マルサ(国税局査察部)の強制調査と任意調査の違い|告発・起訴の流れを税理士が解説

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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マルサと通常の税務調査は「目的」「法的性格」「対応方法」が根本的に異なります。令和5年度データ・脱税と申告漏れの違い・告発から判決までの流れまで実務目線で整理します。
🏆 結論:任意調査と強制調査(マルサ)は、課税目的と刑事目的で全く別物
通常の税務調査(任意調査)は国税通則法第74条の2に基づく「課税処分のための調査」で、追徴課税が目的です。一方、マルサ(国税局査察部)の強制調査は国税通則法第131条以下に基づく「刑事告発のための調査」で、裁判所の令状により行われる刑事手続です。令和5年度の査察着手件数は約150件、告発件数は101件で告発率は約70%、1件あたりの脱税額は平均6〜8千万円です。マルサが入った段階で、通常の税理士対応ではなく、刑事弁護士との連携が必要になります。
マルサとは何か
マルサの正式名称と組織
「マルサ」は、国税局の査察部または査察管理課の通称です。正式には以下の組織構成となっています。
- 国税庁調査査察部:全国の査察事務を指導・統括
- 東京・大阪・名古屋国税局の査察部:大規模な査察事案を担当
- その他国税局の査察課(札幌・仙台・関東信越・金沢・広島・高松・福岡・熊本・沖縄):管内の査察事案を担当
「マルサ」という名称は、伊丹十三監督の1987年の映画『マルサの女』で一般に広く知られるようになりましたが、査察部自体は戦後の昭和23年から存在する組織です。
マルサの目的:刑事告発
マルサの最大の目的は、悪質な脱税事案を検察庁に刑事告発することです。通常の税務調査が「適正な課税のため」であるのに対し、マルサは「刑事罰の適用のため」に動きます。
💡 実務のポイント
マルサは刑事告発を前提とした組織のため、通常の税務調査では入らない規模・頻度で動きます。相手宅・相手先事業所・取引先・関係者の自宅などに同時多発的に十数名体制で乗り込み、裁判所の令状に基づき証拠を一気に差し押さえるのが典型的なオペレーションです。マルサが動いた段階で「通常の税務調査レベル」の対応では済まないことを認識すべきです。
任意調査と強制調査の違い【一覧表で比較】
通常の税務調査(任意調査)とマルサの強制調査の違いを、8項目で比較します。
| 比較項目 |
任意調査(通常の税務調査) |
強制調査(マルサ) |
| 根拠法令 | 国税通則法第74条の2〜9 | 国税通則法第131条以下(旧国税犯則取締法) |
| 目的 | 適正な課税処分(追徴課税) | 刑事告発・起訴(有罪判決) |
| 実施主体 | 税務署・国税局調査部 | 国税局査察部(マルサ) |
| 令状 | 不要 | 必要(裁判官の許可状) |
| 事前通知 | 原則あり(例外事由を除く) | 一切なし(突然の臨場) |
| 証拠の差押え | 不可(任意提出のみ) | 可能(強制差押え) |
| 拒否できるか | 原則応じる義務あり(受忍義務)だが物理的抗拒は不可能な程度ではない | 拒否不可(公務執行妨害罪のリスク) |
| 結果 | 修正申告・更正処分+加算税・延滞税 | 上記に加え刑事罰(懲役・罰金) |
令和5年度 マルサの査察実績
国税庁が公表する「令和5年度 査察の概要」から最新データを整理します。
告発件数と告発率
| 項目 |
令和3年度 |
令和4年度 |
令和5年度 |
| 査察着手件数 | 103件 | 145件 | 約150件 |
| 告発件数 | 75件 | 103件 | 101件 |
| 告発率 | 約68% | 約70% | 約70% |
| 告発分の脱税額総額 | 61億円 | 87億円 | 約80億円 |
| 1件当たり平均脱税額 | 約8,100万円 | 約8,400万円 | 約6,800万円 |
令和5年度の重点対象
令和5年度に査察が重点的に扱った事案は以下の4類型です。
