【税理士×公認会計士が解説】税制適格ストックオプションの要件と令和6年改正|信託型SOの給与課税問題も解説

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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税制適格ストックオプションの要件と令和6年改正|信託型SOの給与課税問題も解説
「ストックオプションを発行したいけれど、税制適格の要件がよくわからない」「信託型SOは結局どうなったの?」とお悩みのスタートアップ経営者に向けて、税制適格SOの9つの要件・令和5年/6年改正の変更点・信託型SOの課税問題をわかりやすく解説します。この記事を読めば、自社に最適なSO設計の方向性が見えてきます。
🏆 結論:スタートアップなら税制適格SOが最有力。信託型SOは実質的に選択肢から外れた
ストックオプション(SO)には税制適格・税制非適格・有償・信託型の4類型がありますが、スタートアップの従業員向けインセンティブとしては「税制適格SO」が最有力です。権利行使時に課税されず、株式売却時に譲渡所得として一律約20%で課税されるため、受け手の税負担が最も軽くなります。令和6年改正で行使限度額が最大3,600万円に引き上げられ、保管委託要件も緩和されたことで、使い勝手が大幅に向上しました。一方、信託型SOは2023年5月に国税庁が「行使時に給与課税」との見解を示したため、従来想定されていた税メリットはなくなりました。
ストックオプションの4類型と課税の違い
4類型の比較表
ストックオプション(新株予約権)とは、あらかじめ定めた価格(行使価額)で自社株式を購入できる権利のことです。まず、SOの4類型の違いを把握しましょう。
| 比較項目 |
税制適格SO |
税制非適格SO |
有償SO |
信託型SO |
| 発行時の払込 | なし(無償) | なし(無償) | あり(時価) | 信託が時価で購入 |
| 行使時の課税 | なし | 給与所得(最大55%) | なし(原則) | 給与所得(最大55%) |
| 売却時の課税 | 譲渡所得(約20%) | 譲渡所得(約20%) | 譲渡所得(約20%) | 譲渡所得(約20%) |
| 課税回数 | 1回(売却時のみ) | 2回(行使時+売却時) | 1回(売却時のみ) | 2回(行使時+売却時) |
| 受け手の負担感 | ◎ 最も軽い | △ 行使時に高い税率 | ○ 初期投資が必要 | △ 行使時に高い税率 |
| 適格要件の縛り | 9要件を全て充足 | なし | なし | なし(ただし実質非適格) |
※信託型SOの課税関係は、2023年5月の国税庁見解に基づきます。従来は「行使時に課税されない」との解釈が一般的でした。
💡 実務のポイント
スタートアップのSO設計を支援する中で最も多い質問が「税制適格と非適格でどのくらい税金が違うのか?」です。例えば、行使時の株価が1,000万円・行使価額が100万円の場合、税制適格SOなら売却時まで課税なし。非適格SOだと行使時に900万円に対して給与所得課税(最大55%で約495万円)が発生し、手元にキャッシュがない状態で納税が求められます。
税制適格ストックオプションの9つの要件【令和6年改正対応】
9要件の一覧表(改正前後対比)
税制適格SOの要件は、租税特別措置法第29条の2第1項に定められています。令和5年・令和6年の税制改正で一部要件が緩和されました。以下に改正前後を対比します。
| 要件 |
内容 |
改正 |
| ①付与対象者 | 発行会社・子会社の取締役・執行役・使用人。監査役・大口株主(1/3超保有)は不可 | R6改正で社外高度人材の範囲拡大 |
| ②発行形態 | 無償発行(新株予約権の払込不要) | 変更なし |
| ③権利行使価額 | 契約締結時の株価以上に設定 | R5改正でセーフハーバー導入 |
| ④行使限度額 | 年間の権利行使価額の上限(個人単位で合算) | R6改正で最大3,600万円に引上げ |
| ⑤権利行使期間 | 付与決議日後2年〜10年 | R5改正で設立5年未満は最長15年に延長 |
| ⑥譲渡制限 | 新株予約権の譲渡禁止 | 変更なし |
| ⑦発行株式の種類 | 発行済株式の過半数を占める株式と同種の株式 | 変更なし |
| ⑧大口株主の除外 | 付与時に発行済株式の1/3超を保有する個人・その親族は対象外 | 変更なし |
| ⑨保管委託 | 行使後の株式を証券会社等に保管委託(または発行会社自身で管理) | R6改正で自社管理が可能に |
参考: 経済産業省「ストックオプション税制」
⚠️ 注意:9要件のうち1つでも欠けると非適格扱い
