【社労士×税理士が解説】在職老齢年金の仕組み|支給停止基準額65万円と働きながら年金を受け取る方法

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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在職老齢年金の仕組み|支給停止基準額65万円と働きながら年金を受け取る方法
60歳以降も働き続ける経営者・役員・従業員、人事担当者に向けて、在職老齢年金の計算式・2026年4月改正で緩和された65万円基準・支給停止を最小化する実務パターンを完全ガイド。この記事を読めば、自社役員や従業員の年金受給額を最適化できます。
🏆 結論:2026年4月改正で基準額が51万円→65万円に引き上げ、「年金の半額以上を受け取れる」ケースが激増
在職老齢年金は、60歳以降に厚生年金加入を続けながら老齢厚生年金を受給する場合の減額調整制度です。基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円(2026年度)を超えると超過分の1/2が支給停止されます。2026年4月改正で基準額が51万円→65万円に大幅引き上げられ、月収60万円・年金月18万円の役員でも支給停止が7.5万円→0.5万円へ激減。賞与の月割計算・標準報酬月額の調整・非常勤化など、5つの支給停止回避テクニックで年金を最大化できます。
在職老齢年金とは?基本の仕組み
在職老齢年金は、厚生年金保険法第46条に規定される「老齢厚生年金の支給調整制度」です。60歳以降に厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給する場合、賃金と年金の合計額が基準額を超えると、超過分に応じて年金の一部または全部が支給停止されます。
参考:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」|e-Gov法令検索「厚生年金保険法」
在職老齢年金の対象となる人
以下の3要件をすべて満たす場合に在職老齢年金の対象になります。
- 60歳以上で厚生年金の被保険者(一般被保険者または70歳以上被用者)
- 老齢厚生年金の受給権者である(受給資格期間10年以上)
- 在職中(雇用契約または役員として厚生年金加入中)
一方、厚生年金の適用を受けない働き方(週20時間未満、業務委託、個人事業主として活動等)では、そもそも在職老齢年金の調整対象外です。年金は全額受給できますが、その分将来の年金額は増えません。
🔷 社労士の視点
実務で相談が特に多いのは「60歳定年後の再雇用で月給を大幅に下げた会社員」のケースです。弊所が労務顧問を担当している従業員80名の建設業I社では、60歳以降の嘱託社員の報酬を現役時代の60%に設定しており、ほぼ全員が年金全額受給の対象となっていました。ところが2026年4月改正で基準額が65万円に緩和されたことで、上位管理職クラス(嘱託でも月50万円超)の方も全額受給が可能に。「改正直前の報酬決定で、もう少し高めに設定しておけばよかった」という声も出ています。
2026年4月改正のポイント【基準額65万円への引き上げ】
📢 令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)
2026年(令和8年)4月分以降、在職老齢年金の支給停止基準額が月額51万円から65万円に引き上げられました。14万円の大幅緩和により、これまで支給停止されていた経営層・高所得者の多くが年金を受け取れるようになります。なお、基準額は毎年度の賃金変動に応じて改定されます。
基準額引き上げの背景
政府が基準額を引き上げた背景には、以下の社会経済的な要因があります。
- 平均寿命・健康寿命の伸長に伴う高齢者の就労意欲の高まり
- 現役層の減少による労働力確保のニーズ
- 「働き損」により就労が抑制される逆インセンティブの解消
- 高齢者の経済的活躍推進(キャリアエクステンション)
基準額の推移
| 適用時期 |
基準額 |
変更内容 |
| 2022年4月〜2024年3月 | 47万円 | 65歳以上と60〜64歳を一本化 |
| 2024年4月〜2025年3月 | 50万円 | 賃金変動に応じた改定 |
| 2025年4月〜2026年3月 | 51万円 | 同上 |
| 2026年4月〜 | 65万円 | 法改正による大幅引き上げ |
支給停止額の計算方法【具体例で理解する】
📐 支給停止額の計算式(2026年4月〜)
基本月額 + 総報酬月額相当額 ≤ 65万円 → 全額支給
基本月額 + 総報酬月額相当額 > 65万円 → 支給停止額 =(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)× 1/2
