【社労士が解説】男女賃金差異の公表義務(301人以上)|算定方法と開示のポイント5ステップ

【社労士が解説】男女賃金差異の公表義務(301人以上)|算定方法と開示のポイント5ステップ
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

男女賃金差異の公表義務(301人以上)|算定方法と開示のポイント5ステップ

男女賃金差異の算出・公表に戸惑う人事担当者に向けて、女性活躍推進法に基づく公表義務の全体像・算出5ステップ・実務の判断ポイントを整理します。101人超への対象拡大(2026年4月)にも対応。

🏆 結論:源泉徴収簿を使えば正確な男女賃金差異を3時間で算出できる

男女賃金差異の公表は、女性活躍推進法第20条に基づく情報公表項目の1つで、2022年7月から常時雇用301人超企業が義務化、2026年4月から101人超企業に拡大されます。算出は「正規・非正規の4区分で男女別に総賃金と人員数を算出→平均年間賃金を計算→女性÷男性の割合を出す」の5ステップで、源泉徴収簿を使えば実務3時間程度で完了します。退職手当と通勤手当は個別判断で「賃金」から除外可(ただし男女共通の取扱いが必要)。公表期限は事業年度終了後おおむね3カ月以内、自社HPまたは厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」で行います。違反への直接罰則はないものの、労働局から助言・指導・勧告の対象となり、悪質な場合は企業名公表の可能性があります。

男女賃金差異公表義務の全体像

男女賃金差異の公表は、2022年7月8日の女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)の省令改正により導入された情報公表項目です。当初は常時雇用301人超の企業が対象でしたが、2025年の法改正により2026年4月1日から101人超の企業へと対象が拡大されます。

時期 対象企業 公表方式
2022年7月8日〜常時雇用労働者301人超の企業必須項目(義務)
〜2026年3月31日常時雇用労働者101〜300人の企業努力義務
2026年4月1日〜常時雇用労働者101人超の企業必須項目(義務)

💡 実務のポイント:「常時雇用労働者」の数え方に注意

常時雇用労働者とは、①期間の定めなく雇用されている者、または②過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者、③採用の時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者を指します。パート・アルバイトでもこの要件を満たせば含めて数えます。弊所顧問先で従業員総数350名だが「期間雇用が多く常時雇用は290名」として対象外と判断した企業がありましたが、運用実態を精査すると常時雇用が310名となり、2026年4月を待たず2022年から対象となるべき状態でした。判定ミスは労働局の調査で指摘されるため、労務監査で事前確認することをおすすめします。

公表が義務となる対象企業の判定

301人超の判定

「常時雇用する労働者数が301人以上」とは、事業主(会社単位)で判定します。事業場ごとではなく、会社全体で300人を超えているかどうかがポイントです。本社と複数の支店・工場を合算した人数で判断します。

判定から除外される人

判定に含める人

算出5ステップ|源泉徴収簿を使った実務の進め方

男女賃金差異の算出は厚生労働省の解説資料に基づく以下5ステップで行います。源泉徴収簿を使えば実務効率が大幅に上がります。

【ステップ1】労働者を4区分に分類

対象となる全労働者を以下の4区分に分類します。

区分 該当者
①男性・正規男性の正社員・無期雇用フルタイム
②男性・非正規男性のパート・契約社員・嘱託・再雇用
③女性・正規女性の正社員・無期雇用フルタイム
④女性・非正規女性のパート・契約社員・嘱託・再雇用

派遣社員は派遣元企業で計算するため除外します。嘱託社員は直接雇用であれば非正規に含めます。

【ステップ2】各区分の総賃金と人員数を算出

4区分ごとに、事業年度1年間の総賃金と人員数を算出します。

【ステップ3】各区分の平均年間賃金を計算

4区分ごとに「総賃金 ÷ 人員数」で平均年間賃金を計算します。

🧮 計算例:従業員500名のA社

男性・正規:総賃金18億円 ÷ 300名 = 平均600万円
女性・正規:総賃金8億円 ÷ 150名 = 平均533万円
男性・非正規:総賃金6,000万円 ÷ 20名 = 平均300万円
女性・非正規:総賃金9,000万円 ÷ 30名 = 平均300万円

【ステップ4】全労働者の男女別平均賃金を算出

正規・非正規の総賃金と人員数を合算して、男女別に全体の平均年間賃金を算出します。

【ステップ5】割合(%)を算出・公表

正規・非正規・全労働者の3区分で、それぞれ「女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金 × 100」を計算します。

