経営業務の管理責任者の要件|令和2年改正で加わった常勤役員等と補佐体制

経営業務の管理責任者の要件|令和2年改正で加わった常勤役員等と補佐体制
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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建設業許可の要の1つが「経営業務の管理責任者(経管)」です。令和2年10月の建設業法改正により、従来の5年経験ルートに加えて「常勤役員等+補佐体制」という新しい道が開かれました。どちらのパターンで申請するか、経験の証明書類はどう集めるか、常勤性はどう示すかを行政書士が実務視点で解説します。

🏆 結論:経管は「個人」から「組織(チーム)」でも認められる時代へ

令和2年10月改正前は、経営業務管理責任者(経管)は5年以上の建設業経営経験を持つ個人1名に依存していました。改正後は、2年以上の建設業役員経験+5年以上の役員経験を持つ常勤役員等に、「財務管理・労務管理・業務運営」を5年以上経験した補佐者を配置する「体制」パターンが認められるようになりました。建設業経験が浅くても、経理・人事の実務経験者を補佐に配置すれば許可取得が可能になり、中小建設会社や新規参入事業者の許可取得の間口が大きく広がりました。

経営業務の管理責任者(経管)とは

経営業務の管理責任者(通称「経管(けいかん)」)とは、建設業の経営について適正な経営判断・業務管理ができる人物として、建設業許可を受けるために許可業者の常勤役員等に配置する必要がある人物です。建設業法第7条第1号・同施行規則第7条第1項に定められた「適正な経営能力」の要件を満たす存在と位置づけられます。

建設業は、公共の安全・財産に直接関わる工事を扱うことから、経営を任せられる人物が必ず事業者内にいることが求められます。この制度が経管です。経管を欠くと建設業許可は得られず、既取得分も失効の対象になります。

⚖️ 経管の法的根拠と位置づけ
項目 内容
根拠法令建設業法第7条第1号、施行規則第7条第1項
配置場所許可業者の本社(主たる営業所)
配置人数常勤役員等1名(補佐体制の場合は本人+補佐者)
地位法人の常勤役員等、個人事業主本人、支配人
欠けた場合2週間以内に変更届、代わりの経管を配置できない場合は廃業届
兼任同一事業所内であれば専任技術者と兼任可能

令和2年10月改正のポイント

令和2年10月1日に施行された建設業法改正は、経管制度の大きな転換点でした。改正前は「5年以上の建設業経営経験を持つ個人」が必須だったため、後継者不在や人材流出で経管を失うと、許可も失効する事態が多発していました。

📢 令和2年10月改正の3つの緩和ポイント

①「建設業経営経験」が許可業種ごとから建設業全体に緩和(29業種区分が撤廃)/②個人要件だけでなく「常勤役員等+補佐体制」のチーム型要件が新設/③他業種の経営経験5年+建設業経営経験2年でも経管要件を満たす道が開かれました。改正の詳細はe-Gov 建設業法施行規則第7条でご確認いただけます。

📊 改正前後の比較
項目 改正前(令和2年9月まで) 改正後(令和2年10月以降)
業種要件「許可を受けようとする業種に関し」5年経験「建設業に関し」5年経験(業種区分なし)
建設業経験原則5年以上(許可業種)
異業種は6〜7年
建設業5年以上/または建設業2年+役員他5年
要件の単位個人(経営経験1人)個人OR組織体制(常勤役員等+補佐)
補佐者制度なし財務・労務・業務運営の各5年経験者
適用対象全許可業者既取得分は現状維持、新規申請から適用

経管の要件パターン(イ・ロの2区分)

改正後の経管要件は、大きく「イ(個人要件)」と「ロ(組織体制要件)」に分かれます。多くの中小建設会社はイの要件で申請し、組織が複雑な場合やイの要件を満たす人材がいない場合にロの要件で申請します。

イ(1):建設業5年以上の経営業務管理責任者としての経験

最もシンプルで、もっとも多く使われるパターンです。建設業の株式会社の取締役・個人事業主・支配人等として通算5年以上の経営業務管理責任者経験があれば、要件を満たします。

イ(2):建設業5年以上の役員等に準ずる地位での経営業務

「役員等に準ずる地位」とは、執行役員・理事など、業務執行の権限委任を受けた者です。一般的な常勤役員でなくても、取締役会等からの明確な権限委任があれば該当します。

イ(3):建設業6年以上の役員等に準ずる地位での補佐経験

取締役等を補佐した経験です。証明書類の収集が難しいため実務では使われる頻度は低く、個人事業主から法人成りしたケース等で補助的に使われます。

ロ(1):建設業役員2年以上+5年の役員経験者+補佐体制

改正後に新設された「組織体制」型の第1号。建設業での役員経験2年以上に加え、建設業または他業種で役員等を5年以上務めた常勤役員等を配置し、さらに補佐者として「財務管理」「労務管理」「業務運営」の3分野を5年以上経験した者を配置します。