税制適格SOの要件は「全てを同時に満たす」必要があります。1つでも欠けると税制非適格SOとなり、行使時に給与所得として課税されます。実務で最も多いミスは、行使価額を契約締結時の時価より低く設定してしまうケースと、行使限度額を超えて権利行使するケースです。
令和6年改正①:行使限度額の引上げ
設立年数別の行使限度額一覧
令和6年改正の最大のポイントは、年間の権利行使価額の上限が引き上げられたことです。従来は一律1,200万円でしたが、設立年数に応じて最大3,600万円まで引き上げられました。
| 会社の区分 |
年間行使限度額 |
改正前 |
| 設立5年未満の非上場企業 | 2,400万円 | 1,200万円 |
| 設立5年以上20年未満の非上場企業 | 3,600万円 | 1,200万円 |
| 上場後5年未満の企業 | 3,600万円 | 1,200万円 |
| 上記以外(上場後5年以上 等) | 1,200万円(変更なし) | 1,200万円 |
この改正により、特にレイターステージのスタートアップでは、株価が上がった後でもSOの行使がしやすくなりました。例えば、行使価額が1株500円で4,800株の場合、年間行使価額は240万円。以前はこの規模なら問題ありませんでしたが、株価が上昇して行使価額が1株3,000円のSOを4,000株保有している場合は年間1,200万円に達するため、分割行使が必要でした。改正後は一括行使が可能です。
📊 公認会計士の視点
行使限度額は「個人単位」で合算されます。つまり、A社とB社の両方からSOを付与されている場合、A社のSOで1,200万円行使し、B社のSOで1,200万円行使すると、合計2,400万円になります。複数のスタートアップの社外取締役やアドバイザーを兼務している場合は、合算管理が必要です。
令和6年改正②:保管委託要件の緩和(自社管理スキーム)
自社管理が可能になった背景
従来、税制適格SOの行使により取得した株式は、証券会社等に保管を委託する必要がありました。しかし、非上場企業の株式は証券会社が保管を受け付けないケースが多く、実質的に「上場後でないと行使できない」という制約がありました。
令和6年改正により、証券会社等への保管委託に加えて、発行会社自身が株式を管理するスキーム(区分管理帳簿の作成・備え置き)が認められました。これにより、M&AによるEXIT時にも上場前に権利行使が可能となり、IPOとM&Aの選択に関する中立性が確保されました。
💡 実務のポイント:自社管理の具体的な方法
経済産業省のウェブサイトで、自社管理スキームの詳細と区分管理帳簿のフォーマット(Excel)が公表されています。帳簿には、SO付与対象者ごとの行使日・行使株数・取得株式数を記録し、本社に備え置く必要があります。この帳簿の記載に不備があると、税制適格性が否認される可能性があるため、正確な管理が不可欠です。
令和6年改正③:社外高度人材への付与拡大
付与対象者の拡充内容
税制適格SOの付与対象者は原則として「自社(子会社を含む)の取締役・執行役・使用人」に限定されますが、中小企業等経営強化法に基づく事業計画の認定を受けることで、「社外高度人材」にも税制適格SOを付与できます。
令和6年改正では、この社外高度人材の範囲が拡充されました。主な変更点は以下のとおりです。
まず、認定対象会社の要件が緩和されました。従来は設立10年未満の非上場企業に限定されていましたが、改正後は上場企業も一定の要件を満たせば対象になります。
次に、社外高度人材の範囲に「非上場企業の役員経験者」「大学教授・准教授」が新たに追加されました。また、国家資格保有者に求められていた実務経験年数の要件が削除されています。これにより、スタートアップが先輩起業家やアカデミアの人材をアドバイザーとして迎え入れる際に、SOによるインセンティブ付与がしやすくなりました。
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令和5年改正:権利行使期間の延長と行使価額のセーフハーバー
行使期間15年への延長(設立5年未満の非上場企業)
令和5年改正で、設立5年未満の非上場企業が付与するSOについて、権利行使期間が従来の「付与決議後2年〜10年」から「付与決議後2年〜15年」に延長されました。
この改正の背景には、近年のスタートアップがIPOまでに要する期間の長期化があります。IPO前にSOの行使期間が満了してしまい、従業員がインセンティブを受け取れないケースが増えていたため、最長15年に延長されました。
行使価額のセーフハーバールール
非上場企業の場合、SOの行使価額を「契約締結時の時価以上」に設定する必要がありますが、非上場株式の時価の算定には不確実性があります。令和5年改正で導入されたセーフハーバールールにより、財産評価基本通達に準じた方法で株価を算定すれば、税制適格の要件を満たすとされました。
