【税理士×行政書士のダブル監修】農業経営基盤強化準備金で交付金を丸ごと節税|積立・取崩し・圧縮記帳と補助金の税務処理

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
農業経営基盤強化準備金で交付金を丸ごと節税|積立・取崩し・圧縮記帳と補助金の税務処理
「交付金をもらったのに税金で持っていかれる」とお悩みの農業経営者に向けて、農業経営基盤強化準備金の積立から取崩し・圧縮記帳までの税務処理を仕訳付きで完全ガイドします。この記事を読めば、交付金を最大限に活用する節税戦略を立てられます。
🏆 結論:交付金は「もらって即課税」ではなく「積立→圧縮」で税負担を最小化できる
農業経営基盤強化準備金を活用すれば、経営所得安定対策等の交付金を最大5年間積み立てて必要経費(損金)に算入し、農業用固定資産を取得する際に圧縮記帳を適用することで、交付金に対する税負担をほぼゼロにできます。ただし青色申告・認定農業者・地域計画への位置付けなど要件があるため、申請前に必ず確認してください。
農業経営基盤強化準備金とは?制度の基本的なしくみ
制度の概要と目的
農業経営基盤強化準備金とは、農業者が経営所得安定対策等の交付金を受け取った際に、その交付金を将来の農業投資のために積み立てることで、積立額を必要経費(個人)または損金(法人)に算入できる税制上の特例です。租税特別措置法第24条の2(個人)・第61条の2(法人)に規定されています。
通常、交付金は受け取った年度の収入として課税されます。しかしこの制度を使えば、交付金を「準備金」として積み立てた分は課税対象から外れ、さらにその準備金で農用地や農業用機械を取得した際には圧縮記帳によって取得年度の課税も軽減できます。
💡 実務のポイント
実務では「交付金をもらったのに手元にお金が残らない」という相談が多くあります。原因のほとんどが、交付金を所得に計上したことによる所得税・住民税・国民健康保険料の増加です。準備金制度を使えば、交付金200万円に対して約60〜80万円の税・社保負担を先送りできるケースもあります。
制度の適用要件(4つの条件)
この制度を利用するには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。
| 要件 |
内容 |
確認先 |
| ① 青色申告 | 青色申告により確定申告を行っていること(個人・法人とも) | 所轄税務署 |
| ② 認定農業者等 | 認定農業者、認定新規就農者、人・農地プランの中心経営体のいずれかに該当 | 市町村農政課 |
| ③ 地域計画への位置付け | 市町村が策定する地域計画において「農業を担う者」として位置付けられていること(令和7年度〜必須) | 市町村農政課 |
| ④ 農業経営改善計画等 | 取得しようとする農用地・農業用機械等が農業経営改善計画等に記載されていること | 市町村農政課 |
📢 令和7年度改正の重要変更
令和7年度以降、準備金を積み立てるには市町村の地域計画に「農業を担う者」として位置付けられていることが必須要件となりました。さらに令和8年度以降は、準備金を使って農用地を取得する場合、地域計画に準備金活用者が利用する農地として定められていることも必要です。まだ地域計画に位置付けられていない方は、早めに市町村農政課に相談してください。
対象となる交付金と取得資産の一覧
対象交付金の種類
全ての補助金が対象になるわけではありません。対象となるのは経営所得安定対策等に基づく以下の3種類の交付金です。
| 交付金の種類 |
通称 |
対象品目 |
準備金の対象 |
| 畑作物の直接支払交付金 | ゲタ対策 | 麦・大豆・甜菜・でん粉原料用ばれいしょ・そば・菜種 | ○ |
| 米・畑作物の収入減少影響緩和交付金 | ナラシ対策 | 米・麦・大豆・甜菜・でん粉原料用ばれいしょ | ○ |
| 水田活用の直接支払交付金 | 水田活用交付金 | 水田で転作を行う場合 | ○(産地づくり体制構築等支援は対象外) |
⚠️ 注意
中山間地域等直接支払交付金、多面的機能支払交付金、環境保全型農業直接支払交付金などは準備金制度の対象外です。また、市町村独自の補助金も対象外となります。経営継続補助金や強い農業・担い手づくり総合支援交付金なども別制度です。
取得できる農業用資産の範囲
| 区分 |
具体例 |
対象可否 |
| 農用地 | 田・畑・牧場(地域計画に記載のもの) | ○ |
