給与に係る源泉所得税の納税地|支払事務所の開設・移転・廃止届を税理士が完全解説

給与に係る源泉所得税の納税地|支払事務所の開設・移転・廃止届を税理士が完全解説
鮎澤パートナーズ|公認会計士・税理士・社会保険労務士・行政書士
公認会計士(第47928号)・税理士(第159175号)・社会保険労務士(第13240067号)・行政書士(第24061284号)が監修。年間100社以上の源泉所得税納付・給与計算実務を支援。
📋 税理士監修 📌 支店本店判定 🔄 異動届

「本店と支店で源泉所得税の納税地はどうなる?」「事務所移転時の納付先は?」とお悩みの経理担当者・経営者に向けて、給与の源泉所得税の納税地ルール・本店支店判定・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書・合併分割時の納税地承継まで完全ガイドします。

🏆 結論:納税地は給与支払事務を取り扱う事務所等の所在地

給与に係る源泉所得税(復興特別所得税含む)の納税地は、「支払事務を取り扱う事務所や事業所等のその給与等の支払の日における所在地」です(国税庁No.2532・所得税法第17条)。本店・支店・営業所のいずれで給与支払事務を行うかにより、納付先の税務署が変わります。支店で給与計算・支払いを行っている場合は支店の所在地の税務署に納付し、複数の事務所で給与支払事務を行う場合は、各事務所ごとに納付します。新たに支店等で給与支払事務を開始した場合は「給与支払事務所等の開設届出書」を1ヶ月以内に提出する義務があります(所得税法第230条)。事務所を移転した場合は、移転後の事務所の所在地が納税地となり、移転届の提出が必要。支店を閉鎖した場合も、本店等の他の給与支払事務所に納税地が引き継がれる仕組みです。合併・分割時の納税地承継ルールも重要です。

給与源泉所得税の納税地の基本原則

給与の源泉所得税(復興特別所得税含む)の納税地は、所得税法第17条に基づき「給与支払事務を取り扱う事務所や事業所等の所在地」と定められています。これは個人事業主の所得税申告の納税地(住所地等)とは異なるルールです。

従業員150名規模で本社+3支店体制のIT企業の源泉所得税納付実務を担当した経験では、本社で給与計算を一元管理していたケースで、各支店の納税地を「支店所在地」と誤認して、各支店所在地の税務署に源泉所得税を分散納付していたミスが発覚しました。正しくは本社で給与支払事務を行っているため本社所在地の税務署に一括納付が必要で、過去2年分の納付先変更手続き+各税務署との修正対応で約2ヶ月の事務負担が発生しました。納税地の正確な判定は事務効率と法令遵守の両方の観点で重要です。

基本ルールの整理

論点 ルール
納税地給与支払事務を取り扱う事務所等の所在地
判定基準給与等の支払の日における所在地
納付期限原則:給与支給月の翌月10日まで
納期特例給与支払対象人員10人未満で半年まとめ納付可能(7月10日・翌年1月20日)
根拠法令所得税法第17条・第230条

本店・支店・営業所の納税地判定

会社の場合、本店・支店・営業所のどこで給与支払事務を行うかによって納税地が決まります。一般的なパターンを整理します。

給与支払事務所の判定マトリクス

給与計算・支払場所 納税地 納付先税務署
本社で一元管理(全従業員分)本社所在地本社所轄税務署(一括納付)
各支店で個別管理各支店所在地各支店所轄税務署(分散納付)
本社で給与計算・支店で支払支店所在地支店所轄税務署(支払地優先)
在宅勤務者を本社管理本社所在地本社所轄税務署

💡 「支払事務を取り扱う」とは

「支払事務を取り扱う」とは、以下の業務を実質的に行うことを指します:
・給与計算(基本給+各種手当+源泉徴収税の計算)
・給与支払の意思決定
・給与支払の実行(振込手続き等)
・源泉徴収税の納付手続き

本社で給与計算をして、現金支給だけ支店で行う場合、実質的な事務所は本社となります。一方、支店で計算・意思決定・支払・納付の全てを行う場合は、支店が事務所となります。

給与支払事務所等の開設届出書

新たに給与支払事務所等を開設した場合(個人事業主の開業時・新規支店開設時等)、開設日から1ヶ月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する義務があります(所得税法第230条)。

開設届出書の概要

項目 内容
提出書類名給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
提出義務者給与支払事務を取り扱う事業者(法人・個人事業主)
提出先給与支払事務所等の所在地の所轄税務署
提出期限事実発生日(開設・移転・廃止日)から1ヶ月以内
手数料無料
罰則明確な罰則規定なし(ただし納付書が送られない)

