【会計士×税理士が解説】予算管理・予実管理の進め方|部門別損益管理とKPI設定

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
予算管理・予実管理の進め方|部門別損益管理とKPI設定
「予算は立てているが、毎月の振り返りが形骸化している」とお悩みの中小企業経営者に向けて、予算の策定方法から月次の予実比較、部門別損益の導入、業種別KPIの設定まで実務で使える進め方を解説します。この記事を読めば、予算を「絵に描いた餅」から「経営の羅針盤」に変えることができます。
🏆 結論:予実管理は「月1回15分の振り返り」から始める
予算管理・予実管理の最大のポイントは、精密な予算を立てることではなく、毎月の差異を確認して次のアクションを決めるサイクルを回すことです。中小企業はまず「売上・粗利・固定費」の3項目で月次予実管理表を作成し、月1回の経営数字ミーティングを定例化しましょう。
予算管理・予実管理とは?定義と違い
予算管理とは、事業年度ごとに売上・原価・経費などの数値目標(予算)を策定し、その達成に向けて経営資源を配分・管理する一連の活動を指します。予実管理は予算管理の一部であり、策定した予算と実績を定期的に比較・分析するプロセスに特化した用語です。
実務では予算管理と予実管理はほぼ同じ意味で使われることが多いですが、予算管理が「計画の策定から実行・評価まで」の全体を指すのに対し、予実管理は「予算と実績の突合・差異分析」に重点を置く点が違います。
管理会計の全体像については「管理会計とは?財務会計との違いと中小企業への導入ステップ」で解説しています。
予算管理に含まれる4つのプロセス
| プロセス |
内容 |
頻度 |
| 1. 予算策定 | 売上・原価・経費の数値目標を月次で設定 | 年1回(期首) |
| 2. 予実比較 | 予算と実績の差異を確認・可視化 | 月次(理想は翌月10日以内) |
| 3. 差異分析 | 差異の原因を特定し、改善策を検討 | 月次 |
| 4. 予算修正 | 大きな乖離がある場合に予算を再設定 | 四半期〜半期 |
予算策定の3方式【比較表】
予算の作り方には大きく3つの方式があります。中小企業の規模や組織体制に合った方式を選ぶことが重要です。
| 方式 |
特徴 |
メリット |
デメリット |
適する規模 |
| トップダウン型 | 経営者が全社予算を決定し、各部門に配分 | 経営ビジョンとの整合性が高い。策定が速い | 現場の実態と乖離しやすい。従業員の当事者意識が低い | 〜従業員10名 |
| ボトムアップ型 | 各部門が積み上げた予算を全社予算に集約 | 現場の実態に即した予算。従業員のコミットメントが高い | 部門間の調整に時間がかかる。保守的になりがち | 30名以上 |
| 折衷型 | 経営者が大枠を決め、現場が詳細を作成 | ビジョンと現場感のバランスが取れる | 上下間の調整に一定の時間が必要 | 10〜30名 |
💡 実務のポイント
顧問先で予算策定を支援する際、従業員20名程度までの中小企業には折衷型を推奨しています。経営者が「売上目標3億・営業利益率8%」のような大枠を示し、各部門長がそれを達成するための具体策(人件費・広告費・外注費)を積み上げる流れです。大枠だけなら経営者1人で30分で決められますし、現場にも当事者意識が生まれます。
初めての予算策定で決めるべき3つの数字
初めて予算を作る場合、いきなり勘定科目ごとの細かい予算を作る必要はありません。まず以下の3つの数字を月次で設定するだけで十分です。
1つ目は「売上目標」です。前期の実績をベースに、成長率(例:前年比105%)を加味して設定します。2つ目は「粗利率目標」です。前期の売上総利益率を把握し、維持する数字を設定します。3つ目は「固定費上限」です。人件費・家賃・通信費など毎月ほぼ一定の費用の合計額を予算化します。この3つが決まれば、「月の売上がいくらあれば黒字か」「固定費をいくらまでなら増やせるか」が即座にわかる状態になります。
月次予実管理表の作り方
予実管理表は「当月の予算」「当月の実績」「差異」「達成率」の4列と、「年度累計の予算」「年度累計の実績」「累計差異」「累計達成率」の4列、合計8列を横軸に並べます。縦軸には損益計算書の主要項目を配置します。
予実管理表の項目構成
| 項目 |
当月予算 |
当月実績 |
差異 |
達成率 |
| 売上高 | 4,200,000 | 3,850,000 | ▲350,000 | 91.7% |
| 売上原価 | 2,100,000 | 2,050,000 | 50,000 | 97.6% |
| 売上総利益 | 2,100,000 | 1,800,000 | ▲300,000 | 85.7% |
| 販管費合計 | 1,600,000 | 1,580,000 | 20,000 | 98.8% |
