【行政書士×税理士が解説】事業承継・M&A時の許認可の引継ぎガイド|再取得が必要な許認可一覧と4手法別の対応

【行政書士×税理士が解説】事業承継・M&A時の許認可の引継ぎガイド|再取得が必要な許認可一覧と4手法別の対応
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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事業承継・M&A時の許認可の引継ぎガイド|再取得が必要な許認可一覧と4手法別の対応

事業承継・M&Aを検討中の経営者に向けて、M&A手法(株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割)別に許認可の引継ぎ可否を整理。空白期間を防ぐ実務的な進め方まで解説します。

🏆 結論:M&A手法で許認可の引継ぎ可否が大きく変わる

事業承継・M&Aにおける許認可の引継ぎは、M&A手法によって対応が根本的に異なります。株式譲渡なら会社自体は変わらないため許認可はそのまま維持、合併・会社分割なら業法の定めにより一定の手続きを経て承継、事業譲渡は原則として許認可は引き継げず買い手側で新規取得が必要、というのが基本ルールです。特に建設業は令和2年10月改正で事前認可による承継制度が整備され、事業承継に伴う空白期間(無許可営業期間)の発生を防げるようになりました。一方、宅建業・貸金業・古物商・風俗営業等は事業譲渡・合併での承継が認められていない業種もあり、事前の確認と買い手側の新規申請準備が不可欠です。M&Aの基本スキーム設計段階で、許認可の承継可否を行政書士と確認するのが実務の鉄則です。

M&A手法と許認可引継ぎの関係|全体像

M&A・事業承継の代表的な手法は5つあり、それぞれ許認可の引継ぎ方が異なります。基本ルールを押さえることが、スキーム選定の第一歩です。

M&A手法 法人格の変化 許認可の基本扱い 注意点
①株式譲渡法人格は維持(株主のみ変更)原則そのまま維持役員変更届等の変更手続きは必要
②事業譲渡法人格は維持(事業のみ移転)原則引継ぎ不可買い手側で新規取得必要(一部例外あり)
③吸収合併消滅会社の法人格が消滅業法により承継可否が異なる届出で承継可・認可必要・承継不可の3パターン
④会社分割事業ごとの権利義務が包括承継業法により承継可否が異なる建設業等は事前認可、宅建業等は承継不可
⑤相続個人事業の代表者変更業法により承継可否が異なる建設業・古物商等は相続承継の規定あり

💡 実務のポイント:M&A成立日と許認可の空白期間

M&A・事業承継で最大のリスクは「許認可の空白期間」です。例えば建設業法改正前は、事業譲渡後に新規許可が下りるまで500万円以上の工事を受注できず、業務停止期間が生じる問題がありました。弊所で扱った事業譲渡案件(建設業)では、改正前のスキームで3カ月の空白が発生し、この間の受注を断ったため売上が1,800万円減少した実例があります。令和2年10月の建設業法改正で事前認可制度が整備されましたが、他の業法では依然として空白リスクがあるため、M&Aの基本合意の段階から許認可承継スキームを設計することが不可欠です。

①株式譲渡|許認可は原則そのまま維持

株式譲渡は、法人の株主が変わるだけで、法人格そのものは変化しません。そのため法人が保有する許認可も原則としてそのまま維持され、新規取得は不要です。ただし、役員変更・商号変更等の副次的な変更届は業法ごとに期限内の手続きが必要です。

株式譲渡後に必要な変更手続き

変更事項 届出期限 代表例
役員変更変更後2週間〜30日以内建設業許可、宅建業免許、古物商許可
本店移転変更後30日以内ほぼ全業種
商号変更変更後30日以内ほぼ全業種
代表者変更変更後14〜30日以内ほぼ全業種
経営業務管理責任者の変更変更後2週間以内建設業許可

