【社労士×税理士が解説】同一労働同一賃金の実務対応|不合理な待遇差の点検・説明義務と2025年改正ガイドライン

【社労士×税理士が解説】同一労働同一賃金の実務対応|不合理な待遇差の点検・説明義務と2025年改正ガイドライン
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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同一労働同一賃金の実務対応|不合理な待遇差の点検・説明義務と2025年改正ガイドライン

正社員とパート・契約社員の待遇差に不安を抱える中小企業経営者・人事担当者に向けて、同一労働同一賃金の実務対応を完全ガイドします。この記事を読めば、2025年改正ガイドラインを踏まえた待遇差の点検手順、説明義務への対応、不合理な待遇差の判断基準が明確になります。

🏆 結論:7つの待遇項目の点検と「待遇差説明書」の準備が実務対応の核心

同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月より全面施行・中小企業含む)に基づく法的義務です。2025年11月21日に厚生労働省が同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案を公示し、特に賞与・退職金の不合理な待遇差の判断がより明確化されました。実務対応の核心は、①基本給②賞与③各種手当④福利厚生⑤教育訓練⑥休暇⑦その他の7項目について待遇差を点検し、それぞれに「職務内容・配置変更範囲・その他の事情」で合理的説明ができるかを検証することです。労働者から求めがあれば事業主は待遇差の内容と理由を口頭または書面で説明する義務があり、不合理な待遇差は損害賠償請求の対象となります。事前に「待遇差説明書」を整備しておくことで、質問対応と訴訟リスクの双方に対処できます。

同一労働同一賃金とは|パートタイム・有期雇用労働法の基本

同一労働同一賃金とは、同一企業内における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す政策です。

根拠法令と施行時期

対象 根拠法令 施行時期
パートタイム労働者・有期雇用労働者パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条大企業:2020年4月1日
中小企業:2021年4月1日(全面施行)
派遣労働者労働者派遣法第30条の3・第30条の42020年4月1日

2つの禁止規定|均等待遇と均衡待遇

パートタイム・有期雇用労働法は、2つの異なる禁止規定を設けています。 ① 均等待遇(第9条)=「差別的取扱いの禁止」 ② 均衡待遇(第8条)=「不合理な待遇差の禁止」

💡 実務上はほとんど均衡待遇の世界

実務では、正社員とパート・有期社員の職務内容や配置変更範囲が完全に同一であるケースは稀で、大半が「均衡待遇(第8条)」の判断となります。配置転換の有無、責任の程度、転勤の範囲等に違いがあれば均衡待遇のゾーンに入るため、その違いに応じた合理的な待遇差は認められます。ポイントは「違いがあるからOK」ではなく、「違いの程度に応じた合理的な待遇差なら許容される」という構造です。

2025年11月改正ガイドライン|賞与・退職金の判断が明確化

2025年11月21日、厚生労働省は同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案を公示しました。この改正は、これまでの裁判例(名古屋自動車学校事件・大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件等)を反映して、不合理な待遇差の判断基準をより明確化したものです。

主な改正ポイント

待遇項目 改正前の考え方 2025年11月改正後の考え方
賞与企業の裁量が比較的広く認められていた業績貢献度に応じた支給が必要。一律不支給は原則不合理
退職金企業の裁量が大きいとされていた長期勤続を前提とする職務なら支給の検討が必要
定年後再雇用定年前後の賃金格差は比較的容認業務内容が同じなら大幅減額は不合理(名古屋自動車学校事件反映)
資料の明文化口頭説明で可職務内容・配置変更範囲・人材活用の資料整備が推奨

参考: 厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

待遇差点検の7つの項目|実務チェックリスト

実務では、以下の7つの待遇項目について、正社員と非正規社員の待遇差を点検します。

点検項目と判断の方向性

項目 判断ポイント 不合理となりやすいパターン
①基本給職務内容・能力・経験・業績への貢献同じ業務内容で能力・経験も同等なのに大幅な格差
②賞与業績・貢献度への対価正社員に業績連動賞与、非正規には一律不支給
③各種手当手当の支給目的との整合性通勤手当・時間外手当・精皆勤手当が非正規のみ支給されない
④福利厚生利用実態に見合う必要性社員食堂・休憩室・更衣室を非正規が利用できない
⑤教育訓練職務に必要な能力付与現在の職務に必要な訓練を非正規に提供しない
⑥休暇法定・慶弔等の必要性慶弔休暇・病気休暇が非正規のみ不適用
⑦退職金長期勤続の貢献への報酬長期勤続を前提とする職務で非正規に一律不支給

