【会計士×税理士が解説】銀行融資審査で見られる決算書のポイント|経営者が知るべき改善策

【会計士×税理士が解説】銀行融資審査で見られる決算書のポイント|経営者が知るべき改善策
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

銀行融資審査で見られる決算書のポイント|経営者が知るべき改善策

「銀行に決算書を出したのに融資が通らなかった」「決算書のどこを見られているのかわからない」という経営者に向けて、銀行が決算書で見るポイントと改善策を完全ガイドします。この記事を読めば、次の融資面談までに自社の決算書のどこを改善すべきかが明確になります。

🏆 結論:銀行は「返済能力」を5つの視点で見ている

銀行融資の審査で最も重視されるのは「貸したお金が返ってくるか」です。具体的には①債務超過でないか(純資産がプラスか)②経常利益が安定して黒字か③債務償還年数が10年以内か④自己資本比率が20%以上か⑤不良資産(役員貸付金・仮払金等)がないか、の5点です。この5つを全てクリアしていれば「正常先」と格付けされ、低金利で融資を受けやすくなります。

銀行が決算書を見る理由と提出書類一式

なぜ銀行は決算書を要求するのか

銀行にとって融資は「貸して終わり」ではなく、元本と利息を確実に回収するビジネスです。融資先が返済できなくなれば、銀行は損失を被ります。そのため、融資先の返済能力を客観的に判断できる唯一の資料=決算書の提出が必須とされています。

銀行は通常、直近3期分の決算書を求めます。1期分だけでは「たまたま良い年だった」のか「安定的に良い」のかが判断できないためです。3期分の推移を見ることで、売上や利益の傾向、財務体質の改善・悪化を読み取ります。

銀行に提出する書類一式

書類 内容 必須/任意
決算書(B/S・P/L・S/S・注記表)過去3期分必須
勘定科目内訳明細書各科目の内訳(取引先別残高等)必須
法人税確定申告書(別表一〜十六)税務申告の全体像必須
事業概況説明書売上構成・従業員数等必須
直近の試算表決算後の最新状況ほぼ必須
資金繰り表向こう6〜12ヶ月のキャッシュフロー予測任意(提出すると加点)
事業計画書今後の事業方針と収益計画任意(新規融資で加点)

💡 実務のポイント

資金繰り表は法律上の作成義務はありませんが、自主的に提出するだけで銀行からの評価が上がります。「この経営者は資金管理をきちんとしている」と判断されるためです。顧問税理士と一緒に月次で資金繰り表を作成しておくと、融資の場面だけでなく日常の経営判断にも役立ちます。

銀行の格付け(債務者区分)5段階と判定基準

銀行は融資先を「債務者区分」と呼ばれる5段階(一部6段階)で格付けしています。この格付けによって融資の可否、金利、担保・保証の条件が決まります。金融検査マニュアルに基づく格付けの概要を整理します。

格付け 判定基準の目安 融資への影響
正常先経常利益が黒字・債務超過なし・債務償還年数10年以内低金利で融資可能。プロパー融資も検討対象
要注意先赤字が1〜2期・債務償還年数10〜15年・条件変更あり保証付き融資が中心。金利やや高め
要管理先3期連続赤字・リスケ中・借入過多新規融資は困難。経営改善計画が必要
破綻懸念先債務超過・返済遅延が頻発融資不可。既存融資の回収検討
実質破綻先・破綻先事業継続が困難・法的整理中融資不可。債権の回収・償却対象

参考: 金融庁 金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)

中小企業の場合、金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)により、大企業よりも柔軟に評価される面があります。たとえば代表者の個人資産や、役員借入金の実質自己資本への加算など、中小企業特有の事情が考慮されます。

貸借対照表(B/S)で銀行が見る7つのポイント

銀行がB/Sで最初に確認する3つの数字

銀行の融資担当者がB/Sを開いて最初に確認するのは「純資産の額」「現金預金の残高」「借入金の総額」の3つです。この3つだけで、融資の可否がおおよそ判断できると言っても過言ではありません。

