【4士業ワンストップ解説】設立1期目の役員報酬の決め方|3か月以内ルールと利益別シミュレーション

【4士業ワンストップ解説】設立1期目の役員報酬の決め方|3か月以内ルールと利益別シミュレーション
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
📋 税理士監修 🔷 社労士監修 📊 公認会計士監修 🆕 令和8年度改正対応

設立1期目の役員報酬の決め方|3か月以内ルールと利益別シミュレーション

「設立1期目の役員報酬をいくらに設定すべきか分からない」という創業者に向けて、3か月以内ルール、利益別の最適額、社会保険料を含めた手取り計算、令和8年度の所得税改正の影響を完全ガイドします。この記事を読めば、自社の利益見込みに応じた最適な月額を判断でき、設立日から3か月以内に確実に決議できます。

🏆 結論:設立日から3か月以内に決め、利益1,500万円なら月40〜60万円が最適ゾーン

設立1期目の役員報酬は、設立日から3か月以内に株主総会で決議しなければ全額損金不算入になります。最適額は会社の利益見込みによって変わりますが、役員報酬計上前の利益が1,500万円程度なら、令和8年度の所得税改正後の試算で月40〜60万円のレンジが個人手取りと法人税のバランスで優位です。社会保険料は労使合計で給与の約30%発生するため、報酬の引き上げには注意が必要です。

設立1期目の役員報酬は「3か月以内ルール」が絶対

3か月以内ルールの内容

ひとことで言えば、法人税法上、役員報酬を損金(経費)に計上するためには、設立日から3か月以内に株主総会で報酬額を決議し、その後は毎月同額を支給し続ける必要があります(法人税法第34条第1項第1号、定期同額給与)。 例えば9月20日設立の会社であれば、12月19日までに株主総会を開催し、役員報酬額を決議しなければなりません。この期限を1日でも過ぎると、その期の役員報酬は全額が損金不算入となります。

参考: 国税庁 No.5211 役員に対する給与(法人税)

⚠️ 注意

実務でよく見る事故が「3か月以内に決めたつもりで4か月目になっていた」というケースです。設立から3か月以内に「決議」と「支給」の両方を済ませる必要があります。報酬月額60万円で12か月支給した場合、損金不算入になると720万円分の経費が消えて、概算で法人税等が200万円超増えます。

設立日から3か月以内に行うべき手続き

設立1期目の役員報酬決定は、次の3ステップで進めます。
ステップ 実施内容 期限
①報酬額の設計利益見込み・社会保険料・所得税のバランスを試算設立後すぐ
②株主総会の決議役員報酬の総額または各人別の金額を決議し議事録を作成設立日〜3か月以内
③初回支給決定した金額で初回給与を支給設立日から3か月以内

💡 実務のポイント

設立直後は本業の立ち上げで忙しく、議事録作成が後回しになりがちです。実務上は、設立後1か月以内に株主総会議事録を作成・押印し、PDFと印刷物の両方で保管する運用が安全です。税務調査では「いつ決議したか」が議事録の日付で判定されるため、後付けの作成は否認リスクが高くなります。

役員報酬が損金算入できる3つの形態

法人税法では、役員報酬を損金算入できるパターンを3種類に限定しています(法人税法第34条)。設立1期目は実質的に「定期同額給与」と「事前確定届出給与」の2択になります。
種類 内容 届出 設立期での活用
定期同額給与毎月同額を支給する月給型不要基本形・推奨
事前確定届出給与役員の賞与に相当。あらかじめ届出した日に届出額を支給必要消費税の特定期間対策で活用
業績連動給与客観的な指標で業績連動必要(複雑)非同族の上場会社等のみ

定期同額給与のルール

定期同額給与とは、1か月以下の一定期間ごとに同額で支給される役員報酬です。「月給」のイメージそのものです。 - 毎月同額(手取り後の金額でも可) - 改定は事業年度開始日から3か月以内が原則 - 期中の変更は原則不可(例外:臨時改定事由・業績悪化改定事由)

事前確定届出給与のルール

事前確定届出給与とは、あらかじめ税務署に「いつ、いくら支給する」と届出を行ったうえで、届出どおりに支給する役員賞与です。 届出期限は、原則として「株主総会等の決議をした日から1か月以内」または「会計期間開始日から4か月以内」のいずれか早い日です(法人税法施行令第69条第4項)。

