【会計士×税理士が解説】IPO準備における税理士・会計士の役割と選び方|フェーズ別の完全ガイド

【会計士×税理士が解説】IPO準備における税理士・会計士の役割と選び方|フェーズ別の完全ガイド
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

IPO準備における税理士・会計士の役割と選び方|フェーズ別の完全ガイド

IPOを目指しているが税務・会計面で何を準備すべかわからないスタートアップ経営者に向けて、IPO準備の各フェーズで税理士・会計士が果たす役割と選び方を解説します。この記事を読めば、IPO準備のどの段階で誰に何を依頼すべきかが明確になります。

🏆 結論:IPO準備では「顧問税理士」と「監査法人」の2つの専門家が不可欠

IPO準備には一般的に3年以上の期間が必要です。その間、顧問税理士は税務申告・税務構造の最適化・ストックオプションの設計を担い、監査法人(公認会計士)はショートレビュー・2期分の会計監査・内部統制の整備を担当します。両者の役割は異なるため、IPOを見据えた段階で「IPO支援実績のある税理士」と「監査法人」の両方を早期に確保することが成功の鍵です。

IPO準備の全体像と専門家の関与タイミング

IPO(Initial Public Offering=新規株式公開)の準備は、大きく4つのフェーズに分かれます。各フェーズで関与する専門家が異なるため、まず全体像を把握しましょう。

フェーズ 時期の目安 主な作業 関与する専門家
N-3期(準備初期)上場3年前経理体制の整備、会計方針の見直し、ショートレビュー顧問税理士+監査法人
N-2期(監査1期目)上場2年前準金商法監査の開始、内部統制の構築監査法人+顧問税理士+主幹事証券
N-1期(監査2期目)上場1年前内部統制の運用、上場申請書類の作成監査法人+主幹事証券+顧問税理士
N期(申請・上場)上場年上場審査、公開価格の決定、上場全専門家チーム

日本取引所グループの上場審査基準では、「最近2年間の財務諸表等について、監査法人または公認会計士の監査等を受けていること」が要件とされています。つまり、上場申請の2年前には監査法人との契約が必要です。

参考: 日本取引所グループ「上場審査基準概要」

税理士のIPO準備における5つの役割

IPO準備において税理士は、監査法人とは異なる独自の役割を担います。以下の5つが税理士の主な業務です。

役割1:税務申告と税務コンプライアンスの確保

上場審査では、過去の税務申告に問題がないかも確認されます。税務調査で指摘を受けた履歴や、修正申告の有無は審査に影響するため、顧問税理士による適正な税務申告が上場の土台になります。

実務では、IPO準備段階に入ってから「過去の税務処理に問題があった」と発覚するケースが少なくありません。たとえば、交際費と会議費の区分が曖昧だったり、役員報酬の手続きに不備があったりすると、修正申告が必要になり、上場スケジュールに影響します。

役割2:税務構造の最適化(グループ再編)

上場前にグループ会社の整理や事業再編を行うケースが多く、税理士はその税務面の設計を担当します。組織再編の税制適格要件の判定、繰越欠損金の引継ぎ可否の検討、グループ間取引の移転価格リスクの洗い出しなど、高度な税務判断が求められます。

役割3:ストックオプション(SO)の税務設計

スタートアップでは、従業員や役員にストックオプションを付与するケースが一般的です。ストックオプションの税務上の取扱いは、税制適格SOか非適格SOかで大きく異なり、設計を誤ると従業員に予期せぬ課税が発生するリスクがあります。

💡 実務のポイント

税制適格ストックオプションの場合、権利行使時には課税されず、株式売却時に初めて譲渡所得として課税されます(税率20.315%)。一方、非適格SOの場合、権利行使時に「権利行使価格と時価の差額」が給与所得として課税され、最大で所得税45%+住民税10%が適用されます。この違いだけで数百万〜数千万円の税負担差が生じるため、SO設計の段階で税理士への相談が不可欠です。

参考: 国税庁「ストック・オプション税制の概要」(No.1543)