- 消費税事案:不正還付スキーム、仕入税額控除の悪用(27件告発)
- 無申告事案:申告義務があるのに確定申告をせず脱税した事案
- 国際事案:海外資産・海外取引を利用した脱税
- 時流に即した事案:インターネット取引、暗号資産、税理士関与事案
📢 令和5年度の注目告発事例
同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正入手したパスポートの写しで書類を偽造し、架空の課税仕入れと架空の輸出免税売上を計上した消費税不正還付事案が告発されています。脱税スキームを「節税」と偽って広く納税者に販売していた税理士も告発対象となるなど、不正関与者も含めて広範囲に刑事責任を追及する傾向が強まっています。
脱税と申告漏れの違い
法律上の明確な区別
一般に混同されがちな「脱税」と「申告漏れ」は、法律上全く別の扱いです。
| 区分 |
脱税(ほ脱) |
申告漏れ |
| 故意性 | 故意に税を免れる意図がある | 故意なし(過失・解釈誤り等) |
| 不正行為 | 偽りその他不正の行為あり | 単純な計算誤り・記入漏れ |
| 刑事罰 | あり(懲役・罰金) | なし |
| 追徴税 | 重加算税40%(無申告脱税は50%) | 過少申告加算税10%・無申告加算税15% |
| 対応部署 | マルサ(国税局査察部) | 税務署・国税局調査部 |
| 除斥期間 | 7年 | 原則5年 |
刑事罰の内容
脱税で告発・起訴され、有罪判決を受けた場合の刑事罰は以下のとおりです。
- 所得税法違反(所得税法第238条):10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)
- 法人税法違反(法人税法第159条):10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)
- 相続税法違反(相続税法第68条):10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)
- 消費税法違反(消費税法第64条):10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)
罰金額は脱税額を超えることも可能(脱税額が1,000万円を超えるときは、脱税額の範囲で罰金を加算)とされており、悪質事案では脱税額と同額以上の罰金が科されます。
マルサの調査着手から告発までの流れ
第1段階:内偵調査(3〜12ヶ月)
マルサはまず、納税者に気づかれないよう水面下で情報を収集します。内偵調査の期間は概ね3ヶ月〜1年です。
- 情報提供:税務署からの情報、第三者通報(元従業員・元配偶者等)、国税庁のAI分析結果
- 資料収集:取引先・金融機関からの資料せん、国外送金等調書、CRS情報等
- 張り込み・尾行:実際の事業活動・資金の流れを現場で確認
- 内偵報告書の作成:強制調査の着手要件を満たすか判断する基礎資料
第2段階:令状請求と強制調査(1日)
内偵で証拠が固まると、裁判官に「臨検捜索差押許可状」を請求します。令状が発付されると、ある日突然、複数拠点で同時並行的に強制調査が行われます。
⚠️ 強制調査の典型的な光景
朝6〜7時頃、突然10〜20名の国税局査察官が複数のワンボックスカーで事業所・自宅に乗り込み、令状を提示して「臨検捜索」を開始します。事業関連だけでなく自宅のタンス・金庫・床下・天井裏まで徹底的に調べ、帳簿・パソコン・スマートフォン・USB・現金・貴金属まで押収していきます。その日のうちに家族や取引先にも同時に令状執行が入るため、「気がついたら取引先からも連絡が来た」という状況になります。
第3段階:本人質問・検察庁への告発(3〜8ヶ月)
強制調査で押収した証拠をもとに、国税局は本人・関係者への質問を続けます。この段階でも拒否は不可能で、質問調書は刑事裁判での証拠となります。最終的に嫌疑が固まった段階で、検察庁への告発(刑事訴訟法第241条)が行われます。
第4段階:検察官の捜査と起訴(3〜6ヶ月)
