【会計士×税理士が解説】損益分岐点分析の計算方法と経営活用|限界利益・変動費・固定費の分解

【会計士×税理士が解説】損益分岐点分析の計算方法と経営活用|限界利益・変動費・固定費の分解
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

損益分岐点分析の計算方法と経営活用|限界利益・変動費・固定費の分解

「あといくら売れば赤字を脱出できるのか」を知りたい経営者に向けて、損益分岐点分析の計算方法から経営判断への活用まで完全ガイドします。この記事を読めば、自社の損益構造を分解し、利益を出すための具体的なアクションが見えるようになります。

🏆 結論:損益分岐点=固定費÷限界利益率で計算できる

損益分岐点売上高は「固定費÷限界利益率」で求められます。限界利益率は「(売上高−変動費)÷売上高」です。この計算には、費用を「変動費」と「固定費」に分解する作業が必要です。損益分岐点比率が80%以下なら安全圏、90%を超えると赤字転落リスクが高まります。損益分岐点を下げるには「固定費を減らす」「変動費率を下げる」「単価を上げる」の3つのアプローチがあります。

損益分岐点分析の全体の流れ【5ステップ】

損益分岐点分析は、以下の5つのステップで行います。

【ステップ1】費用を変動費と固定費に分解する

損益分岐点を計算するためには、まず会社のすべての費用を「変動費」と「固定費」の2つに分類する必要があります。

変動費とは、売上の増減に比例して金額が変動する費用です。商品仕入高、原材料費、外注加工費、販売手数料などが該当します。固定費とは、売上の増減に関係なく一定額が発生する費用です。人件費(固定給)、家賃、減価償却費、保険料などが該当します。

【ステップ2】限界利益と限界利益率を計算する

限界利益とは「売上高から変動費を差し引いた利益」です。言い換えると、「商品を1つ売るごとに、固定費の回収に貢献する利益」です。

限界利益 = 売上高 − 変動費

限界利益率は、売上高に占める限界利益の割合です。

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 = 1 − 変動費率

【ステップ3】損益分岐点売上高を計算する

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

この金額が「最低限、この売上がないと赤字になる」というラインです。

【ステップ4】安全余裕率で経営の安全度を評価する

安全余裕率 =(実際の売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 実際の売上高 × 100

安全余裕率 経営状態 アクション
20%以上安全圏。売上が20%下がっても赤字にならない成長投資を検討できる
10〜20%概ね安全。ある程度の余裕がある固定費の増加には慎重に
5〜10%注意。わずかな売上減少で赤字にコスト削減を優先
5%未満危険。赤字転落のリスクが非常に高い緊急のコスト構造見直しが必要

【ステップ5】目標利益から必要売上高を逆算する

目標利益達成売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率

この計算式は「○○万円の利益を出すには、いくらの売上が必要か?」に即座に答えてくれます。経営計画や資金計画の基礎になる重要な計算です。

変動費と固定費の分類方法【業種別判定表】

変動費と固定費の分類は損益分岐点分析の精度を左右する最も重要なステップです。業種によって分類が異なるため、自社に合った分類を行ってください。

勘定科目 製造業 小売業 IT・サービス 飲食業 建設業
原材料費・仕入高変動変動変動変動
外注加工費変動変動変動
人件費(正社員・固定給)固定固定固定固定固定
人件費(パート・残業代)変動変動固定変動変動
家賃・地代固定固定固定固定固定
減価償却費固定固定固定固定固定
販売手数料変動変動変動変動変動
水道光熱費変動固定固定変動固定
運送費・配送費変動変動変動
広告宣伝費固定固定変動※固定固定

※IT業でリスティング広告など成果連動型の広告費は変動費として扱うのが適切です。固定月額の広告は固定費に分類します。

💡 実務のポイント

実務では、全ての費用を完璧に変動費と固定費に分けるのは不可能です。「厳密に分ける」よりも「概ね正しい分類をして、毎月モニタリングする」ことの方が重要です。迷ったら固定費に分類してください。変動費に分類すると限界利益率が高く計算され、損益分岐点が低く出て安全度を過大評価するリスクがあるためです。

