【社労士×行政書士が解説】カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月〜)|改正法の内容と準備

【社労士×行政書士が解説】カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月〜)|改正法の内容と準備
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「2026年に義務化されるカスハラ対策を今から準備したい」でお困りの経営者・人事担当者に向けて、改正労働施策総合推進法33条のカスハラ定義、事業主に求められる措置、東京都条例との関係、業種別の典型カスハラ事例、そして今年度中に着手すべき準備ロードマップを完全ガイドします。この記事を読めば、自社の施行日までの準備計画を立てられます。

🏆 結論:2025年6月公布・2026年秋に全企業義務化・パワハラ防止措置と同じ枠組み

2025年6月11日に改正労働施策総合推進法が公布され、公布から1年6か月以内の政令で定める日(2026年10月頃と見込まれる)に施行されます。全事業主に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)防止の雇用管理上の措置義務が課されます。カスハラの定義は①顧客等の言動、②業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの、③労働者の就業環境を害する、の3要件。事業主に求められる措置はパワハラ防止法と同じ4本柱(方針明確化・相談体制・事後対応・プライバシー保護等)で、顧客等にも「他者労働者への言動に注意を払う努力義務」が課されます。東京都では2025年4月からカスハラ防止条例が先行施行済みのため、東京都内の事業主は既に対応が求められています。

カスタマーハラスメント対策義務化の全体像|施行までのスケジュール

2025年6月11日、カスハラ対策を事業主の義務とする改正労働施策総合推進法が公布されました。施行は公布から1年6か月以内の政令で定める日とされており、2026年10月頃と見込まれています。

施行に至るスケジュール

時期 出来事
2022年2月厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」公表(任意ガイドライン)
2025年3月改正労働施策総合推進法案が閣議決定
2025年4月東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が施行(先行モデル)
2025年6月4日改正労働施策総合推進法が成立
2025年6月11日改正労働施策総合推進法が公布
2026年10月頃(見込み)全事業主に対してカスハラ防止措置義務が施行
施行前厚生労働省から詳細指針(ガイドライン)公表予定

施行までの残り期間で、厚労省から措置内容の詳細を定める「指針」が公表されます。指針公表後に各企業が具体的な体制整備に入るというスケジュール感ですが、東京都内の事業主は条例で先行義務化されているため、既に対応が求められています。

📢 対象企業

改正法の対象は労働者1人以上を雇用する全事業主です。パワハラ防止法と同様、中小企業も含めて全事業主が対象となります。企業規模別の段階施行(大企業先行等)は予定されていません。

カスハラの定義|改正法33条の3要件

改正労働施策総合推進法33条では、カスタマーハラスメントを以下のように定義しています。

法律上の3要件

改正労働施策総合推進法33条(カスハラの定義)

職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(「顧客等」)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(「顧客等言動」)により当該労働者の就業環境が害されること

3要件の分解

  1. 顧客等の言動:取引の相手方・施設の利用者・事業に関係する者を広く含む(潜在的顧客も対象)
  2. 業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えた言動:契約内容からの相当性、手段・態様の相当性で判断
  3. 労働者の就業環境を害する:精神的苦痛や身体的苦痛で能力発揮が妨げられる

💡 実務のポイント

「顧客等」の範囲はかなり広く、実際に商品・サービスを利用した者だけでなく潜在的顧客も含まれます。たとえば「店に入る前に店員に怒鳴りつけた通行人」も事業に関係を有する者として対象になり得ます。逆に、同じ会社の別部門の社員同士のトラブルはパワハラの範疇であり、カスハラには該当しません。対象範囲を混同しないことが重要です。

カスハラに該当する典型的な行為

改正法の定義を受けて、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」・弁護士解説等で整理されている典型的なカスハラ該当行為を示します。

身体的な攻撃

精神的な攻撃

不当・過剰な要求

執拗な追及

性的言動

カスハラとクレーム(正当な苦情)の違い

実務で最も判断が難しいのは、「カスハラ」と「正当なクレーム」の境界です。顧客からの苦情すべてをカスハラと扱うと顧客対応が機能しなくなり、逆に顧客対応の萎縮で顧客満足度が下がるため、線引きが重要です。

観点 正当なクレーム カスハラに該当し得る
内容商品・サービスの不具合・改善要望契約外の要求・不当な補償
態様冷静で事実に基づく指摘暴言・脅迫・長時間拘束
頻度通常1〜数回で完結執拗に同じ苦情を繰り返す
対応後の態度説明に納得すれば収束説明しても納得せず要求継続
目的問題解決・改善攻撃・金銭目的・自己満足