具体的には、純資産価額方式や類似業種比準価額方式で算定した価額をSOの行使価額に設定すれば、「時価以上」の要件を満たしていると扱われます。これにより、高額な第三者による株価算定を毎回行わなくても、税制適格SOの発行が可能になりました。
信託型ストックオプションの給与課税問題
信託型SOのしくみと従来の課税想定
信託型SOとは、発行会社の創業者等が信託会社に金銭を信託し、信託会社がSOを時価で購入して管理するスキームです。将来、貢献度に応じて従業員をSOの受益者に指定し、SOを付与します。
従来の想定では、信託を介していることや有償でSOを取得していることから、「行使時には課税されず、株式売却時に譲渡所得として約20%で課税される」と考えられていました。
国税庁の見解(2023年5月):行使時に給与課税
2023年5月29日に開催された国税庁と経済産業省の合同説明会で、信託型SOについて「権利行使時に給与所得として課税される」との見解が示されました。国税庁の論拠は、実質的には会社が役職員にSOを付与しているのと同じであり、役職員に金銭的な負担がないことから、行使時の経済的利益は「労務の対価」に当たるというものです。
📢 信託型SOの課税関係の変更
2023年5月の国税庁見解により、信託型SOは行使時に給与所得として課税(最大約55%)されることが明確化されました。すでに権利行使済みの場合は、過去5年分について遡及して源泉徴収が必要となる可能性があります。約800社が信託型SOを導入していたとされ、各社が対応に追われています。
税制適格SOと信託型SOの課税比較
📐 課税シミュレーション前提条件
- 行使価額:100万円、行使時の株価:1,000万円、売却時の株価:1,500万円
- 行使時の含み益:900万円、売却時の譲渡益:500万円
- 所得税率は給与所得の最高税率(所得税45%+住民税10%=55%)で試算
| タイミング |
税制適格SO |
信託型SO(国税庁見解) |
| 行使時の税金 | 0円 | 約495万円(900万円×55%) |
| 売却時の税金 | 約284万円(1,400万円×20.315%) | 約101万円(500万円×20.315%) |
| 税金合計 | 約284万円 | 約596万円 |
| 手取り額 | 約1,116万円 | 約804万円 |
※概算値です。復興特別所得税、基礎控除等は考慮していません。
同じ利益でも、税制適格SOと信託型SOでは手取り額に約312万円の差が生じます。信託型SOの従来の税メリットが消失した現在、スタートアップにとっては税制適格SOが最も合理的な選択肢です。
スタートアップのステージ別SO設計ガイド
ステージ別の最適なSO設計
| ステージ |
推奨SO設計 |
行使限度額 |
留意点 |
| シード〜プレシリーズA | 税制適格SO(行使期間15年) | 2,400万円/年 | 設立5年未満要件の確認。行使価額は純資産価額方式で算定 |
| シリーズA〜B | 税制適格SO+有償SO併用 | 3,600万円/年 | VCの株価と行使価額の乖離に注意。種類株と普通株の評価を分離 |
| レイター〜プレIPO | 税制適格SO(自社管理活用) | 3,600万円/年 | M&A EXIT時の自社管理スキーム設計。既存SOの限度額変更検討 |
💡 実務のポイント:SO設計は資本政策全体の中で考える
SOの付与割合は、一般的にIPO時点で発行済株式の10〜15%程度が目安とされます。ただし、VCとの交渉でSOプール(将来の付与枠)の上限が決まるケースもあるため、シード段階から資本政策テーブルにSOの発行計画を組み込んでおくことが重要です。設立時の届出や資本金設計については「スタートアップ設立時の税務届出一覧」で解説しています。
税制適格SOの実務上の注意点
大口株主要件の判定タイミング
発行済株式の1/3超を保有する個人(大口株主)とその親族は、税制適格SOの付与対象外です。判定タイミングは「付与決議日現在」です。スタートアップの創業者は設立時に100%の株式を保有していることが多いため、VCからの出資により持分が1/3以下に希薄化するまでは、創業者自身には税制適格SOを付与できません。
設立年数の判定基準日
行使限度額の区分(5年未満/5年以上20年未満等)を判定する基準日は「契約締結の日」です。設立日から5年の応当日が近い場合は、契約締結を急ぐ必要があります。5年目の応当日を過ぎてから契約を締結すると、行使限度額が変わる可能性があります。
法定調書の提出義務
税制適格SOを発行した会社は、SOの行使があった場合、翌年1月31日までに「特定新株予約権の行使に関する調書」を管轄税務署に提出する義務があります。この法定調書の提出漏れがあると、税務調査で指摘される可能性があるため、忘れずに対応してください。
よくある質問(FAQ)
税制適格SOの要件を1つでも満たさなかった場合、どうなりますか?