告発を受けた検察官は、独自の捜査を行ったうえで起訴するかどうかを判断します。令和5年度の告発事案のほぼ全てが起訴されており、告発=起訴とほぼ同義と考えるべきです。刑事告発の手続きの詳細は国税庁「令和5年度 査察の概要」でも公表されています。
第5段階:裁判・判決(6ヶ月〜2年)
起訴後は刑事裁判が始まります。令和5年度の裁判実績では、判決を受けた全15件が有罪、うち5人に実刑判決が出ています。実刑の最長は単独事件で懲役4年、併合事件で懲役6年です。
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マルサ対象になる事案の基準
一般的な着手基準
国税庁は明確な基準を公表していませんが、実務上は以下の条件を複数満たす事案がマルサ対象となるとされています。
- 脱税額が1億円以上(所得税・法人税の場合)
- 3年以上にわたる継続的な不正
- 故意性・計画性が強い(二重帳簿・架空売上隠蔽等)
- 社会的波及効果が高い(著名人・上場企業・税理士関与事案等)
- 反面調査での発覚が多数ある
- 犯則的な行為の証拠が揃っている(偽造文書・マネーロンダリング等)
通常調査でも刑事告発される例外ケース
通常の税務調査の延長でも、悪質性が著しい場合は国税局主導でマルサに引き継がれ、刑事告発に発展することがあります。
- 調査の過程で二重帳簿が発見された
- 売上除外額が数億円規模で確定した
- マネーロンダリング・外国口座経由の資金隠蔽が判明した
- 税理士の指南で組織的に脱税を行っていた
- 調査の過程で証拠隠滅・虚偽答弁を行った
マルサが入った場合の対応
即座に刑事弁護士を選任する
マルサの強制調査を受けた段階で、通常の税理士対応では不十分です。以下の優先順位で専門家を組み立てます。
💡 強制調査を受けた場合の優先対応
- 第一優先:刑事弁護士(国税査察事案の経験がある弁護士) — 刑事手続に習熟した専門家。可能なら当日中に選任
- 第二優先:国税OB税理士または査察対応に強い税理士 — 税務面の対応。追徴額の算定、刑事裁判との連携
- 第三優先:公認会計士 — 企業の場合、会計上の再構築・株主対応
やってはいけない対応
- 証拠を隠す・破棄する:証拠隠滅罪(刑法第104条)で追加の刑事罰
- 虚偽の供述をする:刑事裁判でさらに不利に働く
- 関係者と口裏を合わせる:通信傍受・メール押収で発覚
- 資産を第三者に移す:追徴税の徴収逃れで追加責任
- 弁護士なしで供述する:不利な調書を作成される
任意調査段階での自主修正の意義
マルサが入る前の通常の税務調査段階で悪質性を自覚し、自主的に全面修正申告を行うことで、刑事告発を回避できる余地があります。脱税と申告漏れの境界線は故意性の立証可能性であり、自主的な是正は「故意性の低減」「反省の情状」として評価されます。
通常の税理士対応とマルサ対応の違い
| 項目 |
通常調査の税理士対応 |
マルサ対応 |
| 主担当 | 税理士 | 刑事弁護士+税理士 |
| ゴール | 追徴税額の最小化 | 不起訴または執行猶予獲得 |
| 費用 | 50〜200万円 | 弁護士500万〜、税理士200万〜 |
| 期間 | 1〜3ヶ月 | 1〜3年(刑事裁判含む) |
| 対応範囲 | 税務調査立会い・修正申告 | 刑事捜査対応・起訴対応・公判対応 |
実務では、マルサ対応の経験があり税務と刑事の両面で対応できる税理士・弁護士連携が必要です。一般的な顧問税理士では対応困難なため、マルサ経験のある税理士または国税OB税理士を早期に選定する必要があります。
よくある質問(FAQ)
脱税額がいくらからマルサの対象になりますか?
国税庁は明確な基準を公表していませんが、実務上は脱税額1億円以上・3年以上の継続的不正が着手の目安とされます。ただし社会的波及効果が高い事案(著名人・上場企業・税理士関与等)は1億円未満でも対象となります。消費税不正還付事案や無申告事案では5,000万円前後でも告発されるケースがあります。
マルサに入られたら必ず逮捕されますか?