| 農業用建物 | ビニールハウス・貯蔵庫・農機具格納庫 | ○(取得価額30万円以上) |
| 農業用機械 | トラクター・コンバイン・精米機・田植機 | ○(取得価額30万円以上・新品のみ) |
| 農業用ソフトウェア | 営農管理システム・環境制御システム | ○(取得価額30万円以上) |
| 車両運搬具 | 軽トラック・フォークリフト | × |
| 農業以外にも使用可能な資産 | パソコン・販売所・加工所設備 | × |
| 中古資産 | 中古トラクター・中古コンバイン等 | × |
| リース資産 | リース契約のトラクター等 | × |
参考: 農林水産省「農業経営基盤強化準備金制度」
実務で間違えやすいのは「軽トラックは対象外」という点です。軽トラックは農業以外にも使える車両運搬具に分類されるため、準備金の対象にはなりません。一方、農業用のトラクターやコンバインは農業専用機械として対象になります。
積立限度額の計算方法|交付金と所得のどちらか少ない方
積立限度額の計算式
準備金として積み立てられる限度額は、次の①②のうちいずれか少ない金額です。
| 比較項目 |
内容 |
| ① 農林水産大臣の証明する金額 | 交付金収入額の範囲内で、農業経営改善計画に記載された農用地・農業用機械等の取得に充てるために証明された金額 |
| ② その年の事業所得(所得)の金額 | 個人は農業所得(事業所得)の金額、法人はその事業年度の所得の金額 |
🧮 シミュレーション
例えば交付金300万円、農業所得200万円の場合、積立限度額は少ない方の200万円です。残りの交付金100万円は通常どおり課税対象になります。逆に交付金150万円、農業所得400万円なら、150万円全額を積み立てられます。
赤字の年は積み立てられない
所得がゼロまたは赤字の年は、②の条件を満たせないため積立ができません。交付金を受け取っていても、その年の農業所得がマイナスであれば準備金への積立はゼロとなり、交付金は全額課税所得に算入されます。
現場でよく見かけるのが「天候不順で売上が大幅に減った年にナラシ対策の交付金を受け取ったが、所得がマイナスのため積み立てられなかった」というケースです。こうした事態を避けるには、経費の支出タイミングを調整するなど、所得がプラスになるよう年度内に計画を立てることが重要です。
準備金の積立・取崩し・圧縮記帳の3ステップ|仕訳で完全図解
ステップ1:交付金を受け取り、準備金として積み立てる
交付金を受け取った年度に、農業経営改善計画に従って準備金を積み立てます。
【個人の場合】
個人の場合は複式簿記の帳簿上で「農業経営基盤強化準備金」(負債勘定)を設定し、同額を必要経費に算入します。確定申告書には農林水産大臣の証明書を添付し、収支内訳書(農業所得用)の必要経費欄に準備金繰入額を記入します。
| 取引 |
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 交付金受取 | 普通預金 | 200万円 | 雑収入(交付金) | 200万円 |
| 準備金積立 | 農業経営基盤強化準備金繰入 | 200万円 | 農業経営基盤強化準備金 | 200万円 |
【法人の場合】
法人の場合は準備金勘定を貸借対照表の負債の部に計上し、繰入額を損金に算入します。措置法第61条の2の規定により、確定申告書に別記様式の証明書を添付します。
ステップ2:準備金を取り崩して農業用資産を取得する
積み立てた準備金を取り崩して農業用固定資産を取得します。取崩額は収入(益金)に計上されますが、同時に圧縮記帳を適用することで課税を回避できます。
| 取引 |
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 準備金取崩 | 農業経営基盤強化準備金 | 800万円 | 農業経営基盤強化準備金戻入 | 800万円 |
| 機械取得 | 農機具(資産) | 1,000万円 | 普通預金 | 1,000万円 |
ステップ3:圧縮記帳で取得年度の課税を軽減する
取り崩した準備金額と、その年に受領した交付金のうち資産取得に充てた額の合計を限度として、圧縮記帳を適用します。
圧縮限度額 = min(準備金取崩額+当年交付金充当額, 当年の事業所得)
個人の場合は「国庫補助金等の総収入金額不算入」の特例として処理し、法人の場合は直接減額方式または積立金方式で圧縮記帳を行います。