判断の枠組み|3つの要素の総合考慮

不合理性は、以下3つの要素を総合的に考慮して判断されます(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
  1. 職務の内容:業務の内容および当該業務に伴う責任の程度
  2. 職務の内容・配置の変更の範囲:人材活用の仕組み、すなわち配置転換、役割の変化の範囲
  3. その他の事情:職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労働組合との交渉等

⚠️ 「非正規だから」という理由は認められない

最高裁判決(ハマキョウレックス事件平成30年6月1日)により、「正社員だから支給する、非正規だから支給しない」という雇用形態のみを理由とした待遇差は不合理と判断されます。雇用形態の違いではなく、上記3要素の違いから説明できる待遇差のみが許容されます。

各待遇項目の具体的な判断例

ガイドラインに示された典型的な判断例を、待遇項目ごとに整理します。

基本給の判断例

💡 基本給のOK例/NG例

OK例
・能力を高く評価して支給する正社員に対し、能力が同等ではないパートの基本給が低い
・長期勤続を前提として将来の役職登用を予定している正社員の基本給が、固定業務のパートより高い

NG例
・同じ業務を同じ時間行っているのに、雇用形態のみで基本給に大きな差
・勤続5年の有期契約労働者に対し、同じ業務を行う勤続5年の正社員と比べ大幅に低い基本給

賞与の判断例(2025年改正で厳格化)

⚠️ 賞与の一律不支給は高リスク

2025年11月の改正ガイドラインでは、賞与について「会社の業績への労働者の貢献」に応じて支給されるべきとされ、正社員と同じように業績に貢献している非正規労働者に一切支給しないことは不合理と明示されました。実務的には、非正規にも寸志程度の賞与(年5万円程度以上)を支給するか、正社員と賞与額の差異の合理的理由を明文化する必要があります。

各種手当の判断例

手当は支給目的に照らして均等性を判断することが重要です。
手当 支給目的 非正規への支給要否
通勤手当通勤費用の実費補填原則支給必要(同一基準)
食事手当食事費用の補助原則支給必要
精皆勤手当出勤奨励原則支給必要
時間外割増賃金時間外労働への対価同一割増率で支給必要(労働基準法第37条)
深夜割増賃金・休日割増賃金深夜・休日労働への対価同一割増率で支給必要
役職手当役職に伴う責任役職が同じなら同額
住宅手当生活費補助転勤有無により判断が分かれる(転勤を伴う正社員のみは許容されうる)
家族手当扶養家族生活費補助扶養家族の有無と雇用形態の関係性がなく、支給が推奨

福利厚生の判断例

社員食堂、休憩室、更衣室、転勤者用住宅、健康診断、慶弔休暇、病気休暇等の福利厚生は、「雇用形態に関わらず同様の利用を認める」のが原則です。

定年後再雇用の取扱い|名古屋自動車学校事件を受けて

定年後再雇用社員の待遇は、同一労働同一賃金の文脈で特に注目されている論点です。

名古屋自動車学校事件の概要

名古屋自動車学校事件は、定年後の再雇用で基本給・賞与が定年前の60%を下回ったことが不合理かどうかが争われた事件です。2023年7月20日の最高裁判決では、以下が示されました。

💡 実務の対応

定年後再雇用で大幅な減額を行う場合は、業務内容・責任の程度を定年前と明確に変える必要があります。たとえば①役職を外す(ノルマ・部下マネジメント解除)、②転勤範囲を制限、③勤務日数・時間を減らす等の実質的な職務変更を伴えば、60〜70%程度の賃金減額は許容される可能性が高まります。業務内容を変えずに賃金だけ下げる運用は訴訟リスクが極めて高くなります。