⚠️ 注意:役員が欠格事由に該当すると許可取消リスク

株式譲渡で新経営陣に交代する際、新役員が業法の欠格事由(暴力団員、破産者、禁錮以上の前科等)に該当すると、許可取消の対象となります。特に建設業・宅建業・風俗営業・古物商等は欠格事由が厳格に定められており、譲渡前のデューデリジェンスで新役員候補の欠格該当性を必ず確認してください。欠格該当役員を就任させた後に発覚した場合、許可取消に加え5年間の再取得不可となる重大リスクです。

②事業譲渡|原則許認可の引継ぎは不可

事業譲渡は「事業を取引行為として譲渡する」手法で、法人格は維持されたまま事業のみが移転します。許認可は法人格に付随するため、原則として買い手側に引き継がれず、買い手は新規で許認可を取得する必要があります。

事業譲渡で新規取得が必要な主な許認可

建設業の事業譲渡は例外的に承継可(令和2年10月改正)

建設業法は令和2年10月に改正され、事業譲渡・合併・分割・相続で建設業許可を事前認可により承継できるようになりました。この改正により、事業承継に伴う空白期間のリスクが大幅に軽減されています。

事業譲渡のスケジュール設計

事業譲渡では買い手側で新規許可を取得する必要があるため、譲渡日から逆算してスケジュールを設計します。許認可取得の期間を見込まずに譲渡日を設定すると、譲渡後に営業できない期間が発生します。

🔷 行政書士の視点:飲食店の事業譲渡は買い手側で「新規許可」が鉄則

飲食店の事業譲渡(居抜き譲渡等)では、食品衛生法に基づく飲食店営業許可は売り手側の許可番号を引き継げないため、買い手は新規申請が必要です。弊所で扱った居抜き譲渡では、買い手が「許可も引き継げる」と勘違いして譲渡後に営業を開始し、保健所の調査で無許可営業と指摘された事例があります。食品衛生法違反は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に加え、店舗の営業停止命令も出るため、譲渡前に保健所への新規申請を終えて許可取得を済ませておくのが実務の鉄則です。審査期間は2〜3週間のため、譲渡日の1カ月前から申請準備を開始します。

③合併|業法ごとに承継可否が異なる

吸収合併では消滅会社の法人格は消滅しますが、会社法上は権利義務が包括承継されます。ただし許認可は業法に基づく行政処分であるため、承継可否は個別の業法で判断されます。

合併による許認可承継の3パターン

パターン 内容 主な業種
A. 届出で承継可事前届出または事後届出で自動承継旅館業、興行場営業、公衆浴場業、理容・美容業、クリーニング業
B. 認可で承継可事前に所管庁の認可を得て承継建設業、一般貨物自動車運送業、一般旅客自動車運送業、第二種貨物利用運送業
C. 承継不可合併でも引き継げず新規取得が必要宅地建物取引業、貸金業、古物商、風俗営業、酒類販売業免許

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④会社分割|包括承継だが業法で制限あり

会社分割(吸収分割・新設分割)は、分割した事業の権利義務を包括承継する手法です。合併と同様、許認可は業法の定めに従った対応が必要となります。

会社分割の種類

承継先が新設会社か既存会社かで手続きは異なりますが、許認可の承継可否は合併と同じ3パターン(届出承継・認可承継・承継不可)に分類されます。

会社分割で債権者保護手続きが必要

会社分割では会社法上、債権者保護手続き(1カ月以上の公告+個別催告)が必須です。事業譲渡と異なり、債権者が異議を申し出た場合には弁済等の義務が発生します。許認可承継スケジュールと合わせて、債権者保護の1カ月以上を見込んだスケジュール設計が必要です。

⑤相続|個人事業の承継で特に重要

個人事業主が亡くなった場合、許認可は原則として相続人に承継されません。ただし一部の業法では相続による承継制度が設けられています。

相続承継が認められる主な許認可

許認可 相続承継の可否 手続き
建設業許可令和2年10月改正で承継可相続開始後30日以内に認可申請
古物商許可相続人が要件を満たせば承継可相続後の届出
飲食店営業許可相続人による承継届出可死亡後の届出
酒類販売業免許相続人による承継届出可遅滞なく税務署へ届出
宅地建物取引業免許承継不可(廃業届+新規取得)30日以内に廃業届
理容・美容業承継不可(廃業届+新規取得)廃業届