💡 実務のポイント

事前確定届出給与は「届出どおり1円違わず支給する」のが鉄則です。届出額より1円でも少なく支給すると、その賞与全額が損金不算入になります。設立1期目の利益が読めない段階での届出は慎重に行い、必要なければ届け出ない選択もあります。

役員報酬の最適額シミュレーション【利益別】

設立1期目の役員報酬は、会社の利益見込みによって最適額が変わります。以下、3つの利益水準でシミュレーションを行います。

📐 シミュレーション前提条件

  • 役員1人(社長)、扶養家族なし、40歳以上
  • 協会けんぽ東京支部、令和8年度(2026年)想定の保険料率
  • 令和8年度税制改正後の基礎控除・給与所得控除を適用
  • 法人税・地方法人税・法人事業税・法人住民税を含む
  • 個人所得税は復興特別所得税込み、住民税は均等割5,000円含む

パターンA:役員報酬計上前の利益が1,500万円の場合

⭐ おすすめは「月40〜60万円」のレンジ
月額 年報酬 社保(個人) 所得税 住民税 法人税等 個人手取り
20万円240万円34万円2万円9万円350万円195万円
40万円480万円68万円11万円23万円256万円378万円
60万円720万円102万円33万円40万円174万円546万円
80万円960万円119万円76万円61万円110万円704万円
100万円1,200万円131万円127万円84万円49万円859万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

このパターンでは、月100万円まで上げると法人税はほぼゼロまで圧縮できますが、個人の社会保険料と所得税が膨らみます。個人の手取りと残る法人利益のバランスで、月40〜60万円のレンジが効率的です。

パターンB:役員報酬計上前の利益が500万円の場合

利益500万円程度の小規模なケースでは、役員報酬を抑えて法人に内部留保を残すか、報酬を多めにして個人で取るかの判断が問われます。
月額 特徴 推奨度
20万円個人の所得税ほぼなし、法人内部留保が増える○ 内部留保重視
30万円給与所得控除と基礎控除でほぼ非課税圏、社保負担も限定的◎ バランス重視
40万円個人の生活費は十分。法人利益はほぼ消滅○ 個人手取り重視

パターンC:役員報酬計上前の利益が3,000万円以上の場合

利益が大きいケースでは、役員報酬を高めに設定して法人の所得を800万円以下に抑え、軽減税率(15%)を最大限活用するのが基本戦略です。
月額 戦略
100万円法人利益約1,800万円。軽減税率と通常税率の中間ライン
150万円法人利益約1,200万円。個人の所得税率33%帯に入る前
200万円法人利益約600万円で軽減税率内。個人所得税率33%超

📊 公認会計士の視点

利益が大きい場合、役員退職金の積立てを兼ねた経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済、月20万円・年240万円まで損金算入可)の活用も検討すべきです。法人で損金算入しつつ、解約時に役員退職金原資として活用できれば、トータルの税負担を最適化できます。

令和8年度税制改正の影響と「178万円の壁」

📢 令和7年度・令和8年度税制改正の重要ポイント

所得税の「年収の壁」が令和7年度改正で103万円→160万円に、令和8年度改正でさらに178万円まで引き上げられました。給与所得控除の最低額が65万円に、基礎控除も中低所得者向けに最大104万円(所得132万円以下なら95万円+特例上乗せ)まで拡大。設立期の役員報酬設計は、改正前のセオリーが通用しなくなっている点に注意が必要です。

参考: 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直しについて」

改正の役員報酬への影響

令和8年度の所得税改正は、特に低〜中所得帯の役員報酬の手取りに大きく影響します。
役員年報酬 改正前(令和6年) 改正後(令和8年) 影響
178万円(月14.8万円)所得税課税あり所得税ゼロ手取り増
300万円(月25万円)所得税約7万円所得税約2万円▲5万円減
600万円(月50万円)所得税約25万円所得税約20万円▲5万円減

住民税は据え置きという落とし穴

ただし、所得税の基礎控除引き上げに対して、住民税の基礎控除(43万円)は据え置きとなっています。所得税がゼロでも住民税が発生するゾーンが拡大しており、創業期のキャッシュフロー計画では住民税負担を別途見込む必要があります。

