【税理士×公認会計士が解説】エンジェル税制の3つの優遇措置|投資額控除・譲渡益控除・プレシード特例を使い分ける

【税理士×公認会計士が解説】エンジェル税制の3つの優遇措置|投資額控除・譲渡益控除・プレシード特例を使い分ける
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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エンジェル税制の3つの優遇措置|投資額控除・譲渡益控除・プレシード特例を使い分ける

「エンジェル税制って何が変わったの?」「投資家として使える優遇措置を知りたい」「スタートアップ側として確認申請はどうすればいい?」とお悩みの方に向けて、エンジェル税制の4つの優遇措置を投資家・スタートアップ双方の視点で完全ガイドします。この記事を読めば、どの措置を選ぶべきか判断できます。

🏆 結論:エンジェル税制は「投資家の所得タイプ」と「投資先の設立年数」で最適な措置が決まる

エンジェル税制には、優遇措置A(所得控除型)・優遇措置B(譲渡益控除型)・プレシード・シード特例(20億円まで非課税)・起業特例(自己起業向け)の4つがあります。給与所得が中心の投資家は「優遇措置A」、株式譲渡益がある投資家は「優遇措置Bまたはプレシード特例」が有利です。特にプレシード・シード特例は、設立5年未満の企業への投資で売却益が20億円まで非課税になる強力な制度です。令和7年改正で繰戻し還付制度が創設され、投資の翌年末までに再投資すれば前年の譲渡益から控除できるようになりました。

エンジェル税制とは?制度の全体像

エンジェル税制の目的としくみ

エンジェル税制とは、スタートアップ企業への投資を行った個人投資家に対して、所得税の優遇措置を提供する制度です。1997年に創設され、その後の改正で段階的に拡充されてきました。租税特別措置法第37条の13(優遇措置A)および第37条の13の2(優遇措置B・プレシード特例)が法的根拠です。

個人投資家は「投資した年」と「株式を売却した年」の2つのタイミングで優遇措置を受けることができます。投資した年には投資額に応じた控除を受け、売却時に損失が出た場合は他の株式譲渡益と通算(翌年以降3年間の繰越控除も可能)できます。

💡 実務のポイント

エンジェル税制の相談を受ける中で最も多い誤解は「エンジェル税制を使えば投資額が全額戻ってくる」というものです。エンジェル税制は「節税」の制度であり、投資リスクそのものを軽減するものではありません。投資先が倒産すれば元本は失われます。あくまで税負担を軽減することで、投資へのハードルを下げる制度です。

4つの優遇措置の比較表【一覧】

投資時に受けられる優遇措置

比較項目 優遇措置A 優遇措置B プレシード特例 起業特例
控除方法総所得金額から控除(所得控除)株式譲渡益から控除株式譲渡益から控除株式譲渡益から控除
控除額の上限総所得×40%または800万円の低い方−2,000円投資額全額(上限なし)投資額全額(上限なし)出資額全額(上限なし)
売却時の扱い課税繰延(取得価額を圧縮)課税繰延(取得価額を圧縮)20億円まで非課税20億円まで非課税
対象企業の設立年数5年未満10年未満5年未満1年未満(自己起業)
外部資本要件1/6以上1/6以上1/20以上
法的根拠措法37条の13措法37条の13の2措法37条の13の2措法37条の13の3

※優遇措置AとB(またはプレシード特例)は選択適用です。同一投資について両方を併用することはできません。

注目すべきは「売却時の扱い」の違いです。優遇措置AとBは「課税繰延」であり、投資時に受けた控除額分だけ株式の取得価額が減額されます。将来株式を売却して利益が出た場合、その分だけ譲渡益が増加するため、最終的には課税されます。一方、プレシード特例と起業特例は「20億円まで非課税」であり、取得価額の圧縮が不要です。これは大きな違いです。

優遇措置Aの詳細|総所得金額から控除

優遇措置Aの計算方法

優遇措置Aは、スタートアップへの投資額から2,000円を差し引いた金額を、その年の総所得金額等から控除する「所得控除」型の措置です。給与所得や事業所得がある個人投資家に有利な措置です。

控除額の上限は「総所得金額等×40%」と「800万円」のいずれか低い方です。例えば、総所得が1,500万円の場合、上限は600万円(1,500万円×40%)となります。総所得が2,500万円なら上限は800万円です。

