【税理士×社労士が解説】SESの外注費が「給与」認定される5つの判断基準|消費税・源泉税・社保の三重追徴を防ぐ

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
SESの外注費が「給与」認定される5つの判断基準|消費税・源泉税・社保の三重追徴を防ぐ
「SESで常駐させているエンジニアへの支払い、外注費で大丈夫?」と不安なIT企業の経営者に向けて、税務調査で給与認定される5つの判断基準と三重追徴を回避する具体策を完全ガイドします。この記事を読めば、SES契約の税務リスクを事前に把握し、適切な対応ができます。
🏆 結論:SES外注費の給与認定を防ぐカギは「実態」の整備
SES契約の外注費が税務調査で給与と認定されると、消費税の仕入税額控除否認+源泉所得税の追徴+社会保険料の遡及徴収という三重追徴が発生します。月額50万円のエンジニア3名を3年間外注していた場合、追徴額は約1,500万円以上になることもあります。防ぐためには、契約書の形式だけでなく「指揮命令権の所在」「代替性の確保」「成果物の定義」など5つの判断基準に基づいた実態の整備が不可欠です。
SESの外注費が「給与」と判定される問題とは
SES(System Engineering Service)契約は、IT業界で広く使われている準委任契約の一種です。SES企業がエンジニアを客先に常駐させ、時間単価で報酬を受け取る契約形態ですが、この支払いが「外注費」なのか「給与」なのかという判定は、税務調査で頻繁に争点になります。
問題の本質は「契約書の形式」ではなく「業務の実態」で判定される点にあります。業務委託契約書を締結していても、エンジニアが客先の指揮命令下で働いている実態があれば、税務署は外注費ではなく給与と認定します。
⚠️ 注意
SES企業の税務調査で外注費が給与認定されるケースは増加傾向にあります。国税庁は「電子商取引等の調査」においてIT企業への調査を強化しており、SES契約の実態把握は重点チェック項目です。過去3年〜5年、悪質な場合は7年分まで遡って追徴されるため、金額が非常に大きくなりやすい点に注意が必要です。
外注費と給与の税務上の違い
外注費と給与では、税務上の取扱いが大きく異なります。この違いこそが、税務署が給与認定を厳しくチェックする理由です。
| 項目 |
外注費 |
給与 |
差額の影響 |
| 消費税 | 課税仕入(仕入税額控除OK) | 不課税(控除不可) | 消費税の納税額が増加 |
| 源泉所得税 | 原則不要(一部対象あり) | 源泉徴収義務あり | 未徴収分の追徴+不納付加算税 |
| 社会保険 | 加入義務なし | 加入義務あり(会社負担約15%) | 遡及加入+保険料の追徴 |
| 法人税 | 損金算入 | 損金算入 | 金額自体は変わらない |
| インボイス | 適格請求書が必要 | 不要 | 仕入税額控除の適用条件 |
参考: 国税庁「消費税法基本通達1-1-1 個人事業者と給与所得者の区分」
外注費か給与かを判定する5つの基準
国税庁の消費税法基本通達1-1-1および所得税基本通達204-22に基づき、外注費か給与かは以下の5つの基準で「総合的に」判断されます。どれか1つが当てはまれば即座に給与認定されるわけではなく、複数の要素を総合勘案して判定される点がポイントです。
| 判断基準 |
外注費と判定されるケース |
給与と判定されるケース |
SES企業での典型例 |
| ①代替性 | 自己の判断で他の者に業務をさせてよい | 依頼された本人のみが業務を行う | エンジニアの交代にクライアント承認が必須→給与寄り |
| ②指揮命令 | 発注者の指揮監督を受けない | 発注者の指揮監督下で業務を行う | クライアントが直接タスクを指示→給与寄り |
| ③報酬の性質 | 完成品の引渡しに対して報酬を請求 | 時間に応じた報酬(時給・日給・月給) | 月額固定+超過時間精算→給与寄り |
| ④材料・用具の負担 | 自己の材料・用具で業務を行う | 発注者から材料・用具の支給を受ける | PC・開発環境をクライアントが全て支給→給与寄り |
| ⑤専属性・拘束性 | 他の発注者の仕事も自由に受けられる | 特定の発注者に専属的に拘束されている | フルタイム常駐・出退勤管理あり→給与寄り |
💡 実務のポイント
SES契約で最も危険なのは③の「報酬の性質」です。多くのSES契約が月額×時間精算の形態をとっていますが、これは「時間に対する報酬=給与」と認定されるリスクが最も高い要素です。実務では「月額報酬+超過精算」ではなく「成果物の定義+月次報告書の提出」という形式に変更するだけでもリスクが大幅に低減します。