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社会保険料の負担を正しく理解する

役員報酬の決定で見落とされがちなのが、社会保険料の負担です。役員報酬を上げると、所得税・住民税だけでなく、健康保険・厚生年金の保険料も上昇します。

労使合計で給与の約30%

健康保険(協会けんぽ東京支部・40歳以上の場合)と厚生年金を合計すると、労使合計で給与のおよそ29〜30%が社会保険料として発生します。これは個人と法人で折半するため、個人負担は約15%、法人負担も約15%です。
月額報酬 個人負担(月) 法人負担(月) 労使合計(年)
20万円2.8万円2.8万円68万円
40万円5.7万円5.7万円136万円
60万円8.5万円8.5万円204万円
80万円9.9万円9.9万円238万円

※厚生年金の標準報酬月額上限は65万円のため、月65万円超は厚生年金部分が打ち止め。

厚生年金の標準報酬月額上限が打ち止めになる「月65万円の壁」

🔷 社労士の視点

厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限です(健康保険は139万円が上限)。つまり、報酬を月65万円から月100万円に上げても、厚生年金保険料は変わりません。社会保険料の負担増を避けつつ手取りを増やしたい経営者には、月65万円を1つのラインとして意識する選択肢があります。なお、令和9年9月以降に標準報酬月額の上限引き上げが議論されているため、中期的にはこの「壁」が動く可能性もあります。

社会保険料の節約テクニック「賞与活用」

健康保険・厚生年金は、賞与にも保険料がかかりますが、賞与の場合は標準賞与額の上限が決まっています(健康保険:年累計573万円、厚生年金:月150万円)。月給と賞与の配分を工夫することで、社会保険料の負担を最適化できる場合があります。ただし、役員賞与を損金算入するには事前確定届出給与の届出が必要です。

創業期によくある失敗パターン

失敗パターン1:「利益が読めないから0円に設定」

設立直後は資金繰りが心配で、役員報酬を0円や月5万円程度に設定するケースがあります。後から「やはり生活費が足りない」と上げようとしても、定期同額給与のルールにより期中変更はできません。結果、1期目は生活費を貯金から取り崩すことになります。

⚠️ 注意

月5万円のような極端に低い役員報酬では、社会保険の標準報酬月額が下限(健康保険58,000円・厚生年金88,000円)に張り付き、将来の年金額にも影響します。生活費の見直しと将来の年金額の両面で、月20万円以上は確保したいラインです。

失敗パターン2:「利益最大化を狙って法人に残しすぎる」

役員報酬を極端に低くして法人利益を残しすぎると、内部留保が積み上がり、将来の役員退職金原資としては良いものの、個人の生活が苦しくなります。また、いざ役員報酬を上げようとしても、定期同額給与のルールで翌期まで待つ必要があります。

失敗パターン3:「3か月以内ルールを忘れていた」

設立から3か月以内に株主総会を開催し、議事録を作成・押印するという手続きを怠ると、その期の役員報酬は全額損金不算入になります。設立直後の事務作業の優先順位で見落とされやすい論点です。

失敗パターン4:「期中に変更してしまった」

「利益が想定より少ないから役員報酬を下げよう」「黒字が出そうだから上げよう」と期中に変更すると、変更後の差額が損金不算入になります。期中変更が認められる「業績悪化改定事由」「臨時改定事由」のハードルは高く、自己都合の業績見込み変更では認められません。

株主総会議事録のチェックポイント

役員報酬の決定は株主総会議事録に必ず残します。議事録には次の事項を記載してください。
  1. 開催日時・場所
  2. 出席した株主の氏名と持株数
  3. 議長の選任
  4. 議案として「役員報酬決定の件」を明示
  5. 役員報酬の総額または各人別の月額
  6. 支給開始月
  7. 議事の経過および結果(議決)
  8. 議事録作成者の署名・押印

💡 実務のポイント

税務調査では、議事録の日付・押印・記載内容の整合性が確認されます。後から日付を遡って作成した議事録は否認の対象になりやすく、決議日と支給開始日のつじつま合わせができない場合、定期同額給与として認められない可能性があります。設立後の議事録は必ず実施した日に作成・押印してください。