確認項目 合格基準 不合格の場合のリスク
純資産の額プラス(=債務超過でない)マイナス→即「要注意先」以下に格下げ
現金預金残高月商2〜3ヶ月分以上月商1ヶ月分未満→資金繰りに不安
借入金総額月商3〜5ヶ月分以内月商6ヶ月分超→過剰借入の疑い

銀行が「嫌う」B/Sの勘定科目チェックリスト

B/Sには、存在するだけでマイナス評価を受ける勘定科目があります。決算前にこれらの科目を整理しておくことが、融資審査を有利に進めるための基本です。

勘定科目 銀行が疑うこと 理想残高 決算前の改善策
役員貸付金会社資金の私的流用0円決算前に返済。不可能なら返済計画を書面化
仮払金使途不明金・粉飾の疑い0円精算処理を完了し適切な科目に振替
仮受金売上の先送り・処理の怠慢0円内容を特定し適切な科目に振替
貸付金(関係会社)回収不能な資金の固定化最小限回収を進める。不可能なら貸倒引当金を計上
長期滞留売掛金架空売上・回収不能月商×回収サイト以内3ヶ月超の滞留分は原因を調査・回収・償却
過大な棚卸資産架空在庫・不良在庫月商の1〜2ヶ月分実地棚卸でデッドストックを処分
繰延資産実態のない資産の水増し最小限早期償却を検討

⚠️ 注意

役員貸付金は、銀行が最も嫌う勘定科目です。たとえ少額でも「社長が会社のお金を私的に使っている」と見なされ、経営者の資質を疑われます。決算前に必ず精算するか、やむを得ない場合は利息の設定と返済計画を書面で用意してください。

損益計算書(P/L)で銀行が見る5つのポイント

P/Lでは「会社が安定的に利益を出しているか」が審査の核心です。銀行が特に注目する5つのポイントを整理します。

チェック項目 銀行の視点 合格ライン
売上高の推移(3期分)成長しているか・安定しているか横ばい以上。急減は要説明
営業利益の黒字/赤字本業で利益が出ているか黒字が必須。赤字は1期までが限度
経常利益の安定性金利負担を含めて返済原資があるか3期連続黒字が理想
減価償却費の適正計上利益の水増しをしていないか法定耐用年数に基づく適正額を計上
特別利益・特別損失の内容一時的な利益で黒字に見せていないか特別利益がなくても経常利益で黒字

実務では、減価償却費の未計上が融資審査で最も問題視されるケースの一つです。中小企業は減価償却を任意に行えますが、減価償却をしないで黒字に見せかけても、銀行は別表十六(減価償却の明細)をチェックして償却不足を見抜きます。「減価償却をしても黒字」であることが、銀行からの信頼を得る最低条件です。

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銀行が「実質」で見直す3つの科目

銀行は決算書の表面上の数字だけでなく、中小企業特有の事情を加味して「実質」の財務状態を評価します。経営者が知っておくべき3つの修正ポイントがあります。

項目 決算書上の扱い 銀行の「実質」評価 経営者への影響
役員借入金負債(借入金)返済を急がない場合は実質自己資本として加算自己資本比率が改善して見える
過大な役員報酬販管費(経費)同業他社比で過大な部分は「実質利益」に加算経常利益が実質的に黒字と判断される場合あり
減価償却不足費用が少なく利益が多い適正な償却額を費用計上して実質利益を再計算見かけの黒字が実質赤字と判定される場合あり

📊 公認会計士の視点

役員借入金を実質自己資本として評価してもらうには、「返済期限を定めない」「金銭消費貸借契約書を作成する」「銀行への説明時に明示する」の3点が重要です。何も説明しなければ、銀行は単なる借入金として扱い、自己資本比率は低いままです。融資面談で「この役員借入金は実質自己資本です」と説明することで、評価が大きく変わる場合があります。