区分 A社の割合
正規労働者533万円 ÷ 600万円 = 88.8%
非正規労働者300万円 ÷ 300万円 = 100.0%
全労働者(合算計算)82.5%

🔷 社労士の視点:源泉徴収簿が最も実務的

算出の基礎資料は源泉徴収簿が最も効率的です。源泉徴収簿に記載されている「給与所得」金額は所得税法第28条の給与所得と一致するため、総賃金の計算に直接使えます。事業年度が4月〜翌3月の場合、2年分の源泉徴収簿を用意して「当年4〜12月」「翌年1〜3月」の給与・賞与を合算します。賃金台帳から個別に集計するより3〜5倍速く、計算ミスも少なくなります。弊所で支援した従業員420名の製造業では、源泉徴収簿方式で実作業2時間半で算出完了しました。

総賃金の計算に含める・除外する項目

総賃金の計算に含める項目と除外可能な項目を正確に理解することが、正しい算出の前提になります。

項目 扱い 根拠・注意点
基本給◎含める労基法第11条の賃金
残業手当・休日手当◎含める労働の対償
役職手当・職務手当◎含める労働の対償
賞与(年2〜3回)◎含める労働の対償
家族手当・住宅手当◎含める労働の対償
通勤手当△除外可経費の実費弁償的性格があるため除外可(男女共通の取扱いが必要)
退職手当△除外可年度を超える労務の対価として除外可(男女共通の取扱いが必要)
慶弔見舞金✕除外労働の対償ではない
出張旅費✕除外実費弁償
社宅・食事の現物支給○含める評価額を賃金に含める(労基法第11条)

⚠️ 注意:退職手当・通勤手当の除外は「男女共通」で

退職手当と通勤手当は個別の事業主判断で「賃金」から除外できますが、男性も女性も同じ取扱いにする必要があります。「男性は除外、女性は含める」という恣意的な取扱いは、明確な違反として労働局の指摘対象になります。また、初回公表以降は一貫性ある方法を継続する必要があり、途中で「退職手当を含めるようにした」と変更する場合は理由の明記が求められます。

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公表期限と公表方法

公表のタイミング

事業年度終了後、おおむね3カ月以内に公表する必要があります。

事業年度 公表期限
4月〜翌3月翌年6月末頃まで
10月〜翌9月翌年12月末頃まで
1月〜12月翌年3月末頃まで

公表方法(2つから選択または両方)

  1. 自社ホームページ:誰でも閲覧できる方法での掲載が必要
  2. 厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」:無料で登録・公表可能

実務上は両方に掲載するのが一般的です。厚労省データベースへの登録は、えるぼし認定・プラチナえるぼし認定の取得にも必須で、採用ブランディングにも活用できます。

説明文の書き方|誤解を招かない公表文案

数字だけを公表すると誤解を招く恐れがあるため、差異が生じている理由を補足説明するのが実務の標準です。

📐 公表文案の例

【男女の賃金の差異】(2026年3月期)
・正規雇用労働者:88.8%
・非正規雇用労働者:100.0%
・全労働者:82.5%

【差異の説明】
当社では、男女問わず同一の賃金体系を適用しており、同一等級における男女間の賃金差はありません。全労働者の差異が82.5%となっている主な要因は、①管理職に占める女性比率が25%にとどまっていること、②非正規雇用(パート等)に女性が多く在籍していることです。

【改善の取組】
女性管理職比率を2028年までに35%、2030年までに40%とする目標を設定。女性のキャリア形成支援プログラム、育児との両立支援(短時間勤務・テレワーク)の拡充を進めています。

公表義務違反の罰則と運用上のリスク

男女賃金差異の公表義務違反に対して、女性活躍推進法には直接の罰則規定(罰金・拘禁刑)はありません。ただし以下の段階的措置が取られます。

段階 内容
①労働局の報告徴収公表状況の確認、報告書提出要求
②助言・指導改善方法の指導、期限設定
③勧告改善命令、公表猶予
④企業名公表勧告に従わない場合、厚生労働大臣が企業名を公表(法第30条)

📊 実務上のリスクは「採用力の低下」と「取引先評価」

罰金はないものの、公表義務違反の実務インパクトは採用・取引の両面で大きくなっています。就活生は女性の活躍推進企業データベースを入社検討に使う傾向が強く、未公表企業は応募数が減る傾向があります。また、大企業との取引ではサプライヤー選定の条件として公表企業であることを求める動きも出てきました。特にESG投資の観点から上場企業との取引比率が高い会社では、未公表が実質的な取引減少リスクに直結するケースを弊所でも見ています。罰則がないからと軽視すべきテーマではありません。

