【社労士×税理士が解説】賃金台帳の作成義務と保存期間(5年)|記載事項チェックリストと給与明細との違い

【社労士×税理士が解説】賃金台帳の作成義務と保存期間(5年)|記載事項チェックリストと給与明細との違い
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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賃金台帳の作成義務と保存期間(5年)|記載事項チェックリストと給与明細との違い

賃金台帳の作成・保存を「給与明細と同じようなもの」と誤解している人事担当者に向けて、労働基準法第108条・109条に基づく10項目の記載義務、5年保存ルール(経過措置3年)、給与明細(所得税法231条)との違いを整理します。

🏆 結論:賃金台帳は労基法、給与明細は所得税法、別物だが連動

賃金台帳は労働基準法第108条により全事業場が作成義務を負う法定帳簿で、労働者名簿・出勤簿と並ぶ「労働三帳簿」の一つです。保存期間は労基法第109条で5年(経過措置として当分の間3年/労基法第143条)と定められ、違反すれば30万円以下の罰金(法第120条)が科されます。厚生労働省令で記載10項目が固定されており、給与明細とは別物ですが、毎月の賃金支払時に同時作成するのが実務の標準です。一方の給与明細は所得税法第231条に基づく交付義務で、こちらは労基法とは別の根拠に立ちます。両者を混同したまま運用すると、労基署の臨検で「賃金台帳未整備」として是正勧告を受けるリスクがあります。

賃金台帳とは|労基法第108条が定める法定帳簿

賃金台帳は、各事業場が賃金計算の基礎事項と賃金額を従業員ごとに記録する法定帳簿です。労働基準法第108条に「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない」と明記されており、従業員を1人でも雇用する全ての事業者に作成義務があります。

労働三帳簿の位置づけ

賃金台帳は単体で存在するのではなく、以下の3つ(労働三帳簿)がセットで労基署の臨検対象となります。

帳簿名 根拠法令 記載内容 保存期間
労働者名簿労基法第107条氏名・生年月日・住所・従事業務・雇入日・退職日5年(当分3年)
賃金台帳労基法第108条賃金計算の基礎事項・賃金額(厚労省令で10項目)5年(当分3年)
出勤簿・タイムカード労働安全衛生法第66条の8の3始業・終業時刻、残業時間、休日労働時間5年(当分3年)

💡 実務のポイント:「各事業場ごと」の要件を軽視しない

労基法第108条は「各事業場ごと」と明記しているため、本社一括でデータ管理しても、事業場ごとに賃金台帳を備え付ける必要があります。弊所で担当した従業員35名の小売業(本社+5店舗)では、本社サーバーにのみ賃金台帳を保管していたため、労基署の臨検で店舗側に賃金台帳がないと指摘され、全店舗に紙出力を配備する対応を迫られました。クラウド給与システムを使っていても「各事業場で即時出力できる体制」があれば要件を満たしますが、本社でしか閲覧できない運用は要注意です。

賃金台帳の記載10項目|厚労省令で固定

賃金台帳に記載すべき事項は労働基準法施行規則第54条で10項目が固定されています。1項目でも欠落すると「賃金台帳として認められない」ことになり、労基署の臨検で是正勧告を受けます。

No. 記載事項 具体的な内容
氏名従業員のフルネーム
性別男/女
賃金計算期間当月1日〜末日、前月21日〜当月20日 等
労働日数その期間内に労働した日数
労働時間数通常労働時間の合計
時間外労働時間数法定時間外労働の合計
休日労働時間数法定休日労働の合計
深夜労働時間数22時〜5時の労働時間
基本給・手当等の種類と額役職手当・通勤手当・残業手当など個別に記載
控除額源泉所得税・住民税・社会保険料・雇用保険料・労使協定による控除

⚠️ 注意:管理監督者でも労働時間の記載は必要

労基法第41条の管理監督者(いわゆる「部長以上」等)であっても、賃金台帳には深夜労働時間(⑧)の記載が必要です。管理監督者は時間外・休日割増の適用外ですが、深夜割増は別途必要となるためです。「管理職だから労働時間は記載しない」運用をしている会社が未払残業代請求でトラブル化する事例は、実務で度々見かけます。

保存期間5年(経過措置で当分3年)|労基法第109条

賃金台帳の保存期間は、労働基準法第109条により「5年間」と定められています。ただし、法第143条の経過措置により「当分の間は3年間」とされているため、現時点では3年保存でも法的には問題ありません。

5年に延長された背景

2020年4月の改正労働基準法により、それまで3年だった保存期間が5年に延長されました。これは、未払賃金請求権の消滅時効が2020年4月に2年→5年(経過措置で当分3年)に延長されたことに連動しており、労働者が賃金請求するときに使用者側が証拠として保存しておくべき期間と対応しています。

時期 保存期間(法定) 未払賃金時効 実務推奨
〜2020年3月3年2年3年
2020年4月〜現在(経過措置中)5年(当分3年)5年(当分3年)5年以上
経過措置終了後5年5年5年以上