年商別の損益分岐点シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 業種:金属加工業(製造業)
  • 変動費率:60%(原材料+外注費が売上の60%)
  • したがって限界利益率:40%
項目 年商1,000万円 年商3,000万円 年商1億円
売上高1,000万円3,000万円1億円
変動費(60%)600万円1,800万円6,000万円
限界利益(40%)400万円1,200万円4,000万円
固定費300万円900万円3,200万円
損益分岐点売上高750万円2,250万円8,000万円
損益分岐点比率75%75%80%
安全余裕率25%25%20%
営業利益100万円300万円800万円

年商1億円の企業は固定費が大きくなる分、損益分岐点比率が80%と高くなっています。売上が20%下がると赤字に転落するため、景気変動への耐性は年商1,000万〜3,000万円の企業よりやや低いことがわかります。

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損益分岐点を下げる3つのアプローチと効果比較

損益分岐点を下げるには「固定費を減らす」「変動費率を下げる」「販売単価を上げる」の3つしかありません。それぞれの効果を同じ条件で比較します。

📐 比較の前提条件

  • 現状:売上高3,000万円、変動費率60%、固定費900万円
  • 現状の損益分岐点:900万÷0.4=2,250万円
  • 各アプローチで10%改善した場合の効果を比較
アプローチ 改善内容 改善後の損益分岐点 削減効果 実現の難易度
固定費を10%削減900万→810万円2,025万円▲225万円★★☆(比較的容易)
変動費率を10%改善60%→54%1,957万円▲293万円★★★(困難)
販売単価を10%値上げ単価×1.1(販売数同じ)1,875万円▲375万円★★★(顧客離れリスク)

値上げは効果が最も大きいですが、顧客離れのリスクもあります。実務では、まず固定費の削減から着手し、次に変動費率の改善(仕入先の見直し・ロス削減等)、最後に値上げの検討という順序が現実的です。

📊 公認会計士の視点

変動費率の改善で注意すべきは「品質低下」です。原材料を安いものに切り替えて変動費率を下げても、品質が落ちれば売上自体が減少します。変動費率の改善は「ムダの削減」と「仕入条件の交渉」に絞るのが安全です。

変動損益計算書の作り方と通常のP/Lとの違い

変動損益計算書は、費用を変動費と固定費に組み替えた損益計算書です。通常のP/Lでは見えない「限界利益」が一目でわかるため、経営判断に役立ちます。

通常のP/L 金額 変動損益計算書 金額
売上高3,000万円売上高3,000万円
売上原価2,100万円変動費1,800万円
売上総利益900万円限界利益1,200万円
販管費600万円固定費900万円
営業利益300万円営業利益300万円

通常のP/Lでは売上原価に固定費(工場の減価償却費等)が含まれているため、「売上総利益」は限界利益とは異なります。変動損益計算書では費用の性質で分類するため、限界利益率が正確に把握でき、損益分岐点の計算に直接使えます。

「固定費が増えたら売上をいくら増やすべきか」の即時計算

新しい社員を雇う、事務所を移転する、設備投資をする——こうした判断をするとき、「この追加固定費を賄うにはいくらの売上増が必要か」を即座に計算できます。

必要な追加売上高 = 追加固定費 ÷ 限界利益率

追加固定費の例 年間追加固定費 限界利益率40%の場合 限界利益率60%の場合
正社員1名採用500万円1,250万円833万円
事務所移転(家賃増額分)120万円300万円200万円
設備投資(年間減価償却費)200万円500万円333万円

限界利益率40%の製造業の場合、正社員を1名採用すると、年間1,250万円の売上増(月約104万円)が必要になります。この計算を採用前にしておくだけで「この人を雇って元が取れるか」の判断ができます。

決算書の全体像については「決算書(財務諸表)の種類と全体像」、財務分析の主要指標は「財務分析の基本指標」で解説しています。簿記の基礎知識は「簿記と帳簿付けの基礎知識」をご参照ください。また、会計ソフト選びは「会計ソフトの選び方」をどうぞ。