役割4:資本政策の税務シミュレーション

上場に向けた資本政策(増資・株式移動・株式分割など)には、それぞれ税務上の影響があります。税理士は、各施策の実行タイミングと税務コストをシミュレーションし、最適な資本政策を提案します。

役割5:上場後の税務体制の構築支援

上場後は四半期ごとの税金計算(税効果会計)、連結納税(グループ通算制度)、開示に必要な税率差異分析など、未上場時代にはなかった税務業務が発生します。税理士は上場前の段階からこれらの体制構築を支援します。

公認会計士(監査法人)のIPO準備における役割

公認会計士は主に監査法人に所属し、IPO準備では以下の役割を担います。金融商品取引法に基づく監査は公認会計士の独占業務であり、税理士では代替できない領域です。

業務 内容 時期
ショートレビュー(予備調査)上場に向けた課題を洗い出す短期調査N-3期
会計監査(準金商法監査)2期分の財務諸表に対する監査意見の表明N-2期〜N-1期
内部統制の整備支援業務フロー・承認権限・IT統制の構築アドバイスN-3期〜N-1期
会計方針の指導上場企業水準の会計処理への移行指導N-3期〜
開示書類のレビュー有価証券届出書・目論見書の記載内容の確認N期

📊 公認会計士の視点

近年は監査法人のリソース不足が深刻化しており、IPO準備企業が監査法人を見つけるのに半年〜1年以上かかるケースも増えています。IPOを目指す場合は、できるだけ早い段階(N-3期以前)から監査法人との接触を始めることをおすすめします。顧問税理士に監査法人の紹介を依頼できることも、IPO経験のある税理士を選ぶメリットの一つです。

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税理士と公認会計士の役割分担マトリクス

IPO準備では税理士と公認会計士(監査法人)がそれぞれ異なる役割を担います。「どちらに何を依頼すべきか」を明確にしておくことで、準備がスムーズに進みます。

業務 顧問税理士 監査法人 補足
法人税・消費税の確定申告税理士の独占業務
財務諸表監査公認会計士の独占業務
ショートレビュー監査法人が実施、税理士は税務面の情報提供
会計方針の見直し監査法人の指導に沿って税理士が実務対応
内部統制の構築監査法人がフレームワーク提示、実装は社内+税理士
ストックオプションの税務設計税務設計は税理士、会計処理は監査法人が確認
グループ再編の税務設計税務ストラクチャリングは税理士の領域
税効果会計の計算税理士が計算、監査法人が検証
資本政策の立案主幹事証券がリード、税理士は税務面を担当

◎=主担当、○=対応可能、△=補助的に関与

税理士の業務範囲の全体像については「税理士の業務内容と範囲の全体像」をご参照ください。

IPO準備にかかる費用の全体像

IPO準備にはさまざまな専門家費用が発生します。スタートアップ経営者が特に気になる費用項目を一覧でまとめました。

費用項目 費用の目安 支払先 備考
ショートレビュー150万〜400万円監査法人企業規模・調査範囲で変動
会計監査(年間)1,000万〜2,000万円監査法人2期分必要、合計2,000万〜4,000万円
顧問税理士(年間)100万〜500万円税理士事務所IPO対応の場合は通常の顧問料より高め
主幹事証券引受手数料500万〜2,000万円証券会社成功報酬型が多い
IPOコンサルタント300万〜1,000万円/年コンサル会社利用しない場合もあり
上場審査料400万円(グロース)取引所市場区分によって異なる

※上記は概算です。企業規模や監査法人によって大きく異なります。正確な見積もりは各専門家にご確認ください。

顧問税理士の費用相場の詳細は「顧問税理士の費用相場と選び方」をご参照ください。

IPO支援に強い税理士の選び方|5つの判断基準

すべての税理士がIPO支援に対応できるわけではありません。IPO準備には通常の顧問業務とは異なる専門知識が必要です。以下の5つの基準で選びましょう。

# 判断基準 確認方法・ポイント
1IPO支援の実績「過去にIPO準備企業の顧問を何件担当しましたか?上場まで到達した件数は?」と質問
2公認会計士資格の有無監査法人での勤務経験がある税理士は、監査対応の「勘所」を理解している
3監査法人とのネットワーク監査法人の紹介が可能かどうか。監査法人確保が難航する昨今、この紹介力は大きい
4SO・資本政策の知識ストックオプションの税制適格要件、種類株式の税務に詳しいかを確認
5他士業との連携体制社労士(労務DD・就業規則)、行政書士(許認可確認)との連携が可能か