説明義務への対応|「待遇差説明書」の作成

パートタイム・有期雇用労働法第14条は、事業主に対して労働者への2つの説明義務を課しています。

説明義務の2つの場面

場面 根拠 説明事項
①雇入れ時の説明義務法第14条第1項雇用管理上の措置内容(賃金制度、教育訓練、福利厚生等)
②労働者からの求めに応じた説明義務法第14条第2項正社員との待遇差の内容・理由、待遇決定の際に考慮した事項

「待遇差説明書」の構成要素

労働者から説明を求められたときに速やかに対応するため、事前に「待遇差説明書」を作成しておくことを強く推奨します。

📋 待遇差説明書の構成要素(鮎澤パートナーズ独自整理)

  • 第1章:会社と比較対象の正社員の概要(役職、業務内容、配置変更範囲)
  • 第2章:自社のパート・有期社員の概要(同上)
  • 第3章:待遇項目別の比較(7項目を一覧表で整理)
  • 第4章:待遇差の内容(具体的な金額・日数の差異)
  • 第5章:待遇差の理由(職務内容・配置変更範囲・その他の事情)
  • 第6章:待遇決定の際に考慮した事項(人事制度、労使慣行、組合との協議等)
  • 第7章:改善の取組状況(賃金規定の改定、賞与支給制度の拡充等)

説明方法|書面か口頭か

説明方法は、書面交付のほか、口頭でも可能です。ただし、口頭説明の場合は「説明実施日・説明内容・説明者・受領者」を記録した書面を残しておくことが、後の紛争防止に有効です。弊所の実務では、待遇差説明書を書面で交付した上で口頭説明を実施し、「説明確認書」に労働者の署名をもらう運用を推奨しています。

違反時のリスク|損害賠償・労基署指導・社会的信用失墜

同一労働同一賃金違反のリスクは多岐にわたります。

民事上のリスク|損害賠償請求

不合理な待遇差があった場合、労働者は事業主に対して差額分の損害賠償請求が可能です(民法第709条の不法行為責任または契約上の債務不履行)。労働契約法第3条第2項の均衡考慮規定も根拠となり得ます。

🧮 損害賠償額のシミュレーション

【前提】有期契約労働者Aさん(勤続5年)が正社員と比較して月5万円の不合理な基本給差があったと判決
・月5万円×12か月×3年分(消滅時効)=180万円の損害賠償
・同様の状況の労働者が10名いた場合:10名×180万円=1,800万円の支払義務
・弁護士費用、遅延損害金、慰謝料を含めれば総額はさらに拡大
※3年は賃金債権の消滅時効(民法第166条第1項第1号の改正後)

行政上のリスク|労働基準監督署・都道府県労働局の指導

都道府県労働局は、事業主からの報告徴収、助言・指導・勧告の権限を有しています(パートタイム・有期雇用労働法第18条)。勧告に従わない場合、企業名の公表も可能です。

レピュテーションリスク|採用難・取引先との関係悪化

近年は待遇差問題がSNSで拡散されるケースも多く、企業ブランド毀損は事業継続に直結します。採用市場における評判悪化、取引先からのCSR確認での減点、投資家からのESG評価引下げ等、間接的な経営リスクも考慮すべきです。

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点検・対応の5ステップ|実務フロー

同一労働同一賃金対応の実務フローを5ステップで整理します。

【ステップ1】雇用形態別の分類と対比対象の特定

自社の正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣等の雇用形態を整理し、比較対象となる「通常の労働者」(通常は正社員)を特定します。

【ステップ2】職務内容・配置変更範囲の把握

雇用形態別の業務内容、責任範囲、配置変更の有無を書面化します。弊所では「職務記述書」(ジョブディスクリプション)の作成を推奨しています。

【ステップ3】待遇差の点検(7項目)

前述の7待遇項目について、雇用形態別の待遇差を一覧表にまとめ、それぞれに合理的な説明が可能か検証します。

【ステップ4】不合理な待遇差の是正

合理的な説明ができない待遇差については、以下のいずれかで是正します。

【ステップ5】「待遇差説明書」の整備と就業規則・賃金規程の改定

待遇差説明書を作成し、就業規則・賃金規程を労働基準法第89条に沿って改定します。労働基準法第90条第1項に基づく従業員代表等の意見聴取を経て、労働基準監督署に届出します。