債務償還年数の計算と改善方法

債務償還年数とは

債務償還年数は、銀行が融資審査で最も重視する指標の一つです。「現在の借入金を、年間のキャッシュフローで何年かけて返済できるか」を示します。

計算式:(借入金 − 正常運転資金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)

正常運転資金とは「売掛金+棚卸資産−買掛金」で、事業を継続するために常に必要な資金です。これは返済に充てる必要がないため、借入金から差し引きます。

年商別の債務償還年数シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 経常利益率:5%(全パターン共通)
  • 減価償却費:売上高の2%、法人税等:経常利益の30%
  • 正常運転資金:借入金の20%と仮定
年商 借入金 年間CF 債務償還年数 銀行の評価
3,000万円1,000万円165万円4.8年◎ 正常先
5,000万円2,500万円275万円7.3年○ 正常先
1億円6,000万円550万円8.7年△ ギリギリ

※概算値です。正常運転資金は借入金の20%として差し引いた金額で計算しています。

債務償還年数を改善するには、分子(借入金)を減らすか、分母(キャッシュフロー)を増やすかの2択です。具体的には、不要資産の売却で借入金を返済する、利益率を改善してキャッシュフローを増やす、の2つのアプローチがあります。

決算前3ヶ月の改善チェックリスト

融資審査に備えて決算書を改善するためには、決算日の3ヶ月前からの準備が必要です。時期別のアクションプランを整理します。

時期 やるべきこと 目的
決算3ヶ月前役員貸付金・仮払金の精算要注意科目の解消
不良在庫・デッドストックの処分棚卸資産の適正化
3ヶ月超滞留の売掛金を回収売掛金残高の適正化
決算2ヶ月前着地見込みの試算(黒字/赤字の予測)追加の節税or利益確保の判断
遊休資産の売却検討総資産の圧縮→ROA改善
減価償却費の適正計上を確認償却不足による銀行からの減点を防止
決算1ヶ月前仮受金・前受金の適切な科目振替不明科目の解消
借入金の短期/長期の区分を整理流動比率の改善
経費の未払計上漏れがないか確認正確な利益計算
決算月棚卸の実施(在庫の実数と帳簿の照合)棚卸資産の正確な計上
銀行預金残高の確認(残高証明書の取得)現金預金の正確な記帳

実務では、この改善チェックリストを税理士と共有しながら月次の打合せで進捗確認するのが効果的です。決算直前に慌てて対応しても、大きな改善はできません。

融資面談で聞かれる質問と回答のポイント

決算書を提出した後、銀行の融資担当者から面談(ヒアリング)が行われます。この面談で聞かれやすい質問と、経営者としての回答のポイントを整理します。

質問 銀行の意図 回答のポイント
売上が前期比で減っていますが、原因は?一時的か構造的かを判断原因を具体的に説明し、回復の見通しを数字で示す
借入金の使途は何ですか?資金使途と返済原資の確認運転資金/設備投資を明確に区分して説明
売掛金が増えていますが、回収に問題は?売掛金の回収リスクを評価取引先別の回収サイトと滞留がないことを説明
役員報酬はいくらですか?変更予定は?実質利益の把握と経営者の姿勢報酬額を率直に伝え、経営悪化時は減額する意思を示す
今後の事業計画を教えてください成長性と返済可能性の評価売上計画の根拠を具体的に説明(受注残・新規契約等)

💡 実務のポイント

融資面談で最も避けるべきは「借りられるだけ借りたい」という回答です。必要金額を具体的な根拠(見積書・受注書・設備投資計画書等)とともに提示してください。「○○万円が必要で、その根拠は△△です。返済原資は月の経常利益□□万円です」と説明できれば、銀行からの信頼度が大きく上がります。

赤字決算でも融資を受けるための対策

赤字でも融資が通るケース

赤字決算だからといって、必ずしも融資が否決されるわけではありません。銀行は赤字の「原因」と「持続性」を見て判断します。

赤字の性質 銀行の評価 融資の可否
特別損失(災害・固定資産除却等)による一時的赤字営業利益が黒字なら本業の収益力は問題なし融資可能性あり
設備投資に伴う減価償却増による一時的赤字投資効果が売上に反映される見通しがあるか事業計画書次第で可能
営業利益が恒常的に赤字本業で利益を出せていない=返済原資がない融資は困難