💡 実務のポイント

「内容×態様×頻度」の3軸で総合判断します。内容が合理的でも態様(暴言・長時間拘束)や頻度(執拗な繰り返し)が社会通念上許容される範囲を超える場合はカスハラに該当し得ます。逆に、内容が契約外の要求でも冷静に話し合って撤回すれば、カスハラとまでは言えません。録音・録画による記録が判定の重要な証跡となります。

業種別の典型カスハラ事例

業種によってカスハラの態様は異なります。自社業種での典型パターンを押さえることが対策の出発点です。

業種 典型的なカスハラ
小売業返品・交換の過剰要求、レジ店員への暴言・長時間拘束
飲食業料理への過度な言いがかり、土下座強要、料金支払い拒否
コールセンター長時間電話拘束、人格攻撃、上司呼出要求
医療・介護看護師・介護士への暴言、身体的攻撃、家族からの過剰要求
学校教育保護者からのモンスタークレーム、教員の自宅訪問要求
公共交通機関運転士・駅員への暴力、遅延による過剰な責任追及
BtoB(取引先対応)優越的地位を利用した無理な要求、担当者への人格攻撃

事業主に求められる措置|パワハラ防止法と同じ4本柱

改正法で事業主に求められる措置は、現行のパワハラ防止措置と同じ枠組み(4本柱)になる見込みです。

措置①:事業主の方針の明確化と周知・啓発

措置②:相談体制の整備

措置③:カスハラ発生時の迅速・適切な対応

措置④:併せて講ずべき措置

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東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(先行モデル)

東京都は2025年4月1日から全国初のカスハラ防止条例を施行しており、都内の事業主は既に対応が求められています。国の改正法と条例の関係を整理します。

条例の特徴

条例と国の改正法の違い

項目 東京都条例 国の改正法
施行2025年4月2026年10月頃(見込み)
対象地域東京都内の事業者全国の事業者
事業者義務努力義務義務(措置義務)
罰則なし指導・勧告・企業名公表

東京都内の事業者は、条例の努力義務対応を進めつつ、2026年の国の義務化に備える必要があります。条例対応で整備した体制は、国の義務化に対してもそのまま活用できます。

業種別・規模別の対策ロードマップ

施行まで残り時間で着手すべき準備を、規模別に整理します。

中小企業(従業員50人未満)の最短ロードマップ

時期 着手事項
2026年4〜6月自社の業種別カスハラリスク洗い出し、厚労省マニュアル活用
2026年6〜8月就業規則・服務規律へのカスハラ防止条項追加
2026年7〜9月相談窓口の設計・設置(既存ハラスメント窓口との統合検討)
2026年8〜10月カスハラ対応マニュアル作成、管理職・現場向け研修実施
2026年10月(施行)施行開始、以降はPDCAサイクルで継続改善

大企業・中堅企業(従業員50人以上)のロードマップ

就業規則への記載|規定例

就業規則または服務規律にカスハラ防止条項を追加する必要があります。

(カスタマーハラスメントからの労働者保護)

第◯条 会社は、顧客・取引先その他事業関係者(以下「顧客等」)による暴言・暴力・不当な要求・長時間拘束等、社会通念上許容される範囲を超えた言動(以下「カスタマーハラスメント」)から労働者を守るため、必要な措置を講じる。

2 労働者は、カスタマーハラスメントを受けた場合または目撃した場合、速やかに第◯条(相談窓口)に定める窓口に相談するものとする。

3 会社は、労働者がカスタマーハラスメントに対応するにあたり、以下の措置を講じる。
(1)対応マニュアルの整備と周知
(2)複数人対応・上席者対応等の体制整備
(3)悪質なカスタマーハラスメントに対する警察・弁護士等への連絡
(4)被害労働者への配慮措置(交代・休養・メンタルケア)

4 会社は、カスタマーハラスメントを理由として労働者が受けた精神的・身体的影響について、就業環境整備の責任を果たす。

カスハラ対応の現場マニュアル要点

現場労働者向けのマニュアルには、以下の要素を必ず含めます。

初期対応の基本原則

エスカレーション基準

以下のいずれかに該当した時点で、現場労働者は上席者にエスカレーションし、一人で対応しない体制を作ります。

毅然とした対応の例

⚠️ 絶対に避けるべき対応

カスハラに対して土下座・謝罪金を支払う・私物提供・私的連絡先交換等の譲歩は絶対にしないことが重要です。一度譲歩すると、同一顧客や他の顧客からの類似要求を誘発し、組織全体のカスハラ耐性が低下します。毅然とした対応が、結果的に労働者と組織を守ります。