| 営業利益 | 500,000 | 220,000 | ▲280,000 | 44.0% |
※年商5,000万円のIT企業を想定した月次サンプル
この例では売上が予算比91.7%で着地していますが、営業利益は44.0%と大きく未達です。売上の減少以上に粗利率が悪化(予算50%→実績46.8%)していることが原因と読み取れます。このように「どこが悪いのか」を特定できるのが予実管理表の価値です。
⚠️ 注意
予実管理表を作成しても「売上が予算に届かなかった」で終わらせては意味がありません。差異の原因を「客数の減少か」「単価の低下か」「特定の取引先の失注か」まで深掘りし、翌月のアクション(既存客へのアップセル提案、新規営業の強化など)を1つ決めることがPDCAサイクルの要です。
予実差異のアラート基準【判定表】
差異が出たとき、「どの程度ならアクションが必要か」の基準を事前に決めておくと、月次の振り返りがスムーズになります。
| 達成率 |
判定 |
典型的な原因パターン |
具体的アクション |
| 90%以上 | 🟢 順調 | 季節変動の範囲内 | 現状維持。好調要因の分析 |
| 80〜90% | 🟡 要注意 | 特定取引先の減少、単価低下、季節外れの低迷 | 原因の特定→翌月のアクション1つ決定 |
| 80%未満 | 🔴 要対策 | 大口取引先の失注、市場環境の変化、価格競争の激化 | 緊急の経営会議→予算の修正を検討 |
📊 公認会計士の視点
上場企業の管理会計では5%以上の差異を「要分析」とするのが一般的ですが、中小企業では10%を基準にするのが実務的です。あまり厳しい基準を設けると毎月アラートだらけになり、「狼少年効果」でアラートそのものが無視されるようになります。まずは「80%を切ったら経営者に報告」というシンプルなルールで始めましょう。
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部門別損益管理の導入方法
部門別損益管理とは、全社の損益を営業部・製造部・管理部などの部門ごとに分けて把握する手法です。「全社では黒字だが、実はこの部門が足を引っ張っている」という構造的な問題を発見できます。
部門別損益管理の3ステップ
ステップ1として、部門の定義を決めます。中小企業の場合、2〜4部門で十分です。たとえばIT企業なら「開発部門」「営業部門」「管理部門」の3区分が代表的です。ステップ2として、売上と直接費を各部門に紐づけます。売上はどの部門が獲得したか、人件費はどの部門の従業員か、外注費はどの部門の案件かを明確にします。ステップ3として、間接費の配賦方法を決めます。家賃・水光熱費・本社経費など、どの部門にも直接紐づかない費用をどう分けるかがポイントです。
間接費の配賦3方式【比較表】
| 配賦方式 |
計算方法 |
メリット |
デメリット |
適する業種 |
| 人数按分 | 間接費÷全社人数×部門人数 | 計算が簡単。人件費比率が高い業種で合理的 | 設備集約型の部門には不公平 | IT・コンサル・士業 |
| 面積按分 | 家賃÷全社面積×部門面積 | 家賃・光熱費の配賦に合理的 | 面積を使わない部門(外回り営業等)には不向き | 製造業・小売業 |
| 売上按分 | 間接費÷全社売上×部門売上 | 売上貢献度に応じた配賦。わかりやすい | 売上の大きい部門に不利。管理部門に配賦できない | 飲食(多店舗)・小売 |
💡 実務のポイント
配賦方法に悩んで導入が止まる企業が非常に多いです。配賦の精度は80点で十分です。たとえば家賃は面積按分、それ以外の間接費は人数按分と割り切ってしまえば、1時間もかからずに部門別損益が出来上がります。完璧な配賦よりも、毎月安定して数字を出すことの方がはるかに重要です。
KPI設定の方法と業種別ガイド
KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)とは、経営目標の達成度を測定するための定量的な指標です。管理会計では、売上や利益などの財務KPIだけでなく、顧客数・リピート率・従業員定着率などの非財務KPIも合わせて管理します。
KPI設定の3つのルール
1つ目は「KPIは5個以内に絞る」ことです。指標が多すぎると何が重要かわからなくなります。中小企業では3〜5個が適切です。2つ目は「アクションに結びつく指標を選ぶ」ことです。たとえば「売上高」よりも「新規問合せ件数」の方が、営業活動の改善に直結します。3つ目は「測定可能な数値にする」ことです。「顧客満足度を高める」ではなく「リピート率70%以上」のように数値化します。
業種別KPI設定ガイド【一覧表】
| 業種 |
財務KPI(3つ) |
非財務KPI(3つ) |
| 製造業 | 粗利率、製造原価率、在庫回転率 | 不良品率、納期遵守率、稼働率 |
