【税理士が解説】相続した不動産を売却したときの税金|取得費加算の特例と空き家特例

【税理士が解説】相続した不動産を売却したときの税金|取得費加算の特例と空き家特例
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
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相続した不動産を売却したときの税金|取得費加算の特例と空き家特例

相続した実家や土地を売却したいが税金がいくらかかるか不安な方に向けて、取得費加算の特例と空き家の3,000万円控除の要件・計算方法・有利判定を完全ガイドします。この記事を読めば、相続不動産の売却で使える特例と最適な選択がわかります。

🏆 結論:相続から3年10ヶ月以内の売却で大幅な節税が可能

相続した不動産を売却する場合、「取得費加算の特例」と「空き家の3,000万円控除」の2つの特例が使えます。ただし、この2つは併用不可の選択制です。空き家特例の方が節税効果が大きいケースが多いですが、納付した相続税額が大きい場合は取得費加算の方が有利になることもあります。いずれの特例も期限がありますので、相続後は早めに売却計画を立てることが重要です。

相続不動産を売却したときの税金の基本

相続した不動産を売却した場合、通常の不動産売却と同様に譲渡所得税(所得税・住民税・復興特別所得税)がかかります。ただし、相続不動産には取得費と所有期間の算定に特有のルールがあります。

取得費の引継ぎ|被相続人の購入額がベースになる

相続で取得した不動産の取得費は、被相続人(亡くなった方)がその不動産を購入したときの金額を引き継ぎます。相続時の時価(相続税評価額)ではありません。

たとえば、父が昭和50年に1,000万円で購入した土地を相続し、5,000万円で売却した場合、取得費は1,000万円(建物は減価償却後の金額)です。相続税評価額が3,000万円だったとしても、取得費には使えません。

所有期間の判定|被相続人の取得時期を引き継ぐ

所有期間も被相続人の取得時期から通算します。父が昭和50年に取得した不動産を令和8年に売却した場合、所有期間は50年超となり、長期譲渡所得(税率20.315%)が適用されます。

💡 実務のポイント

相続不動産の売却で最も問題になるのが「取得費がわからない」ケースです。数十年前の売買契約書が見つからない場合、概算取得費(売却額の5%)を使わざるを得ず、多額の譲渡所得税が発生します。売買契約書が見つからない場合の対処法については「不動産の取得費が不明な場合の計算方法」で詳しく解説しています。

参考: 国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」

相続不動産の取得費の決定方法|5つのパターン

相続不動産の取得費は、状況によって異なる方法で決定します。以下の5パターンを確認してください。

パターン 取得費の算定方法 必要な資料
①被相続人の購入額がわかる購入額(建物は減価償却後)をそのまま引継ぎ売買契約書・領収書
②購入額が不明概算取得費=売却額×5%不要(最も不利な方法)
③市街地価格指数で推計取得時の市街地価格指数から逆算市街地価格指数(日本不動産研究所)
④被相続人が買換え特例を使っていたさらに前の旧居の取得費を引継ぎ(低い)被相続人の確定申告書・税務署の引継整理票
⑤贈与で取得した不動産を相続贈与者(さらに前の所有者)の取得費を引継ぎ贈与者の売買契約書

⚠️ 注意

被相続人が過去に買換え特例(措法36条の2)を使っていた場合、新居の取得費は実際の購入額ではなく、旧居の取得費を引き継いだ金額になっています。相続人はその事実を知らないことが多く、売却時に想定外の高額な譲渡所得税が発生するケースがあります。被相続人の過去の確定申告書を必ず確認してください。

特例①:取得費加算の特例|相続税の一部を取得費に上乗せ

取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)は、相続税を納付した人が相続財産を売却した場合に、納付した相続税の一部を取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで、譲渡所得が減り、税額が軽減されます。

適用要件(3つ)

No. 要件 補足
1相続・遺贈で財産を取得した人であること相続人以外の受遺者も含む
2その財産について相続税が課されていること基礎控除以下で相続税がゼロなら適用不可
3相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売却相続開始から3年10ヶ月以内

加算できる相続税額の計算式

取得費に加算できる金額は、以下の算式で計算します。

加算額 = その人の相続税額 ×(売却した資産の相続税評価額 ÷ その人が取得した全相続財産の課税価格)

🧮 計算例

相続税額:1,000万円/売却した不動産の相続税評価額:4,000万円/取得した全相続財産の課税価格:8,000万円
→ 加算額 = 1,000万円 ×(4,000万円 ÷ 8,000万円)= 500万円
この500万円を通常の取得費に上乗せして譲渡所得を計算します。

参考: 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

特例②:空き家の3,000万円特別控除|要件チェックリスト

空き家の3,000万円控除(租税特別措置法第35条第3項)は、相続した被相続人の居住用家屋(空き家)またはその敷地を売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。令和9年12月31日までの売却が対象です。

適用要件チェックリスト(10項目)