| 取引(個人・直接減額方式) |
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 圧縮記帳 | 事業主貸(圧縮損) | 800万円 | 農機具(資産) | 800万円 |
圧縮記帳後の帳簿価額は1,000万円 − 800万円 = 200万円となり、以後の減価償却は200万円を基準に計算します。取崩し800万円が収入に計上される一方、圧縮損800万円が必要経費となるため、差し引きゼロで課税されません。
💡 実務のポイント
圧縮記帳はあくまで「課税の繰延べ」であり、税金がなくなるわけではありません。圧縮後の帳簿価額が低くなるため、以後の減価償却費が減り、将来の所得が増える形で回収されます。ただし農業用機械は耐用年数が5〜10年と比較的短いため、毎年の影響額は大きくありません。
5年間の活用シミュレーション|毎年200万円積立でトラクターを購入
📐 シミュレーション前提条件
- 水稲+大豆の複合経営、認定農業者
- 毎年の交付金:200万円(ゲタ対策+水田活用交付金)
- 農業所得:毎年300万円(交付金含む)
- 5年目にトラクター1,000万円を新品で取得
- 所得税率:20%、住民税率:10%
| 年度 |
交付金 |
積立額 |
累計準備金 |
課税所得の圧縮額 |
節税効果(税率30%) |
| 1年目 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 60万円 |
| 2年目 | 200万円 | 200万円 | 400万円 | 200万円 | 60万円 |
| 3年目 | 200万円 | 200万円 | 600万円 | 200万円 | 60万円 |
| 4年目 | 200万円 | 200万円 | 800万円 | 200万円 | 60万円 |
| 5年目(取得) | 200万円 | — | 0円 | 圧縮記帳1,000万円 | 取得年度は±0 |
| 5年間の節税効果合計 | 約240万円 |
5年目にはそれまでの累計準備金800万円を取り崩し、当年の交付金200万円と合わせて1,000万円のトラクターを取得します。圧縮記帳により取崩益と交付金の課税が相殺されるため、取得年度も課税負担はほぼ発生しません。準備金を使わなかった場合と比較して、5年間で約240万円の税・社保負担を軽減できる計算です。
なお、準備金を積み立てなかった場合、毎年の交付金200万円がそのまま課税所得に算入されるため、5年間で200万円×30%×5年 = 300万円の税・社保負担が発生します。準備金を使えば積立期間中は同額を圧縮でき、取得時も圧縮記帳で相殺されるため、最終的な節税効果(繰延べ効果)は非常に大きくなります。
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5年経過で強制取崩し|期限切れ準備金のリスクと対策
5年ルールとは
準備金は積立てから5年を経過すると、その金額部分を取り崩して所得(益金)に算入しなければなりません。つまり「積み立てたまま使わない」という選択はできず、5年以内に農用地や農業用機械の取得に充てなければ、結局は課税されることになります。
期限切れを防ぐための3つの対策
| 対策 |
内容 |
ポイント |
| ① 農業経営改善計画の更新 | 計画に記載した期限を過ぎる前に計画を更新する | 計画の変更には市町村の認定が必要 |
| ② 取得時期の前倒し | 4年目までに機械等を取得して圧縮記帳を適用 | 価格交渉と納期を考慮して早めに発注 |
| ③ 段階的な取得 | 大型投資を分割して複数年にわたり取得 | 毎年の取崩額を分散させる |
実務では「5年目を忘れていて強制取崩しになった」というケースが散見されます。特に毎年少額ずつ積み立てている農家は、いつの分がいつ期限切れになるかの管理が複雑です。年度ごとの積立額と期限を一覧表にして、確定申告の際に必ず確認する習慣をつけてください。
⚠️ 注意
令和3年度改正により、期限切れで取り崩した準備金の金額は、その年度の積立限度額や圧縮限度額の計算基礎となる「所得の金額」の計算から除外されることになりました。つまり、強制取崩しによって所得が増えたとしても、その増加分で新たに準備金を積み立てることはできません。
農業の補助金・交付金の税務処理|準備金対象外の補助金はどうする?