SES企業が特に注意すべきポイント
一般的な外注費vs給与の判定基準はIT業界以外でも共通ですが、SES企業には業界特有のリスクがあります。
最大のリスクは「客先常駐」という働き方そのものです。エンジニアがクライアントのオフィスに常駐し、クライアントの社員と同じフロアで同じ時間帯に働いている場合、客観的に見ると雇用関係と区別がつきにくくなります。
年間30件以上のSES企業の税務調査に対応してきた経験上、税務署が最初に確認するのは「クライアントからエンジニアへの直接的な業務指示があるか否か」です。Slackやメールで直接タスクを割り振っている記録が見つかると、給与認定のリスクが一気に高まります。
SES契約・派遣契約・請負契約の税務上の違い
SES契約の税務リスクを正確に理解するためには、派遣契約・請負契約との違いを把握する必要があります。IT業界では3つの契約形態が混在しやすいため、それぞれの税務上の取扱いを比較表で整理します。
| 比較項目 |
SES契約(準委任) |
派遣契約 |
請負契約 |
| 指揮命令権 | SES企業(受託者) | 派遣先(クライアント) | 受託者(請負企業) |
| 報酬の対象 | 役務の提供(善管注意義務) | 労働時間 | 成果物の完成 |
| 消費税 | 課税取引 | 課税取引 | 課税取引 |
| 源泉徴収 | 原則不要 | 派遣元が源泉徴収 | 原則不要 |
| 社会保険 | SES企業が自社社員分のみ | 派遣元が負担 | 請負企業が自社社員分のみ |
| 許可の要否 | 不要 | 厚労大臣の許可が必要 | 不要 |
| 偽装請負リスク | 高い | — | 中程度 |
🔷 社労士の視点
SES契約が「偽装請負」と認定されると、税務上の問題(給与認定)だけでなく、労働法上のペナルティ(労働者派遣法違反:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)も発生します。さらに、2015年の法改正により、偽装請負の状態にあるエンジニアが「直接雇用の申込みがあったものとみなす」制度(労働者派遣法40条の6)が適用される可能性もあります。
なお、外注費vs給与の一般的な判断基準について詳しくは「SaaS企業の売上計上ルール」でIT企業の会計処理の全体像を解説しています。
三重追徴の金額シミュレーション
外注費が給与と認定された場合、消費税・源泉所得税・社会保険料の3つが同時に追徴されます。SES企業でよくある規模感でシミュレーションしてみましょう。
📐 シミュレーション前提条件
- SES契約で個人エンジニア3名に月額各50万円(税抜)を外注費として支払い
- 3年分(36ヶ月)が給与認定された場合
- 消費税は本則課税(簡易課税不適用)
- 源泉所得税率は概算20%(扶養なし・復興特別所得税含む)
- 社会保険料の会社負担率:約15%
| 追徴項目 |
計算式 |
追徴額 |
| ①消費税(仕入税額控除否認) | 50万円×10%×3名×36ヶ月 | 540万円 |
| ②源泉所得税(未徴収分) | 50万円×20%×3名×36ヶ月 | 1,080万円 |
| ③社会保険料(会社負担分) | 50万円×15%×3名×36ヶ月 | 810万円 |
| ④不納付加算税(源泉税の10%) | 1,080万円×10% | 108万円 |
| ⑤延滞税(概算年2.4%×2年) | (540万+1,080万)×2.4%×2年 | 約78万円 |
| 合計追徴額 | | 約2,606万円 |
※概算値です。個別の状況により異なります。源泉所得税は本来エンジニア個人が負担すべきですが、取引終了後は回収不能となり会社が肩代わりするケースが多いです。正確な計算は税理士にご相談ください。
このシミュレーションからわかるように、3名で3年分の追徴だけで約2,600万円になります。実務ではIT企業の税務調査で外注費が指摘される場合、5名〜10名規模で指摘されることも珍しくなく、追徴額が5,000万円を超える事例も経験しています。
AYUSAWA PARTNERS
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給与認定を回避するための契約書チェックリスト
SES契約書に以下の10項目が明記されているかを確認してください。契約書だけで給与認定を完全に防ぐことはできませんが、税務調査で「外注の意思があったことの証拠」として重要な役割を果たします。
| 項目 |
契約書に記載すべき内容 |
5つの判断基準との対応 |
| 1. 業務内容の定義 | 具体的な業務範囲・成果物を明記 | ③報酬の性質 |
| 2. 指揮命令権の所在 | 業務指示はSES企業の責任者を通じて行う旨を明記 | ②指揮命令 |