用語の定義
| 用語 |
内容 |
| 基本月額 | 加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額(=年額÷12) |
| 総報酬月額相当額 | 標準報酬月額 + 直近1年間の標準賞与額 ÷ 12 |
| 標準報酬月額 | 月給を1〜32等級(厚生年金)に区分した金額 |
| 標準賞与額 | 実際の賞与額(1000円未満切り捨て、1回あたり150万円上限) |
計算シミュレーション4パターン
🧮 2026年度(基準65万円)の計算例
ケース1:基本月額10万円 + 総報酬月額50万円
合計60万円 ≤ 65万円 → 年金は全額支給(月10万円)
ケース2:基本月額15万円 + 総報酬月額55万円
合計70万円 > 65万円
支給停止 =(15+55-65)÷2 = 2.5万円
年金受給額 = 15 − 2.5 = 月12.5万円
ケース3:基本月額18万円 + 総報酬月額60万円
合計78万円 > 65万円
支給停止 =(18+60-65)÷2 = 6.5万円
年金受給額 = 18 − 6.5 = 月11.5万円
ケース4:基本月額25万円 + 総報酬月額100万円(役員)
合計125万円 > 65万円
支給停止 =(25+100-65)÷2 = 30万円
この場合、支給停止額が年金額を超えるため全額停止
改正前後の比較【月額10万円以上の改善効果も】
2025年度(51万円基準)と2026年度(65万円基準)で、同じ条件の場合にどれだけ年金額が変わるかを比較します。
⭐ 高額報酬の経営者ほど改正の恩恵が大きい
| ケース |
2025年度(51万円) |
2026年度(65万円) |
年間の受給増 |
| 基本月額12万円+報酬40万円(合計52万円) | 11.5万円 | 12万円(全額) | +6万円 |
| 基本月額15万円+報酬50万円(合計65万円) | 8万円 | 15万円(全額) | +84万円 |
| 基本月額18万円+報酬60万円(合計78万円) | 4.5万円 | 11.5万円 | +84万円 |
| 基本月額20万円+報酬80万円(合計100万円) | 全額停止 | 2.5万円 | +30万円 |
| 基本月額25万円+報酬100万円(合計125万円) | 全額停止 | 全額停止 | ±0 |
※加給年金額は別途全額支給される点に注意。表の数値は報酬比例部分のみ
📊 公認会計士の視点:キャッシュフローへの影響
年間84万円の年金増収は、退職金・役員退職慰労金に匹敵するキャッシュフロー改善です。65歳から75歳までの10年間で約840万円の差になります。中小企業の経営者にとって、この「新たな可処分所得」を事業の投資原資に回すか、個人の金融資産として運用するかは重要な経営判断です。弊所が顧問を担当している資本金3000万円のサービス業J社の67歳社長は、改正後の年金増収分を計画的に確定拠出年金(iDeCo)と新NISAに回す運用設計を採用しました。
支給停止を最小化する5つの実務パターン
パターン1:標準報酬月額を等級境界で調整
月給を標準報酬月額の等級境界(例:62万円と65万円の境)に合わせて設定します。たとえば60万円の月給の場合、賞与ゼロなら総報酬月額相当額も60万円で、基本月額5万円までなら全額受給(合計65万円以内)できます。給与1万円の違いで年金数万円の違いが出ることがあるため、事前シミュレーションが重要です。
パターン2:賞与を月給に組み込む
基準額の計算では「標準賞与額÷12」が毎月の総報酬月額相当額に加算されます。賞与を高額に設定すると、12か月にわたって基準額を圧迫します。逆に、月給に組み込み、賞与を抑制すると、変動幅を予測しやすくなります。
🧮 賞与ありなしシミュレーション
パターンA:月給50万円+年間賞与120万円
総報酬月額相当額 = 50万円 + 120÷12万円 = 60万円
パターンB:月給60万円+賞与なし
総報酬月額相当額 = 60万円
年間総支給額(720万円)は同じだが、保険料率・年金調整の扱いはB方式のほうが読みやすい
パターン3:非常勤役員化で厚生年金から離脱
代表取締役から常勤監査役・非常勤取締役へ異動することで、労働実態の変化により厚生年金から外れるケースがあります。具体的には、週の出勤日数が1日程度、実質的な労務提供が形式的になる場合、年金事務所が厚生年金被保険者資格を見直し、被保険者資格喪失となります。資格喪失後は在職老齢年金の調整対象外となり、年金は全額受給できます。ただし、形式的な名目変更だけでは認められず、実態を伴う変更が必要です。
パターン4:70歳以上被用者として働く
