【社労士が解説】労働者名簿の作成義務と記載事項|法定三帳簿の整備方法と9項目チェックリスト

【社労士が解説】労働者名簿の作成義務と記載事項|法定三帳簿の整備方法と9項目チェックリスト
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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労働者名簿の作成義務と記載事項|法定三帳簿の整備方法と9項目チェックリスト

労働者名簿を「雇用契約書があれば不要」と誤解している人事担当者に向けて、労基法107条・施行規則53条に基づく9項目の記載義務、作成手順、保存ルールを整理します。

🏆 結論:労働者名簿は全従業員分を事業場ごとに作成・3年(当分)保存

労働者名簿は労働基準法第107条により、日雇い労働者を除く全ての従業員について事業場ごとに作成する義務がある法定帳簿です。労基法施行規則第53条で記載9項目(氏名・生年月日・履歴・性別・住所・従事業務・雇入年月日・退職年月日と事由・死亡年月日と事由)が固定されています。保存期間は労基法第109条で5年(経過措置として当分の間3年)と定められ、違反時は30万円以下の罰金(法第120条)が科されます。賃金台帳・出勤簿と並ぶ「法定三帳簿」として、労基署・年金事務所・ハローワークの調査で必ず確認される帳簿のため、入社時の作成から退職後の保存まで体系的な運用が必要です。

労働者名簿とは|労基法第107条が定める法定帳簿

労働者名簿は、従業員の氏名・生年月日・履歴・業務内容などを事業場ごとに記録する法定帳簿です。労働基準法第107条第1項に「使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない」と明記されており、従業員を1人でも雇用する全ての事業者に作成義務があります。

法定三帳簿での位置づけ

労働者名簿は単体で存在するのではなく、賃金台帳・出勤簿と並ぶ「法定三帳簿」として労基署の臨検で必ず確認される3つの書類の一つです。

帳簿名 根拠法令 主な記載内容 作成タイミング
労働者名簿労基法第107条氏名・生年月日・住所・履歴・業務内容入社時+事項変更時
賃金台帳労基法第108条労働日数・労働時間・賃金額・控除額毎月の賃金支払時
出勤簿・タイムカード労働安全衛生法第66条の8の3始業・終業時刻、休日労働毎日の勤怠発生時

💡 実務のポイント:雇用契約書と労働者名簿は別物

「雇用契約書があるから労働者名簿は不要」と誤解しているケースが多いですが、両者は別物です。雇用契約書は入社時に従業員と交わす二者間の契約書類であり、法定三帳簿には該当しません。弊所で顧問契約を結んだ従業員18名のIT企業では、雇用契約書のみ保管していて労働者名簿を作成していなかったため、労基署の臨検で即時に是正勧告を受けました。同じ内容が書いてあるように見えても、法律上は別制度です。

作成対象者|全従業員(日雇い労働者を除く)

労働者名簿の作成対象は、日雇い労働者を除く全ての従業員です。労基法第107条で「日日雇い入れられる者を除く」と明記されているため、日雇アルバイトは対象外となりますが、それ以外の雇用形態は全て含まれます。

雇用形態 作成要否 根拠・注意点
正社員◎必須労基法第107条の典型対象
契約社員・嘱託◎必須期間の定めがある雇用でも対象
パート・アルバイト◎必須週20時間未満でも対象
派遣社員(派遣先)✕対象外雇用契約は派遣元にあるため派遣元で作成
出向者(在籍出向)◎必須出向元・出向先の両方で作成
出向者(移籍出向)◎必須(出向先のみ)完全に雇用が移るため出向先で作成
日雇い労働者✕対象外労基法第107条の明文除外規定
役員(労働者性なし)✕対象外労基法上の労働者ではないため
使用人兼務役員◎必須労働者性がある役員は対象

記載事項9項目|労基法施行規則第53条

労働者名簿に記載すべき事項は労働基準法施行規則第53条で9項目が固定されています。1項目でも欠落すると「労働者名簿として認められない」ことになり、労基署の臨検で是正勧告の対象となります。

  1. 氏名:従業員のフルネーム
  2. 生年月日:西暦または和暦で統一
  3. 履歴:社内での異動・昇進など、必要に応じ最終学歴や社外職歴も記載
  4. 性別:男/女
  5. 住所:現住所(変更時は更新)
  6. 従事する業務の種類:従業員が従事する職務の種類や役職(常時使用労働者30人未満の事業場は省略可)
  7. 雇入年月日:従業員を雇い入れた日付
  8. 退職年月日及びその事由(解雇の場合はその理由も記入)
  9. 死亡年月日及びその原因(在職中に死亡した場合のみ記入)