保存期間の起算日

起算日は「最後の記入をした日」です。従業員Aの賃金台帳に2026年3月分までの記載があれば、その3月支給日が起算日となり、現行の経過措置下では2029年3月まで、経過措置終了後は2031年3月まで保存する必要があります。退職者の賃金台帳は退職時点から起算する誤解が多いですが、正しくは「最終記入日」からです。

🔷 社労士の視点:5年保存を推奨する現実的な理由

経過措置期間中は3年保存でも法的に違反ではありませんが、弊所では「5年以上」を全顧問先に推奨しています。理由は2つ。第一に、経過措置の終了時期が厚労省から明確にアナウンスされていないため、3年運用のまま法改正後に遡及対応できなくなるリスクがあること。第二に、民事上の労働トラブル(未払残業代請求など)の時効は当分3年ですが、悪質事案では消滅時効の起算点が争われ過去5年分の請求を認められる判例もあり、証拠としての賃金台帳は5年以上あった方が使用者側の防御が厚くなります。実務では7年保存(税務書類と同じ期間)で運用している会社もあります。

違反時の罰則|30万円以下の罰金(労基法第120条)

賃金台帳の作成・保存・記載に関する義務に違反した場合、労働基準法第120条第1号により「30万円以下の罰金」が科されます。両罰規定(法第121条)により、事業主(法人)にも罰金が科されるため、個人ではなく会社として罰則を受けます。

違反内容 想定される事態
賃金台帳を作成していない是正勧告 → 改善報告書提出 → 応じない場合は送検・罰金
記載項目に漏れがある是正勧告 → 30日以内に修正・報告
保存期間内に処分した是正勧告 → 未払残業代請求があれば使用者側不利
虚偽記載・改ざん悪質性により即送検・罰金+会社名公表

実際には、いきなり罰金になるケースは稀で、労基署の臨検→是正勧告→改善報告のサイクルで解決するのが通常です。ただし、未払残業代トラブルに発展した場合、賃金台帳の不備が会社側の不利な証拠として扱われ、従業員側の主張する労働時間・残業代がそのまま認められるリスクがあります。

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給与明細との違い|労基法ではなく所得税法が根拠

「賃金台帳と給与明細は同じもの」と誤解している人事担当者は多いですが、両者は根拠法令も交付対象も異なります。

比較項目 賃金台帳 給与明細
根拠法令労働基準法第108条所得税法第231条(健康保険法・厚生年金保険法等)
目的事業主が保存する労務帳簿従業員への賃金内訳説明
交付義務なし(従業員の請求権なし)あり(支払日までに交付必須)
保存義務5年(当分3年)なし(所得税法上は規定なし)
記載事項労基則第54条で10項目固定支払金額・源泉徴収税額・社会保険料等
違反時罰則30万円以下の罰金(労基法第120条)所得税法違反(刑罰は規定なし)
電子化可(クラウド給与システム等)可(従業員の承諾が必要)

所得税法第231条の給与明細交付義務

給与明細は所得税法第231条第1項により「給与等の支払をする者は、支払を受ける者に対し、その金額その他必要な事項を記載した支払明細書を交付しなければならない」と規定されています。対象は給与を支払う全ての事業者で、正社員だけでなくパート・アルバイト・役員も含まれます。

健康保険法第167条・厚生年金保険法第84条・労働保険料徴収法第32条でも、「保険料を控除した場合はその金額を明示した計算書を交付しなければならない」と規定されており、これらも給与明細で満たすのが一般的です。

📊 税理士×社労士の視点:給与明細の電子化の注意点

所得税法第231条第2項により、給与明細のWeb交付は「従業員の承諾」が必要です。入社時の雇用契約書や電子交付に関する同意書で包括的に承諾を得るのが実務的。ただし、従業員から「紙で欲しい」と請求があれば紙交付に応じる義務があります(同法第2項ただし書)。在宅勤務中心の企業で給与明細を一斉にWeb化する際、雇用契約書を未改訂のまま移行した結果、退職トラブル時に「紙で要求したのに無視された」と主張され、労使紛争になった事例を顧問先で見たことがあります。承諾文書を整えてから移行することをおすすめします。

実務で使える賃金台帳チェックリスト

自社の賃金台帳が法令要件を満たしているか、以下のチェックリストで確認してください。1つでも欠けると労基署の是正勧告対象となります。

# チェック項目 状態
1事業場ごとに備え付けられている
210項目全てが記載されている
3賃金支払の都度「遅滞なく」記入されている
4パート・アルバイト・日雇労働者も含まれている
5管理監督者にも深夜労働時間が記載されている
6最終記入日から5年(当分3年)保存されている
7電子保存の場合、労基署の求めに応じて即時出力できる
8労使協定に基づく控除(社内預金等)が正しく記載されている
9退職者の賃金台帳も「最終記入日起算で5年(3年)」保存されている
10個人情報保護法対応で退職後の台帳もアクセス制限されている