個人事業主の特例

📢 個人事業主の開業届と兼用

個人事業主が開業時に「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出する際、「給与等の支払の状況」欄に従業員数・給与方法を記入していれば、給与支払事務所等の開設届出書の提出は不要です。

ただし、開業届の段階で従業員雇用予定がなく、後から雇用する場合は、その時点で給与支払事務所等の開設届出書の提出が必要となります。

給与支払事務所の移転届

給与支払事務所を移転した場合は、移転日から1ヶ月以内に届出が必要です。移転届の提出先は移転前の事務所所在地の所轄税務署です(国税庁の重要ポイント)。

移転届の3つの重要ルール

論点 ルール
①届出書の提出先移転前の事務所所在地の所轄税務署
②納税地の変更移転後は新所在地が納税地
③過去支給分の納税地移転後の事務所所在地が納税地(国税庁No.2532)

移転事例(国税庁No.2532より)

🧮 シミュレーション:支店移転時の納付先

条件:
・3月1日に所在地Aから所在地Bに給与支払事務所を移転
・2月分の給与:移転前の所在地Aで2月25日に支払・源泉徴収済み
・3月10日に源泉所得税を納付予定

納付先の判定:
支払日(2月25日)以降に事務所が移転(3月1日)した場合、移転後の所在地B所轄の税務署に納付します(国税庁No.2532)。

これは「移転前の支払い分でも、支払日後に事務所が移転していれば移転後の納税地となる」というルール。納付書の所在地表記も新所在地で記載します。

給与支払事務所の廃止届

給与支払事務所を廃止した場合(事業廃止・支店閉鎖等)も、廃止日から1ヶ月以内に廃止届を提出します。

廃止の判定基準

事象 廃止届提出 理由
事業全体の廃業必要給与支払事務所も廃止
支店閉鎖(本店は継続)不要本店等に納税地引継ぎ(廃止届の代わりに本店扱い)
支店閉鎖・本店なし必要引継ぎ先がない場合
事業はあるが従業員0人に必要給与支払事務がなくなる

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合併・分割時の納税地承継

法人の合併や分割が行われた場合、消滅する法人の給与支払事務所の納税地は、合併法人または分割承継法人の給与支払事務所所在地に引き継がれます。

合併・分割の納税地承継ルール

事象 納税地承継
吸収合併(A社→B社)A社の給与支払事務所の納税地はB社の給与支払事務所所在地(本店または支店)に引継
新設合併(A社+B社→C社)両社の納税地はC社の給与支払事務所所在地に引継
会社分割(A社→A社+D社)分割で承継した事業に係る納税地はD社の給与支払事務所所在地に引継

合併・分割時の届出手続き

  • 消滅法人:給与支払事務所等の廃止届出書を提出
  • 承継法人:新たに事務所を取得する場合は開設届出書を提出
  • 既存の承継法人事務所への引継ぎなら、移転届出書で対応
  • 提出期限はすべて1ヶ月以内

非居住者への支払いの納税地

非居住者(海外在住者)に対する給与等を国外で支払う場合の納税地は特殊なルールがあります。

非居住者支払の納税地ルール

💡 非居住者への国外支払の納税地

非居住者に対し国内源泉所得となる給与等が国外において支払われ、その支払者の事務所等が国内にある場合:

納税地:支払者の国内にある事務所等の所在地
事務所が2つ以上ある場合:主たる事務所等の所在地

これは海外駐在員への給与支払・海外子会社への出向者への給与支払等で発生する論点です。国際税務の専門家への相談が必要となります。

役員賞与のみなし支払時の納税地

役員に対する賞与で支払確定後1年を経過した日までに支払がない場合、その1年を経過した日に支払があったとみなされて源泉徴収が必要となります(所得税法第183条但書)。

みなし支払時の納税地

論点 ルール
みなし支払日支払確定日から1年を経過した日
納税地1年経過日に支払をするとした場合に、支払事務を取り扱うと認められる事務所等の所在地
納付期限みなし支払日の翌月10日まで

納期特例との関係

給与支払対象人員が10人未満の事業者は「源泉所得税の納期の特例」を活用すれば、半年に1回まとめて納付できます。

納期特例の概要

期間 対象期間 納付期限
上半期1〜6月支給分7月10日
下半期7〜12月支給分翌年1月20日

納期特例は給与・退職金・士業報酬(原稿料等は対象外)に適用されます。本店・支店ともに納期特例の対象となるため、複数の納税地を持つ事業者でも各納税地ごとに半年まとめ納付が可能です。