| 小売業 | 坪効率、在庫回転率、客単価 | 来客数、リピート率、従業員1人当たり売上 |
| IT・サービス業 | 人時生産性、プロジェクト利益率、MRR | 解約率、NPS、エンジニア稼働率 |
| 飲食業 | FL比率、客単価、原価率 | 客席回転率、食材廃棄率、口コミ評価 |
| 建設業 | 完成工事総利益率、受注残高、外注比率 | 工期遵守率、安全事故件数、有資格者比率 |
※MRR=月次経常収益、NPS=顧客推奨度、FL比率=Food+Labor比率
年商5,000万円のIT企業のシミュレーション
📐 シミュレーション前提条件
- 年商5,000万円のWebシステム開発会社(従業員8名)
- 2部門体制:開発部門(6名)・管理部門(2名)
- 粗利率目標50%、営業利益率目標10%
| 項目 |
全社予算(年間) |
開発部門 |
管理部門 |
| 売上高 | 50,000,000 | 50,000,000 | — |
| 売上原価(外注費等) | 25,000,000 | 25,000,000 | — |
| 売上総利益 | 25,000,000 | 25,000,000 | — |
| 人件費 | 16,000,000 | 12,000,000 | 4,000,000 |
| 間接費(配賦後) | 4,000,000 | 3,000,000 | 1,000,000 |
| 部門損益 | 5,000,000 | 10,000,000 | ▲5,000,000 |
※間接費は人数按分(開発6名:管理2名=3:1)で配賦。概算値です。
この表から「管理部門は赤字だが、それは間接費を負担しているため。開発部門の部門利益率20%が全社を支えている」という構造が見えます。もし開発部門の外注比率が上がって粗利率が低下すれば、全社の営業利益がゼロに近づく構造リスクもわかります。
予実管理を会計ソフトで効率化する方法
会計ソフトの部門コード設定
部門別損益管理を始めるには、会計ソフトに部門コードを設定し、日々の仕訳入力時に部門を指定する運用が基本です。freeeではタグ機能、マネーフォワードでは部門設定、弥生会計では部門管理機能を使います。一度設定すれば、月次の部門別損益計算書が自動生成されます。
ExcelとAPI連携の活用
会計ソフトから月次試算表のデータをCSVでエクスポートし、Excelの予実管理テンプレートに貼り付けるだけで予実比較が完成します。freeeやマネーフォワードにはAPI連携機能があり、データ転記を自動化することも可能です。会計ソフトの選び方については「会計ソフトの選び方」も参考にしてください。
🧮 シミュレーション
Excelで予実管理を行う場合の作業時間の目安は、初回のテンプレート作成に3〜5時間、毎月のデータ更新と差異分析に1〜2時間です。年商1億円を超えて部門数が3以上になると、Excelでの管理が煩雑になってきます。その段階で予実管理システム(Manageboard、Loglass等)の導入を検討するのが効率的です。
予算管理のよくある失敗パターンと対策
| 失敗パターン |
原因 |
対策 |
| 予算が「絵に描いた餅」になる | 作っただけで毎月の振り返りをしない | 月次ミーティングを定例化。毎月10日に15分 |
| 予算が高すぎて毎月未達 | 経営者の期待値だけで設定 | 前期実績×105〜110%を基本に。折衷型で策定 |
| 予算が低すぎて達成率が常に100%超 | 保守的すぎるボトムアップ予算 | 経営者がストレッチ目標を提示し、現場と擦り合わせ |
| 月次決算が翌月末にしか出ない | 経理体制の遅れ | 記帳代行の活用。翌月10日を月次決算の締め日に |
| 従業員が予算を知らない | 経営者だけで作って共有しない | 部門長には予算を公開し、達成度を四半期で共有 |
記帳代行の活用については「記帳代行の費用相場」で詳しく解説しています。
予算管理を税理士に相談するメリット
月次決算の早期化が実現する
予実管理の前提となる月次決算を翌月10日以内に完成させるには、日々の仕訳入力と月次の決算整理を計画的に進める体制が必要です。税理士の巡回監査を活用すれば、月次決算の品質と速度を同時に高められます。
業界ベンチマークとの比較ができる
税理士事務所は多くの顧問先データを保有しているため、「同業他社の粗利率は何%が平均か」「この販管費比率は高いか低いか」といったベンチマーク情報を提供できます。自社の予算設定がの妥当性を外部基準で検証できる点が大きなメリットです。
予算と税務の連動で節税効果を得られる
予実管理で「今期は利益が予算を大幅に上回りそうだ」とわかった段階で、決算前に設備投資や経費の前倒しなどの節税策を講じることができます。逆に「赤字が見えてきた」場合は、役員報酬の変更時期を検討するなど、税務と経営を連動させた判断が可能になります。
よくある質問(FAQ)
予算管理と予実管理の違いは何ですか?