赤字決算で融資を申し込む場合、「なぜ赤字になったのか」と「どうやって黒字に戻すのか」を具体的な数字で説明する経営改善計画書の提出が不可欠です。

決算書の基本的な構造については「決算書(財務諸表)の種類と全体像」、主要な財務指標の意味については「財務分析の基本指標」で詳しく解説しています。また、簿記・帳簿付けの基礎知識は「簿記と帳簿付けの基礎知識」をご参照ください。

よくある質問(FAQ)

銀行は決算書のどこを最初に見るのですか?
銀行の融資担当者が最初に確認するのは、B/Sの「純資産の部」です。純資産がプラスかマイナスか(=債務超過かどうか)を最初にチェックし、次にP/Lの「経常利益」が黒字かどうかを確認します。この2点がクリアされていれば、詳細な審査に進みます。
決算書は何期分求められますか?
一般的に直近3期分です。3期分の推移を見ることで、業績の傾向(成長しているか停滞しているか)や財務体質の変化を判断します。日本政策金融公庫の場合は2期分でも可とされることがありますが、できれば3期分を準備しておくのが安心です。
債務超過でも融資を受けることはできますか?
原則として困難ですが、不可能ではありません。役員借入金を実質自己資本として加算した「実質純資産」がプラスであれば評価が変わる場合があります。また、代表者個人の資産(不動産等)を担保に提供する、経営改善計画書を提出するなどの対策で、融資が検討されるケースもあります。
役員借入金があると融資審査に不利になりますか?
むしろ有利に働くことが多いです。役員借入金は、銀行の中小企業融資の実務では「実質自己資本」として加算評価されます。ただし、それを銀行に伝えなければ単なる借入金として扱われるため、融資面談で「この役員借入金は返済を求めない資金です」と説明することが重要です。
減価償却をしないと融資審査で不利になりますか?
不利になります。銀行は別表十六で減価償却の計上状況を確認しており、償却不足がある場合は「利益の水増し」と判断します。償却不足分を差し引いた「実質利益」で再計算されるため、減価償却をしても黒字を維持できる経営体質を目指すことが重要です。
融資面談で決算書の内容について聞かれたら、何を答えればよいですか?
最低限「売上の推移」「営業利益の状況」「借入金の使途」の3点は自分の言葉で説明できるようにしてください。「決算書は税理士に任せているのでわからない」は最も避けるべき回答です。経営者が自社の数字を理解していることが、銀行からの信頼につながります。
融資に有利な決算書を作るために何ができますか?
「粉飾」ではなく「適切な決算整理」が重要です。具体的には、不良在庫の処分、滞留売掛金の回収、役員貸付金の精算、減価償却の適正計上、仮払金・仮受金の整理の5つです。これらを決算の3ヶ月前から計画的に実行してください。税理士と月次で打合せをしながら進めるのが効果的です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 銀行は「返済能力」を判断するために決算書を直近3期分チェックする
  • 格付け(債務者区分)は5段階。「正常先」を維持するには、経常利益黒字・債務超過なし・債務償還年数10年以内が基本
  • B/Sで特に嫌われる科目は、役員貸付金・仮払金・仮受金。決算前に0円にするのが理想
  • 中小企業では役員借入金は「実質自己資本」、過大な役員報酬は「実質利益」として加算評価される
  • 減価償却の未計上は利益の水増しと見なされ、融資審査で大きな減点要因になる
  • 決算前3ヶ月の改善チェックリストを税理士と共有して計画的に実行することが重要
  • 融資面談では「売上の推移」「営業利益」「借入の使途」を自分の言葉で説明できること

まずは自社の直近の決算書を手元に取り出して、このチェックリストと照らし合わせてみてください。改善が必要なポイントが見つかったら、次の決算に向けて今日から対策を始めましょう。

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