区分 No. チェック項目
人の要件1相続または遺贈により取得した相続人であること
2被相続人が相続開始の直前に一人で住んでいた(老人ホーム入所の場合は一定の要件あり)
建物の要件3昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)
4区分所有建物(マンション)でないこと
5相続から売却まで事業・貸付・居住に供されていないこと(空き家のまま)
6家屋付きで売る場合は耐震基準に適合すること(取壊して更地で売る場合は不要)
売却条件7相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
8売却代金が1億円以下(他の相続人の売却分も合算)
9売主と買主が親子・夫婦等の特別関係でないこと
10取得費加算の特例など他の特例を受けていないこと

令和6年1月以降の改正ポイント

令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以降の譲渡には以下の変更があります。

項目 改正前 改正後(令和6年1月1日〜)
耐震改修・取壊しのタイミング売却前に完了が必要売却後、翌年2月15日までに買主が行ってもOK
相続人が3人以上の場合の控除額1人あたり3,000万円1人あたり2,000万円に引下げ

💡 実務のポイント

空き家特例で最もハードルが高いのが「昭和56年5月31日以前に建築された家屋」という要件です。昭和57年以降の建物は対象外のため、空き家特例は使えません。この場合は取得費加算の特例を検討することになります。また、マンション(区分所有建物)も対象外です。

参考: 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

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取得費加算vs空き家特例|有利判定シミュレーション

取得費加算の特例と空き家の3,000万円控除は併用できません(選択制)。どちらが有利かは、「納付した相続税額の大きさ」と「不動産の譲渡所得の額」によって決まります。

有利判定の考え方

シンプルに言えば、取得費加算で増える取得費の金額と、空き家特例の控除額3,000万円を比較します。取得費加算額が3,000万円を超える場合は取得費加算が有利、3,000万円以下なら空き家特例が有利です。

📐 シミュレーション前提条件

  • 被相続人の居住用家屋(旧耐震基準)を相続し、取壊して更地で売却
  • 空き家特例・取得費加算の両方の要件を満たす
  • 取得費は概算取得費(売却額の5%)を使用
  • 長期譲渡所得(税率20.315%)
項目 ケース1 ケース2 ケース3
売却額3,000万円5,000万円8,000万円
取得費(5%)150万円250万円400万円
譲渡所得(特例なし)2,850万円4,750万円7,600万円
納付した相続税額500万円2,000万円5,000万円
取得費加算額(仮に50%配分)250万円1,000万円2,500万円
空き家特例の税額0円 ✓約355万円 ✓約934万円
取得費加算の税額約528万円約762万円約836万円 ✓

※概算値です。取得費加算額の配分は実際の相続財産構成により異なります。✓は有利な方を示します。

ケース1・2では空き家特例が有利ですが、ケース3のように相続税額が大きく、不動産の相続税評価額が全体に占める割合が高い場合は、取得費加算の方が有利になります。

相続から売却までのタイムライン|期限管理が重要

相続不動産の売却では、特例の適用期限が複数あるため、スケジュール管理が極めて重要です。

時期 手続き 関連する特例の期限
相続開始死亡届の提出・遺産分割協議の開始特例の期限の起算点
〜3ヶ月以内相続放棄の検討・判断
〜10ヶ月以内相続税の申告・納付。相続登記相続税額が確定(取得費加算の計算基礎)
〜3年目の12月31日不動産の売却空き家特例の期限
〜3年10ヶ月以内不動産の売却取得費加算の特例の期限
売却の翌年3月15日確定申告(譲渡所得+特例の適用申請)確定申告が必須(特例適用の条件)

⚠️ 注意

空き家特例の期限は「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日」、取得費加算の特例は「相続税の申告期限の翌日以後3年以内」です。微妙にタイミングが異なるため、どちらの期限が先に来るかを個別に確認してください。相続登記の義務化(令和6年4月施行)にも対応が必要です。

他の特例との併用可否一覧

相続不動産の売却で検討する各特例の併用可否を整理しておきましょう。

特例の組合せ 併用 備考
空き家特例 × 取得費加算×選択制。有利な方を選ぶ
空き家特例 × 小規模宅地等の特例相続税と所得税の異なる税目のため併用可能
空き家特例 × 居住用3,000万円控除同一年内の合計控除額は3,000万円が上限
空き家特例 × 住宅ローン控除併用可能
取得費加算 × 居住用3,000万円控除自分が住んでいた場合は両方使える
取得費加算 × 買換え特例(課税繰延べ)併用可能

マイホームの3,000万円控除については「マイホーム売却の3,000万円特別控除|適用要件と注意点」をご確認ください。

老人ホーム入所と空き家特例の関係

被相続人が亡くなる前に老人ホームに入所していた場合でも、一定の要件を満たせば空き家特例を適用できます。平成31年度税制改正で対象が拡大されました。

老人ホーム入所の場合の追加要件

No. 追加要件
1入所した施設が要介護認定等を受けて入所した老人ホーム等であること
2入所後も家屋が被相続人の物品保管等に使用されていたこと(「一定使用」)
3入所後に家屋を他の人に貸し付けていないこと

💡 実務のポイント

「一定使用」とは、家財道具の保管場所として使っていたケースも含まれます。必ずしも頻繁に一時帰宅している必要はありません。ただし、老人ホームではなく、親族の家や一般の賃貸住宅に転居して亡くなった場合は空き家特例の対象外になります。