予算管理は予算の策定から実行・評価・改善までの全体プロセスを指します。予実管理は予算管理の一部で、予算と実績の比較・差異分析に特化した活動です。実務では両者はほぼ同じ意味で使われることが多く、どちらの言葉を使っても問題ありません。
中小企業でも予算管理は必要ですか?
必要です。むしろ経営資源が限られている中小企業ほど、感覚ではなく数字に基づいた判断が重要です。まずは「売上・粗利・固定費」の3項目で月次予算を作成するだけでも、経営の方向性が見えやすくなります。
予実管理はどのくらいの頻度で行うべきですか?
月次が基本です。理想は毎月の月次決算完了後、翌月10日以内に予実比較を行うことです。売上だけなら週次で確認し、損益全体は月次で確認するのが実務的なサイクルです。日次での管理は飲食業など日銭商売を除けばオーバースペックになりがちです。
部門別損益管理を始めるには何人以上の会社が対象ですか?
目安として従業員10名以上、または複数の事業やサービスを持つ企業から導入効果が出始めます。ただし、2〜3人の会社でも「事業A」と「事業B」のように売上の源泉が複数ある場合は、事業別損益として管理する価値があります。
間接費の配賦はどの方法が一番いいですか?
「これが最善」という正解はなく、自社の業態に合った方法を選ぶのが重要です。人件費比率が高いサービス業は人数按分、製造業は面積按分が合理的です。迷った場合は人数按分から始め、運用しながら精度を上げていく方法をおすすめします。
KPIは何個設定すればいいですか?
中小企業では3〜5個が適切です。多すぎると管理が煩雑になり、少なすぎると重要な側面を見落とします。まずは財務KPI2つ(例:粗利率と営業利益率)と非財務KPI1つ(例:新規問合せ件数)の3つから始めるのが実践的です。
Excelでの予実管理はいつまで続けられますか?
部門数が3以下で勘定科目も標準的な範囲であれば、年商1億円程度まではExcelで十分対応できます。部門数が4以上になったり、複数拠点の管理が必要になったりしたタイミングで、予実管理システムの導入を検討するのがよいでしょう。Excelでの管理は手作業が多くなるため、転記ミスや属人化のリスクがある点は認識しておいてください。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 予算管理は「策定→比較→分析→修正」の4プロセス。予実管理は比較・分析に特化した活動
- 予算策定はトップダウン/ボトムアップ/折衷の3方式。中小企業は折衷型がバランスよい
- 初めての予算は「売上目標・粗利率目標・固定費上限」の3つだけで始められる
- 予実差異のアラート基準は達成率80%を目安に。毎月のアクション1つを決めるのが重要
- 部門別損益管理は間接費の配賦がポイント。80点の精度で始めて運用しながら改善する
- KPIは業種に合った3〜5個を設定し、非財務KPIも必ず含める
- 月次ミーティングの定例化(毎月10日・15分)が予実管理を機能させるカギ
予算管理・予実管理は、複雑な仕組みを作ることではなく、「毎月数字を見て、次にやることを1つ決める」というシンプルなサイクルを回すことです。まずは来期の予算を「売上・粗利・固定費」の3項目で月次に落とし込み、翌月10日の振り返りを習慣にしてみてください。
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