2026年4月101人超拡大への準備チェックリスト

従業員101〜300人の企業は、2026年4月から初回公表義務が発生します。以下のチェックリストで準備状況を確認してください。

  1. ☐ 常時雇用労働者数が101人超か確認(会社単位、事業場合算)
  2. ☐ 正規・非正規の区分ルールを社内で統一
  3. ☐ 事業年度末〜公表期限までのスケジュール策定
  4. ☐ 源泉徴収簿から総賃金を集計する担当者の決定
  5. ☐ 退職手当・通勤手当の除外可否を経営方針として決定
  6. ☐ 自社HPの公表ページ設置準備
  7. ☐ 厚労省「女性の活躍推進企業データベース」の登録
  8. ☐ 一般事業主行動計画の策定・届出(101人超は別途義務)
  9. ☐ 差異が生じる要因分析(データ整備)
  10. ☐ 改善の取組内容の整理

よくある質問

役員報酬は男女賃金差異の計算に含めますか?
含めません。取締役・監査役・代表取締役などの純然たる役員は労働者ではないため、計算対象から除外します。ただし使用人兼務役員(取締役営業部長など)は労働者性があるため、「使用人としての部分の給与」を賃金として計算に含めます。使用人部分と役員報酬部分の区分は雇用契約書・委任契約書で明確化しておく必要があります。
事業年度の途中で入退社した人はどう扱いますか?
人員数の数え方は個社判断ですが、一貫性が求められます。代表的な方法は、①期首在籍者のみ、②期末在籍者のみ、③期中の月平均、④期首と期末の平均、の4つ。多くの企業は④期首と期末の平均を採用しています。どの方法を採用するかを決めたら、次年度以降も同じ方法を継続してください。途中で変更する場合は理由の明記が必要です。
派遣社員は計算に含めますか?
派遣社員は派遣元企業で計算するため、派遣先の計算には含めません。直接雇用している契約社員・嘱託社員は非正規として計算に含めます。ただし業務委託契約の個人事業主(フリーランス)は労働者ではないため除外します。実態が業務委託でも実質が雇用である場合は労働者扱いとなるため、契約形態だけで判断せず実態確認が重要です。
退職手当と通勤手当を除外するメリットは何ですか?
実務負担の軽減と、賃金差異の数値の安定化が主なメリットです。退職手当は大量退職者が出た年度に総賃金が大きく変動し、差異の数値が年度間で比較しにくくなります。通勤手当も遠距離通勤者の比率で左右されやすいため、除外することで賃金本体の比較が正確になります。ただし除外は男女共通で、一度決めたら原則継続する必要があります。
公表した数字に誤りがあった場合はどうなりますか?
速やかに訂正公表する必要があります。誤りに気づいた時点で修正版を公表し、訂正した旨と修正理由を明記してください。労働局は公表情報に誤りがある場合、事業主に対して報告を求め、助言・指導・勧告を行う権限があります(法第20条・省令第19条)。意図的な虚偽情報の公表は悪質事案として企業名公表のリスクが高まります。
差異が大きい場合、公表後に不利益はありますか?
差異の大きさ自体で法的不利益はありませんが、実務上の影響は避けられません。採用応募数の減少、取引先からの評価低下、株主総会での質問、労働組合との団交材料化などが想定されます。ただし差異の数値より「要因分析と改善取組」が評価される傾向があります。正直に数値を公表し、説明文で要因(役職差、勤続年数差等)と改善取組を明示する姿勢が最も評価されます。
101人超の判定で迷った場合、どう確認すればいいですか?
常時雇用労働者の定義に照らして慎重な確認が必要です。過去1年間の月末人員数を各月で数え、101人以上の月が大半を占める場合は対象と判断するのが実務的です。判断に迷う場合は労働局の雇用環境・均等部(室)に事前相談することができます。また社労士に月次の雇用契約書・タイムカードを確認してもらう労務監査も有効です。
公表以外に、101人超企業が義務化されることは他にありますか?
一般事業主行動計画の策定・届出も101人超企業の義務です。男女賃金差異の公表とセットで、企業の女性活躍に関する状況把握・課題分析を行い、計画期間(2〜5年)・目標・取組内容を盛り込んだ行動計画を策定し、労働局に届け出る必要があります。計画期間終了時には実績評価と次期計画の策定も必要です。えるぼし認定取得を目指す場合は、この行動計画の内容が認定基準に直結します。

📋 この記事のポイント

  • 男女賃金差異の公表は女性活躍推進法に基づく情報公表項目
  • 2022年7月から301人超企業が義務、2026年4月から101人超企業へ拡大
  • 算出5ステップ:4区分分類→総賃金・人員数算出→平均年間賃金計算→男女全体平均算出→割合算出
  • 源泉徴収簿を使えば実務2〜3時間で算出可能
  • 退職手当・通勤手当は個別判断で除外可(男女共通の取扱い必須)
  • 公表期限は事業年度終了後おおむね3カ月以内
  • 公表方法は自社HPまたは厚労省「女性の活躍推進企業データベース」
  • 違反に直接罰則はないが、勧告・企業名公表リスクと採用・取引への実務影響は大きい
  • 説明文で要因と改善取組を示す姿勢が評価される

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