復興特別所得税

給与の源泉所得税には、所得税と一緒に「復興特別所得税」が課されます。これは平成25年から令和19年(2037年)まで続く時限的な税金で、源泉所得税額の2.1%が上乗せされます。

復興特別所得税の計算

💡 復興特別所得税の計算式

復興特別所得税 = 源泉所得税額 × 2.1%

例:給与から源泉徴収する所得税額が5,000円の場合
復興特別所得税:5,000円×2.1%=105円
合計:5,000円+105円=5,105円を給与から控除

納付時は所得税と復興特別所得税を合算した金額を、納付書に記載して納付します。

よくある質問

本社で全従業員の給与計算をしている場合、支店で開設届は必要?
不要です。給与支払事務を取り扱う事務所は「本社のみ」となるため、支店所在地で給与支払事務所等の開設届を提出する必要はありません。支店勤務の従業員の源泉所得税も、本社所在地の所轄税務署に納付します。支店開設時に「給与支払事務もそちらで行う」場合のみ、支店所在地の所轄税務署への開設届出が必要です。
事務所移転後、移転届を出すのを忘れた場合の対応は?
気づいた時点ですぐに移転届を提出してください。罰則は通常ありませんが、納付書が古い住所に送られ続けるリスクがあります。納付期限を過ぎると不納付加算税(10%)+延滞税が発生する可能性があるため、早めの対応が必要です。電子納付(e-Tax)を活用していれば、紙の納付書なしで納付できるためリスクは下がります。
在宅勤務の従業員がいる場合、納税地はどうなる?
在宅勤務でも、給与支払事務を行う事務所(通常は本社)の所在地が納税地です。従業員の自宅は納税地になりません。コロナ禍でも基本ルールは変わらず、本社で給与計算・支払・源泉徴収を行っているなら、本社所在地が納税地となります。
支店を閉鎖したのに、廃止届を出していなかった場合は?
支店閉鎖時に本店等の他の給与支払事務所がある場合、廃止届の提出は不要で、自動的に本店等への納税地引継ぎとなります。ただし、税務署からの納付書が支店所在地に送られ続ける可能性があるため、移転届として処理することが推奨されます。完全に給与支払事務所がなくなる場合(全廃業時)は廃止届が必要です。
複数の支店で給与支払事務を行っている場合、納付書は支店ごと?
そうです。各支店の所在地の所轄税務署ごとに納付書が必要です。支店A・B・Cそれぞれで給与計算・支払を行っているなら、3つの納付書を税務署ごとに作成・納付します。事務負担が大きいため、本社一元管理の方が効率的なケースが多くあります。
合併によって消滅する会社の源泉所得税はどう処理する?
消滅会社の最後の給与支給分までの源泉所得税は、合併日までに納付完了させるのが理想です。納付済みの記録を整理して合併承継法人に引き継ぎます。合併日後の源泉所得税は、承継法人の納税地で処理します。源泉徴収票も合併日前後で分けて作成し、年末調整は合併承継法人が引継ぎ実施します。
国税庁No.2532の事例で、移転前の支払分の納付書はどう書くべき?
納付書には移転後の事務所所在地を記載します(国税庁No.2532)。これは納付時点での納税地ルールに基づくためです。納付書を取り寄せる際は、移転後の所在地の所轄税務署から最新の用紙を入手してください。納付書記載の住所が古いと、税務署側の処理で混乱が生じる可能性があります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 給与源泉所得税の納税地は給与支払事務を取り扱う事務所等の所在地
  • 本社一元管理なら本社所在地・支店ごとなら各支店所在地
  • 給与支払事務所等の開設届出書は事実発生から1ヶ月以内
  • 移転届の提出先は移転前の事務所所在地の所轄税務署
  • 移転後の支払分は移転後の所在地の納税地となる
  • 支店閉鎖時は本店等への納税地引継ぎが原則
  • 合併・分割時は承継法人の事務所所在地に納税地引継ぎ
  • 非居住者への国外支払時は国内事務所所在地が納税地
  • 復興特別所得税は所得税×2.1%(令和19年まで)

📝 次のアクション

  1. 自社の給与支払事務所の所在地を確認(本社・支店どこか)
  2. 移転・閉鎖予定がある場合は1ヶ月以内の届出を準備
  3. 給与支払対象人員10人未満なら納期特例届出を検討
  4. 合併・分割予定がある場合は事前に税理士に相談
  5. 非居住者への給与支払がある場合は国際税務の専門家へ相談

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