ロ(2):建設業役員2年以上+他業種役員5年+補佐体制

ロ(1)と似ていますが、5年の役員経験が「他業種」で可の点が異なります。他業種で役員経験のある経営者が建設業に新規参入する場合に活用されます。

📝 要件パターンの選択
パターン 経験要件 補佐 実務での使用頻度
イ(1)建設業の役員等5年以上不要★★★(圧倒的多数)
イ(2)建設業の役員等に準ずる地位5年不要★★(執行役員等)
イ(3)建設業の補佐経験6年不要★(書類難)
ロ(1)建設業役員2年+役員等5年必要★★(新設制度)
ロ(2)建設業役員2年+他業種役員5年必要★★(新規参入)

イ(1)の証明書類|最も使われる王道ルート

実務で圧倒的多数を占めるイ(1)について、証明書類の集め方を詳しく説明します。自治体によって細部の運用が異なりますが、全国的に共通するのは次のとおりです。

📄 イ(1)の証明書類
証明対象 書類 取得元
役員在籍履歴事項全部証明書(閉鎖事項含む)法務局
建設業の許可過去の建設業許可通知書の写し自社保管・許可行政庁
工事実績工事請負契約書・注文書・請求書(各年数件)自社保管
工事実績(代替)法人税確定申告書・事業概要記載書類税務署控え・顧問税理士
常勤性健康保険被保険者証の写し・住民票・源泉徴収票本人・市区町村
実績証明(他社)前職の代表者印押印の在職証明書前職(協力を要する)

💡 実務のポイント

工事実績の証明は、5年分(60か月分)を重複なく埋める必要があります。実務では、毎月1件以上の工事契約書・注文書の写しを揃えるのが理想ですが、書類が散逸している場合が多く、法人税確定申告書で代用することも可能です。弊所の経験上、20〜30年前の古い工事書類を探す苦労が発生することもあり、申請の1〜2か月前から書類収集に着手するのが現実的なスケジュールです。

ロ(1)(2)の補佐体制|チーム型要件の実務

ロの要件では、常勤役員等に加えて「補佐者」を配置する必要があります。補佐者は3分野それぞれを5年以上経験した者で、1人で全分野を経験していれば1名でも成立、分野ごとに別人を配置しても可能です。

補佐の3分野

分野 業務内容例 該当しやすい職歴
財務管理資金調達・支払管理・予算管理・決算業務経理部長・財務担当取締役
労務管理雇用・配置・就業規則・給与計算・労務管理人事部長・総務部長
業務運営業種別の営業・工事施工・受注管理営業部長・工事部長

📝 行政書士の視点

補佐者3名体制の申請は、関東地方整備局で令和2年11月から実際の審査事例が出始めており、1人で複数分野を兼ねるパターンも含めて審査基準が整備されつつあります。弊所で担当した案件では、同一会社内で経理業務7年・営業企画6年・人事労務5年の経験を持つ管理部長を補佐者として配置し、要件を成立させたケースがありました。本人の職務権限規程・組織図・在籍証明が整っていれば、1人3分野でも承認されるのが基本運用です。

補佐者の証明書類

証明対象 書類
補佐業務の経験組織図・業務分掌規程・職務権限規程
5年以上の在籍健康保険証の写し・給与台帳・源泉徴収票
常勤性住民票・社会保険の加入状況
補佐関係直接補佐を示す業務記録・会議議事録

常勤性の証明|実務上最大の論点

経管の要件で最も厳しくチェックされるのが「常勤性」です。常勤とは、その会社で継続的に業務に従事し、休日を除く毎日出社している状態を指します。他社の役員を兼任していたり、別事業を営んでいたりすると、常勤性に疑義が生じやすくなります。

常勤性の証明方法

証明方法 書類 ポイント
社会保険健康保険・厚生年金の加入を証明本人名の資格取得確認通知書
住民票居住地が通勤可能な範囲会社所在地から通勤圏内
給与源泉徴収票・給与台帳役員報酬または給与の支払い実績
その他賃貸借契約書(単身赴任等)現住所の確認

⚠️ 他社役員との兼任は厳格に審査される

経管が他社の代表取締役・常勤取締役を兼任している場合、常勤性は原則認められません。過去には、経管予定者が他社の監査役だったケースで、監査役の報酬が年額数百万円あったため、「実質常勤」と判断されて差戻しになった事例もあります。通勤不可能な遠方居住、他社の健康保険加入、他社名義の給与所得も常勤性を疑われる大きな材料です。

経管の変更・退任時の対応

経管の交代・退任が発生した場合、2週間以内に変更届を提出する必要があります(建設業法第11条第1項)。新たな経管候補が2週間以内に確保できない場合、30日以内に「経管の空席」として廃業届を提出します。

📋 経管変更の実務対応
事由 期限 書類
経管の交代2週間以内変更届(様式第22号の2)+新経管の要件証明書類
経管の退任(後任あり)2週間以内退任変更届+後任の就任変更届
経管の退任(後任なし)30日以内廃業届(様式第22号の4)
経管の死亡2週間以内変更届+後任の就任変更届