税制非適格SOとして扱われ、権利行使時に「行使時の株価 − 行使価額」が給与所得として課税されます。税率は累進課税で最大約55%です。要件を満たしていない場合でも、SOの権利自体は有効ですが、税務上の優遇を受けられません。
監査役にはストックオプションを付与できませんか?
税制適格SOの付与はできません(租税特別措置法第29条の2第1項の対象から監査役は除外)。ただし、税制非適格SOや有償SOは付与可能です。その場合、行使時に給与所得課税が発生します。
令和6年改正の経過措置はいつまででしたか?
令和6年3月31日以前に締結された契約について、令和6年12月31日までに行使限度額や保管委託要件に関する契約変更を行えば、改正後の要件が適用される経過措置がありました。この経過措置は2024年12月31日で終了しています。
信託型SOをすでに導入している場合、どう対応すべきですか?
国税庁の見解に基づき、行使時に給与所得課税が発生することを前提に対応する必要があります。選択肢は、①行使を予定通り行い給与課税を受け入れる、②行使せずに新たな税制適格SOに切り替える、の2つです。すでに行使済みの場合は、過去5年分の源泉徴収義務が発生する可能性があります。顧問税理士・弁護士と協議のうえ対応してください。
有償SOは行使時に課税されないのですか?
有償SOは、付与対象者がSO発行時にその時価を払い込んでいるため、原則として行使時には課税されません。ただし、有償SOの会計処理(費用計上の要否)については、企業会計基準委員会で議論が続いているため、最新の会計基準を確認してください。また、税制適格SOと異なり、受け手が初期投資を負担する必要があります。
外国人従業員に税制適格SOを付与できますか?
はい、付与時点で自社(子会社含む)の取締役・執行役・使用人であれば、国籍に関係なく付与可能です。ただし、外国人従業員が母国に帰国した後にSOを行使した場合、二重課税の問題が生じる可能性があります。租税条約の適用を含めて、国際税務に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
SOの設計・発行にはどのくらいの費用がかかりますか?
税制適格SOの発行に必要な費用は、株価算定(50万〜100万円程度)、法律事務所による契約書作成(30万〜80万円程度)、登記費用(数万円〜)が一般的です。合計で100万〜200万円程度を見込んでおくとよいでしょう。セーフハーバールールを活用すれば、外部の株価算定費用を抑えられる可能性があります。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 税制適格SOは行使時の課税がなく、売却時に譲渡所得(約20%)で課税される最も有利な設計
- 令和6年改正で行使限度額が最大3,600万円に引上げ。設立年数に応じて3段階
- 保管委託要件が緩和され、発行会社自身による株式管理が可能に(M&A EXIT対応)
- 社外高度人材の範囲が拡大。非上場企業役員経験者・大学教授等も対象に
- 信託型SOは2023年5月の国税庁見解で「行使時に給与課税」が明確化。実質的な税メリットは消失
- スタートアップは税制適格SOを軸にSO設計を行い、資本政策全体の中で発行計画を策定すべき
ストックオプションの税制は複雑で、1つの要件の見落としが大きな税負担につながります。特に、令和5年・6年の相次ぐ改正で要件が変更されているため、過去の情報をそのまま適用すると要件を満たさないリスクがあります。SO発行を検討する際は、最新の税制に精通した税理士・公認会計士に相談することを強くおすすめします。なお、スタートアップの法人化タイミングや届出全般については「フリーランスの確定申告ガイド」も参考になります。
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