📐 優遇措置Aの節税シミュレーション

  • 給与所得1,200万円(課税所得900万円程度)の会社員が300万円投資した場合
  • 控除額 = 300万円 − 2,000円 ≒ 約300万円
  • 所得税の限界税率33%+住民税10% = 43%で計算
  • 節税効果 ≒ 300万円 × 43% = 約129万円

※概算値です。各種控除・復興特別所得税は考慮していません。実際の節税額は個別の状況により異なります。

優遇措置Aの注意点:課税繰延の落とし穴

優遇措置Aを適用した場合、取得した株式の取得価額が控除額分だけ減額されます(取得価額の調整)。将来株式を売却して利益が出ると、取得価額が低い分だけ譲渡益が大きくなり、その分課税されます。

つまり、投資が成功して大きな売却益が出た場合、投資時に受けた控除の恩恵は一部相殺されます。ただし、投資時と売却時では税率が異なる(投資時は所得税の累進税率、売却時は譲渡所得の約20%)ため、高所得者ほどメリットが大きくなります。

優遇措置Bの詳細|株式譲渡益から控除

優遇措置Bの計算方法

優遇措置Bは、投資額全額をその年の株式譲渡益から控除できる措置です。株式の売買で利益が出ている投資家に適した措置です。控除額に上限はありません。

対象企業の要件は優遇措置Aより緩く、設立10年未満の企業が対象です。ただし、その年に株式譲渡益がなければ控除できない(控除しきれない分は切り捨て)点に注意が必要です。

📐 優遇措置Bの節税シミュレーション

  • その年に株式売却益1,000万円がある投資家が500万円投資した場合
  • 控除額 = 500万円全額を譲渡益から控除
  • 課税される譲渡益 = 1,000万円 − 500万円 = 500万円
  • 節税効果 = 500万円 × 20.315% ≒ 約101万円

プレシード・シード特例の詳細|20億円まで非課税

プレシード特例が「最強の措置」と言われる理由

プレシード・シード特例は、2023年4月1日に創設された措置です。優遇措置Bと同様に投資額を株式譲渡益から控除できますが、最大の違いは「売却時の取得価額の調整が不要」(20億円まで非課税)という点です。

優遇措置A・Bでは、投資時に受けた控除額分だけ取得価額が減額され、将来の売却益が増加します(課税繰延)。しかしプレシード特例では、この取得価額の圧縮が不要のため、投資時に受けた控除の恩恵がそのまま残ります。これが「最強の措置」と言われるゆえんです。

プレシード特例の企業要件

プレシード特例の対象となるスタートアップ企業は、通常のエンジェル税制の要件に加えて「営業損益が0円未満」(赤字企業)であることが求められます。設立5年未満で赤字のスタートアップは、まさにこの特例のターゲットです。

また、外部資本比率の要件が通常の「1/6以上」から「1/20以上」に緩和されており、創業間もない企業でも適用を受けやすくなっています。

📊 公認会計士の視点

プレシード特例は投資家にとって圧倒的に有利な制度ですが、スタートアップ側には確認申請の手間がかかります。都道府県への確認申請書の作成、確認書の交付待ち、投資家への送付と、実務上は1〜2ヶ月を要します。資金調達のスケジュールに余裕を持たせることが重要です。

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起業特例|自ら起業する場合の非課税措置

起業特例のしくみ

起業特例は、個人が保有株式を売却した譲渡益を元手に自ら起業した場合、出資額を設立年の株式譲渡益から控除し、20億円を上限として非課税にする措置です。連続起業家(シリアルアントレプレナー)を後押しする制度として、2023年4月1日に創設されました。

適用要件は、会社成立の日に個人要件を満たし、設立した年の12月31日時点で企業要件(設立1年未満の中小企業者)を満たすことです。個人要件には、起業した会社の代表者であること、株式の過半数を保有していることなどが含まれます。

💡 実務のポイント:起業特例は「起業前の計画」が鍵

起業特例を使うには、株式を売却した年内に会社を設立する必要がありました。IPOやM&Aで株式を売却してから同一年内に起業するのは時間的に厳しいケースもありましたが、令和7年改正で繰戻し還付制度が創設されたことにより、翌年末までの出資でも前年の譲渡益から控除できるようになり、計画の余裕が広がりました。

投資家の所得タイプ別|最適な措置の選び方

判断フロー

どの措置を選ぶべきかは、投資家の所得構成と投資先企業のステージで決まります。以下の判断フローで最適解を見つけてください。

投資家のタイプ その年の株式譲渡益 投資先の設立年数 最適な措置
給与所得中心の会社員なし or 少額5年未満優遇措置A
株式売買で利益ありあり5年未満(赤字企業)プレシード特例
株式売買で利益ありあり5年〜10年未満優遇措置B
連続起業家EXIT益あり自ら設立(1年未満)起業特例