損益分岐点分析の注意点と限界

分析の前提条件に注意

損益分岐点分析にはいくつかの前提条件があり、それを理解しておかないと分析結果を過信するリスクがあります。

前提条件 実際の経営との違い 対処法
変動費率は一定原材料価格は変動する四半期ごとに変動費率を再計算
固定費は一定売上が大幅に増えると人員増で固定費も増える売上レンジごとに固定費を設定
単一商品を想定複数商品では商品ミックスが変わる加重平均の限界利益率を使用
全て売り切る前提在庫が残る場合がある在庫の廃棄コストを固定費に含める

よくある質問(FAQ)

損益分岐点の計算式を教えてください
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率です。限界利益率は「(売上高−変動費)÷売上高」で計算します。たとえば固定費が500万円、限界利益率が40%なら、損益分岐点売上高は500万÷0.4=1,250万円です。つまり月約104万円の売上がないと赤字になります。
限界利益と売上総利益(粗利)の違いは何ですか?
限界利益は「売上高−変動費」、売上総利益は「売上高−売上原価」です。売上原価には固定費(工場の減価償却費・正社員の人件費等)も含まれるため、売上総利益は限界利益より小さくなることが多いです。損益分岐点の計算には限界利益を使います。
人件費は変動費と固定費のどちらですか?
正社員の固定給は固定費、パート・アルバイトの時給や残業代は変動費に分類するのが一般的です。ただし業種によって異なります。たとえば人材派遣業では、派遣スタッフの人件費は売上に連動するため変動費として扱います。自社の実態に合わせて判断してください。
損益分岐点比率はどのくらいが適切ですか?
損益分岐点比率は80%以下が安全圏、90%を超えると危険水準です。損益分岐点比率が70%なら「売上が30%下がっても赤字にならない」ということを意味します。自社の損益分岐点比率を毎月チェックして、80%を超えたらコスト構造の見直しを始めてください。
損益分岐点を下げるにはどの方法が最も効果的ですか?
短期的には「固定費の削減」が最も実行しやすく効果的です。不要なサブスクリプションの解約、事務所の縮小、業務の外注化などで固定費を10%削減できれば、損益分岐点も10%下がります。中長期的には「変動費率の改善」(仕入先の見直し、ロスの削減)や「販売単価の引き上げ」も検討してください。
新しい社員を雇うかどうかの判断に損益分岐点は使えますか?
使えます。「必要な追加売上高 = 追加人件費 ÷ 限界利益率」で計算できます。限界利益率が40%の会社で年収500万円の社員を雇う場合、500万÷0.4=1,250万円の追加売上が必要です。その社員が年間1,250万円以上の売上を生み出せるなら、採用は合理的な判断です。
会計ソフトで損益分岐点を自動計算できますか?
freee、マネーフォワード、弥生会計などの主要な会計ソフトには、変動損益計算書やCVP分析の機能を持つものがあります。ただし、変動費と固定費の分類は会計ソフトが自動で行うわけではなく、勘定科目ごとに変動/固定の設定を手動で行う必要があります。設定さえしておけば、毎月の試算表から自動的に損益分岐点が計算されます。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率。まず費用を変動費と固定費に分解する
  • 限界利益 = 売上高 − 変動費。限界利益率は「1商品売るごとの固定費回収への貢献度」
  • 安全余裕率20%以上が目標。10%を切ったらコスト構造の見直しが急務
  • 損益分岐点を下げる3つの方法:固定費削減(最も実行しやすい)→変動費率改善→値上げ
  • 変動損益計算書を作成すれば、毎月の限界利益率と損益分岐点を把握できる
  • 追加固定費(採用・移転・投資)の意思決定には「追加売上 = 追加固定費÷限界利益率」で判断

まずは自社のP/Lから変動費と固定費を分類し、限界利益率と損益分岐点を計算してみてください。自社の損益構造が見えるだけで、日々の経営判断のスピードと精度が大きく変わります。

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