準備金対象外の補助金の圧縮記帳
農業経営基盤強化準備金の対象外である補助金(経営継続補助金、強い農業づくり交付金、市町村独自の補助金など)でも、固定資産の取得に充てた場合は法人税法第42条(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳)や所得税法の「国庫補助金等の総収入金額不算入」の特例を適用できることがあります。
| 補助金の種類 |
準備金制度 |
一般の圧縮記帳 |
税務上の注意点 |
| ゲタ対策・ナラシ対策 | ○ | ○ | 準備金制度が有利 |
| 水田活用交付金 | ○ | ○ | 産地づくり体制構築等支援は対象外 |
| 経営継続補助金 | × | ○ | 固定資産取得が条件 |
| 強い農業づくり交付金 | × | ○ | 固定資産取得が条件 |
| 市町村独自の補助金 | × | 要確認 | 国庫補助金等に該当するか確認 |
| 多面的機能支払交付金 | × | 要確認 | 組織(協定)に交付される場合が多い |
補助金の収入計上タイミング
補助金の収入計上は「交付決定日」基準です。実際の入金日ではなく、交付決定通知書を受け取った日に収益を認識します。決算期をまたぐ場合は、交付決定時に「未収入金」を計上し、入金時に消し込む処理が必要です。
農業経営基盤強化準備金の場合も同様で、交付金の交付決定日が属する年度に収入計上と準備金積立を行います。入金が翌年度にずれ込むケースでは、未収入金の計上漏れに注意してください。
農産物の棚卸評価|収穫農産物と未収穫農産物の違い
農産物の棚卸が必要な理由
農業所得を正しく計算するためには、期末時点で保有している農産物(収穫済みの穀物、野菜、果物など)の棚卸が必要です。棚卸を行わないと、経費の計上が過大になり所得が過少に計算される結果、税務調査で指摘されるリスクがあります。
収穫農産物の評価方法
収穫した農産物の評価方法は、一般の棚卸資産と同様に原価法(最終仕入原価法・個別法・先入先出法など)または低価法が適用されます。ただし農業では「生産原価法」による簡便的な評価が認められており、実務ではこの方法を使うケースがほとんどです。
生産原価法では、年間の生産にかかった費用(種苗費・肥料費・農薬費・労務費・減価償却費など)の合計額を収穫量で割って単価を算出し、期末在庫数量を掛けて評価額を計算します。
🧮 シミュレーション
【例】年間生産費用合計450万円、収穫量15,000kg、期末在庫2,000kgの場合
単価 = 450万円 ÷ 15,000kg = 300円/kg
期末棚卸評価額 = 300円 × 2,000kg = 60万円
未収穫農産物の取扱い
決算期末時点でまだ収穫していない農産物(田んぼの稲、畑の野菜など)は原則として棚卸の対象外です。これは「収穫基準」を採用している場合、収穫時点で収入が認識されるためです。ただし期末に収穫可能な状態にある農産物は棚卸資産として計上すべきとされるケースもあるため、管轄の税務署に確認することをおすすめします。
なお、農業所得の確定申告における棚卸について詳しくは「農業所得の確定申告ガイド」をご覧ください。
穀類以外の簡略化ルール
実務上、穀類(米・麦・大豆など)以外の農産物で在庫が少量の場合は棚卸を省略できるケースがあります。また、JA出荷で委託販売を行っている場合は、概算金と精算金の計上タイミングにも注意が必要です。収入計上時期の詳細は前述の確定申告ガイドで解説しています。
申請手続きの流れ|農林水産大臣の証明書が必須
積立の場合の申請手順
準備金の積立を行う場合、確定申告の際に「農林水産大臣の証明書」の添付が必要です。以下の手順で申請します。
| 手順 |
内容 |
提出先・期限 |
| ① 書類準備 | 別記様式第1号(証明申請書)+別記様式第5号(計画書兼実績報告書)を作成 | — |
| ② 申請 | eMAFF(農林水産省共通申請サービス)または書面で申請 | 納税地の県域拠点・確定申告の1ヶ月前まで |
| ③ 証明書受領 | 農林水産大臣名の証明書が交付される | 申請から2〜3週間 |
| ④ 確定申告 | 証明書を添付して青色申告書を提出 | 所轄税務署・申告期限まで |
📝 行政書士の視点