投資先が設立5年未満の赤字企業であれば、プレシード特例が圧倒的に有利です。課税繰延ではなく非課税なので、将来の売却益に対する追加課税がありません。ただし、プレシード特例の対象企業は限られるため、該当しない場合は優遇措置AまたはBを選択します。

投資額別の節税シミュレーション

3パターンで比較

📐 シミュレーション前提条件

  • 投資家の給与所得:1,500万円(限界税率43%=所得税33%+住民税10%)
  • その年の株式譲渡益:1,000万円(上場株式の売却益)
  • 投資先:設立3年目の赤字スタートアップ(プレシード特例対象)
投資額 措置A(所得控除) 措置B(譲渡益控除) プレシード特例
100万円約43万円約20万円約20万円+売却時非課税
500万円約215万円約101万円約101万円+売却時非課税
1,000万円約258万円(上限600万円)約203万円約203万円+売却時非課税

※概算値です。復興特別所得税・各種控除は考慮していません。プレシード特例の「売却時非課税」は投資が成功した場合の追加メリットです。

投資額が少額(100万円程度)の場合は優遇措置Aの方が節税額が大きくなりますが、投資が成功して大きな売却益が出た場合のトータルメリットではプレシード特例が圧倒的に有利です。

令和7年改正:繰戻し還付制度の創設

投資タイミングの制約が大幅に緩和

従来、優遇措置BやプレシードSpecial特例を受けるには、株式譲渡益が発生した「同一年内」にスタートアップへの投資を完了する必要がありました。年末にEXITした場合、数日〜数週間で投資先を見つけて出資するのは非現実的でした。

令和7年改正で創設された繰戻し還付制度により、株式譲渡益が発生した年の翌年末(最大2年間)までに出資を行えば、前年の譲渡益から控除できるようになりました。ただし、適用を受けるには、譲渡益が発生した翌年の確定申告時に「特定株式等を払込みにより取得する見込みである旨」を記載した書類を添付する必要があります。

📢 令和7年度改正のポイント

繰戻し還付制度の対象は2026年1月1日以降に取得した株式です。また、プレシード特例について、2025年4月1日以降に譲渡・贈与が行われた場合は、適用額にかかわらず株式異動状況通知書の作成・提出が必要になります。

著作権・知的財産権の譲渡益をエンジェル投資に活用する方法

IP譲渡益の株式譲渡益との違い

スタートアップ業界では、ソフトウェアの著作権やパテントなどの知的財産権(IP)を譲渡・ライセンスして収益を得るケースが増えています。IPの譲渡に関する税務処理は、その性質によって所得区分が異なります。

著作権の譲渡は「譲渡所得」、使用料(ロイヤリティ)は「雑所得」または「事業所得」として扱われます(所得税法第23条、第35条)。ここで重要なのは、エンジェル税制の優遇措置B・プレシード特例は「株式等の譲渡益」からの控除であり、IP譲渡益からは直接控除できないという点です。

ただし、IPの譲渡益を元手にスタートアップへ投資し、優遇措置Aを選択すれば、IP譲渡益を含む「総所得金額」からの所得控除が可能です。IP資産を多く保有するクリエイターやエンジニアにとっては、優遇措置Aが有効な節税手段になり得ます。

💡 実務のポイント:使用料収入と譲渡の使い分け

著作権や特許権を一括で売却(譲渡)する場合と、使用許諾(ライセンス)で継続的に使用料を受け取る場合では、税務上の扱いが異なります。譲渡は譲渡所得として一時的に課税されますが、使用料は雑所得または事業所得として毎年課税されます。エンジェル税制の優遇措置Aと組み合わせるなら、譲渡益が発生する年に投資を行うのが効率的です。

スタートアップ側の確認申請手続き

確認申請の7ステップ

エンジェル税制を活用するには、スタートアップ側が都道府県に確認申請を行い、確認書の交付を受ける必要があります。手順は以下の7ステップです。

ステップ1:事前確認制度の利用(任意)

資金調達前に、自社がエンジェル税制の対象企業であるかを都道府県に事前確認できます。確認が完了すると経済産業省のウェブサイトで社名が公表されるため、投資家へのアピール材料になります。

ステップ2:投資の実行(払込完了)