💡 実務のポイント

IPO準備に入ってから顧問税理士を変更するケースも少なくありません。「今の顧問税理士にIPO経験がない」と気づいたら、早めにセカンドオピニオンを活用しましょう。IPO準備が進むほど税理士の変更はデータ移行の手間が増えます。セカンドオピニオンの活用方法は「セカンドオピニオン税理士の活用方法」をご参照ください。

IPO準備の税務チェックリスト【10項目】

IPOを目指す企業が早期に確認すべき税務面のチェックリストです。N-3期(準備初期)の段階で、顧問税理士と一緒に以下の10項目を確認しましょう。

# チェック項目 問題がある場合のリスク
1過去5年分の税務申告書に不備がないか修正申告→上場スケジュール遅延
2役員報酬の手続き(定期同額・事前確定届出)が適正か損金不算入→過年度修正
3関連当事者取引の価格が適正か移転価格リスク→審査で指摘
4消費税の課税区分が正確か(インボイス対応含む)仕入税額控除の否認→追徴課税
5ストックオプションの税制適格要件を満たしているか非適格扱い→従業員への過大課税
6繰越欠損金の残高と使用可能期間を把握しているか企業価値評価に影響
7グループ会社間取引の整理が完了しているか連結決算時に問題発覚→開示遅延
8税効果会計の計算基盤(一時差異の管理)が整備されているか監査で指摘→決算修正
9源泉所得税の納付漏れがないか不納付加算税→コンプライアンスの問題
10印紙税・償却資産税の申告漏れがないか過怠税→審査での信用低下

顧問税理士から監査法人への切り替えタイミング

「IPOを目指したいが、今の顧問税理士のままでいいのか?監査法人にはいつ切り替えるべきか?」——この疑問を持つ経営者は多くいます。結論から言えば、顧問税理士と監査法人は「切り替え」ではなく「併用」します。

状況 推奨アクション
IPOを漠然と考え始めた段階顧問税理士にIPO経験の有無を確認。なければセカンドオピニオンや税理士変更を検討
IPOを本格的に決断した段階監査法人の選定を開始。顧問税理士に監査法人の紹介を依頼するのも有効
N-3期(ショートレビュー前後)監査法人と契約。顧問税理士は税務申告・税務設計を継続して担当
N-2期以降(監査期間中)監査法人と顧問税理士が連携して業務を進行。両者の情報共有がスムーズであることが重要

⚠️ 注意

顧問税理士が所属する税理士法人と監査法人が同一グループの場合(いわゆるビッグ4のグループ等)、独立性の問題で顧問契約を解消しなければならないケースがあります。IPO準備に入る前に、顧問税理士と監査法人の独立性の問題がないかを確認しましょう。

4士業ワンストップのIPO準備支援メリット

IPO準備では税務・会計以外にも、労務面・法務面の整備が不可欠です。上場審査では労務コンプライアンス(残業代の適正支払い、社会保険の加入状況、36協定の届出等)も厳しくチェックされます。

🔷 社労士の視点

IPO審査で指摘が多いのが労務管理の不備です。未払残業代、社会保険の加入漏れ、就業規則の不備はいずれも審査で問題視されます。スタートアップは少人数で運営しているため労務管理が後回しになりがちですが、N-3期の段階で社労士による労務DDを実施し、問題点を早期に是正しておくことが上場成功のポイントです。

📝 行政書士の視点

上場審査では事業に必要な許認可が適正に取得・更新されているかも確認されます。許認可の期限切れや届出の不備があると、事業の継続性に疑義が生じ、審査が通らないリスクがあります。行政書士が許認可の棚卸しを行い、更新スケジュールを管理することで、このリスクを未然に防げます。