70歳を過ぎると厚生年金保険料の徴収は終了しますが、「70歳以上被用者」として在職老齢年金の調整は続きます。ただし、加給年金の支給要件を満たしながら働き続けるケースでは、保険料負担なしに賃金を得られるため、実質的な手取りは有利になります。
パターン5:役員退任と顧問契約への切り替え
役員を退任し、業務委託契約の顧問・アドバイザーとして活動する方法です。業務委託なら厚生年金の適用はなく、年金は全額受給できます。ただし、個人事業主としての所得税・住民税・国民健康保険料の負担が発生するため、税務・社保の総合比較が必要です。
⚠️ 注意:実態を伴わない形式変更は認められない
非常勤役員への変更や業務委託化は、あくまで実態として労務提供形態が変わっていることが前提です。年金事務所は実地調査で「出勤日数」「業務内容」「意思決定への関与」などをチェックし、形式だけの変更は厚生年金の被保険者資格継続・在職老齢年金の調整継続と判定します。社労士や顧問税理士と相談のうえ、総合的な判断が必要です。
AYUSAWA PARTNERS
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在職定時改定【65歳以上は毎年10月に年金額が増える】
2022年4月から導入された「在職定時改定」により、65歳以上70歳未満で厚生年金に加入しながら働く人は、毎年9月1日時点の加入記録を元に年金額が再計算され、10月分(12月支給分)から年金額が増額されます。
📐 在職定時改定の効果
毎年1年分の保険料納付による年金増額分が、翌年10月から反映されます。たとえば65歳で就業し標準報酬月額30万円で働いた場合、年間約2万円程度の年金増額が毎年積み重なります。
参考:日本年金機構「在職定時改定」
高年齢雇用継続給付との併給調整
60〜65歳の間に賃金が60歳時点より75%未満に下がった場合、雇用保険の「高年齢雇用継続給付金」を受給できます。この給付金を受けている間は、在職老齢年金の支給停止に加えて、さらに標準報酬月額の最大4%(2025年4月改正後、従来は6%)が追加支給停止されます。
💡 実務のポイント:2025年4月から高年齢雇用継続給付は最大10%へ縮小
2025年4月以降の新規受給者(1965年4月2日以降生まれの方)から、高年齢雇用継続給付の給付率が従来の15%から最大10%に縮小されました。同時に年金の追加支給停止率も6%→4%に引き下げ。ネットで見ると依然プラス効果はありますが、従前より恩恵は減っています。60歳再雇用時の給与設計では、この2025年改正も踏まえた試算が必須です。
税金・社会保険料の取扱い【税理士の視点】
老齢厚生年金は公的年金等控除適用後に課税
受給した老齢厚生年金(支給停止分を除く実際の受給額)は、雑所得(公的年金等)として課税対象ですが、公的年金等控除(65歳以上は最低110万円)が適用されます。このため、在職老齢年金で実際に受け取る金額は、実質的な税負担が大きく軽減されます。
支給停止額は所得認識しない
📊 税理士の視点:課税対象は実際の受給額のみ
所得税法上、在職老齢年金で支給停止された金額は所得認識しません。確定申告の公的年金等の収入金額欄には、実際に振り込まれた金額のみを記載します。日本年金機構から1月に送られる「公的年金等の源泉徴収票」に、支給停止後の正確な金額が表示されるため、これをそのまま申告書に転記するのが最も確実です。弊所では、経営者の確定申告で「本来の年金見込額を誤って記載」というミスを何度か発見したことがあります。
よくある失敗事例と対策
失敗事例1:標準報酬月額を1万円下げるだけで年金が大幅増額のチャンスを逃す
月給60万円の役員が報酬を59万円に下げれば、等級が1つ下がり、総報酬月額相当額が減り、支給停止額も減る可能性があります。わずか1万円の差で年間数十万円の年金増額につながるケースも。改定時期(3か月連続の月平均)を見据えた設計が重要です。
失敗事例2:賞与の設定ミスで想定外の支給停止
「月給は問題ないから」と高額賞与を支給した結果、直近1年の賞与月割が加算され、基準額をオーバーするケース。賞与支給後12か月間は影響が続くため、事前試算が必要です。
失敗事例3:70歳到達時の手続き漏れ
70歳到達で厚生年金の被保険者資格が喪失しますが、「70歳以上被用者」としての届出が必要です。届出漏れがあると在職老齢年金の計算が正しく行われず、後日遡って調整が発生します。
失敗事例4:改正前の報酬を維持したまま改正を知らずに損
2025年度基準(51万円)時代に年金がほぼ全額停止されるため報酬を低く設定していた経営者が、2026年改正で65万円に上がった後も低報酬のままで損するケース。改正のタイミングで必ず報酬を見直すべきです。
よくある質問(FAQ)
在職老齢年金の対象になるのは老齢厚生年金だけですか?