個人投資家からの払込が完了します。エンジェル税制の対象となるのは、新株発行の際に払込により取得した株式に限られます。

ステップ3:確認申請書の作成

スタートアップが都道府県に対して確認申請書を作成・提出します。添付書類として、定款の写し、登記事項証明書、株主名簿、事業計画書、決算書等が必要です。

ステップ4:都道府県による審査・確認書の交付

審査期間は通常2週間〜1ヶ月程度です。要件を満たしていれば確認書が交付されます。

ステップ5:確認書を投資家に送付

交付された確認書を個人投資家に送付します。投資家は確定申告の際にこの確認書が必要です。

ステップ6:投資家が確定申告

投資家が確認書を添付して確定申告を行い、優遇措置の適用を受けます。

ステップ7:株式異動状況の報告(売却時)

投資家が株式を譲渡・贈与した場合、スタートアップは翌年1月31日までに株式異動状況通知書を作成し、税務署に提出する義務があります。

設立時の税務届出や資本金設計については「スタートアップ設立時の税務届出一覧」で詳しく解説しています。また、確定申告の基本については「フリーランスの確定申告ガイド」もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

エンジェル税制は法人投資家も利用できますか?
いいえ、エンジェル税制は個人投資家のみが対象です。法人がスタートアップに投資する場合は、オープンイノベーション促進税制(取得価額の25%を所得控除)の活用を検討してください。
株式投資型クラウドファンディングで取得した株式もエンジェル税制の対象ですか?
はい、経済産業大臣の認定を受けた認定少額電子募集取扱業者を通じて取得した株式はエンジェル税制の対象になります。FUNDINNOなどのプラットフォームで「エンジェル税制適用確認企業」と表示されている案件が該当します。
優遇措置AとBは同時に使えますか?
同一の投資について優遇措置AとB(またはプレシード特例)を同時に適用することはできません。選択適用です。ただし、複数の企業に投資した場合、A社への投資に優遇措置A、B社への投資に優遇措置Bを適用することは可能です。
プレシード特例の「20億円まで非課税」とはどういう意味ですか?
投資時に受けた控除額のうち20億円までは、将来の株式売却時に取得価額の圧縮(調整)が不要ということです。通常の優遇措置A・Bでは、投資時に受けた控除額分だけ取得価額が減り、売却時の譲渡益が増えます(課税繰延)。プレシード特例ではこの調整がないため、控除を受けた分が「真の節税」になります。20億円を超える部分は通常どおり課税繰延となります。
投資先が倒産した場合、損失は他の所得と通算できますか?
株式の価値がゼロになった場合(破産・解散等)、その損失は他の株式譲渡益と通算できます。通算しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます。ただし、給与所得や事業所得とは通算できません。株式譲渡益との通算に限定されます。
エンジェル税制の確認申請にかかる期間はどのくらいですか?
都道府県への確認申請から確認書の交付まで、通常2週間〜1ヶ月程度です。書類に不備があるとさらに時間がかかります。事前確認制度を利用すれば、資金調達前に要件を満たしているか確認できるため、投資家への説明がスムーズになります。
エンジェル税制は確定申告でe-Taxを使えますか?
申告データの送信はe-Taxで可能ですが、確認書や株式異動状況明細書などのエンジェル税制関連の添付書類はe-Taxで送信できない場合があります。その場合は、別途郵送での提出が必要です。管轄の税務署に事前確認することをおすすめします。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • エンジェル税制には優遇措置A(所得控除)・B(譲渡益控除)・プレシード特例(20億円非課税)・起業特例の4つの措置がある
  • 給与所得中心の投資家は優遇措置A、株式譲渡益がある投資家は優遇措置Bまたはプレシード特例が有利
  • プレシード特例は売却益20億円まで非課税で、課税繰延ではなく真の免税措置
  • 令和7年改正で繰戻し還付制度が創設され、譲渡益発生の翌年末までの投資でも前年の譲渡益から控除可能に
  • 著作権・知的財産権の譲渡益は株式譲渡益とは所得区分が異なるため、エンジェル税制との組み合わせ方に注意が必要
  • スタートアップ側は都道府県への確認申請が必須。事前確認制度の活用で投資家獲得にも有利に

エンジェル税制は年々拡充が進んでおり、スタートアップへの投資環境は改善しています。しかし、4つの措置の使い分けや確定申告の手続きは複雑です。投資額が大きい場合や、複数の措置を検討する場合は、税理士に相談することで最適な節税戦略を立てることをおすすめします。

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