よくある質問

カスハラ対策の義務化はいつから施行されますか?
2025年6月11日に改正労働施策総合推進法が公布され、公布から1年6か月以内の政令で定める日に施行されます。2026年10月頃と見込まれています。詳細の施行日は政令で定められるため、厚労省の公表を待つ必要があります。
中小企業も義務の対象ですか?
はい、労働者1人以上を雇用する全事業主が対象です。パワハラ防止法と同様、中小企業のみ段階的に施行される予定はなく、一斉に義務化される見込みです。
東京都条例だけ対応すれば国の改正法にも自動対応できますか?
おおむね対応可能ですが、完全ではありません。東京都条例は努力義務、国の改正法は措置義務(より強い)であり、指針の内容も若干異なる可能性があります。条例対応を基礎に、指針公表後に追加整備する想定が安全です。
カスハラとクレームの線引きは誰が判断しますか?
最終的には事業主(会社)が判断しますが、判定基準を社内で明確化しておく必要があります。「内容×態様×頻度」の3軸で判定するフローを作り、現場担当者が迷った場合に上席者・相談窓口がエスカレーション判定する運用が実務的です。
取引先からの無理な要求もカスハラに該当しますか?
該当し得ます。改正法の「顧客等」には取引の相手方が含まれており、優越的地位を利用した不当な要求・担当者への人格攻撃等はBtoBカスハラとして対象となります。発注者と受注者の力関係を背景とするケースが多く、下請法と並行して対応が必要です。
労働者側からカスハラを会社に報告するのが遅れた場合、会社は責任を問われますか?
労働者の報告義務違反は問われにくいですが、会社側の措置義務履行という観点では「労働者が相談しやすい窓口設計ができていたか」が問われます。相談を躊躇させない仕組み(匿名相談・外部窓口等)を整備することが会社の義務履行となります。
カスハラ対応で顧客を出禁にすることは違法ではありませんか?
違法ではありません。店舗や施設は民間の管理下にあり、著しい迷惑行為を行った顧客に対する入店・利用拒否は、営業権の行使として認められます。ただし、出禁の判断基準と手続きを社内で明確化し、差別や不当な理由での拒否とならないよう留意が必要です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 2025年6月公布、2026年10月頃施行で全事業主にカスハラ防止措置義務が課される
  • カスハラ定義は改正法33条で①顧客等言動②社会通念上許容範囲超過③就業環境害の3要件
  • 措置義務はパワハラ防止法と同じ4本柱(方針明確化・相談体制・事後対応・プライバシー保護等)
  • 典型的カスハラは身体的攻撃・精神的攻撃・不当過剰要求・執拗な追及・性的言動の5分類
  • カスハラとクレームは「内容×態様×頻度」の3軸で総合判断、録音・録画が重要証跡
  • 東京都は2025年4月から条例で先行義務化、都内事業者は既に対応必要
  • 中小企業は2026年4〜10月を目途に就業規則改定・相談窓口整備・マニュアル作成・研修実施を完了
  • 現場マニュアルは初期対応原則・エスカレーション基準・毅然対応例を網羅し、土下座・謝罪金等の譲歩を避ける

✅ 次のアクション

  • 自社の業種別カスハラリスクを洗い出し、典型的な発生パターンを整理する
  • 就業規則・服務規律にカスハラ防止条項を追加する(本記事の規定例を活用)
  • 既存ハラスメント相談窓口との統合を検討し、総合窓口に一本化する
  • 現場担当者向けカスハラ対応マニュアル(エスカレーション基準・毅然対応例)を作成する
  • 関連制度はパワハラ防止法の対応完全ガイド就業規則の作成と届出社会保険制度の全体像を参照

カスタマーハラスメント対策の義務化は、2026年の施行に向けて今年度中に体制整備を進めるべき最重要課題です。就業規則改定・相談窓口設計・現場マニュアル作成・管理職研修と、やるべきことは多岐にわたります。準備でお困りの際は、鮎澤パートナーズへご相談ください。社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士が4士業のワンストップ体制で、カスハラ対策体制の構築を包括的に支援いたします。

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