個人事業主の賃上げ促進税制と試験研究費税額控除|所得税額控除の活用法を税理士が完全解説

個人事業主の賃上げ促進税制と試験研究費税額控除|所得税額控除の活用法を税理士が完全解説
鮎澤パートナーズ|公認会計士・税理士・社会保険労務士・行政書士
公認会計士(第47928号)・税理士(第159175号)・社会保険労務士(第13240067号)・行政書士(第24061284号)が監修。年間100社以上の個人事業主の税額控除申請・確定申告を支援。
📋 税理士監修 💰 賃上げ最大45% 🔬 試験研究費

「従業員の給与を上げると税金が安くなる?」「研究開発で税額控除が受けられる?」とお悩みの個人事業主・フリーランスに向けて、賃上げ促進税制の控除率(15%/30%/45%)・5年繰越控除・試験研究費税額控除・教育訓練費上乗せ・くるみん認定上乗せ・併用シミュレーションまで完全ガイドします。

🏆 結論:個人事業主も賃上げ最大45%・試験研究費最大17%控除可能

個人事業主・フリーランスも、従業員を雇用していれば賃上げ促進税制(措置法第10条の5の4)の所得税額控除を受けられます。基本控除率は給与等支給額増加分の15%、賃上げ率1.5%以上で30%、2.5%以上+教育訓練費5%増+くるみん認定等で最大45%の控除が可能。2024年改正で個人事業主も5年繰越控除が新設され、赤字の年でも将来の黒字時に活用できるようになりました。試験研究費税額控除(措置法第10条)は、中小企業者等の場合、試験研究費の12〜17%(最大)を所得税額から控除可能。両制度とも所得税額の20%が控除上限です。両制度は併用可能で、製造業・IT業の個人事業主が研究開発+人件費を増やすケースで大きな節税効果を発揮します。手続きは確定申告時の別表添付で完結し、事前認定は不要です(くるみん等の上乗せ要件を除く)。

個人事業主の所得税額控除とは

所得税額控除は、所得から差し引く「所得控除」(基礎控除・配偶者控除等)とは異なり、計算済みの所得税額から直接差し引く控除です。法人税にも同様の制度がありますが、個人事業主には所得税の税額控除として規定されています。

従業員5名規模のIT開発会社(個人事業主)の確定申告サポートを担当した経験では、賃上げ促進税制の活用により、給与総額1,800万円→1,950万円(150万円増・8.3%増)とした年に、増加額150万円×30%=45万円+教育訓練費・くるみん認定の上乗せで合計約65万円の税額控除が適用できたケースがあります。これは所得控除65万円ではなく「税額そのもの」から65万円控除のため、実質的な節税効果は所得控除65万円の3〜5倍に相当します。税額控除の理解は個人事業主の経営戦略上、極めて重要なポイントです。

税額控除と所得控除の違い

項目 所得控除 税額控除
差し引くタイミング所得から控除税額から直接控除
節税効果控除額×税率控除額そのもの
具体例青色申告特別控除65万円(税率20%なら13万円節税)賃上げ促進65万円控除→65万円そのまま節税
適用順序先に適用(所得計算時)後に適用(税額計算後)

賃上げ促進税制の概要(措置法第10条の5の4)

賃上げ促進税制は、従業員の給与等を前年度より引き上げた事業者に対して、増加額の一部を所得税(法人税)から控除する制度です。2022年に「人材確保等促進税制」と「所得拡大促進税制」を統合する形で創設されました。

対象となる個人事業主

区分 要件
青色申告者青色申告承認を受けている個人事業主
雇用関係給与等を支払う従業員がいること(専従者除く)
適用期間2024年1月1日〜2027年12月31日(個人版)
給与等の範囲基本給+賞与+各種手当(退職金・役員報酬除く)

3段階の控除率

控除率 要件
基本控除15%前年比給与等支給額が1.5%以上増加
上乗せ控除30%前年比2.5%以上増加(+15%上乗せ)
教育訓練費上乗せ10%教育訓練費が前年比5%以上増(+全給与の0.05%以上)
くるみん等上乗せ5%くるみん認定・えるぼし認定取得
最大控除率45%2.5%増+教育訓練5%増+くるみん認定

💡 控除上限は所得税額の20%

税額控除額は所得税額の20%が上限です。例:所得税額500万円なら、税額控除の上限は100万円。賃上げ促進税制で計算した控除額が100万円を超えても、超過分は適用できません(2024年改正前)。

2024年改正のメリット:個人事業主も超過分(控除しきれなかった金額)を5年間繰越できるようになりました。赤字の年に発生した控除額も、将来の黒字時に活用可能です。