eMAFF(電子申請)を利用するにはgBizIDアカウントが必要です。アカウント取得には2〜3週間かかるため、初めて申請する場合は早めに準備を始めてください。電子申請なら過去のデータが自動入力されるため、2回目以降の申請は大幅に効率化できます。
取得の場合の申請手順
準備金を取り崩して農業用固定資産を取得した場合は、別記様式第3号(農用地等を取得した場合の証明申請書)を提出します。この場合も、取得した資産が農業経営改善計画に記載されている必要があります。計画にない資産を取得した場合は圧縮記帳の適用を受けられないため、事前に計画の変更・追記を行ってください。
農業経営に関連する届出・許認可について詳しくは「フリーランス・個人事業主の確定申告ガイド」もご参照ください。
税務調査で指摘されやすい農業の準備金・補助金のポイント
指摘されやすい5つのパターン
| 指摘パターン |
具体例 |
対策 |
| ① 証明書の未添付 | 農林水産大臣の証明書を申告書に添付していなかった | 申告前に必ず証明書の有無を確認 |
| ② 計画外の資産取得 | 農業経営改善計画に記載のない資産を取得して圧縮記帳を適用 | 取得前に計画を変更・追記する |
| ③ 対象外資産への適用 | 軽トラックや中古機械に圧縮記帳を適用していた | 対象資産の要件(新品・30万円以上・農業専用)を確認 |
| ④ 積立限度額の超過 | 所得を超える金額を積み立てていた | 確定申告前に所得金額を正確に算定 |
| ⑤ 棚卸の未実施 | 期末の農産物在庫を棚卸に計上していなかった | 決算時に保管中の穀物等を棚卸表に記載 |
税務調査の経験上、最も多い指摘は②の「計画外の資産取得」です。当初はトラクターを購入する計画だったが途中でコンバインに変更した場合、計画の変更手続きをせずに圧縮記帳を適用すると否認される可能性があります。計画と実際の取得内容が一致しているかは、毎年の申告時に必ず確認してください。
個人農家と農業法人の経理処理の違い
準備金制度における個人と法人の比較
| 項目 |
個人農家 |
農業法人 |
| 根拠法令 | 措法第24条の2 | 措法第61条の2 |
| 積立の効果 | 必要経費に算入 | 損金に算入 |
| 積立限度の基準 | 農業所得(事業所得)の金額 | 法人の所得の金額 |
| 圧縮記帳の方式 | 総収入金額不算入(直接減額のみ) | 直接減額方式 or 積立金方式 |
| 確定申告の種類 | 所得税の青色申告 | 法人税の青色申告 |
| 準備金の計上場所 | 貸借対照表の負債の部 | 貸借対照表の負債の部(引当金的に表示) |
| 適格合併時の取扱い | —(個人に合併なし) | 合併法人に引き継ぎ可能 |
法人の場合、圧縮記帳に積立金方式を選択すると、資産の帳簿価額はそのまま維持されるため減価償却費は変わりません。ただし、税務申告書上での別表調整が必要になり、経理処理が複雑になります。中小の農業法人であれば、処理が簡単な直接減額方式を選ぶケースがほとんどです。
農業法人化のメリットや農地所有適格法人の要件については「農業法人化ガイド」で詳しく解説しています。
準備金制度の活用チェックリスト
確定申告前に以下の10項目を確認してください。
| No. |
チェック項目 |
確認 |
| 1 | 青色申告の承認を受けているか | □ |
| 2 | 認定農業者・認定新規就農者の認定を受けているか | □ |
| 3 | 地域計画に「農業を担う者」として位置付けられているか(令和7年度〜必須) | □ |
| 4 | 受け取った交付金が対象交付金(ゲタ・ナラシ・水田活用)に該当するか | □ |
| 5 | 農業経営改善計画に取得予定の資産が記載されているか | □ |
| 6 | 積立額が所得の金額を超えていないか | □ |
| 7 | 農林水産大臣の証明書を申請・取得済みか | □ |
| 8 | 過去の準備金で5年経過するものがないか(年度別管理表を確認) | □ |
| 9 | 取得した資産が対象要件(新品・30万円以上・農業専用)を満たすか | □ |
| 10 | 期末の農産物在庫を適正に棚卸しているか | □ |
よくある質問(FAQ)
農業経営基盤強化準備金を積み立てると税金がゼロになりますか?