建設業許可の事業承継|令和2年10月改正の実務

建設業は令和2年10月の建設業法改正(第17条の2・17条の3の新設)により、事業譲渡・合併・分割・相続による建設業許可の承継が、事前認可を経て可能になりました。事前認可制度によって、許可の空白期間を発生させずに事業承継できます。

事前認可申請のスケジュール

段階 実施時期 内容
①基本合意譲渡4〜6カ月前M&A基本合意書の締結
②要件確認譲渡3カ月前譲受人の経営業務管理責任者・専任技術者等の要件充足を確認
③認可申請譲渡予定日の2カ月前〜25日前知事または大臣への認可申請
④認可譲渡予定日直前事前認可書の交付
⑤承継実行譲渡日当日譲渡の効力発生+許可の自動承継

🧮 実務事例:建設業M&Aの時間的メリット

弊所で支援した建設業M&A案件(譲渡先:東京都知事許可・一般建設業)では、令和2年改正後の事前認可制度を活用。譲渡日の1カ月前に認可申請を行い、譲渡日当日から切れ目なく建設業を継続できました。改正前なら3カ月程度の空白期間で売上5,000万円規模の受注を失う可能性がありましたが、改正後スキームでこの機会損失を完全に回避。買い手側の投資回収期間が約8カ月短縮された実例です。

M&Aスキーム別の許認可対応マトリクス

許認可 株式譲渡 事業譲渡 合併 会社分割
建設業許可◎維持○事前認可○事前認可○事前認可
宅建業免許◎維持✕新規✕新規✕新規
飲食店営業許可◎維持✕新規✕新規✕新規
古物商許可◎維持✕新規✕新規✕新規
貸金業登録◎維持✕新規✕新規✕新規
運送業許可◎維持○事前認可○事前認可○事前認可
産廃業許可◎維持△変更届△変更届△変更届
旅館業許可◎維持✕新規○届出○届出
風俗営業許可◎維持✕新規✕新規✕新規
人材派遣業許可◎維持✕新規✕新規✕新規
酒類販売業免許◎維持✕新規✕新規✕新規
介護事業者指定◎維持✕新規△変更届△変更届

※実務では個別案件により取扱いが変動する場合があります。M&A実行前に行政書士と所管庁に事前確認することをおすすめします。

M&A実行前のデューデリジェンス|許認可DD

M&A実行前に行うデューデリジェンス(DD)では、財務・税務・法務・労務に加えて「許認可DD」も必須項目です。許認可DDの主要チェック項目は以下の通りです。

  1. 対象会社が保有する全許認可のリストアップ
  2. 各許認可の有効期限と更新状況
  3. 許認可の名義(法人名義か個人名義か)
  4. M&Aスキームでの承継可否判定
  5. 空白期間発生リスクの試算
  6. 過去の行政処分歴(営業停止・改善命令等)の有無
  7. 更新時の要件変更リスク
  8. 役員の欠格事由該当リスク
  9. 新スキーム下での手数料・報酬の試算
  10. 事業目的と許認可の整合性

📊 公認会計士×行政書士の視点:許認可DDが企業価値に直結

許認可DDで「承継困難な許認可」「過去の行政処分歴」が見つかると、M&A価格交渉に直接影響します。弊所で扱った産廃業M&A案件では、対象会社に過去2年以内の改善命令歴が判明し、当初の譲渡価格3億円から2.4億円に減額交渉が成立した実例があります。財務DD(会計士)・法務DD(弁護士)・許認可DD(行政書士)は三位一体で実施するのが、買い手側の防御として最も効果的です。ワンストップ事務所に一括依頼するとDD費用も2〜3割削減できます。