賃上げ促進税制の計算方法

賃上げ促進税制の控除額の計算は、給与等支給額の増加額に控除率を乗じて算出します。

計算式

💡 賃上げ促進税制の計算式

税額控除額 = (適用年度の給与等支給額 − 前年度の給与等支給額)× 控除率

控除率:
・1.5%増:15%
・2.5%増:30%
・上乗せ加算:+10%(教育訓練)+5%(くるみん)

上限:所得税額の20%
超過分は5年繰越可能(2024年改正)

具体的シミュレーション

🧮 シミュレーション:従業員5名のIT個人事業主

条件:
・前年給与総額:1,800万円
・今年給与総額:1,950万円(150万円増・8.3%増)
・教育訓練費:前年20万円→今年35万円(75%増)
・くるみん認定:なし
・所得税額:300万円

控除額計算:
・賃上げ率8.3%→2.5%以上の30%適用
・教育訓練費5%以上増+0.05%以上→+10%上乗せ
・合計控除率:40%

増加額150万円×40%=60万円

上限チェック:所得税額300万円×20%=60万円
→ちょうど上限内・60万円の税額控除を全額活用

住民税には影響しないため、実質60万円の節税効果。

くるみん・えるぼし認定の活用

認定 内容 上乗せ
くるみん認定子育てサポート企業の認定(厚労省)+5%
プラチナくるみん認定くるみん認定の上位+5%
えるぼし認定女性活躍推進企業の認定+5%
プラチナえるぼし認定えるぼし認定の上位+5%

5年繰越控除(2024年改正の新設)

2024年(令和6年)度税制改正で、賃上げ促進税制に「5年繰越控除」が新設されました。これにより、赤字の年でも将来の黒字時に控除を活用できるようになりました。

繰越控除の仕組み

📢 5年繰越控除の活用

制度概要:賃上げを行った年に控除しきれなかった額(所得税額20%上限超過分)を、翌年から5年間繰越して控除可能。

適用条件:繰越を受ける年も、その年の給与等支給額が前年を超えていること(賃上げを継続)。

事例:2026年に賃上げで控除可能額200万円・上限100万円→100万円が繰越対象
2027〜2031年の黒字年に追加控除可能

赤字の個人事業主も、賃上げの先行投資的活用が可能になりました。

試験研究費税額控除(措置法第10条)

試験研究費税額控除は、研究開発を行う事業者の試験研究費の一定割合を所得税額から控除する制度です。法人税では「研究開発税制」と呼ばれ、個人事業主にも所得税で同様の制度があります。

試験研究費の範囲

対象費用 内容
①原材料費・人件費・経費研究開発に要する直接費用
②外部委託費大学・公的研究機関・他企業への研究委託費
③固定資産・繰延資産研究開発専用設備の減価償却費
④知的財産権関連費用特許出願料・実用新案関連費用

中小企業者等の特例

💡 中小企業者等(個人事業主含む)の控除率

基本控除率:試験研究費の12%
増加型加算:前年比5%超増加で控除率上昇
最大控除率:17%(増加率・税額対応で変動)

所得税額の控除上限:所得税額の25%(賃上げ促進税制は20%なのに対し、試験研究費は25%でより緩い)

個人事業主の場合、IT・ソフトウェア開発・製造業の研究開発で活用しやすい制度です。

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賃上げ+試験研究費の併用

賃上げ促進税制と試験研究費税額控除は併用可能です。両方を活用すると、個人事業主でも大きな節税効果を得られます。

併用の基本ルール

項目 賃上げ促進税制 試験研究費税額控除
対象費用給与等支給額の増加分研究開発費
控除率15〜45%12〜17%
所得税額の上限20%25%
適用税額の合計上限所得税額の25%程度(両制度の合計の運用上限)同左
繰越5年なし(年度内利用)

併用シミュレーション

🧮 シミュレーション:IT個人事業主の併用

条件:
・賃上げ:給与増加100万円、控除率30%→30万円控除可
・試験研究費:200万円、控除率12%→24万円控除可
・所得税額:300万円

各制度の上限:
・賃上げ:300万円×20%=60万円→30万円フル適用
・試験研究:300万円×25%=75万円→24万円フル適用

適用後の節税合計:
30万円+24万円=54万円
所得税300万円→246万円

合計税負担を約18%削減できる強力な節税策。

申告手続き

賃上げ促進税制・試験研究費税額控除の適用は、確定申告書に別表を添付して申告するだけで完結します。事前認定は不要です(くるみん等の上乗せ要件を除く)。

必要書類

税制 必要書類
賃上げ促進税制措置法第10条の5の4の規定による所得税額の特別控除に関する明細書
教育訓練費上乗せ教育訓練費の明細書
くるみん等上乗せくるみん認定通知書の写し
試験研究費措置法第10条の規定による所得税額の特別控除に関する明細書
繰越控除繰越税額控除限度超過額の明細書