準備金の積立は「課税の繰延べ」であり、税金が永久に免除されるわけではありません。ただし、準備金を取り崩して農業用固定資産を取得し圧縮記帳を適用すれば、取崩し時の課税もほぼ相殺されます。最終的には圧縮後の帳簿価額が低くなることで将来の減価償却費が減少し、その分だけ課税が生じますが、農業用機械は耐用年数が短いため年度あたりの影響は限定的です。
白色申告でも農業経営基盤強化準備金は使えますか?
使えません。準備金制度の適用要件に「青色申告を行っていること」が含まれています。白色申告の方は、まず青色申告への切り替え手続き(所得税の青色申告承認申請書を所轄税務署に提出)を行ってください。申請書の提出期限はその年の3月15日(新規開業の場合は開業日から2ヶ月以内)です。
軽トラックは準備金の対象になりますか?
なりません。軽トラックは「車両及び運搬具」に分類され、農業以外にも使用可能な資産として準備金の対象外です。トラクター・コンバイン・田植機などの農業専用機械は対象になります。
準備金を5年間使わなかったらどうなりますか?
積立てから5年を経過した準備金は、強制的に取り崩されて所得(益金)に算入されます。つまり「使わなかった分は結局課税される」ことになります。5年経過前に農業経営改善計画を更新するか、資産の取得を前倒しにするなどの対策が必要です。
中古のトラクターを買っても圧縮記帳は適用できますか?
農業経営基盤強化準備金を使った圧縮記帳は、新品の農業用固定資産のみが対象です。中古資産は対象外となります。ただし、準備金とは別に、国や地方公共団体から受ける一般の補助金で中古資産を取得した場合は、法人税法第42条等による通常の圧縮記帳が適用できる可能性があります。
準備金を積み立てると国民健康保険料も安くなりますか?
はい。国民健康保険料は課税所得(農業所得)に基づいて計算されるため、準備金の積立で所得が減少すれば保険料も軽減されます。市町村によって料率は異なりますが、介護保険を含めると所得の10%前後が保険料として計算されるケースもあり、準備金積立200万円なら約20万円の保険料軽減が見込めます。
複数の交付金を受け取っている場合、合算して積み立てられますか?
はい。ゲタ対策、ナラシ対策、水田活用交付金の全てが対象であれば、合算した金額を積立の対象にできます。ただし、積立限度額は合算した交付金の額とその年の農業所得の金額のうちいずれか少ない方が上限です。農林水産大臣の証明書も、合算した金額で申請可能です。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 農業経営基盤強化準備金は、対象交付金を最大5年間積み立てて必要経費(損金)に算入できる制度
- 積立限度額は「交付金の額」と「農業所得の金額」のいずれか少ない方
- 準備金を取り崩して農用地・農業用機械等(新品・30万円以上)を取得すれば、圧縮記帳で課税をほぼ相殺できる
- 令和7年度以降は地域計画への「農業を担う者」としての位置付けが必須要件に追加
- 5年経過で強制取崩しとなるため、計画的に資産取得のタイミングを管理する
- 対象外の補助金でも、固定資産取得に充てれば一般の圧縮記帳が適用できる場合がある
- 農産物の棚卸は生産原価法による簡便評価が可能だが、穀類は省略不可
農業経営基盤強化準備金は農業経営者にとって最も効果の高い節税ツールのひとつです。「交付金を受け取ったらまず準備金を検討する」という意識を持つことで、5年間で数百万円の税負担を軽減できます。制度の活用には青色申告・認定農業者の要件に加え、農業経営改善計画への記載や農林水産大臣の証明書など手続きが必要ですので、早めの準備をおすすめします。
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