| 3. 代替者の派遣 | SES企業の判断でエンジニアの交代が可能である旨 | ①代替性 |
| 4. 報酬の算定基準 | 時間単価ではなく業務委託料として定義 | ③報酬の性質 |
| 5. 設備・用具の負担 | PC等をクライアントが支給する場合は賃貸借契約を別途締結 | ④材料・用具 |
| 6. 勤怠管理の主体 | 出退勤管理はSES企業が行う旨を明記 | ⑤専属性 |
| 7. 瑕疵担保・善管注意義務 | 業務品質に対する責任をSES企業が負う旨 | ③報酬の性質 |
| 8. 月次報告書の提出 | 成果物に代わる業務報告書の提出義務 | ③報酬の性質 |
| 9. 確定申告義務 | 個人エンジニアの場合、自ら確定申告を行う旨 | 全般 |
| 10. インボイス発行 | 適格請求書の発行義務(課税事業者の場合) | 全般 |
💡 実務のポイント
特に重要なのは「9. 確定申告義務」です。外注先の個人エンジニアが事業所得として確定申告をしている事実は、税務調査で「外注先自身も外注関係と認識している」証拠として非常に有力です。複数の税務調査の経験からも、外注先が確定申告をしていれば給与認定を避けられる可能性が大幅に高くなります。
実態を外注費として整備するための具体的対策
契約書の整備だけでは不十分です。税務調査では「実態」が問われるため、日常業務においても以下の対策を講じる必要があります。
指揮命令系統の整備
クライアントからエンジニアへの直接指示を禁止し、必ずSES企業の業務責任者を介して指示を行う体制を構築します。具体的には、Slackのチャンネルに業務責任者をメンバーとして追加し、タスクの割り振りは責任者が行う形にします。
成果物・報告書の整備
月次で業務報告書を作成し、「何を行い、どのような成果を出したか」を記録します。これにより「時間に対する報酬」ではなく「業務遂行に対する報酬」であることを証明できます。
請求書の発行体制
外注先からSES企業に対して、毎月の請求書を発行してもらいます。インボイス制度のもとでは適格請求書の有無も重要な証拠になります。個人エンジニアが免税事業者の場合、経過措置の仕入税額控除率(2026年10月以降は70%)にも注意が必要です。
ソフトウェア関連の勘定科目の詳細は「ソフトウェアの勘定科目判定フロー」で解説しています。
偽装請負と認定された場合のペナルティ一覧
SES契約が偽装請負と認定されると、税務上のペナルティだけでなく、労務上・法務上のペナルティも同時に発生します。
| 分野 |
ペナルティの内容 |
影響を受ける対象 |
根拠法令 |
| 税務① | 消費税の仕入税額控除否認 | SES企業(支払側) | 消費税法30条 |
| 税務② | 源泉所得税の未徴収分+不納付加算税+延滞税 | SES企業(支払側) | 所得税法183条 |
| 労務① | 社会保険料の遡及徴収(会社負担約15%) | SES企業 | 厚生年金保険法・健保法 |
| 労務② | 直接雇用みなし(エンジニアが申込めば雇用義務) | クライアント企業 | 労働者派遣法40条の6 |
| 法務 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | SES企業+クライアント企業 | 労働者派遣法59条 |
現場でよく見かけるのが、税務調査の結果が年金事務所にも情報共有されるケースです。給与認定されると、税務署からの追徴だけでなく、年金事務所から社会保険料の遡及徴収が来ることがあります。税務と社会保険の両面から攻められると、中小のSES企業にとっては経営を揺るがす金額になりかねません。
SES企業が税理士に相談すべきタイミング
以下のいずれかに該当する場合は、SES企業の税務に精通した税理士への相談を強くおすすめします。
| チェック項目 |
該当する場合 |
| 個人エンジニアとのSES契約がある | → 税理士に相談 |
| エンジニアの出退勤管理をクライアントが行っている | → 税理士に相談 |
| 月額×時間精算の報酬体系である | → 税理士に相談 |
| 外注先から請求書が発行されていない | → 税理士に相談 |
| 外注先が確定申告をしているか確認していない | → 税理士に相談 |
| 税務調査の事前通知を受けた | → 即時に税理士に相談 |
フリーランスエンジニアの確定申告の全体像は「フリーランスの確定申告ガイド」で、不動産所得と事業所得の関係は「不動産賃貸所得の計算ガイド」で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
SES契約でエンジニアを客先に常駐させるだけで給与認定されますか?