🔷 社労士の視点:マイナンバー・基礎年金番号は記載しない方が安全

労働者名簿の法定記載事項にマイナンバーや基礎年金番号は含まれません。番号法(マイナンバー法)の目的外利用禁止規定の関係で、労働者名簿と同じファイルにマイナンバーを保管すると漏洩リスクと目的外利用リスクが高まります。実務では、マイナンバーは別ファイルでアクセス権を最小化して管理し、労働者名簿には記載しないのが原則です。弊所顧問先で、退職者情報を労働者名簿とマイナンバー台帳を混ぜて保管していた企業が個人情報漏洩事故を起こし、企業イメージの毀損と対応コストで数百万円規模の損失を出した事例があります。

作成手順【5ステップ】

労働者名簿の整備は、以下の5ステップで進めます。

【ステップ1】様式の選定

労働者名簿には決まったフォーマットがありません。9項目が全て記載されていれば、エクセル・紙・クラウド人事システムのいずれでも法令要件を満たします。厚生労働省も様式例を公開していますが、自社で独自様式を使っても構いません。クラウド給与・人事システム(マネーフォワード・freee・SmartHR・ジョブカン等)には標準機能として搭載されているのが通常です。

【ステップ2】入社時に9項目を記入

新入社員の入社手続きと同時に、9項目全てを記入します。実務では、入社時に従業員から以下の書類を提出させて転記するのが効率的です。

【ステップ3】事項変更時に遅滞なく更新

労基法施行規則第53条第2項により、記載事項に変更があったときは「遅滞なく訂正しなければならない」と定められています。具体的には以下のタイミングで更新が必要です。

【ステップ4】退職時に退職事項を記入

退職者が出たら、退職年月日と退職事由を記入します。解雇の場合は解雇理由も記入する必要があります。

【ステップ5】退職後3年(経過措置)・5年(本則)保存

退職日から起算して、現時点では経過措置により3年、経過措置終了後は5年保存します。個人情報保護法の観点から、保存期間経過後は速やかに適切な方法(シュレッダー・データ消去)で処分します。

⚠️ 注意:退職後も「5年保存推奨」が実務の安全策

経過措置中は3年保存でも違反ではありませんが、5年保存が推奨されます。理由は、民事上の未払賃金請求権の時効が5年(当分3年)で、退職者からの請求があった場合に会社側の証拠として労働者名簿が必要になるためです。経過措置の終了時期は厚労省から明確に示されていないため、運用としては5年以上での保存が安全です。

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事業場ごとの備え付け義務|本社一括管理の落とし穴

労基法第107条は「各事業場ごとに」と明記しているため、本社一括管理では要件を満たしません。複数拠点を持つ企業は、各事業場で即時閲覧できる体制を整える必要があります。

管理方式 法令適合 判定理由
各事業場で紙ファイルを備え付け◎適合最もシンプルで確実
クラウドシステムで各事業場から閲覧・印刷可◎適合平成17年通達の電子化要件を満たす
本社サーバーでのみ保管・各事業場から閲覧不可✕不適合「各事業場ごとに」の要件を満たさない
エクセルファイルを本社で保管、各事業場は未配布✕不適合労基署の臨検時に即時提示できない

📊 実務事例:5店舗展開の小売業の是正勧告

従業員45名・5店舗展開のアパレル小売業で、労働者名簿を本社エクセルで一元管理していたところ、労基署の臨検が地方支店に入り「支店に名簿がない」と指摘され是正勧告を受けた案件があります。是正対応として全店舗にクラウド人事システムの閲覧アカウントを配布し、支店長がいつでも自店分を印刷出力できる体制に変更しました。初期費用は月額2万円程度で済み、その後の臨検では問題なく適合と判定されています。本社DX化時の盲点になりやすい論点です。

電子化の要件|平成17年通達

労働者名簿はクラウドシステム等で電子保存できますが、以下の要件を満たす必要があります(平成17年3月31日基発第0331014号通達)。

主要クラウド人事システム(マネーフォワード人事労務、freee人事労務、SmartHR、ジョブカン労務HR、カオナビ等)は全てこれらの要件を満たしており、実務上どれを選んでも法令要件上の問題はありません。

違反時の罰則|30万円以下の罰金(労基法第120条)

労働者名簿の作成・保存に関する義務に違反した場合、労働基準法第120条第1号により「30万円以下の罰金」が科されます。両罰規定(法第121条)により、事業主(法人)にも罰金が科されるため、会社として罰則を受けます。

違反内容 想定される対応
労働者名簿を作成していない是正勧告 → 改善報告書提出 → 応じない場合は送検
記載項目に漏れがある是正勧告 → 30日以内に修正・報告
事業場に備え付けていない(本社一括管理のみ)是正勧告 → 各事業場に配置または閲覧体制の整備
保存期間内に処分した是正勧告 → 未払賃金請求時に会社側不利