確定申告の手続きと必要書類

空き家特例の必要書類

書類 入手先
確定申告書(分離課税用)税務署 / e-Tax
譲渡所得の内訳書国税庁HP
被相続人居住用家屋等確認書家屋所在地の市区町村
登記事項証明書(建物・土地)法務局
売買契約書の写し(1億円以下の確認)手元保管
耐震基準適合証明書(家屋付き売却の場合)建築士等

取得費加算の必要書類

取得費加算の特例を受ける場合は、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を作成し、確定申告書に添付します。相続税の申告書の控えと、売却に関する書類(売買契約書・登記事項証明書等)が必要です。

確定申告の基本的な流れについては「確定申告の基礎知識」で解説しています。

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン 問題点 対策
①空き家を貸してしまった相続後に第三者に貸すと空き家特例の要件を満たさない売却まで空き家の状態を維持する
②期限切れ3年を経過する日の属する年の12月31日を過ぎてから売却相続後早期に売却計画を立てる
③確認書の取得忘れ市区町村の「被相続人居住用家屋等確認書」なしでは適用不可売却前に市区町村に申請。発行に数週間かかる場合あり
④取得費加算と空き家特例を併用してしまう税務調査で併用不可を指摘され、修正申告+加算税有利判定を行い、どちらか一方を選択する
⑤相続登記が間に合わない名義変更が済んでいないと売却契約ができない遺産分割協議と相続登記を並行で進める

譲渡所得の基本的な計算方法については「譲渡所得とは?計算方法・税率・確定申告のやり方を完全解説」で体系的に解説しています。不動産売却時の税金の全体像については「不動産売却時の税金|譲渡所得の計算方法と使える特例一覧」もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

取得費加算の特例と空き家の3,000万円控除は併用できますか?
併用はできません。同じ不動産について、どちらか一方を選択する必要があります。一般的には空き家特例の方が節税効果が大きいケースが多いですが、納付した相続税額が大きい場合は取得費加算の方が有利になることもあるため、事前にシミュレーションを行ってください。
相続税がゼロ(基礎控除以下)の場合、取得費加算の特例は使えますか?
使えません。取得費加算の特例は「相続税が課されていること」が要件のため、基礎控除以下で相続税がゼロの場合は適用対象外です。この場合は空き家特例の要件を確認してください。
昭和57年以降に建てられた実家を相続した場合、空き家特例は使えますか?
使えません。空き家特例の対象は「昭和56年5月31日以前に建築された家屋」に限られます。この場合は取得費加算の特例(相続税が課されている場合)の適用を検討してください。
被相続人が老人ホームに入所していた場合も空き家特例は使えますか?
一定の要件を満たせば使えます。要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所し、入所後も家屋が被相続人の物品保管等に使用されていた(「一定使用」)場合で、他の人に貸し付けていない場合が対象です。ただし、老人ホームではなく親族の家に転居した場合は対象外です。
相続した不動産の取得費がわからない場合はどうすればよいですか?
売買契約書が見つからない場合、概算取得費(売却額の5%)を使う方法が最も簡単ですが、税額が高くなります。市街地価格指数を使った推計や、登記簿の抵当権設定額から購入額を推定する方法もあります。詳しくは税理士にご相談ください。
空き家特例の「売却代金1億円以下」の判定で、他の相続人の売却分も合算されますか?
はい、合算されます。同じ被相続人から相続した家屋・敷地について、相続開始の日から最初の譲渡から3年を経過する日の属する年の12月31日までの全相続人の売却代金の合計が1億円以下であることが要件です。他の相続人が先に一部を売却している場合は、その金額も含めて判定します。
空き家特例と小規模宅地等の特例は併用できますか?
併用は制度上可能です。空き家特例は所得税の特例、小規模宅地等の特例は相続税の特例であり、異なる税目の制度のためです。ただし、小規模宅地等の特例は「配偶者」か「同居親族」が取得する場合の要件が厳しいため、被相続人が一人暮らしだった場合は「家なき子特例」に該当するかどうかの確認が必要です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 相続不動産の取得費は被相続人の購入額を引き継ぐ。相続税評価額ではない
  • 取得費加算の特例は、納付した相続税の一部を取得費に上乗せできる制度。期限は相続から3年10ヶ月以内
  • 空き家の3,000万円控除は、旧耐震基準の被相続人居住用家屋が対象。期限は相続から3年目の12月31日まで
  • 取得費加算と空き家特例は併用不可(選択制)。有利判定のシミュレーションが必要
  • 空き家特例の方が有利なケースが多いが、相続税額が大きい場合は取得費加算が有利になることもある
  • 相続後に空き家を貸し付けると空き家特例が使えなくなるため、売却まで空き家の状態を維持する
  • 確定申告が必須。市区町村の確認書など事前準備が必要な書類がある

相続不動産の売却は、相続税と所得税の両方が絡むため判断が複雑になりがちです。特例の選択を誤ると数百万円の差が生じることもあるため、相続と不動産の両方に詳しい税理士への相談をおすすめします。

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