公認会計士・税理士が連携するワンストップ事務所であれば、IPO準備に必要な税務・労務・行政手続きを一元的にカバーできます。「ワンストップ事務所のメリット」もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

IPO準備はいつから始めるべきですか?
一般的に上場の3年以上前から準備を始めるのが理想です。経理体制の整備、会計方針の見直し、監査法人の選定には時間がかかります。特に近年は監査法人のリソース不足で契約までに半年〜1年かかるケースも多いため、IPOを本格的に検討し始めたらすぐに動き出すことをおすすめします。
今の顧問税理士にIPO経験がなくても大丈夫ですか?
結論として、IPO経験のない顧問税理士のままでは上場準備に支障が出る可能性があります。税効果会計、ストックオプションの税務設計、監査法人との連携など、IPO特有の業務に対応できる税理士が必要です。ただし、すぐに変更する必要はなく、まずはIPO支援に強い税理士にセカンドオピニオンを依頼し、必要に応じて変更を検討しましょう。
監査法人と顧問税理士は別々に契約する必要がありますか?
はい、通常は別々に契約します。監査法人は財務諸表監査を担当し、顧問税理士は税務申告・税務相談を担当します。それぞれ独立した専門家として異なる役割を果たすため、両方が必要です。なお、監査法人グループ内の税理士法人が顧問を担当している場合は独立性の問題が生じることがあるため注意が必要です。
IPO準備にかかる費用の合計はどのくらいですか?
企業規模によりますが、3年間の準備期間を通じて合計で5,000万〜1億円程度の費用がかかるのが一般的です。内訳は監査報酬(2,000万〜4,000万円)、顧問税理士(300万〜1,500万円)、主幹事証券手数料(500万〜2,000万円)、コンサル費用(必要な場合)などです。顧問料の相場は「顧問税理士の費用相場」で詳しく解説しています。
グロース市場とスタンダード市場で、税理士・会計士に求められる対応は異なりますか?
基本的な対応事項は共通ですが、スタンダード市場はグロース市場より審査基準が厳しく、より高い水準の内部統制や財務体制が求められます。税理士・会計士の実務負荷はスタンダード市場のほうが大きくなるため、費用もそれに応じて高くなる傾向があります。
IPO準備の途中で税理士を変更しても問題ありませんか?
変更は可能ですが、監査期間中(N-2期以降)の変更は引き継ぎリスクが高いため避けるべきです。変更するなら、N-3期以前の早い段階が理想です。データ移行の注意点は「税理士変更時の会計データ移行の注意点」をご参照ください。
IPO準備に税理士の無料相談は活用できますか?
はい、多くの税理士事務所がIPO準備に関する初回無料相談を提供しています。まずは「自社がIPOを目指すうえで、現在の税務・経理体制に何が足りないか」を無料相談で確認するところから始めましょう。無料相談の活用方法は「税理士の無料相談の活用方法」をご参照ください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • IPO準備では顧問税理士(税務申告・税務設計)と監査法人(会計監査・内部統制)の両方が必要
  • 税理士のIPO準備における5つの役割:税務コンプライアンス・税務構造最適化・SO税務設計・資本政策シミュレーション・上場後の税務体制構築
  • IPO準備の費用は3年間で5,000万〜1億円が目安(監査・税務・証券・コンサル含む)
  • IPO支援に強い税理士は、IPO実績・会計士資格・監査法人ネットワーク・SO知識・他士業連携の5基準で選ぶ
  • 監査法人のリソース不足が深刻なため、IPOを決断したらすぐに監査法人の選定を開始する
  • 顧問税理士と監査法人は「切り替え」ではなく「併用」——両者の連携がIPO成功の鍵
  • 4士業ワンストップ事務所なら税務・労務・行政手続きを一元カバーし、審査対応を効率化

IPOは企業にとって大きな成長の節目です。税務・会計の専門家を早期に確保し、N-3期から計画的に準備を進めることで、上場までの道のりがスムーズになります。まずは顧問税理士にIPO準備の相談をするところから始めてみてください。

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