マルサの強制調査時点で即逮捕されるケースは多くありません。多くは任意の取り調べで進みます。ただし、証拠隠滅のおそれ・逃亡のおそれがある場合は逮捕されます。告発後に検察官が独自捜査の中で逮捕する例もあります。いずれにせよ強制調査が入った時点で刑事弁護士の早期選任が必須です。
任意調査で「脱税の疑い」と言われた場合、マルサに切り替わりますか?
任意調査で悪質性が認められた場合、調査担当部署から査察部へ情報提供が行われることはあります。ただし、その場で即座にマルサに切り替わることは少なく、通常は通常調査として追徴課税で終結し、重加算税35〜40%が課されます。マルサに進む事案は、売上除外や架空経費の計画性・継続性が特に顕著な場合です。
脱税と節税の境界はどこですか?
法令に基づいた税額軽減が節税、法令に違反する不正な税額軽減が脱税です。その間に「租税回避」という法令の想定しない抜け道を利用する行為がありますが、租税回避は税法上否認される可能性はあっても刑事罰の対象ではありません。判断が難しいケースでは事前に税理士に相談することが必須です。
マルサの情報源はどこからですか?
主に①税務署からの情報提供、②第三者通報(元従業員・元配偶者等)、③金融機関からの資料せん、④国外送金等調書・CRS情報、⑤KSKシステムの分析、⑥国税庁の独自情報ネットワーク、⑦報道機関・SNS情報の7ルートです。「誰かに恨まれている」「社内に不満を持つ元従業員がいる」という要素が、マルサ着手のきっかけになるケースが多くあります。
マルサに入られた後に自主的に修正申告すれば、告発を避けられますか?
強制調査が開始された時点では、自主的な修正申告による告発回避は困難です。ただし、刑事裁判での情状として考慮される可能性はあり、執行猶予判決獲得や量刑軽減に寄与します。重要なのはマルサが入る前の任意調査段階で、悪質性に気づいたら即座に全面是正することです。
顧問税理士は刑事告発されますか?
税理士が脱税を積極的に指南・加担していた場合は、共犯として告発対象となります。令和5年度にも顧問先法人への脱税指南で税理士が告発された事案が公表されています。単に記帳処理を引き受けていただけで、顧客の隠蔽仮装に気づいていなかった場合は対象外ですが、後から「気づいていたはず」と認定される危険性があるため、顧問税理士も顧客の異常取引には厳しくチェックする責任があります。
告発率70%とは高いのですか?低いのですか?
相対的に非常に高い数字です。査察着手するということは、内偵段階で既に90%以上の確率で脱税の証拠があると判断された案件です。そこから告発に至る率が70%ということは、内偵段階で選別された事案の多くが起訴に進むことを意味します。さらに起訴後の有罪率は日本の刑事裁判の一般的特徴として99%以上です。
まとめ
📋 この記事のポイント
- マルサは国税局査察部の通称で、刑事告発を目的とした強制調査を行う組織
- 任意調査と強制調査は「根拠法令」「目的」「令状の要否」等8項目で根本的に異なる
- 令和5年度の査察着手は約150件、告発101件、告発率約70%、1件当たり脱税額約6,800万円
- 脱税と申告漏れは法律上別物。脱税には刑事罰(最大懲役10年・罰金1,000万円)
- マルサ対象は脱税額1億円以上・3年以上の継続的不正が目安だが、社会的波及効果が高い事案では閾値以下でも対象
- 強制調査が入った段階で、通常の税理士対応では不十分。刑事弁護士との連携が必須
- 任意調査段階での自主修正が刑事告発を避ける最後のチャンス
- 令和5年度は消費税不正還付・無申告・国際事案・税理士関与事案が重点対象
マルサと通常の税務調査は目的・手続・結果のすべてで別物です。脱税の疑いがある段階で、早期に専門家と相談して自主的に是正することが、刑事責任を回避する最も確実な方法です。「誰もバレていないだろう」という楽観は、マルサの着手によって一瞬で崩壊します。
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