よくある質問

正社員とパートで業務が違えば、どれだけ待遇差があっても問題ないですか?
業務が違うからといって、あらゆる待遇差が許容されるわけではありません。職務内容・配置変更範囲・その他の事情に照らして「合理的な範囲」の待遇差のみが認められます。たとえば、業務内容が明確に異なるなら基本給に差があっても合理的ですが、通勤手当や慶弔休暇のように雇用形態とは関係のない項目は原則として均等に付与する必要があります。
「待遇差説明書」は全従業員に配布すべきですか?
法律上は「労働者からの求めに応じて説明する義務」であり、全員に配布する必要はありません。ただし、説明を求められてから作成するのでは対応が遅れるため、事前に作成しておき、求めがあった人に提示する運用が実務的です。また、雇入れ時の説明義務(法第14条第1項)に対応するため、採用時に概要を口頭または書面で説明することは推奨されます。
派遣労働者も同一労働同一賃金の対象ですか?
はい、対象です。派遣労働者については、労働者派遣法第30条の3・第30条の4により、①派遣先均等・均衡方式(派遣先の正社員と待遇を揃える)または②労使協定方式(派遣元の労使協定に基づく処遇)のいずれかを採用する必要があります。実務では労使協定方式を採用する派遣元が多数を占めています。
同一労働同一賃金の対応をしないとどんな罰則がありますか?
パートタイム・有期雇用労働法自体に直接の罰則規定はありませんが、①労働者からの損害賠償請求(差額支払)、②労働局からの助言・指導・勧告、③勧告に従わない場合の企業名公表、④取引先・投資家・消費者からの信頼失墜というリスクがあります。罰則が明示されていない分、民事訴訟で多額の損害賠償を命じられる事例が増えています。
定年後再雇用で賃金を下げる場合の限界はどこですか?
名古屋自動車学校事件(2023年最高裁判決)では、業務内容が定年前と同じで基本給・賞与が60%を大きく下回った事案が不合理と判断されました。実務的には、①業務内容を明確に変える(役職・責任範囲の変更)、②勤務日数・時間を減らす、③業績連動的な賃金設計にする等の対応により、60〜75%程度の賃金水準が目安となります。業務を変えないまま50%等の大幅減額は訴訟リスクが高いと判断すべきです。
契約社員に賞与を全く支給しないのはダメですか?
2025年11月改正ガイドラインでは、業績への貢献に応じて賞与を支給すべきとされ、貢献度が正社員と同程度の契約社員に一切支給しないのは不合理との方向性が示されました。実務的には、①寸志程度でも支給する(例:年5万円程度)、②業績連動の一時金として支給する、③正社員と契約社員で賞与計算式を分けて合理的差異を設ける等の対応が推奨されます。
中小企業にも適用されますか?
はい、2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法は中小企業にも全面適用されています。従業員規模に関係なく、パート・有期社員を1人でも雇用していれば対応義務があります。中小企業だから猶予されるということはありません。

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まとめ

📋 この記事のポイント

  • 同一労働同一賃金はパートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条が根拠、中小企業も2021年4月から全面適用
  • 均等待遇(職務同一なら差別禁止)と均衡待遇(違いに応じた合理的差異のみ許容)の2つの禁止規定
  • 2025年11月21日改正ガイドラインで賞与・退職金・定年後再雇用の判断が厳格化
  • 点検すべき待遇7項目:①基本給②賞与③手当④福利厚生⑤教育訓練⑥休暇⑦退職金
  • 判断基準:職務内容・配置変更範囲・その他の事情の3要素を総合考慮
  • 「雇用形態のみを理由とする待遇差」は一切許容されない(ハマキョウレックス事件)
  • 名古屋自動車学校事件判決:定年後の業務内容同一で60%減額は不合理
  • 説明義務:①雇入れ時+②労働者の求めに応じて「待遇差の内容・理由」を説明
  • 違反時リスク:差額賠償(3年分×複数名+弁護士費用)、労働局勧告、企業名公表
  • 実務対応5ステップ:分類→職務把握→7項目点検→不合理是正→待遇差説明書整備

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