🧮 実務事例:日雇労働者の賃金台帳

従業員15名+日雇アルバイト20名の飲食業で、日雇労働者の賃金台帳を別帳で管理していなかったため、労基署の臨検で「日雇者の賃金台帳未整備」として是正勧告を受けた案件がありました。労基法施行規則第55条により日雇労働者は氏名・性別・賃金計算期間(省略可)・労働日数・賃金額・控除額を記載すれば足りる簡易版でよいのですが、「作成していない」と「簡易版」は別物。日雇特有の簡易ルールを知らずに未整備のまま運用している会社は、飲食・建設・運送業で多く見られます。

電子化・クラウド保存の実務

賃金台帳は紙保存でも電子保存でも法令要件を満たせますが、電子保存する場合は以下の要件を充足する必要があります(平成17年基発第0331014号通達)。

主要クラウド給与システム(マネーフォワード給与、freee人事労務、SmartHR、ジョブカン給与計算、PayRoll等)は全てこれらの要件を満たしており、法定要件の観点ではどれを選んでも問題ありません。選定基準は給与計算機能・価格・他システム連携で判断するのが実務的です。

よくある質問

役員の賃金台帳も作成する必要がありますか?
労働者性がある役員(使用人兼務役員など)は賃金台帳の作成対象です。労働者性がない純然たる役員(代表取締役など)は労基法上の労働者ではないため、賃金台帳の作成義務はありません。ただし、税務上の給与支払明細書(所得税法第231条)は交付が必要で、実務上は役員用の「役員報酬台帳」を別途作成するのが一般的です。
日雇労働者や短期アルバイトも賃金台帳が必要ですか?
必要です。ただし日雇労働者については労基法施行規則第55条により簡易版(氏名・性別・労働日数・賃金額・控除額)で足ります。1日限りの単発アルバイトでも、賃金を支払えば労基法上の労働者となるため、簡易版の賃金台帳を作成する必要があります。
賃金台帳は何年保存すればいいですか?経過措置はいつ終わりますか?
法定は「最後の記入日から5年」ですが、労基法第143条の経過措置により当分の間は3年保存でも可です。2026年4月時点で経過措置の終了時期は厚労省から明確にアナウンスされていないため、安全を見て5年以上の保存を推奨します。民事上の時効(当分3年、本則5年)との整合性を考えても、5年保存が現実的な運用です。
賃金台帳と出勤簿を兼ねたシステムを使ってもいいですか?
構いません。労基法は「労働者名簿・賃金台帳・出勤簿」を別々の帳簿として作成することまでは求めていません。記載事項が全て満たされ、必要時に分離して印刷・閲覧できる状態であれば、単一システムで3帳簿を兼ねても法的要件を満たします。クラウド給与システムの多くがこの方式を採用しています。
給与明細の代わりに「賃金台帳のコピー」を渡すのは問題ありませんか?
所得税法第231条の要件を満たしていれば問題ありません。ただし、賃金台帳には他の従業員の情報が含まれるケースが多いため、個人情報保護の観点から分離した給与明細の発行が実務上一般的です。クラウド給与システムでは、賃金台帳から該当従業員分を抽出した給与明細が自動生成されます。
退職者の賃金台帳はいつまで保存すればいいですか?
退職日ではなく「最終記入日(最終賃金支払日)」から起算して5年(当分3年)です。退職後に支払う退職金や未払賃金があれば、それらの支払日が最終記入日となるため保存期間が後ろ倒しになります。退職者の個人情報保護の観点から、保存期間経過後は速やかに適切な方法(シュレッダー・データ消去)で処分することが推奨されます。
賃金台帳の記載に誤りがあった場合、修正液で消してもいいですか?
避けた方が無難です。法令上の明文規定はありませんが、労基署の臨検で改ざんを疑われる恐れがあります。紙運用の場合は「二重線+訂正印+正しい内容を記入」が実務標準です。電子システムの場合は修正履歴が残る仕組みを採用し、修正の際は担当者・修正日時・修正理由が追跡できる状態を維持してください。

📋 この記事のポイント

  • 賃金台帳は労基法第108条により全事業場が作成義務を負う法定帳簿
  • 労基則第54条で10項目(氏名・性別・計算期間・労働日数・労働時間・残業時間・休日労働・深夜労働・賃金項目・控除額)が固定
  • 保存期間は労基法第109条で「5年」(経過措置により当分の間3年/法第143条)
  • 違反時は30万円以下の罰金(法第120条)、両罰規定で法人にも科される
  • 各事業場ごとに備え付ける必要があり、本社一括管理は要件を満たさない
  • 管理監督者でも深夜労働時間の記載は必要
  • 給与明細は所得税法第231条による別制度で交付義務がある(賃金台帳にはなし)
  • 電子保存は真正性・可読性・検索性の要件を満たせば可(主要クラウド給与システムは全て対応)

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