実際にはいきなり罰金になるケースは稀で、臨検→是正勧告→改善報告のサイクルで解決するのが通常です。ただし、悪質な虚偽記載や繰り返し違反の場合は送検されることもあります。

労働者名簿の実務チェックリスト

自社の労働者名簿が法令要件を満たしているか、以下10項目で確認してください。

  1. ☐ 日雇い労働者を除く全従業員について作成している
  2. ☐ 9項目(氏名・生年月日・履歴・性別・住所・業務・雇入年月日・退職事項・死亡事項)が全て記載されている
  3. ☐ 事業場ごとに備え付けている(または各事業場から即時閲覧できる体制)
  4. ☐ 記載事項の変更時に遅滞なく更新している
  5. ☐ 退職者は退職日・退職事由まで記入済み
  6. ☐ 解雇者は解雇理由が具体的に記載されている
  7. ☐ 退職日から3年(当分)・5年(本則)以上保存している
  8. ☐ 電子保存の場合、各事業場で印刷出力できる装置がある
  9. ☐ マイナンバー・基礎年金番号は別ファイルで管理している
  10. ☐ 個人情報保護の観点から、アクセス権限が適切に管理されている

よくある質問

役員も労働者名簿に記載する必要がありますか?
純然たる役員(代表取締役など)は労基法上の労働者ではないため、労働者名簿の対象外です。ただし使用人兼務役員(取締役営業部長など)は労働者性があるため記載対象となります。実務上は役員用の別名簿(役員名簿)を作成するのが一般的です。
パート・アルバイトも労働者名簿が必要ですか?
必要です。週1日数時間のパートでも労基法上の労働者に該当するため対象です。ただし日雇い労働者(日日雇い入れられる者)は労基法第107条の明文除外規定により対象外です。1日限りの単発派遣は日雇い労働者として対象外となりますが、同一事業者で継続的に雇用するアルバイトは対象です。
雇用契約書があれば労働者名簿は不要ですか?
不要ではありません。雇用契約書は従業員と会社との二者間契約書で、労基法上の労働者名簿とは別制度です。記載事項も重複する部分はありますが、労働者名簿特有の項目(履歴・従事業務・退職事由・死亡事項)があり、雇用契約書だけでは要件を満たしません。両方の整備が必要です。
労働者名簿にマイナンバーを記載してもいいですか?
労基法上は記載必須ではなく、番号法(マイナンバー法)の目的外利用禁止規定の関係で、労働者名簿と同じファイルでマイナンバーを保管することは推奨されません。実務上は、マイナンバーは別ファイルでアクセス権限を最小化して管理し、労働者名簿には記載しない運用が一般的です。
退職者の労働者名簿はいつから3年(5年)保存ですか?
退職年月日から起算して3年(当分)・5年(本則)です。労基法第109条の記録保存義務は、最終記入日ではなく「事由の発生日」を起算日とするため、退職日が起算日となります。賃金台帳(最終記入日起算)とは起算ルールが異なる点に注意が必要です。
労働者名簿は紙で保管しないといけませんか?
電子保管で構いません。平成17年通達により、①事業場ごとに画面表示・印字装置がある、②労基署の求めに応じて即時出力できる、③誤って消去されない措置、④法定保存期間以上の保存、を満たせば電子化は適法です。主要クラウド人事システムは全てこれらの要件を満たしています。
常時30人未満の事業場では業務の種類を省略できますか?
はい、労基法施行規則第53条第1項但書により、常時使用する労働者が30人未満の事業場では「従事する業務の種類」の記入を省略できます。ただし将来30人以上になる可能性を考えると、最初から記入しておく方が実務的には効率的です。
労働者名簿と賃金台帳を1つのシステムで兼ねて管理してもよいですか?
問題ありません。労基法施行規則第55条の2により「年次有給休暇管理簿、労働者名簿、賃金台帳をあわせて調製することができる」と明示されています。クラウド人事・給与システムの多くがこの方式を採用しており、必要項目が全て満たされ必要時に分離出力できる状態であれば法令適合です。

📋 この記事のポイント

  • 労働者名簿は労基法第107条により事業場ごとに作成義務を負う法定帳簿
  • 施行規則第53条で9項目(氏名・生年月日・履歴・性別・住所・業務・雇入・退職・死亡)が固定
  • 対象は日雇い労働者を除く全従業員(パート・アルバイト含む)
  • 保存期間は5年(経過措置により当分の間3年/労基法第143条)、起算日は退職日
  • 違反時は30万円以下の罰金(法第120条)、両罰規定で法人にも科される
  • 各事業場ごとの備え付け必須、本社一括管理のみは要件不適合
  • 電子保存は事業場での出力可能性・即時提示・長期保存の4要件を満たせば可
  • マイナンバーは別ファイルで管理、目的外利用リスクを避ける

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