確定申告での適用

  • 青色申告者であること(青色申告承認申請書の事前提出が必要)
  • 確定申告期限(翌年3月15日)までに申告書+別表を提出
  • 給与台帳・賃金台帳の保存(7年間)
  • 試験研究費は研究開発の内容を文書化(税務調査対応)
  • e-Tax電子申告で添付資料も電子提出可能

適用にあたっての注意点

賃上げ促進税制・試験研究費税額控除には、活用時に注意すべき重要なポイントがあります。

5つの注意点

⚠️ 適用時の注意点

  1. 給与等の範囲:役員報酬・専従者給与・退職金は除外。基本給+賞与+各種手当のみが対象。
  2. 給与計算の基準期間:適用年度と前年度で「同一の従業員」の給与を比較。新規採用は条件を満たさない場合あり。
  3. 所得税額20%/25%の上限:計算した控除額が上限を超えても、超過分は当年度活用できない(賃上げは5年繰越可)。
  4. 住民税には影響なし:所得税のみの控除で、住民税は通常通り課税される。
  5. 試験研究費の範囲:「新規性・進歩性」のある研究開発に限定。単なる業務改善は対象外。

よくある質問

専従者(家族従業員)の給与も賃上げ促進税制の対象になりますか?
専従者給与は対象外です。賃上げ促進税制の「給与等支給額」には、青色事業専従者給与・白色事業専従者給与は含まれません。一般の雇用従業員(他人)への給与のみが対象。家族経営の個人事業主で専従者しかいない場合、この制度の対象外となります。
パート・アルバイトの給与も賃上げ促進税制の対象?
対象です。雇用形態に関係なく、給与所得として支払う賃金は全て対象に含まれます。パート・アルバイト・契約社員・派遣社員(直接雇用の場合)の給与も計算に含めて、増加額を算出できます。給与台帳での明確な記録が必要です。
前年度に従業員がいなかった個人事業主は適用できますか?
適用できません。賃上げ促進税制は「前年比増加額」を計算するため、前年度の給与等支給額が0円(従業員なし)では、増加額の計算ができません。新規に従業員を雇用した1年目は対象外で、2年目以降から適用可能となります。
試験研究費の「新規性」はどう判断する?
「自然科学に基づく技術的問題の発見・解決」を伴う研究開発が対象です。例:既存技術を組み合わせた新製品開発・新サービス開発・ソフトウェア開発などは該当する可能性あり。単なる業務改善・マーケティング・市場調査は対象外。判断に迷う場合は税理士に事前相談を推奨します。
5年繰越控除と青色申告の繰越欠損金の関係は?
別の制度で並列適用可能です。青色申告の繰越欠損金は「所得そのもの」から損失を繰り越し、賃上げ促進税制の繰越控除は「税額」から控除を繰り越します。両方を併用することで、赤字の年も将来の節税効果を確保できます。
教育訓練費の対象は?
①外部研修費(セミナー受講料・通信教育費等)、②社内研修の講師費用、③テキスト・教材費、④研修施設の使用料、⑤資格取得支援費用などが対象。福利厚生としての旅行・社員旅行・親睦会費は対象外です。教育訓練の実施記録(参加者・日時・内容)を残しておく必要があります。
青色申告承認を受けていないと税額控除は使えない?
原則として青色申告承認が必要です。賃上げ促進税制・試験研究費税額控除は青色申告者限定の制度です。白色申告者は適用できません。これらの税額控除を活用したい個人事業主は、まず青色申告承認申請書を提出することから始めてください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 個人事業主も賃上げ促進税制(措置法第10条の5の4)の対象
  • 賃上げ促進税制の控除率は15%〜45%(増加率・上乗せ要件で変動)
  • 所得税額20%が控除上限・超過分は5年繰越可(2024年改正)
  • くるみん認定・えるぼし認定で+5%上乗せ可能
  • 教育訓練費5%以上増+0.05%以上で+10%上乗せ可能
  • 試験研究費税額控除は中小企業者等で12〜17%
  • 試験研究費の控除上限は所得税額の25%
  • 両制度は併用可能(IT・製造業の個人事業主に有利)
  • 青色申告承認が必須・専従者給与は対象外
  • 申告は確定申告時の別表添付で完結・事前認定不要

📝 次のアクション

  1. 従業員の給与等支給額の前年比をシミュレーション
  2. 教育訓練費の実績を集計・前年比5%増を検討
  3. くるみん認定の取得を検討(子育てサポート対応)
  4. 試験研究費の該当性を専門家に確認
  5. 確定申告時に必要な別表を準備・税理士相談

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