よくある質問

株式譲渡なら許認可の手続きは一切不要ですか?
不要ではありません。許認可そのものは維持されますが、役員変更届・代表者変更届・商号変更届等の副次的な変更手続きが各業法で定められた期限内に必要です。届出漏れは許可取消の対象になり得ます。特に建設業許可の経営業務管理責任者変更は2週間以内という短期間のため注意が必要です。
事業譲渡で飲食店を居抜きで譲り受けた場合、営業許可はそのまま使えますか?
使えません。食品衛生法の飲食店営業許可は売り手の許可番号を引き継げず、買い手側で新規申請が必要です。売り手の許可のまま営業すれば無許可営業として3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金対象となります。居抜き譲渡では、譲渡日の1カ月前から保健所への新規申請を進めるのが実務的です。
建設業許可は令和2年改正でどう変わりましたか?
改正前は事業譲渡・合併・分割で建設業許可を新規取得する必要があり、許可が下りるまでの3カ月程度は500万円以上の工事を受注できない「空白期間」が発生していました。令和2年10月の建設業法改正(法第17条の2・17条の3新設)で事前認可による承継制度が整備され、譲渡日当日から切れ目なく建設業許可を承継できるようになりました。
宅建業のM&Aではどの手法が適していますか?
宅建業は事業譲渡・合併・会社分割のいずれでも免許承継が認められないため、株式譲渡が唯一の実務的選択肢です。合併・分割を選ぶ場合は、買い手側で宅建業免許を新規取得するスケジュール(30〜45日)を確保する必要があります。ただし株式譲渡は対象会社の簿外債務リスクを買い手が包括承継する点に注意が必要で、法務DD・財務DDが特に重要になります。
合併で消滅会社の許認可はどうなりますか?
業法により3パターンに分かれます。①届出で承継可(旅館業・興行場業・公衆浴場・理容美容・クリーニング業等)、②認可で承継可(建設業・運送業・利用運送業等)、③承継不可・新規取得必要(宅建業・貸金業・古物商・風俗営業・酒類販売業免許等)。合併契約書作成前に、対象会社の全許認可について個別に確認する必要があります。
個人事業主の相続で飲食店を引き継ぐ場合は?
飲食店営業許可は相続による承継が認められています。相続人は被相続人の死亡日から遅滞なく保健所に承継届を提出すれば、同一の許可をそのまま引き継げます。届出期限を超過すると新規許可申請が必要になる可能性があるため、相続開始後の早期手続きが重要です。
会社分割で債権者保護手続きが不要なケースはありますか?
簡易分割・略式分割の要件を満たす場合など、一部で債権者保護手続きが簡略化できるケースがありますが、原則として会社法上の1カ月以上の公告+個別催告が必要です。事業譲渡では債権者保護手続きが不要なため、手続きを簡略化したい場合は事業譲渡を選ぶことがありますが、許認可の承継可否と天秤にかけて判断する必要があります。
M&Aスキームはどう選べばいいですか?
許認可・税務・労務・債権者保護・手続き期間の5つの観点で比較検討します。許認可の承継を優先するなら株式譲渡、簿外債務リスクを回避するなら事業譲渡、複数事業をまとめて承継するなら合併、特定事業のみ切り出すなら会社分割、というのが基本的な使い分けです。実務では行政書士・税理士・公認会計士・社労士の4士業で協議し、クライアントの優先事項に合致するスキームを選定します。

📋 この記事のポイント

  • M&A手法により許認可の引継ぎ可否は根本的に異なる
  • 株式譲渡は法人格維持で許認可そのまま、変更届のみ必要
  • 事業譲渡は原則許認可引継ぎ不可、買い手側で新規取得が必要
  • 合併・会社分割は業法で3パターン(届出承継・認可承継・承継不可)
  • 建設業は令和2年10月改正で事前認可による承継制度が整備され空白期間回避可能
  • 個人事業主の相続は建設業・古物商・飲食店等で承継制度あり、宅建業・理美容業は承継不可
  • 宅建業・貸金業・古物商・風俗営業・酒類販売業免許は合併・分割でも承継不可
  • M&A実行前の許認可DDは財務・法務DDと並ぶ必須項目
  • 過去の行政処分歴・欠格事由は譲渡価格交渉に直結する

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