経管不在の場合のリスク

経管が不在のまま一定期間が経過すると、建設業許可が取り消されます。過去の実例では次のようなリスクがあります。

状況 結果
経管の急逝2週間以内に後任がなければ廃業届→新規申請が必要
経管の退職後継者不在なら許可失効、500万円以上の工事受注不可
経管の他社兼任発覚変更勧告→改善なければ許可取消
届出漏れの発見2週間超過で建設業法違反、指示処分の対象

⚠️ 後継者不在の60歳超経管は黄色信号

実務で最も多いトラブルは、経管が60歳超で後継者不在のケースです。経管が急逝すると、2週間以内に新経管を配置する必要があり、建設業の経営経験がある親族・役員が不在の場合、慌てて人材を探しても間に合わず、許可失効に至ります。弊所が担当した事例では、経管である先代社長が78歳で急逝し、後継者の息子が建設業経営経験2年しかなかったため、結果的に廃業届を出して新規申請し、許可空白期間が3か月半発生して売上の約6,000万円を失いました。50代以上の経管を抱える会社は、後継者育成と補佐体制の整備を早めに進めるべきです。

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他の許可要件との関係

専任技術者との兼任

経管と専任技術者は同一営業所内で同一人物が兼任可能です。中小建設会社では、代表取締役が経管と専任技術者を兼ねているケースが多く、実務上は珍しくありません。ただし、専任技術者は各営業所に必ず配置が必要で、2営業所ある場合はそれぞれに専任技術者が必要です。

欠格事由との関係

経管に選ぶ人物は、建設業法第8条の欠格事由(禁錮以上の刑、建設業法違反等)に該当しないことが必須です。過去5年以内の犯罪歴、破産宣告、建設業許可取消しの履歴がある場合、経管にはなれません。

社会保険加入状況との関係

令和2年10月改正により、建設業許可の要件として社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の加入が必須となりました。経管が常勤役員として社会保険に加入していることは、常勤性の証明にも直結します。経管・補佐者それぞれの適合判定の具体的な運用は国土交通省 建設業許可事務ガイドラインに詳しく記載されているため、申請前に必ず確認することをお勧めします。

よくある質問

経管になる人物は、必ず会社の代表取締役である必要がありますか?
必須ではありません。代表取締役・取締役・支配人・個人事業主本人のいずれでも経管になれます。ただし、常勤役員等である必要があるため、監査役や非常勤取締役はなれません。
親会社や他のグループ会社の役員と兼任している場合、常勤性は認められますか?
原則として認められません。ただし、親会社の役員が無報酬で形式的な兼任にとどまる場合など、個別の実態により常勤性が認められるケースもあります。事前に許可行政庁に相談することをお勧めします。
補佐者は、経管と同じ会社の従業員である必要がありますか?
必須です。補佐者は、許可を受けようとする建設業者の常勤の従業員として配置する必要があります。外部のコンサルタントや他社の従業員は補佐者にはなれません。
過去の役員経験を証明できない場合、経管になれますか?
過去の勤務先が閉業・倒産している場合など、正式な在職証明書が入手できない場合でも、代替書類(源泉徴収票・年金記録・本人の陳述書等)で疎明できるケースがあります。自治体の運用により判断が分かれるため、事前相談が有効です。
他業種での役員経験5年(ロ(2))は、どのような業種でも認められますか?
原則として業種は問いません。ただし、「役員等」としての経営業務の執行権限を有していたことが前提となります。名目上の監査役や非常勤取締役では認められません。
経管が決まっている場合、ロの組織体制は不要ですよね?
そのとおりです。イ(1)〜イ(3)で要件を満たす経管が配置できれば、補佐者は不要です。ロの組織体制は、イの要件を満たす人物を確保できない場合の補完的な道と考えてください。
専任技術者の経験と経管の経験は同じ期間として扱えますか?
経管と専任技術者は別個の要件で、経験の種類も異なります。経管は「経営業務」の経験、専任技術者は「技術」の経験を問われます。同一人物が両方を兼任する場合、それぞれの経験を別個に証明する必要があります。
令和2年改正前から経管として認められていた人物は、今でも継続できますか?
継続できます。既取得の建設業許可における経管は、改正前の要件で認められた場合でも、そのまま継続して要件を満たし続ける限り変更不要です。ただし、経管の交代や要件変更時には改正後のルールが適用されます。

📋 この記事のポイント

  • 経営業務管理責任者(経管)は建設業法第7条第1号で定められた許可の必須要件
  • 令和2年10月改正で、業種区分の撤廃・組織体制(ロ)の新設・建設業経験短縮化が実現
  • イ(1):建設業5年の役員経験が最もシンプルで使用頻度が高いルート
  • ロ(1)(2):常勤役員等+財務・労務・業務運営の補佐者3分野体制
  • 補佐者は1人で3分野兼務可能、または分野ごとに別人を配置可能
  • 常勤性は最重要論点、他社役員兼任・遠方居住・給与不支給は疑義の元
  • 経管欠員時は2週間以内の変更届または30日以内の廃業届が必要

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