戒処分の種類、退職手続きなどが就業規則に明確に規定されていれば、企業側の主張の正当性が強まります。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成義務があります。作成・変更したら労働基準監督署への届出も忘れずに行ってください。

ポイント2:証拠の迅速な収集

あっせん通知を受けたら、速やかに以下の証拠を収集・整理します。

  • 雇用契約書、労働条件通知書
  • 就業規則、賃金規程
  • タイムカード、勤怠記録(過去3年分が目安)
  • メール、チャットログ
  • 該当する懲戒処分通知、改善指導記録
  • 退職届、退職合意書(該当する場合)

ポイント3:代理人の活用

社労士(特定社会保険労務士に限る)や弁護士に代理人を依頼することで、主張書面の作成や期日対応を任せることができます。特に複雑な案件や解決金の交渉では、代理人の存在が重要です。代理人選任には、あっせん委員会への「代理人許可申請書」の提出が必要です。

ポイント4:社内への情報管理

あっせん手続き中は、社内で紛争に関する情報を最小限の関係者のみに共有してください。他の従業員に広まると、企業への不信感や連鎖的な紛争につながるリスクがあります。また、労働者本人に対する報復的な扱い(配置転換、嫌がらせ)は、労働施策総合推進法第30条の2第2項(不利益取扱いの禁止)に違反する可能性があるため厳禁です。

ポイント5:解決金の支払い条件の明確化

和解合意書には、以下の点を明記します。

  • 支払い金額と内訳(賃金相当分と慰謝料分の区分)
  • 支払い時期と方法(振込先口座、期限)
  • 清算条項(本和解以外に債権債務が無いことの確認)
  • 秘密保持条項(和解内容の第三者への開示禁止)

再発防止|労務トラブルを起こさない組織づくり

あっせんや労働審判で解決した後も、同じ原因で他の従業員から紛争が発生することがあります。根本的な再発防止策として、以下を検討してください。

再発防止のための組織改善策

対策 具体的内容 優先度
就業規則の見直し 解雇事由、懲戒処分、退職手続きなど紛争になりやすい条項を明確化
ハラスメント防止体制 社内相談窓口の設置、研修の実施、社内規程の整備
労使コミュニケーション 定期面談、アンケート、従業員満足度調査
勤怠管理の適正化 タイムカード・勤怠システムの導入、残業の事前承認制
管理職教育 労働法の基礎、ハラスメント防止、部下との対話スキル

労務トラブルの多くは、適切な就業規則の整備日常的なコミュニケーションで防げます。就業規則については「就業規則の作成義務と作成方法」で詳しく解説しています。

よくある質問(FAQ)

あっせん開始通知が届いたら、どれくらいの期間で対応が必要ですか?
通知到達から参加意思の回答期限は通常1〜2週間以内、その後あっせん期日の1〜2週間前までに主張書面を提出する必要があります。通知到達から期日まで全体で1〜1.5ヶ月が一般的です。期限を過ぎると不参加と見なされるため、通知が届いたら速やかに対応方針を決めることが重要です。
あっせんに社労士や弁護士を代理人として立てられますか?
代理人を立てることは可能ですが、あっせん委員会への「代理人許可申請書」の提出が必要です。代理人は通常、特定社会保険労務士または弁護士が務めます。複雑な案件や解決金の交渉がある場合は、代理人の活用が有効です。許可申請書は厚生労働省の個別労働紛争解決制度ページからダウンロードできます。
あっせんに不参加でも、労働者が提訴できますか?
はい、あっせんは任意手続きなので、不参加や打ち切りの後、労働者は労働審判や民事訴訟を起こすことができます。実務では、あっせん不参加後に労働審判に進むケースが多く、結果的に企業の対応コストが増える傾向があります。不参加を決める前に、社労士・弁護士への相談を強くお勧めします。
あっせんで合意した和解内容は、第三者に知られますか?
あっせん手続きは非公開で行われ、あっせん委員にも守秘義務があります。和解合意書に「秘密保持条項」を盛り込めば、当事者同士も第三者への開示を制限できます。これは訴訟(原則公開)と比べた大きなメリットです。
あっせんの解決金の税務上の扱いはどうなりますか?
支払う側(企業)は損金算入可能です。未払い賃金・残業代相当は「給与」扱いで源泉徴収が必要、慰謝料・和解金相当は「支払損害賠償金」として源泉徴収不要です。受け取る側(労働者)は、給与部分は給与所得、慰謝料部分は原則非課税(所得税法施行令第30条)となります。和解合意書で内訳を明確にすることが税務処理上重要です。
あっせんで企業が勝つケース(申請却下)はありますか?
あっせんは勝ち負けを判定する制度ではなく、話し合いによる解決を目指す制度です。ただし、あっせん委員が「紛争解決の見込みがない」と判断すれば、あっせんを打ち切ることができます(個別労働紛争解決促進法第14条)。例えば、労働者の主張が法的根拠を完全に欠く場合や、企業側に責任がないことが明白な場合は、打ち切りになりやすい傾向があります。
あっせん期日当日、労働者と直接顔を合わせますか?
原則として顔を合わせません。あっせんは「シャトル方式」と呼ばれる方式で、双方が別室で待機し、あっせん委員が両方の部屋を行き来して意見を調整します。直接対峙しないため、感情的な衝突を避けながら冷静に話し合いができることが特徴です。
あっせんと労働審判、どちらを労働者が選ぶ傾向がありますか?
初期段階では弁護士をつけずに気軽に申し立てられる「あっせん」が多く、弁護士に相談して本格的に争う段階では「労働審判」が選ばれる傾向があります。あっせんは解決金が比較的小規模で済むケースが多く、労働審判は請求金額が大きい本格紛争で選ばれることが多いです。

📋 この記事のポイント

  • あっせんは労働局による話し合い制度で、費用無料・期日1回・期間1〜2ヶ月が特徴
  • 個別労働関係紛争解決促進法第12条に基づく、対象は解雇・退職勧奨・パワハラ等の民事紛争
  • 手続きは申請→開始通知→参加回答→主張書面提出→期日→終了の6ステップ
  • 企業は参加・不参加を選べるが、不参加の場合は労働審判・訴訟に進む可能性が高い
  • あっせんは労働審判より簡易・迅速だが、強制力がなく合意成立のみ効力を持つ
  • 解決金相場は紛争類型により異なり、月給1〜3ヶ月分または10〜50万円程度が目安
  • 企業側は就業規則の整備・証拠収集・代理人活用がポイント

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