そのとおりです。老齢基礎年金・遺族年金・障害年金は在職老齢年金の調整対象外で、在職中であっても全額支給されます。調整されるのは老齢厚生年金の報酬比例部分のみです。
加給年金は支給停止されますか?
老齢厚生年金(報酬比例部分)が一部でも支給されていれば加給年金は全額支給されます。報酬比例部分が全額停止になる場合のみ、加給年金も停止されます。
基準額65万円は今後も維持されますか?
基準額は毎年度の賃金変動に応じて改定される仕組みです。2026年度の65万円は名目賃金の伸びを反映した額で、将来的には賃金上昇に応じて更に引き上げられる可能性もあります。なお、65万円という水準は政策的な引き上げを含んでおり、今後の法改正で更に変更される可能性もあります。
65歳以降にフルタイムで働くと、厚生年金は増えますか?
70歳までの期間は増えます。厚生年金の被保険者として保険料を支払う限り、毎年の「在職定時改定」で年金額が再計算され、翌年10月分から反映されます。ただし、加入期間は480月(40年)が上限です。
業務委託(フリーランス)になれば年金は全額受給できますか?
業務委託は厚生年金の適用外のため、在職老齢年金の調整対象外です。年金は全額受給できます。ただし、国民健康保険料と国民年金(60歳未満の場合)の自己負担、事業所得としての課税があるため、総合的な手取り比較が重要です。
繰下げ受給にすれば在職老齢年金は関係なくなりますか?
繰下げ期間中は老齢厚生年金を受給しないため、在職老齢年金の調整も発生しません。ただし、繰下げ期間中に支給停止となっていたはずの金額は、繰下げ増額の計算から除外されるため、高所得者が繰下げしても期待したほどの増額効果が得られない場合があります。
基本月額にはどの部分が含まれますか?
老齢厚生年金の報酬比例部分(および経過的加算)の月額が該当します。加給年金額は基本月額に含めません。老齢基礎年金は在職老齢年金の計算と無関係です。
総報酬月額相当額は毎月変わりますか?
標準報酬月額は基本的に年1回(算定基礎届で決定)、賞与支給時に標準賞与額が加算されます。算定基礎届による改定や、昇給・賞与支給のタイミングで変動します。特に賞与支給月以降12か月は、過去12か月の賞与総額÷12が毎月加算されます。
年金をもらい始めてから役員報酬を上げたい場合は?
役員報酬の増額は、定時株主総会から3か月以内の「定期同額給与」ルール(法人税法第34条)との兼ね合いが重要です。役員報酬増額のタイミングで、増額後の在職老齢年金を試算し、法人税・個人所得税・年金調整額を総合的に比較することをおすすめします。
70歳以上でも在職老齢年金の調整はありますか?
70歳以降は厚生年金保険料の徴収は終了しますが、「70歳以上被用者」として在職老齢年金の調整は継続します。年金事務所への「70歳到達届」の提出を忘れないように注意が必要です。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 在職老齢年金は60歳以上で厚生年金加入しながら老齢厚生年金を受給する人の調整制度
- 2026年4月から支給停止基準額が51万円→65万円に大幅引き上げ
- 計算式は「(基本月額+総報酬月額相当額-基準額)× 1/2」の支給停止
- 改正により月5万〜10万円、年間60万〜120万円の年金増額効果も
- 標準報酬月額・賞与・非常勤化・業務委託化で最適化できる
- 2022年導入の在職定時改定で65〜70歳の加入者は毎年10月に年金額増
- 支給停止額は所得認識しない(課税対象は実際の受給額のみ)
在職老齢年金は、働き続ける高齢者にとって避けては通れない制度ですが、2026年4月の基準額引き上げにより、「働きながら年金を受け取れる」選択肢が大幅に広がりました。特に中小企業の経営者・役員にとっては、役員報酬の最適化と年金設計を一体で考えることが、退職後の手取り最大化の鍵となります。
鮎澤パートナーズでは、社会保険労務士が在職老齢年金の計算から、税理士が役員報酬と法人税・所得税のバランス試算、公認会計士がキャッシュフロー分析まで、ワンストップで対応しています。60歳以降の経営者向けには、「役員報酬と年金の最適配分」という独自のコンサルティングメニューを提供しており、数多くの経営者の手取り改善に貢献しています。