役員報酬決定のチェックリスト

設立1期目の役員報酬を決める前に、以下を確認してください。
  1. 設立日から3か月以内のスケジュールを確保したか
  2. 事業年度の利益見込みを試算したか(売上・経費の概算)
  3. 役員報酬計上前の利益を3パターン以上シミュレーションしたか
  4. 個人の生活費・住宅ローン・教育費から、最低必要額を算出したか
  5. 社会保険料の労使合計負担を見込んだか
  6. 令和8年度税制改正の基礎控除・給与所得控除を反映したか
  7. 株主総会議事録のひな形を準備したか
  8. 給与計算ソフトまたは社労士に依頼するルートを確保したか
  9. 役員報酬支給開始月の銀行送金スケジュールを組んだか
  10. 事前確定届出給与を使う場合、届出期限を確認したか

よくある質問

設立日が9月20日です。役員報酬の支給開始は何月分から可能ですか?
設立月(9月)または翌月(10月)から開始するのが一般的です。設立月は日割りや実働期間の問題が出るため、10月支給開始の運用が実務的です。いずれにせよ、設立日から3か月以内(この例では12月19日まで)には支給を開始する必要があります。
設立2か月で「やはり報酬額を変えたい」と思いました。可能ですか?
設立から3か月以内であれば、株主総会で再決議して報酬額を変更できます。3か月を超えると、原則として翌期まで変更不可です(業績悪化改定事由・臨時改定事由を除く)。3か月以内なら2回・3回の改定も理論上可能ですが、税務調査での説明を考えると、確定した1回の改定が望ましいです。
役員報酬を0円に設定することは可能ですか?社会保険はどうなりますか?
役員報酬0円は法的に可能です。ただし、報酬を受けていない役員は社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象外となるため、国民健康保険・国民年金への切り替えが必要です。創業期の節約手段としてはあり得ますが、社会保険のメリット(傷病手当金等)を失う点も考慮してください。
配偶者を役員にして役員報酬を分散すれば節税になりますか?
理論上、所得分散は累進課税の影響を軽減する有効な手段です。ただし、配偶者が実際に役員としての業務を行っていることが必要で、過大な役員報酬は法人税法第34条第2項により損金不算入となる可能性があります。実態のない名目だけの役員報酬は税務調査で否認されやすいので、職務内容と勤務実態を残す運用が必要です。
業績が想定より悪く、役員報酬の支払いが資金繰り的に厳しいです。減額できますか?
「業績悪化改定事由」に該当すれば期中の減額が認められますが、要件は厳しいです。具体的には、第三者の利害関係者(金融機関等)への影響を回避するために減額が客観的に必要と認められる場合などです。自社の単なる経営判断による減額は認められません。減額する場合は税理士と相談のうえ、客観的な事情の整理が必要です。
設立1期目を3か月以下にすれば、役員報酬の3か月以内ルールが緩和されますか?
いいえ、緩和されません。事業年度が3か月以下の場合でも、定期同額給与のルールは適用されます。短期事業年度のメリットは消費税の特定期間判定回避にあり、役員報酬のルールには影響しません。
役員賞与を出したいのですが、設立1期目でも可能ですか?
事前確定届出給与の届出を行えば、役員賞与を損金算入できます。設立1期目の届出期限は、「設立日以後2か月を経過する日」または「株主総会等の決議日から1か月以内」のいずれか早い日です。決議日と支給日、届出額を1円違わず守る必要がある点に注意してください。
役員報酬の決定は税理士に依頼すべきですか?
設立1期目の役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料・将来の役員退職金を統合したシミュレーションが必要なため、税理士または社労士・公認会計士との共同設計を強く推奨します。費用は5〜10万円程度のスポット依頼で対応可能な事務所が多く、設定ミスによる損金不算入リスク(数十万〜数百万円)と比べれば十分なコストパフォーマンスがあります。

📋 この記事のポイント

  • 設立1期目の役員報酬は、設立日から3か月以内に株主総会で決議し議事録に残す
  • 3か月以内ルールを破ると役員報酬全額が損金不算入になる
  • 役員報酬は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3パターン。設立期は前2つを使う
  • 利益1,500万円規模なら、月40〜60万円が個人手取りと法人税のバランスで優位
  • 令和8年度税制改正で基礎控除最大104万円・給与所得控除最低65万円。年収178万円が新しい壁
  • 社会保険料は労使合計で給与の約30%。厚生年金は標準報酬月額65万円が上限
  • 期中変更は原則不可。業績悪化改定事由・臨時改定事由のハードルは高い
  • 株主総会議事録の日付・押印・記載内容は税務調査で必ず確認される

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