客先常駐だけでは直ちに給与認定されません。問題になるのは「誰が指揮命令を行っているか」「報酬が時間に対するものか成果に対するものか」といった実態です。ただし、常駐という形態自体が雇用関係と混同されやすいため、指揮命令系統の整備や月次報告書の作成など、外注関係であることを証明する体制を整えておく必要があります。
法人同士のSES契約でも給与認定のリスクはありますか?
法人同士の場合、給与認定のリスクは大幅に低くなります。給与認定が問題になるのは主に「法人→個人」の支払いです。ただし、法人同士でも偽装請負(実態は労働者派遣)と認定されるリスクは残ります。偽装請負が認定されると、労働者派遣法違反として行政処分の対象になります。
外注先の個人エンジニアがインボイス登録していない場合、仕入税額控除はどうなりますか?
免税事業者からの仕入れには経過措置が適用されます。2026年10月からは仕入税額の70%が控除可能、2029年10月からは50%に段階的に縮小されます。ただし、そもそも給与認定されると仕入税額控除自体が全額否認されるため、インボイスの有無以前に外注関係の実態を整備することが優先です。
税務調査で給与認定されそうになった場合、どう対応すべきですか?
まずは即座に税理士に連絡してください。税務調査の場で安易に認めてしまうと、修正申告の対象になります。業務委託契約書、請求書、月次報告書、メールやSlackの指揮命令に関する記録など、外注関係であることを示す証拠を整理して反論します。外注先が確定申告をしていることの証拠も非常に有力です。
SES契約を派遣契約に切り替えた方が安全ですか?
税務上の給与認定リスクだけを考えれば、派遣契約の方が安全です。派遣契約であれば、派遣元が源泉徴収・社会保険加入を行う法的義務があるため、三重追徴のリスクはありません。ただし、派遣事業には厚生労働大臣の許可が必要で、取得のハードルがあります。自社の事業形態に合った契約形態を税理士・社労士と相談して決めてください。
給与認定された場合の源泉所得税は誰が負担しますか?
源泉所得税は本来、報酬を受け取った個人(エンジニア)が負担すべきものです。しかし、すでに取引が終了していたり、連絡が取れなくなっていたりするケースが多く、実務では支払った企業(SES企業)が肩代わりするケースが非常に多いです。3年〜5年分の源泉所得税を肩代わりすると数百万円規模になるため、事前の対策が重要です。
SES契約の外注費を「人件費」と同じ勘定科目で管理しても問題ありませんか?
外注費と人件費は必ず別の勘定科目で管理してください。勘定科目を分けていないと、税務署から「社内でも外注と給与の区別を意識していない」と判断され、給与認定のリスクが高まります。外注費の中に補助科目(「SES委託費」等)を設定し、取引先ごとに管理するのが望ましいです。
まとめ
📋 この記事のポイント
- SES外注費の給与認定は「代替性・指揮命令・報酬の性質・材料用具・専属性」の5基準で総合判定される
- 給与認定されると消費税+源泉所得税+社会保険料の三重追徴が発生し、3名3年分で約2,600万円の追徴も
- SES契約・派遣契約・請負契約は税務上の取扱いが異なり、SES契約は偽装請負リスクが最も高い
- 契約書に10項目のチェックポイントを明記し、実態としても外注関係を整備することが不可欠
- 外注先の個人エンジニアに確定申告をしてもらうことが、給与認定回避の最も有力な証拠になる
- 偽装請負は税務ペナルティに加えて労働法違反(懲役・罰金)と直接雇用みなしのリスクもある
- 1つでもリスク要因がある場合は、IT企業の税務に精通した税理士・社労士への事前相談を推奨
SES契約の外注費vs給与の問題は、IT企業にとって最も高額な追徴リスクの一つです。「うちは大丈夫」と思っていても、税務調査が入ると実態の不備を指摘されるケースが後を絶ちません。まずは今の契約と実態を5つの判断基準に照らしてセルフチェックし、リスクがある場合は早めに専門家に相談することをおすすめします。
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